【読書の時間?】ビラ



<オープニング>


 エルフの紋章術士・カロリナが何やら空想に耽っている。
「はあ。いいなぁ。ランララ聖花祭……」
 その呟きをエルフの霊査士・ユリシアが聞きつけた。
「あら。あなたも聖花祭の恋人達に憧れたりするんですね」
「勿論ですよ。無料でお菓子が貰えるなんて羨ましい限りです。
 ケーキ、クッキー、チョコレートといった栄養豊富なお菓子の数々。
 それを主食にして食費を浮かせば、その分書物が買えるじゃないですか」
「……まあ、そういう憧れ方もあるのかも知れませんね。
 それはそうと、これを読んでみて下さい」
 ユリシアはカロリナに一枚の紙切れを渡す。
「ええと、

『我々文化的民族にとって最も忌むべきことは、一時の盲目的衝動に駆り立てられ、無責任なる放埓にその身を委ねることである。
 しかるに先年ドリアッドより伝来したランララ聖花祭は青年男女を誘惑し堕落の道に引き込むこと甚だしく、真に唾棄すべき悪習である。
(長いので途中省略)
 滅ぼせランララ! 潰せランララ! ランララカッコ悪い!
 同志よ、この文書をできる限り多く複写し、さらに配布せよ。
 そして集え。ランララ聖花祭を地上より一掃するために!
 集合場所はニケの町・町外れの洞窟です』

 ……何だか滅茶苦茶なビラですね」
「ニケとその近隣の町に住む学があって――読み書きができるくらいに――なおかつ女性に人気がない男性の間で、そのビラが局地的に流行しています。
 彼等は町外れの洞窟に夜な夜な集まり良からぬ事を企んでいるようです。
 ニケの町長が説得しても彼等は集会を止めようとせず、何とかして欲しいという依頼が来ました。
 彼等が善良な人々に害を及ぼす前に先手を打って捕らえて下さい」
「しかし、まだ何もしてないのに捕まえたら問題になりませんか?」
「では囮を使いましょう。
 囮のカップルが――本当のカップルでもお芝居でも構いませんが――洞窟の前をうろうろして彼等を刺激します。
 彼等がいきりたって襲いかかって来た所を取り押さえることにしましょう」
「流石ユリシアさん。それなら何も問題はありませんね」

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
緋の剣士・アルフリード(a00819)
翡翠の脱兎女・リヒトン(a01000)
ヒトの剣聖・ジュダス(a12538)
博愛の道化師・ナイアス(a12569)
北落師門・ラト(a14693)
緩やかな爽風・パルミス(a16452)
智を求める者・エオリア(a19180)
NPC:次のページへ・カロリナ(a90108)



<リプレイ>

 依頼を受けた冒険者たちがニケの町に到着したのは、夕暮れ時のことだった。
 もてない男たちが町外れの洞窟に集まるという時刻にはまだ間がある。
 冒険者たちはそれぞれのやり方で夜を待った。

 翡翠の脱兎乙女・リヒトン(a01000)は裏路地で例のビラを配っている男を見つけ、ビラを回収しようと近づいた。
 が、いざ近寄って見てみるとその男は無駄に体格が良く、目つきは悪く、陰鬱な気配を周囲に発散して不気味な様子だった。
「怖い人がいますねぃ〜。恐ろしいですねぃ〜。脱兎したいですねぃ〜」
 早速方向転換するリヒトンだったが、その首筋を彼女の連れである聖天に舞う神翼の刃・ティエン(a00455)が掴み、猫のようにつまみあげる。
「依頼でしたねぃ〜」
 リヒトンは大人しく逃走を諦めた。

 博愛の道化師・ナイアス(a12569)は壁に貼られたビラを剥がして回る。
「やれやれ、困った人達ですねぇ。
 こんな頭の悪い内容のビラを作っても、ゴミを増やすだけではないですか」
 他人を羨んで妨害する事に精を出すよりも、まず自分を磨く努力をするべきなのだ。彼らはそれが分かっていない。
 ナイアスは嘆きながらも一枚一枚丁寧にビラを回収していった。

 嘆いているのは想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)も同じだった。
「ランララ祭って大切な人に真心を送るお祭りですが……、なんだか可哀想ですね」
 そう呟きながらふと目線を動かすと、黒より昏い碧・ラト(a14693)とエルフの紋章術士・カロリナの姿が目に留まる。
 二人は雑談で適当に暇を潰していた。
「その本は読んだことがあります。
 アルファがベータをカッパらったらイプシロンした。何故か? という話ですね」
「知っていたか。
 あの話のオチは実に秀逸だな。一見ただの言葉遊びかと思いきや……」
「ええ。本当の意味を理解した時は鳥肌がたちました」
「おぬしもかなりの量の書物を読んでいるようだが、良い書物の情報はどうやって得ている?」
「私は各地を歩き回って噂を集めます。ラトさんは?」
「我は……」
「そうだ。カロリナさん。ちょっとお手伝いをお願いできませんか?」
 ラジスラヴァが雑談を遮る。
 そしてカロリナの手を取ると、有無を言わさずどこかへと引っ張っていった。

 夜になった。
 緋の剣士・アルフリード(a00819)とヒトの傭兵・ジュダス(a12538)はビラを片手に、町外れの洞窟の前に立っている。
 ジュダスは普段通りの格好だったが、アルフリードは頭部をすっぽりと覆う黒い覆面を着けていた。
「その覆面は一体?」
 ジュダスの問いにアルフリードは薄く笑って答える。
「潜入するには、私の美貌が多少邪魔になりそうだからね」
「……」
 何はともあれ、二人は洞窟の入り口に立っていた見張りにビラを見せ、仲間に入りたい旨を伝えた。
 見張りの男は案の定アルフリードの覆面を不審がった。彼をじっと見つめて言う。
「あんた、どうして顔を隠してる?」
「俺達は魂の同志だ! 俺が何者か、それは重要ではないだろう。それに、覆面は秘密結社の基本で浪漫じゃないのか?!」
 勢いで誤魔化そうとするアルフリードの様子を見た見張りは、
「そ、そうか。そんなに顔を見せたくないとは、余程顔のことで悩みが……。
 俺もその気持ち分かるよ。通りな」
 変な風に納得してしまった。
 かなり美しくない顔立ちの見張りに言われて釈然としないものを感じながらも、アルフリードは洞窟の中へ姿を消す。
 次に見張りはジュダスの品定めにかかった。
「あんた、年齢は?」
「二十八歳、独身で恋人もいません」
 ちなみにこれは事実である。
「変わった服装をしているようだが……」
「私は神に仕える者です。
 性欲に取り付かれ、神を忘れた者をあなた方と共に救うために来たのです」
 それが何という名の神なのかは見張りの興味の外であったため追及されず、ジュダスも洞窟の中に案内された。

 潜入に成功した二人が見たものは、松明の明かりの下で繰り広げられるむさくるしい男たちの集会だった。
 リーダーらしき男が黒板に何かを書きながら、熱心に説明している。
 どうやらカップルを襲撃する計画を練っているようだった。
 もっと近くで聞こうと、アルフリードとジュダスはリーダーを囲む輪に加わった。
 と、その時、
「な、なんだ、あんたたちは?」
 見張りの声に振り返ると、入り口の前に緩やかな爽風・パルミス(a16452)とラジスラヴァ、カロリナが立っていた。

 ラジスラヴァはあの後カロリナをお風呂に入れて綺麗に洗い、彼女に似合うドレスを用意しておめかしさせた。
 そしてちょっとだけ焦がしながらもクッキーを焼き、一つ一つ「きっと素敵な人が見つかります。がんばってください」というメッセージと共に包装した。
 二人でクッキーを持って集合場所へ行くと、パルミスも自分で手作りクッキーを用意して来ており、「クッキーを渡すなら捕まえる前が良いだろう」という他の冒険者たちの意見に従って、三人は今、男たちにクッキーを配るためにやって来たのだった。
「皆さんに〜、お菓子を差し上げに来ました〜。
 これを食べてめげずに前向きに頑張って下さい〜」
 パルミスの言葉に、男たちの一部が引き寄せられるように近づいて来る。
「きっと素敵な人が見つかります」
「そうですよ〜」
「可能性が無いと断言することはできませんからね」
 そんなことを言いながら三人はクッキーを配った。
 貰った男たちは口々に礼を言い、ラジスラヴァはそんな男たちにちょっとした恋愛の心構えを教授した。
「今度は恋人から貰えるように努力してくださいね〜」
「はい。もう一度頑張ってみます」
「何だか希望が湧いてきました」
 男たちは希望に満ちた軽やかな足取りで洞窟を後にし、町に帰っていった。
 しかし、クッキーを受け取ったのは全体のごく一部であり、大部分の男たちは洞窟の奥から三人に疑惑の眼差しを投げかけている。
 三人はこれ以上の説得は無理だと判断し、撤収した。
 去り際にパルミスは、洞窟の奥から三人を見守っていたアルフリードとジュダスに目配せで合図し、囮の用意が完了していることを知らせた。

 三人が去ると集会は再開され、怪しまれないようにとアルフリードは積極的に参加した。
「襲撃するというのは少し過激過ぎるのではないだろうか?
 犯罪者にならずとも、ランララを邪魔する方法はいくらでもある。
 例えばカッポーがいちゃついている横で、無言で町内を清掃する。奴らの気分をトーンダウンさせつつ、社会のお役に立って自分たちが充実した気分を味わっちゃう『ランララ祭当日に勤労奉仕大作戦』。
 他にもチョコレート、クッキーの材料を買い占めてプレゼントが出来ないようにする一方で、恵まれない地域に送り人助けもして大満足の『チョコレート狩り大作戦』など……」
 アルフリードのこの提案を受けて、集会は二つに割れた。
 もともと手荒な真似を嫌がっていた者たちはアルフリードの作戦を推し、興奮して目を血走らせた者たちはそれでは手ぬるいと批判する。
 洞窟内で意見が真っ二つに分かれたその時、また外から声が聞こえてきた。

「そ、そこは駄目ですねぃ〜」
「待ったはなしだよ。一度やったらもう戻れないからね」
 女と男の声だった。洞窟の前の茂みの奥から聞こえてくる。
「はわわぁ〜、こっちも反撃ですねぃ〜」
「んっ、そこをせめるなら僕はここだ」
「もう駄目になっちゃいますねぃ〜」
 洞窟内に響いてくるこの妖しい声に、男たちは騒然となった。
「奴らを放っておいて良いのですか? 肉欲で神を愚弄する者達に神罰を!」
 ジュダスの一声に背中を押され、男たちの大半はいきりたって洞窟を飛び出し、茂みの奥へ駆け込んだ。
 しかしそこで男たちが見たものは、升目に区切られた台の上に白石と黒石を交互に置いていくゲームに興じるリヒトンとティエンの姿だった。
 勢い余った一人の男が台を蹴飛ばしてひっくり返す。
 神の一手を極めようとしていた二人は怒った。
「もう囲碁も終わって寒いのでかえるんですねぃ〜。今日は二人で美味しいお鍋にするんですねぃ〜」
 リヒトンとティエンは手を繋ぎ、いちゃいちゃとご飯について語り合いながら帰ろうとする。
 このいちゃいちゃぶりが男たちに火をつけた。
「ええい許せん!」
「やっちまえ!」
 怒りと怨念に顔を歪めて襲いかかってくる男たちを、
「はわわぁ〜。怖い顔ですねぃ〜」
 リヒトンはあわあわと避けながら上手に逃げ出す。
「今回は脱兎してもいいので楽ですねぃ〜」

 男たちがリヒトンとティエンに襲いかかるのを見て、茂みに隠れていた智を求める者・エオリア(a19180)とナイアス、ラトが立ち上がる。
「行きなさい、下僕たち」
 エオリアがあらかじめ作って良く命令を言い聞かせていた土塊の下僕たちが、男たちに飛びついて足を止めた。
 下僕たちは仮面をつけて雰囲気を出し、棒を持ったものは棒で男たちをぽかぽか殴りつける。
 それにも怯まず下僕を倒そうとする者もいたが、エオリアが空に向けて放ったエンブレムシュートを見て動きを止めた。
「大人しくしなさい、さもなければ今のをあなた方に当てますよ?」
 エオリアの威嚇を無視できる者はいなかった。
 ラトがアビスフィールドを展開し、ナイアスが眠りの歌で男たちを眠らせる。三人と下僕たちは手際良く男たちを縛り上げた。
「あなた方のやり方はスマートではありませんでしたわね。
 その情熱をランララ聖花祭で行われる試練の準備に向ければ良いのに……」
 エオリアが目を覚ました男の一人に話しかける。
 彼は集会でリーダーをしていた男だった。
「やれることに限界は有りますけれど公然とカップルたちの妨害が出来たでしょうに……例えば難問を出して、その問題に答えられなかったら泥の中に突き落とすとか」
「泥の中に突き落とす。その場はスカッとするだろうよ。だがその後は……?
 泥に汚れた姿で男は意中の女のもとへ辿り着く。
 私のために泥だらけになってまで……。女は目を潤ませる。
 男は菓子を差し出すが、今となってはそんなもの、さして重要ではない。
 二人の恋は燃え上がり、菓子よりも甘い口付けを……。
 これでは我々はただの盛り上げ役ではないか。私はそんな道化に甘んじるのではなく、主役の座を奪いたかった……!」
 ナイアスが「やれやれ」と首を振る。
「主役になりたかったのならば、このような方法を取るのではなく、己を磨けば良かったのですよ」
 ラトが興味なさそうに縄を引き、男たちを連行した。
 挑発に乗らなかった男たちは捕まえられなかったが、彼らはアルフリードが授けた作戦に賛同する者たちだったので、悪事を働く心配はなかった。

 男たちを町に引き渡した冒険者たちは非常に感謝され、お鍋を囲んで体を温めた後、町を去った。
 その後ニケとその周辺の町には、ランララ聖花祭の時期に清掃活動が盛んになったり、お菓子の材料買占め合戦が起こったり、意中の人以外にも義理でお菓子を配ったりするという変わった風習が生まれたとか生まれなかったとかいう話である。


マスター:魚通河 紹介ページ
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作成日:2005/02/27
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