愛のチョコレート合宿(中級編):クッキー? クッキー!



<オープニング>


【お料理教室】チョコレート合宿の案内

「にゃあ……チョコレート合宿……気合入っておりますの」
 街角に張られたポスターを見上げ、プラムはごくりと喉を鳴らす。
 料理が下手な子でも大丈夫、と太鼓判を押されてやってきたお料理教室の前で、彼女はそれでもさっきから右往左往していた。
「あら……もしかしましたら、プラムさまではいらっしゃいませんか?」
「……ビアンカ様!」
 プラムはびっくりして頬を真っ赤に染めた。
「お料理教室に行かれるのです?」
 一枚葉探しの・ビアンカ(a90139)はプラムが見上げていた看板を一緒に見上げてきょとんとする。
「ええ……ランララも近いですし……ああ、よろしかったら、ビアンカ様も一緒に行かれませんか?」
「私もですか〜?」
「実は」
 ビアンカに抱きつくようにして、プラムはそっと彼女の耳に囁いた。
「このお料理教室には、突然変異のハツカネズミがが出るらしいのですの」
「……ねず?」
 突然変異のハツカネズミが発生しているので、まだ被害の少ないうちに退治して欲しいという依頼をプラムは受けてきたらしいのだ。なんでも――彼らの歯は鋭く、丈夫なのこぎり刃のようになっていて、料理教室に必要なナイフやフォークまでかじかじのぼろぼろにしてしまうのだとか。
「というわけでお仕事ですの……」
「……ですのですの!」
 有無を言わせぬ青い瞳を疑うことなく、ビアンカは頷いていた。
 さらにそれから小一時間後。
 銀雷閃光の守護者・レキサナート(a90113)が何気なく通りがかるのを、待ち伏せていた二つの影。
「!!」
 どう見てもお料理とか似合わなさそうな、しかも女性がいっぱいのところに行くなんて間違っているような、いや本当は一応彼でなく彼女なんだけどこの際それは関係ない気のする、殿方な感じのレクスである。
 でもいつもすごいお料理とか食器まで食べてるし、ツワモノには間違いありませんの! というプラムの力説にビアンカは頷いてしまったりしたのが運のツキなわけで。
「……それがどうして私がチョコレート菓子を作ることになるんだ?」
 頭を抱えるレクスに、プラムは最後に力説した。
「のこぎり歯のハツカネズミはあちらこちらにいて、しかもできることなら参加する一般の女の子達には気づかれず退治したいのですわ。三つの教室にそれぞれ潜入して、皆さんが疲れて眠る頃にやっつけたいと思ってるのですの。ね、立派なお仕事ですわ♪」

●クッキー? クッキー!
「それで、ビアンカはここに行くことになったのか。えっと……いちからはじめる……」
 こくこくうなずく彼女にお料理教室の案内状を受け取りながら、草笛の霊査士・コート(a90087)が尋ねる。
 講師の直筆なのかもしれない、ふっくらとやわらかい印象を与える書き文字が安心感を与える、そんな案内状だ。『一からはじめる やさしいチョコレートがけクッキー! 講師:ケディ・アントワーヌ』とあった。
「アントワーヌ先生は、優しいエルフのお姉さん先生でいらっしゃるそうです。とても美人さんで、初めてお菓子をこしらえる女の子生徒さんはもちろんなのですが、『ふぁん』な男性の生徒さんもたくさんなのですよー」
「そか、そんなら誰でももぐりこむのは簡単そうだ! あ、でもそだな……うん、当日は……ちびっこい女の子も結構多いから、ほんとに気合いれて冒険者には見えないよにしないと、ちょっとふいんき寒くなっちまうかもな。依頼のこと知ってるのは、先生だけなんだろ?」
「ですの。なので、私たちはエプロンかけて、一生懸命お菓子をこしらえないとならないのです」
 教室の生徒たちに気づかれないよう潜入、警備をするには一生懸命お菓子作りをするのが早道――そういった意味合いであろうが、間がとんでいるのでいまひとつよく分からない発言になっている。理解しているのかいないのか、んだーその通りだーなどと全面的に同意を示すコート。
 目玉からきらめきがこぼれんばかりになっているのはきっと、思いつく限りのお菓子を頭の中に浮かべたからだろう。
「そうしたなら、ご一緒にお教室に行く方を探してみますの。どなたかいらっしゃると良いのですね」
「おう! ネズミのやつは気を抜きさえしなきゃ怖いやつじゃない。うまあい菓子こさえてから、さくさく追っ払っちまえばいいだ。頑張って来いよ!」
 霊査士の忠告に礼を述べ、ビアンカは仕事を探している様子の冒険者の輪へと、弾むように駆け寄って行く。

 教室の案内状を返してもらい忘れた彼女が慌てて戻ってくるのは、少し後のことだった。

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参加者
バニーな翔剣士・ミィミー(a00562)
赤き陽炎の怪盗姫・キサラ(a01454)
灰眠虎・ロアン(a03190)
陽光を纏いし癒しの姫君・ナオ(a04167)
戦う商人・リフィ(a06275)
流れゆく聖砂・シャラザード(a14493)
華散里・コノハ(a17298)
闇乙女・イヲリ(a18343)
優しくない常春のバーサーカー・カリラン(a18703)
青空遁走曲・ナル(a19332)
NPC:一葉探しの・ビアンカ(a90139)



<リプレイ>

●かわいいなぼうけんしゃ
「それでは、お教室を始めましょう。よろしくお願いします」
「おねがいしまぁす!」
 賑やかに和やかな雰囲気の中、チョコレート合宿は始まった。
 明るい笑顔の女の子たちと気合いの入ったお兄さん方が、声を揃えて返事をする。もちろんその中には、依頼を受けた冒険者たちが混ざっていた。
 教室を取り仕切るケディ・アントワーヌ先生は、女の子やお兄さんたちににっこりと応じ、部屋の出入り口付近へと目で挨拶をした。ヒトの医術士・シャラザード(a14493)が目線を受けて、軽く会釈する。教室に収まっているいくつかの卓の内、ネズミが出入りすればすぐに気づけそうなこの場所を使いたいと指定したのは彼女だ。
 いざ陣取ってみると、端にある卓からは、室内の様子が楽に見て取れる。少しくらいお菓子作りに夢中になってしまっても、何とかなりそうだ。
 さて、やって来た冒険者たちは、いまは武器を隠し、可愛らしい身支度を身にまとい、すっかり教室に溶け込んでいる。
「羽のおねーちゃん、なんだかはっかみたいな良い匂いがするの! いいなぁ、あたしも羽欲しいなぁ」
「んー、香り袋の匂いが移ったのかなー?」
 エンジェルの邪竜導士・カリラン(a18703)はバターを練る手を止め、教室の隅っこに仕掛けた『ネズミ避け』の匂いを思い浮かべた。
「かわいいの〜、のそミミなの〜。どこで買ったの〜?」
「な、なぁ〜ん。このミミは売り物じゃないなぁ〜ん……」
 散る為に咲く華・コノハ(a17298)は、ふるった粉がついたままの手で桃色ノソリン耳を一なでされて、ちょっとどぎまぎする。
 ランドアースに居るヒトノソリンは、まだ冒険者ばかりだ。本物の耳だなんて言わない方が良いかなぁ〜ん、などと思いながら、砂糖を量りにのせた。教室貸し出しのふりふりなエプロンは、コノハ、本日のお気に入りだ。
 ――と、教室の一角で拍手と歓声が響き渡る。
「いくぞ! 必殺、ワイルドチョコ削りラッシュ〜☆」
 戦う商人・リフィ(a06275)がアビリティからヒントを得たらしい一芸、高速チョコレート削りに、観衆が贈ったものだった。
 粉は少しずつ入れて、切るように混ぜるのこと。ケディ先生の教授をしっかり守り、シャラザードは食べて美味しいクッキー作りに励む。お菓子は味がいのち、というのが彼女の信条だった。
 彼女の手元を横合いから、灰眠虎・ロアン(a03190)がのぞき込んだ。依頼を受けた冒険者のうち唯一の男の子であるが、別段気にするでもなく、かわゆいエプロンをかけているようだ。
 もしかすると、女の子向きのアイテムだということを知らなかったのかもしれない。
「うわぁ、なんだか良い感じに混ざったな! さっそく味見ー!」
 シャラザードが止める間もなく、ロアンは生のクッキー生地をひとつかみ口に放り込む。
「あ。あの……美味しいですか?」
「美味しいー!」
 元気の良い反応にシャラザードは微笑み、後で彼がお腹を壊さないことを祈った。

●おくりものクッキー
「……こんな感じかな? クッキーとか作ったことないから、勝手が良くわかんないわね」
 ろりーな印象のドレスを着込んだバニーな翔剣士・ミィミー(a00562)は、苦戦しつつ、クッキー生地をノソリンやフワリンの形にくり抜いていた。遠い空の大陸でグリモアを護る旦那様にちなんだ贈り物クッキーなのだ。
「ビアンカはどんなの作ったの?」
 尋ねられた一枚葉探しの・ビアンカ(a90139)は、小さなハート形の生地を両手に、合わせて四枚並べて見せた。
「クローバーになるのです! しあわせの形なのですよー。キサラさまの大きなハートも、大きなクローバーになるのですか?」
「キサラのはこのまんまだよ。これで愛するだーりんもいちころノックダウンなのだ♪」
 赤き陽炎の怪盗姫・キサラ(a01454)はえっへんと胸を張る。彼女の自称・殺人的に大きなクッキーは本当に大きく、焼きがまに入るのか、入っても無事に焼き上がるのか不安な程だ。キサラの愛は果てしない。
「問題ないない、料理は愛情っていうしね!」
「ん〜……よーし、できた〜♪」
 お気に入りの唄を口ずさみながら一生懸命生地と格闘していた響歌乱舞・ナル(a19332)が、後は焼き上げるまでになったクッキーを、満足そうに眺めやる。
 そうして教室の生徒たちは、思い思いにこしらえた型抜きクッキーを炎の手へと預けた。かすかな不安と期待とを、胸に抱いて。
 器具の片づけやチョコレートの準備をして待つ時間は長いようで短く、お菓子の焼けるおいしい香りに満たされていた。
 窯から取り出したクッキーは、ちょっぴり焼き過ぎていたり、割れていたり、たまにはナマヤケだったりもするけれど、きっとそこはご愛敬。チョコレートをかけて冷やせば、できあがりだ。
 なぜかとまどった様子で、きれいにチョコレートのかかったクッキーを見つめる常闇の深淵・イヲリ(a18343)。
「どうかしましたかぁ〜」
 陽光を纏いし癒しの姫君・ナオ(a04167)が、クッキーの表面にお絵かきをするかたわら、そんな彼女へ声をかける。溶かしチョコレートを細い絞り袋に入れ、ペンのように握っていた。
「……こういうの。私、何か……場違い、みたいで……」
「そんなことないですよォ〜。とっても美味しそぅ♪ これはどうあっても、ちゅーちゅーさんたちにやらせるワケにはいかないですよねィ〜?」
 のんびりふわりとした仕草でうなずき、ね?と、ナオは目を細めた。

●ネズミ退治もスィートに
 そうして合宿一日目の予定は無事消化され、舞台は夜。
 昼間こしらえたお菓子は作りつけの棚にしまわれた。
 現在卓の上に出ているのは、チョコレートのかかっていない、風合いが怪しいクッキー――毒キノコや強い酒入り――と、ミカン――唐辛子入り――が一つきりだ。
「如何ですか? ……そろそろ見張りを交代致しましょうか」
 足音を忍ばせ、休憩に出ていたシャラザードが戸口から顔をのぞかせる。長剣・月鬼をかかえたコノハと、眠そうに目をこするナオも一緒に居た。
 棚の近くに潜み、お菓子の護衛をしていたナルが答えようと口を開いたときのこと。ふと。微かな物音を聞いた気がした。
「……あ〜っ、ネズミ!」
 居眠りの船をこぎかけていた者も、その声には飛び起きる。
「こっち来たらレイピアで刺すからね〜っ」
 登場したネズミは数匹だった。動き回っているため、正確には数え切れない。罠のお菓子をかじり、もしくは卓の脚に仕掛けられたとりもちに引っかかっているものなど合わせれば、片手の指で数え切れない程度には居るだろうか。
「みんなが、好きな人を思って一生懸命作ったお菓子なぁ〜ん。あげないなぁ〜ん!」
「愛を盗み食うなんて許せないもんね!」
 しっぽをいからせて憤慨するコノハ。一目散に逃げ出したネズミを追って、キサラはハイドインシャドウを解いて飛び出す。
「眠れ〜や眠れ〜♪ ……私も眠いのよォ〜♪」
 ミィミーは奏でられる眠りの歌に転がったネズミを狙い、必殺の一撃でとどめをさしていった。
 少し歯が丈夫であるとはいえ、ネズミはネズミ。冒険者としては未熟なビアンカの矢もあっさりと当たり、影を縫い取られた一体をロアンがやっつける。
「まぁ、この流れなら退治しかないかな」
 リフィは肩をすくめ、酒染みクッキーをかじって酔っぱらったネズミをつまみ上げた。
 幸いにも、侵入したネズミで逃したものはなさそうであった。罠食料の周囲へ撒いた小麦粉をじっと観察していたカリランが、その旨を告げる。
「巣とかは結局、見つからなかったねー? 今回はこれで大丈夫なのかな?」
「どうなのかしら? とりあえず……ネズミを埋めてあげましょうか。お菓子も一緒にね」
「……ええ、そうね」
 イヲリは懐に忍ばせていたお菓子を取り出すと、ミィミーに続いてネズミ退治の後始末を始めた。

●最後はやっぱり試食会
 チョコレート合宿の生徒たちは何も知らないままに、こっそりと依頼は片づけられた。
 女の子たちはお手製のクッキーを箱や袋に詰め、大好きな色のリボンをかける。お兄さん方はクッキーの味を確かめてもらうとの建前のもと、ケディ先生を囲んで押し合いへし合いの騒ぎ。
 大忙しのケディ先生は、味見だけでお腹がいっぱいになったのだとか。
「とてもお綺麗でいらっしゃる上に、お料理も上手だなんて……素敵ですわ」
「あら……そんな……恥ずかしいです」
 シャラザードの言葉を聞いて、彼女はとんでもないと両手を顔の前で振る。
 冒険者たちは仕事を終え、後は帰るばかり。こしらえたクッキーでのお茶会を楽しんでいた。
「さぁてと……食べるかっ☆ え? どうやってかって? チョコがハゲないように、上手に砕くのよ〜」
 リフィは特製の『かわらクッキー』を前に、腕まくりをする。このかわらクッキー、実は半端な堅さではなかった。
「ランララ用のお菓子なのに、『割』ったり『砕』いたりしちゃっていいのー?」
「い〜のよ。だって自分用なんだから」
 色気より食い気だ☆ 言い切ったリフィに、カリランは思わず拍手を送る。
 寝不足でうとうとしていたコノハが、音に驚いたのだろう、かぱっと顔を上げて左右を見回した。ナルの差し出したクッキーをかじってから、またお昼寝に戻って行く。
「何だかぁ〜、私もお昼寝したくなって来ましたねィ〜」
 ナオがあくびをかみころすのももっともな光景だった。
(「ちょっと焼きすぎたな……まぁいっか。食べられるわよね。一部以外は」)
 詰め合わせにしなかった分のクッキーをかじり、ミィミーはそう思いこむことにした。やはり作業途中にちょっと壊れてしまったクッキーを包んだキサラも、形じゃないもんと思うことにした。
 ロアンはどこからか確保してきた大きな缶カンや袋に、自分でこしらえたありったけのクッキーを詰め込んでいる。酒場でよだれを垂らしているに違いない霊査士へのお土産なのだと言う。
(「特に上げる相手もなく作ったのだけれども……」)
 深緑のリボンで彩った青い紙包みをいくつか手のひらに載せ、ロアンのクッキー袋と見比べながらイヲリは考えた。少しくらい、酒場へのお土産が増えても良いかもしれない。
 小麦粉で少し白くなった黒いエプロンでくるみこむようにして、大切に荷物の内へとしまった。


マスター:阿木ナツメ 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2005/02/14
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