<リプレイ>
2月9日、キーゼルの誕生日――彼の呼びかけに応じて集まった冒険者達は、目的地である遺跡に向かっていた。 「確かに霊査士という職業柄、危険そうな場所にはいけませんよね」 錫色の紋章術士・リルミア(a01194)は、折角の誕生日なのだから楽しんで貰いたいと、同行した一人だ。 「そうだな……」 凪し残影・ナギ(a08272)は頷くと、辺りに視線を向ける。 (「安上がりなのは好感持てるし……まあ、野郎に好感持たれても、何の得にもならんだろうけど……」) そんな事を思いつつ、ナギはキーゼルが存分に散策を楽しめるよう、危害を被る事が無いように気を配る。 「まあ、野生動物ならば人を見れば逃げるであろう」 掛かって来ようとも、術の一つも撃って見せれば大丈夫なはず……と、大凶導師・メイム(a09124)も、日頃の恩返しの意味も兼ね護衛をと、警戒に重点を置きながら歩く。 その反対側では、軽業拳法使い・ヤイチ(a12330)も周囲の様子や迫る者がいないか注意を払う。 周囲は、どの方向にも誰かしらの視線が向けられている為、何か異変が起きれば、すぐに誰かが気付くだろう。 「まあ、なんとかなるやろっ」 旅先から噂を聞きつけた、陽気なる夏風・アーニー(a07020)は、持ち前のお気楽精神からか、にかっと笑いながら軽やかな足取りで進む。 「キーゼルさんと遺跡に入れるなんて滅多にない事ですので、ボディガードとしてきっちりやらせて頂きますね♪」 キーゼルの側では、いつもとは違いステッキを手にした、幸せを求めし白き鷹使い・シャンナ(a00062)が微笑んでいる。ちなみにステッキを持っているのは、心を鍛える為に……という事らしい。 「んしょ……」 「もう少し持とうか?」 反対側では、微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)が、バスケットを抱えながら歩いている。その様子を見たキーゼルが聞くが、メルヴィルは大丈夫ですと首を振る。 バスケットの中身は、腕によりをかけたお弁当だ。最初は一人で全て運ぶつもりだったけれど、かなりの量があり……重そうにしているのを見かねて、キーゼルや他の男性陣が手伝っている。 「何というか……激戦区……?」 お弁当運びを手伝いつつ、遠巻きにキーゼルとその周囲を見た、蒼の閃剣・シュウ(a00014)は……こういった戦いでは気絶せずに済んで良かったねと、心の中でキーゼルに向けて呟く。 「それにしても、キーゼルに遺跡探検の趣味があるとは知らんかったなぁ」 「最近はそういった機会が無かったからね。霊査士になる前は、よく出かけたんだけど」 一方、意外そうに漏らした、天翔ける蒼翼の獅子・テンオー(a01270)の言葉に、キーゼルは腕輪の鎖を揺らしながら返す。 「霊査士になる前……キーゼルはん、元は何やったの?」 その言葉を耳にしたレディ・リーガル(a01921)は、道中聞いてみたいと考えていた内容だったから、丁度いいタイミングだと尋ねる。 「翔剣士だよ。12で家を出て、それからずっと冒険者さ」 「へぇ……」 らしいといえばらしいと頷きつつ。リーガルはふと、冒険者になった頃のキーゼルはどんな感じだったのだろうかと思う。 「相変わらずガラクタ集めに精を出してるようじゃが……キーゼルも29になるのじゃし……そろそろ、本気で身を固めようとかは思わんのかぇ?」 そんな会話を聞いていた、宵咲の狂華・ルビーナ(a00172)は、もう若くないのじゃからのぅ……などと呟きつつ、キーゼルと周囲へと視線を向ける。 「身を固める……ねぇ」 十歳以上年下のルビーナの言葉に、キーゼルは髪をかき上げつつ苦笑すると「まあ、そのうちね」と呟く。 「あ、あれですね」 と……凱風の・アゼル(a00468)が見えて来た遺跡に声を上げると、キーゼルを振り返り、面白い物があればいいですねと笑う。 「そうだね」 楽しみだという顔で頷くと、キーゼルは心なしか足を早める。 (「……まあ、考えすぎか」) そんな中、朽澄楔・ティキ(a02763)は、ふと脳裏をよぎった考えを追い払うと、準備してきたカンテラを取り出す。前に、ピクニックの最中にドラゴンズゲートを発見した護衛士団があったけれど……まあ、そうそうそんな事も起きないだろう、と、カンテラに明かりを灯し、遺跡の中に入った。
「宝は探し出すまでが楽しいんです……気合入れて探します〜♪」 無垢なる銀穢す紫藍の十字架・アコナイト(a03039)は、武器のロザリオを握ると、空洞がないか探して、床をガンガンと叩く。 ちょっと――いや、かなり手荒に見えるが、本人曰く「繊細な乙女っぽい捜索方法ですよね」らしい。キーゼルなどは思わず突っ込みたくなったが……まあ、崩落などにはちゃんと注意しているようだし、別に良いかと特には口を挟まない。――挟んだ方が恐ろしい、とどこかで考えたのかもしれないが。 「キーゼルさん、もし出来れば遺跡の霊査をお願いしても良いですか?」 遺跡の構造を調べて貰い、その様子を見たい……と考えたシャンナだったが、キーゼルは首を振る。 「それをやると、宝探しの楽しみが無くなるからね」 もし霊視で遺跡の構造だけでなく、全ての宝の位置などを先に知ってしまったら……もう宝探しという気分では無くなってしまうだろう。それは宝探しが終わった後でも同じ。探し終えた後で、もし、自分達の見つける事の無かった宝や、隠し部屋などを視てしまったら……? 「あ……」 シャンナもそれに気付くと、霊査の頼みはすぐに取り下げる。 「何か土産になるようなもんでも、出てくるといいんやけどな〜♪」 アーニーは狐のウィルと一緒に周囲を見回しながら進むと、先頭に立って、通路の先にある部屋に向かう。が……。 「あれは……」 部屋に踏み込んですぐ、奥に何かがいるのを感じ取る。正体はすぐに解った。低い唸り声、警戒するように窺う幾つもの気配……。 「野犬ですね」 アーニーのみならず、それに気付いた冒険者達が一斉に身構え、楽風の・ニューラ(a00126)は獣達の歌を使い語りかけ始める。 だが、説得しようとしても、武器を構えた冒険者を前に、野犬は警戒を解くどころか、むしろ強める一方で……やがて野犬達は、ひときわ低く唸ったかと思うと、冒険者の方へと迫る! 「っ……」 前にいた冒険者が野犬を食い止める一方、後方では気絶したキーゼルを支えつつ通路へと後退して。虚実の狭間に揺れる明星・フォクサーヌ(a14767)は眠りの歌を、シュウが紅蓮の咆哮を使う。 野犬達は次々と麻痺し、眠りに落ち……次々とその動きを止める。 「ふ、ちょろいもんね。……ほらー、せんとーおわったよー、おきろー」 フォクサーヌは野犬達が行動不能になったのを見ると、キーゼルに呼びかけながら、着ぐるみの肉球部分でぺちぺちと叩く。 (「人数が少ないのが気になったけど、別に必要なかったかな」) リンゴ姫・アップル(a07891)は、瞬く間に一段落した事に対して、そんな風に思いつつ武器を戻す。 「どうやら行き止まりのようですし……このまま戻りましょうか」 ニューラは室内をざっと見回すと、そう提案する。ここは彼らの縄張り、近付かなければ野犬達も追っては来ないだろうし、それに、出来れば穏便に済ませたいからと。 「そうだな……」 野犬と遭遇したら、宝探しの手伝いでも……と考えていた宿無し導士・カイン(a07393)も、こう敵意を抱かれては難しいだろうと頷く。 「特に何も無さそうですし……」 「隠し部屋や階段の類も無さそうだな」 ざっと室内を確認した冒険者達は、特にこれという物は無いと確認すると、野犬達のいる部屋を去った。
野犬のいた部屋を離れると、冒険者達は宝探しを再開した。といっても……。 「みごとになんにもないのね……」 ――と、思わずフォクサーヌが呟いたように、肝心な宝はなかなか見つからない。たまに冒険者達の前に現れるのは、壊れているんじゃないかというほど古びたカンテラだったり、黒く錆びたナイフだったり……価値がありそうには見えず、役に立ちそうだとも思えない、がらくたばかり。 「これは……」 ふとニューラが拾い上げたのは、黒く汚れた……音叉、のようだった。汚れてはいるが、音はきちんと鳴るようだから、まだ使えそうだ。 「スーピー君、何か見つけましたか?」 アゼルは、探索を手伝わせていた土塊の下僕が、何かを持って戻るのを見ると、どれどれと覗き込む。 「あら……」 下僕が持っていたのは、ちぎれた紐と、そこに引っかかっていた一粒の真珠だった。おそらく、壊れたネックレスやブレスレットの一部が、どこかの隙間に挟まっていたのだろう。 「ん?」 アーニーは、ふとウィルが何か足元で転がしているのに気付くと、それを手に取る。小さな丸い形の……バッジのようだ。黒く錆びているが、どうやら銀で出来た物らしい。磨けば綺麗になるだろうか。 「おっ」 床を調べていたシュウは、空洞らしき場所を見つけると、床石を外して調べる。やがて見つかったのは…… 「はとこの子、壷が出てきたよ」 心なしか嬉しそうに振り返るシュウに、キーゼルは「そんな所から?」と驚きつつ、一緒になって壷を覗き込む。装飾などはなく、ただ古いだけの壷のようだが……それでも喜んでしまうのは、男の子だから……かもしれない。 ――まあ、二人共、もう男の『子』というような年齢でもないのだが。 「ん?」 一方、空気の流れに注意しながら、隠し部屋が無いか調べていたティキは、ふと、とある通路の途中で、どこからか空気が流れていような感触を感じる。試しにカンテラの火を掲げてみると、微かに揺れ……何かあると確信する。 「右からか左からか……手分けすれば早いか」 だが、ハッキリとした位置まではわからず……考え込んだティキはすぐに顔を上げると、皆に声をかけ、手分けして探す事にする。すぐに何人かが集まって壁を調べ始める中、彼らの後ろでは、空洞がありそうならブチ抜いてみれば……と、アコナイトが身構え、マッスルチャージを使い力を溜める。 と―― 「ここやないか?」 コツコツと壁を叩きながらテンオーが声を上げる。少しずつ念入りに調べていた彼は、他の場所と違う音が響く箇所を見つけたのだ。 だが、そこに扉のようなものは見当たらす……テンオーなどの付近にいた者は、破るしか無さそうだと判断すると、すぐに数歩下がり壁から離れて。 「じゃ、いきますよ♪」 そこに一歩踏み出したアコナイトは、溜め込んだ力と共に、思いっきり大地斬をブチ込んだ。
――壊れた影の向こうには、隠し部屋が一つあった。冒険者達は瓦礫を軽く退かして歩きやすくすると、その中に入る。 「ほー……」 カインは感心した様子で中を見回す。そう広い部屋ではないが、これまでに誰かが中を調べた様子は無く、辺りには幾つかの物が転がっている。どうやら、これまでとは違い、それなりに価値のある物も多いようだ。 「俺の使えそうな掘り出し物はあらへんかなぁ」 テンオーは、何か自分向きの物は無いかと、室内にある物を順に見ていく。その傍らでは、きょろきょろとしていたアコナイトが、何やら怪しげな像に視線を留めると、それを拾う。 「へぇ、これはなかなか……」 ナギはシンプルなデザインのピアスを拾うと、感心した様子で呟く。デザインこそ派手ではないが、目利きを得意とする彼には、これが上質の白銀とオニキスが使われた、良い品だと判ったからだ。 「キーゼルさんは入らないのか?」 「宝探しは好きだけど、財宝の類はそうでもないからね」 全員が入るには少し狭い部屋だという事もあり、キーゼルは通路で待つ事にしたようだ。 その返事に、メイムは彼に昔何があったか――どうやら大切な人を失ったようだから、その時の事をさりげなく聞いてみようとするが……なかなか上手い言い回しが浮かばず、また、周囲には万が一に備えて彼の側を離れない冒険者も多かった為、結局、切り出す機会を得られずに時間が過ぎるのだった。
そうして一通り探索を終えた冒険者達は、見つけた品を手に酒場への帰路についた。帰りに何かから襲われる……というような事もなく、一行は無事に酒場へと戻る。 「さてと、じゃあ用意しておいた鳥を振る舞うとしようかな」 シュウは出発前にマスターに預けておいた鳥串を出してもらうと、誕生日祝いでも、と、それを皆に振る舞う。 「へぇ、美味そうだな」 ナギは串に手を伸ばしつつ、いける口ならどうかと酒をキーゼルに勧める。 「じゃあ貰おうかな」 グラスを受け取り一口運ぼうとするキーゼル……と、桐の箱を手にルビーナが近付いて来る。 「キーゼル〜♪ 誕生日おめでと〜なのじゃ☆」 言いながら渡した箱の中身は、一枚の皿。ホワイトガーデンで手に入れた物だという。 「作者は不明じゃが、エンジェルって事は確かじゃよ。中々味のある良い作品なのじゃ☆」 「へえ……」 しげしげと皿を眺めるキーゼル……その一方で、はてとルビーナは首を傾げる。同じような事が前もあったような、デジャブを感じるが――まあいいかと振り払って、鳥串に手を伸ばす。 「オーケン石ってご存知ですか?」 ニューラは一見白い毛玉のように見える石を取り出しながら訊ねる。ウサギの尻尾のようにも見えるから、別名ラビットテール……何に使える訳でもないけれど、宜しければお祝いという事でお持ち下さい、と。 「いや、初めて見たよ。面白い石だね」 キーゼルはニューラの説明に感心すると、気に入った様子で懐にしまう。ちなみに、今日彼が着ている服は、出発前に一足早くリーガルが贈っておいた物だ。 そんな間にも、他の冒険者達から祝いの言葉が次々と贈られて……先ほど遺跡で見つかった品の幾つかも、プレゼント代わりにと、幾つかキーゼルの手に渡る。 (「宝物……」) それを目にしたメルヴィルはふと思う。自分にとっての宝物は、きっと―― (「……はじめてお会いできた、あの時の偶然。少しずつ積み重ねてきた、たくさんの思い出。そしていま、すぐそばで同じ時の流れを感じることができること……」) ――それが、自分にとっての宝物だと、胸の奥で確認しながら。メルヴィルはそっと、用意しておいたある物を握って。 「お誕生日、おめでとうございます、です」 掌の中身……紙吹雪を舞わせながら微笑む。 「わざわざお祝いまでしなくても良かったのに……ありがとう」 そんな彼らの様子に、キーゼルは一言ながらも、皆の顔を見ながら礼を言い……冒険者達は一度乾杯すると、遺跡探索の打ち上げ兼、誕生日パーティを楽しむのだった。

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参加者:20人
作成日:2005/02/18
得票数:ほのぼの26
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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