【暁天の詩】子狸?



<オープニング>


「あら、お久しぶりですね。クウガさん」
 ヒトの霊査士・リゼルに呼び止められ、ビクゥッと反応したのは護りの魔箭・クウガ(a90135)。
「……そこでどうしてビクつくのか分かりませんけど」
「別にリゼルが怖いんじゃないだよ。き、緊張してるだよっ」
 言われて、リゼルは「ふぅ」と呆れたような息をついた。
「え、えっとな。アイギスで、また事件があったみたいだよ。んで、あそこは前にも色々あったから心配だしな、酒場に依頼だすように言っておいただよ」
 その依頼が上がってないか、探しに来たと言う。アイギスとは、ドリアッド領の街で、以前は護衛士団があった土地として知られている。
「ああ、確か1件……あります。少し変な事件でしたよ」
 そう言うと、リゼルは霊視の結果を説明する。
 アイギス周辺で、畑や貯蔵倉庫から農作物がなくなることが続いていると言う。森の食べ物も減る時期だから、ある程度は毎年被害があるということだが、今年はどうも量が半端でないらしい。
「食べ物を盗み出しているのは色々な動物ですが、1番の原因は狸です。まだ1歳にもならない子狸を育てるのに必死なんです」
「なんか、微笑ましいだがや。人間がちっと我慢すればいいだか?」
「それがちょっと拙いんです。1歳近い子狸なら、普通は自分で餌を取ることもします。けれど、4頭のうち1頭が、突然変異を起こしているようで……放っておくと、親子ともども、その1頭に食べられてしまうかもしれないの。もちろん、人里にも現れて被害をもたらすでしょうね」
 クウガは「あわわっ」と慌てた。
「危ないだよ。狸の親子もだけど、それじゃアイギスも危ないってことだがや」
「そうですね。子狸たちはやんちゃ盛りですが、問題の子狸は、もう親より大きく成長しているのに、食べ物を運ばせているようです。ただ、今運ばれている餌の量で満足しているのも長くないでしょう。周りの子狸3頭と親狸たちを保護して、その1頭だけを退治して下さい。……あ、狸と言っても、問題のものは大きく凶暴ですから注意して下さいね。その子狸にとっても初めての戦闘なのか……どんな力を持っているのか、よく視えませんでしたから」
「わ、分かっただよ」
 遠くから弓矢でプスッと……と考えていそうなクウガ。様子を見て取ったリゼルは、それでは済まないと念を押す。
「巣の場所は、アイギスの南西。街に近いようなので、捕り逃がしてしまうことと、親狸が庇ったりしたせいで、そちらを誤って殺してしまうようなことのないようにね。そんなことになったら、たんぽぽ園の子供達にお仕事の報告できないでしょう? よろしくお願いしますね」

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参加者
赫風・バーミリオン(a00184)
朽澄楔・ティキ(a02763)
氷輪の影・サンタナ(a03094)
銀の竪琴・アイシャ(a04915)
永遠の旅人・イオ(a13924)
遍く光を享受せし者・シャーナ(a14654)
癒しの加護を宿す小さき花・エイミー(a15148)
闇を纏いし告死の銀狐・アシュレイ(a20622)
NPC:護りの魔箭・クウガ(a90135)



<リプレイ>

「狸だから、そんなに怖くないだよな?」
 アイギスの為と気合だけは入っていた護りの魔箭・クウガ(a90135)だが、ビビリは相変わらず。皆に同意を求めてキョロキョロする。
 黙って、ぽむ、と肩を叩く朽澄楔・ティキ(a02763)の身体は包帯だらけ。……不吉っ?!
「大丈夫ですよ。クウガ様ならきっと出来ます」
「頑張ろうね。クウガさんは狸親子の保護をお願いしますなの」
 カタカタ震え始めた彼に、奏・アイシャ(a04915)と赫色の風・バーミリオン(a00184)は元気付けるように言う。
「わたしもたんぽぽ園にご一緒して、報告したいですから。ね?」
 小さな笑顔をふりまく一輪の花・エイミー(a15148)にも言われ、クウガはコクコクと頷いた。たんぽぽ園はアイギスの孤児院。子供好きの彼には『効く』単語だったらしい。
「う、うん。分かっただ」
 キリリと顔を引き締め、気持ちを入替えた様子に、氷輪に仇成す・サンタナ(a03094)や遍く光を享受せし者・シャーナ(a14654)は小さく笑った。
「様子見に行くぞ」
 月影の銀狐・アシュレイ(a20622)は言って、流浪の根無し草・イオ(a13924)とサンタナを促す。先に、狸の巣の様子を窺いに出る予定なのだ。
「俺は、アイギスの人達に狸のこと聞いてくるねっ」
「ちょっと待て、俺も……」
 狸に気付かれないよう、皆がきちんと準備しているかを気にかけていたティキは、さっさと街中へ行こうとするバーミリオンを呼び止めた。
「ティキ殿も行って大丈夫じゃ。こちら3人の装備は我が見ておくからのぅ」
 そう言って、アシュレイとイオの装備を見てやるサンタナだったが、イオも待ったをかける。
「僕も聞いておきたいです。探し回るより良いはずですから」
「ふむ。そうじゃのぅ……」
 保護色の服などを人数分準備してきて、イオには鎧の金属音が響かないよう布を詰めるのを勧めていたサンタナは、
「では、臭い消しは後回しにするかのぅ」
 草木を擦り付けて臭い消しに……という手は、森に入る直前にすることにして送り出した。

 猪が畑を荒らすこともあるし、猿が悪戯することもある。盗人狸も、人々にとっては迷惑ながらも仕方ないことの範疇だ。それでも、今年はちょっと酷い……と住民達は話していた。訪れるのは決まった狸だから、食べ物を盗みに入る倉も、何軒かに限られているらしい。「向こうの倉だよ」と教えてくれたのは、街の南にある個人の貯蔵場2つと、街の備蓄庫1つ。
 バーミリオンが狸を誘き寄せるのに良さそうな場所を聞くと、その3つの内の1つを選ぶのが1番良いだろうという話だった。度々荒らされているのは、街を囲む森の中の巣から行きやすい場所らしいということだから。
「備蓄もまだ多くないのに、狸が荒らしてるっていうんで……困ってるんだよ」
「まあ、これからは戦の心配はそうないだろうけどね。家の倉庫が何度も荒らされたら……腹も立ってしまうでしょう?」
 見かけた狸は多くないのに、とにかく回数が頻繁すぎて、倉の持ち主はもうカンカンなのだと言う。
「夜だけじゃなく、ついこの間はまだ陽のある時間に見たって話もありましたよ」
「今年は狸が異常に繁殖してるのかとも思ったけれど、1度に沢山は見かけないんだよ。それで、普通の狸じゃないのかもしれないって不安になってたところさ。よろしくねぇ」
 最後には、すっかり頼られてしまったイオ達3人。井戸端会議のノリで怪我まで心配され、居まずい気分のティキの隣りで、バーミリオンとイオは請け負った。
「うん。頑張ってくるからね」
 バーミリオンは元気にそう言い、イオは柔らかな笑みを返して。

 彼らからの知らせをもらい、エイミー達は誘き寄せの準備を始めようとしていた。
「どれか1つに決めなくてはいけませんわね? どこが良いでしょう?」
「うーん。どれでも同じでしょうか?」
 アイシャとエイミーは問うようにティキ達を見る。
「備蓄庫より、他の2つの方が森に近いから、そのどちらか巣に近い方にしておいたらどうだ?」
「そうですね。……では、偵察に出た御三方の結果待ち……ですわね。あ……狸は夜行性でしたかしら?」
「ええ。それがどうかしましたか?」
 確認するアイシャに、動物に詳しいシャーナが頷いて、逆に問う。
「でしたら、誘き寄せるのは昼間のうちの方が、緩慢で捕まえやすいのではないかと思いましたの」
「夕方でも来る可能性はあるみたいだけど。どうかなぁ?」
 バーミリオンは首を傾げ、シャーナも「分かりませんね」と応える。
「状況次第だと思います。昼間では積極的に追い立てないと無理かもしれませんし、餌探しに切迫していれば、昼間でも出てくる確率は高いかもしれませんねぇ。とりあえず、準備だけしてみてはどうですか?」
 どちらにしろ、偵察の3人が帰るのは正午を回りそうだ。
 というのも、動物に詳しい者がいなかったので、狸の巣を探すのに手間取っていたからだ。
 その間に、バーミリオンは獣達に話を聞きに森へ入って行く。目印は知っているから、迷いはしないだろう。

「狸は溜め糞をするらしい……のじゃが。これがそうじゃろうかのぅ? ……いかん。詳しい者に聞いておくのじゃった……」
 森の中で溜め糞を見つけて、サンタナは「うう〜ん」と頭を抱えた。他の動物でも溜め糞をするものがいるとか、どんな色や形状なのかとか。そういう知識は無かったからだ。
 地面に残った足跡を追うのも、彼やアシュレイには容易いことだが。
「肝心の狸の足跡がどれだか……」
 分からない、とアシュレイも肩を竦めていた。
「これは犬か何かだよな。狸の足跡はもっと小さい……か?」
「まあ、巣がこの辺りなのは確かなようですから。徒労に終わることはありませんよ」
 道案内に付いて来たイオは、そう言って苦笑した。
 結局、森の中で巣穴らしいものをいくつか見つけたが、狸は昼寝中なのか見当たらない。確認するには詳しい者が同行していなければならず……報告がてら、仲間達の元に一旦引き返したのだった。

「ああっ わたしが付いて行っておけば良かったですねぇ」
 それに慌てたのはシャーナだった。自分なら良く知っていたのに、と恐縮する彼女に、サンタナとイオは苦笑して首を振る。
「いや、こっちも気付かなかったんだから……」
「肝心なところじゃったのにのぅ」
 アタリは付けたから、ということで、確認は退治を担当する皆で行くことにする。獣達に聞いてきたバーミリオンの情報でも、狸の出没地点はその近辺で間違いなさそうだった。
「じゃあ、こちらはどうします?」
 小首を傾げてアイシャに訪ねるエイミー。場所がハッキリしていないと、誘き出しの餌もどう撒いて置くべきなのか決まらない。
「森の周辺から扇形っぽく撒いて置けば良いと思いますよ。最終的に倉に辿り着くまで、時間がかかるかもしれませんけれどね」
 聞いていたシャーナは、そうアドバイスした。
「おらも手伝うだー」
 籠に入れて用意した野菜や果物の餌を抱えて、クウガも2人に付いて行く。
 そうして、3人は、街の南西方向――アタリを付けた巣穴のあった辺りの森の端から、餌を撒いて倉の1つに点々と道を作った。
「狸さん、現れてくれますように」
 並べ終えたエイミーは、おまじないのようにそう呟いた。


「あ、ティキさん」
 いざ仕事に入る……という直前に、イオに呼び止められたティキ。
「……?」
 振り返ると、「無理はしないで下さいね」と守護アビリティをかけられた。
 いや、効果時間は数分で、あまり長くないんじゃないかとか……ツッコミどころは思いついたものの、折角の気遣いにティキは黙り込む。
「どうもな」
 不器用な礼を返して、イオ達を送り出した。彼自身は、誘き出された狸が万一にも逃げ出さないよう備えるつもりだ。

 時刻は午後に入っている。

 シャーナ達が巣穴の確認に向かうと、糞や足跡の状況から、どこがアイギスに出ている狸の巣穴なのかの見当がついた。
「入口の穴はいくつかあるんですけど、あの辺りのがそうだと思います」
 指差された巣穴に、バーミリオンとサンタナが近付き、ハイドインシャドウで木陰に隠れる。そっと窺うと、巣の中でもそもそと動いている『毛玉』が見えた。
(「あれが狸かのぅ?」)
 サンタナが迷っていると、1頭が表に出てきた。
 心なしか眠そうな様子で、もう1頭。
 最初に出てきたその2頭が、しばらくすると餌探しになのか、どこかへ行ってしまった。サンタナとバーミリオンには分からなかったが、出て行ったのがアイギス方向なのには、ドリアッドのイオが気付いていた。
「(親狸……かな?)」
 そう想像した通り、その2頭は、アイシャ達が見守る中、森の端に置かれた餌に気付いて嗅ぎ回っていた。そして、銜えて巣に戻って行く。
 何度かそれを繰り返した頃、巣穴からさらに3頭の狸が姿を現した。変異していない子狸だろう。
 やんちゃ盛りで出歩くことも多くなっているようだが、子狸達もアイギスまで出向くかは分からない。退治班が見守っていると、何度か帰って来ていた親狸2頭がなかなか戻って来ない時間が続いた。やがて陽も傾いていく。
 3頭は、独特の地面に鼻を擦り付けるような姿勢の蛇行でウロウロし始めた。そして、巣穴からフゥーッと鳴き声のようなものが聞こえた途端、ビックリしたようにアイギスの街の方へと走り出した。
 直後に現れた狸は、これまでの5頭よりも2回り近くも大きく、顔つきから凶暴に感じられた。尻尾は異様に太く、毛の1本1本がピシピシと尖っている。

 その頃、親狸は倉まで辿り着いていたのだ。
 狸の親子は出揃っていなかったが、エイミーとクウガの2人と様子見していたアイシャは、仕方なく倉に閉じ込めて眠りの歌を歌う。
「ごめんなさいね」
「ちょっと可哀想です……」
 でも仕方ないですね、と言って、エイミーは狸達が怪我などしていないか確かめた。その後はすぐ、残りの子狸達の心配を始める。上手く誘き出されてくれないと、変異している1頭の退治に巻き込まれてしまうかもしれない。
 そのままアイシャ達が見ていると、森の端に3頭の狸が顔を出し始めた。だが、子狸達は街に入ったことがないのか、そこで躊躇している。そして、あともう少し……というところで引き返そうとした。
「あ……っ」
 咄嗟に追いかけようとしたエイミー。彼女の前で子狸達を止めたのは、森の入り口辺りに潜んでいたティキだった。
 子狸の警戒心も強く、眠りの歌の効く範囲まで近付くのが大変で時間がかかったのだが、しっかり3頭を眠らせたティキは、コテっと眠り込んだ身体に近付いた。
「悪いな……」
 何となくそう呟く。今頃、兄弟だったはずの狸は、仲間達の手で殺されているだろうから。

 空腹で気が立っていたのか、出てきた変異狸は、臭いを辿って兄弟達の後を追おうとしている。
 サンタナはしっかり封をしていた革袋を開けると、持って来た焼き魚を狸の方へと投げた。一瞬、食欲で気が逸れた狸に、仲間達が駆け寄って攻撃に移る。
 位置の近かったバーミリオンが、紅蓮の咆哮で動きを止めに入った一瞬。継いだイオの影縫いの矢で、しっかり足止めされた変異狸は、シャーナの放った銀狼に噛み付かれ、アシュレイの飛燕連撃のダメージに凶暴さを増した。
 麻痺を振り払い、フゥーッ! と発した威嚇音とともに、尻尾の剛毛が周囲に飛び散る。
「ち……っ! 大丈夫か、イオ、シャーナ」
 舌打ちするアシュレイだったが、戦闘中には珍しく、後衛のイオやシャーナ達を気遣った。変異狸の攻撃は、後衛の彼らまでにも届くものだったから。
「大丈夫です」
「わたしも」
 短いやり取りを交わす彼らに、変異狸が血まみれで突進する。追いかけるバーミリオンの肩越しに、サンタナはホーミングアローでそれを撃ち抜いた。

 ぽてっと倒れた変異狸は、その様子だけ見れば、ちょっと太った狸。
 顔には愛らしさも戻り、少しだけ……冒険者達の気持ちを沈ませた。
「大丈夫でしたか? 狸さんに怪我はないけど、皆さんは?」
 仕事が終わって戻った彼らを、こちらも狸親子の保護を終えたエイミーが駆け寄って迎えた。
「ああっ 怪我してますね?」
「ちょっとだけ……」
 シャーナがイオやアシュレイ達とお墓作りに残っていたから、皆の傷は忘れられていたのだ。
 治してあげますと請け負って、エイミーは皆にヒーリングウェーブをかける。
 そして、狸の親子が負ったかもしれない心の傷には、アイシャが。皆が戻ったところで、獣達の歌で『ごめんなさいね』と語りかけて解放する。
 巣穴に戻るのは、親と子狸3頭だけだけれど……。

 帰りがけ、たんぽぽ園に寄ったクウガは、子供達に狸の親子を見た話をしてあげた。
「倉を荒らしてた狸に、『ダメだよ』って言って来ただ」
 やっぱりすこーしだけ、本当の話は省いて。その小さな嘘は、エイミーも納得したものだった。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2005/03/10
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