<リプレイ>
●巨大魚の住む湖 木々の間に水のきらめき。夏の強い日差しを受け止め、何倍にも輝かせる湖は、水底に危険を隠し持つとは思えない。 浴びれば美人になれると信じられても不思議はないほどに澄んだ水。その表面に風が描く繊細な波模様。 「美人になれる水ねぇ。どんだけブスだか知らねぇが、金持ちなら化粧でも塗りたくってりゃいいものを、お嬢様ってなあ困ったもんだな」 まあせいぜい金を使ってもらうとするか、とエルフの紋章術士・チーノ(a00369)はぼやき混じりに人食い魚退治の準備を始めた。 ヒトの狂戦士・シシリー(a00502)とヒトの吟遊詩人・ラジスラヴァ(a00451)は、荷車を引かせたノソリンを湖からやや離れた場所に繋いだ。どちらの荷車にもエメルダから頼まれた数より多くの水桶が乗せられている。 「湖に住む巨大魚、か……突然変異か何かか?」 銛にロープを結びつけているシシリーに、ラジスラヴァは村人から聞いておいた情報を伝える。 「この湖でこういう事件が起きたのははじめてだそうですから、突然変異の可能性が高いでしょうね」 それでも念のために、魚を退治した後もしばらくは1人で湖に近づかないよう村人に忠告しておかなければと、ラジスラヴァは心に留めておく。卵が残されていたらそれが孵り、また事件が起きてしまうかもしれない。 「被害者の服が発見されたのは湖の北側だそうですから、気をつけてくださいね。あ、囮の方と釣りをされる方は、念のために命綱をつけておいてください。それからこれを」 ヒトの医術士・フィオ(a00448)はロープとナイフを皆に配った。ロープは命綱のため。ナイフは命綱が解けなくて身動きとれなくなった時にそれを切るために。 ストライダーの翔剣士・チッペー(a02007)はエルフの紋章術士・ナオ(a01963)の腰にロープを結ぶ。 「ナオ、さんきゅ……って、何してんだよ!」 命綱を結んでくれたのかと思いきや、ロープのもう片端を釣り竿に繋ごうとするナオの行動に、チッペーは焦る。 「何って、釣りの餌を……」 「餌じゃないっ!」 「あの……囮には人形さんを使ってください……」 エルフの紋章術士・ルーチェ(a00593)は土塊の下僕を作りだし、服を着せる。 「人形さん、ごめんなさい……」 ルーチェは詫びながら下僕とナオの釣り竿とを結んだ。魚の目を引くために、下僕に水縁を歩くように指示をし。 「こちら側に撒き餌をしておきますね」 フィオは釣り係がいる側にパン屑をばらまいた。餌に小魚が集まれば、それを狙う魚が集まり、巨大魚の気を引けるかもしれない。 巨大魚釣り作戦始動。 ストライダーの牙狩人・シズク(a00786)は樹の上で弓を構え、巨大魚が誘い出されるのをじっと待った。
●巨大魚戦 土塊の下僕は湖の周囲を行ったり来たり。水面に小さな影を落として歩き回っている。 が、魚は一向に姿を見せなかった。時間が過ぎて土塊に戻ってしまった下僕を作り直すルーチェの赤い瞳に不安の色がよぎる。 土塊の下僕はルーチェの膝よりやや高い程度の大きさしかなく、子供というにも小さすぎる。「目立つように、水音をたててみるよ」 チッペーは湖に近づき水を足で跳ね上げた。透き通った水の飛沫が冷たく心地良い。ここで水浴びしたくなる気持ちもよく分かる。 湖に足を踏み入れ、ぱしゃぱしゃと水音を立てていると。 「何か来るよ!」 樹上で監視していたシズクの声が飛んだ。シズクの目には、すぅと湖に帯状の流れが引かれ、それがチッペーに向かうのがはっきりと見えていた。 チッペーがライクアフェザーを使うのと、水からばしゃりと魚がジャンプするのが同時。 「残念でした。身軽さだけは取り柄なんですよ」 湖に倒れ込みはしたが、チッペーは魚の攻撃を回避し、急いで岸へ向かう。 魚はチッペーの代わりに土塊の下僕を丸い口で銜えて引き込んだ。 魚の勢いに引きずられ、竿を持っていたナオの足がずるりとすべる。 ラジスラヴァは全身でナオにしがみつき、その身体を支えた。ぎゅうっ、っと腕に力をこめると、ラジスラヴァの豊かな胸がナオの背にむにゅぅと押しつけられる。 「うわ……」 背にあたる感触におののきつつも、ナオはそれ以上引きずられることのないように、もう一重、樹の周りに釣り糸を回し、ラジスラヴァと2人で竿を押さえた。 釣り係が奮闘している間、他の冒険者も一斉に動いていた。 シズクは樹の上からロープを結んだ矢を魚に向けて射た。ロープの重みが矢に加わるため、狙いをつけるのは難しく、勢いも殺され、矢はなかなか命中しない。次々に矢を射て射線を調整してゆくうちに、1本が魚のえらの部分にひっかかった。矢に結ばれたロープが樹との間でぴんと張る。 シシリーは魚影に向けロープつきの銛を打ち込んだ。水底に逃げ込もうとする魚と、銛の先につけられた返しが魚を引き留めようとする力との間で、ロープがぎしぎしときしむ音を立てる。 「はた迷惑なくらい活きのいい魚だな」 呆れ声のチーノの前に紋章が浮かび上がり、エンブレムシュートが放たれる。射程距離にさえ入っていれば、相手が水中にいてもその効果は減衰しない。暴れ回る魚との距離を測りながら、チーノは何度もエンブレムシュートを魚に撃つ。 その間にも、シズクのホーミングアローが軌跡を引いて魚に吸い込まれる。 手の届かぬ相手からの攻撃に、魚は苛立ったように身を翻した。そのはずみに魚に刺さっている矢や銛が抜けかかり、シズクとシシリーは再び魚の固定に回った。 「大分弱ってきたみたいだね。そろそろ釣り上げられるかな?」 ナオは樹を利用しながら、魚を引き寄せようと糸をたぐり寄せ始めた。ラジスラヴァはそのナオを支え続ける。 「まだ相当力が残ってるね……」 ナオを手伝って糸をたぐりながら、チッペーは顔をしかめた。相手も死にものぐるい。持つ手が切れそうな力が糸にかかっている。 「釣り上げは手伝うから、魚を弱らせる方に回ってくれ。こっちはもう、アビリティを使い切っちまったからな」 チーノはナオに代わって釣り竿を支えた。釣りの方が気に入っているナオはやや残念そうではあったけれど釣り竿を任せ、魚をエンブレムシュートで弱らせる。 ナオがアビリティを使い切る頃には、魚はほとんど横倒しになり、ぱくぱくと口を開け閉めして喘いでいる。 魚を浅瀬にまで引き寄せた処で、シシリーはマッスルチャージをかけた。シシリーの逞しい腕に筋肉がくっきりと盛り上がる。 フィオは護りの天使を伴い、シシリーをかばえる位置に待機した。弱っているように見えてはいるが、魚がどんな余力を残しているとも知れないからだ。 シシリーは膝まで水につかりながら、ジャイアントソードを振りかぶる。 「……貴様に喰われた者の恐怖と痛み、多少なりとも思い知るがいい」 犠牲者への思いをこめて振り下ろされた剣は、巨大魚の頭部を砕き、湖に小さな水しぶきと大きな波紋を描いた。
●美の魚と美の泉 動かなくなった魚は釣り糸の力と、魚を抱えるシシリーの力とで岸に引き上げられた。 「この魚の美しさが湖の力なら、噂はまんざら間違いじゃないかもね」 チッペーは、死んでなお輝いている微かに金を帯びた銀の鱗と湖とを見比べる。 「美味しいって聞いたけど、人を食べちゃった魚は食べられませんね……」 釣り上げられた魚は美味しそうだが、さすがにナオもこれを食べようという気にはなれない。 「この魚さんは湖の近くに埋葬しましょう」 食べられてしまった娘たちの供養として、とルーチェは痛ましげに目を伏せた。魚は倒れ、新たな犠牲者が出ることはなくなったが、失われた命は戻ってこない。 「埋めるのであれば荷車にある道具を使うといい」 シシリーは用意してあった穴掘りのための道具を指すと、自分は水汲みに取りかかった。チーノもそれを手伝い、魚の血で濁っていない部分の湖から桶に水を満たす。 「その前に解体してもよろしいでしょうか。魚の内臓にまだ遺留品が残っているかもしれません」 「ボクも手伝うよ。あと、鱗を少しもらってもいい? 何かに使えそうだから」 フィオとシズクは魚の腹を割き、内臓の内容物を調べてみた。魚のサイズにあわせ、内臓も気味の悪いほどの大きさだ。どろどろとした内容物はぞっとしないものだったが、その中にわずかな金属が残されているのを発見できた。娘たちが身につけていた装飾品だろうか。 魚の解体をしている人々を横目に、シシリーとチーノは水桶を荷車に積み込んだ。エメルダからの依頼の分よりも、冒険者たちが個人的に持ち帰る水の量の方がはるかに多い。旅団への土産、あるいは売り物、はたまた自分が水浴びするために。 「帰る前に水浴びをしていきましょう」 ラジスラヴァは女性を誘って美人の湖で水浴び。 男性陣は追い払われたが、ナオだけはふと足を止める。 「……巨大魚が食べられないなら、せめて他の魚でも釣って食べたかったなぁ……。それに僕もちょっと水浴びしてみたいかな〜、なんて」 そこまで言って、こちらを見ているチッペーに気づき、慌てて首を振る。 「あ、うそうそ。冗談だから」 赤くなるナオに、チッペーは何でもないように笑って見せた。 「水浴びしたいの? 釣りも? 両方すりゃいいじゃん。水浴びしながら釣り。付き合うよ」
●我が儘お嬢ここにあり 屋敷に水を届ければ依頼完了となる。 どんな依頼主が出てくるかと期待や揶揄をこめて待つ中、エメルダがやってきた。 「これが美の泉の水ですの?」 怪しいものを見る目つきでエメルダは水桶の水に手を浸した。何もしたことのない白い手は、美の水を必要としているようには見えない。さらりと流れる淡い金髪、一点の曇りもない翠の瞳。磨き抜かれ整えられたお嬢様だ。 だが問題はその性格。 「美人になりたきゃ、今後も継続して水運びに雇われてやってもいいぜ」 そう申し出たチーノに、エメルダはつんと顎をそびやかす。 「必要ありませんわ」 「でも、この湖の水がどうしても欲しかったのでしょう?」 不思議そうに尋ねるルーチェに、エメルダはいいえと首を振り。 「あの時は欲しいような気がしましたけれど、よく考えたら、私にはこんな水不要ですもの」 けろりとして言うと、エメルダは興味を失ったように水に背を向け、部屋から出て行ってしまう。 ――気まぐれお嬢様の気まぐれ依頼。 引っ張り回される方はたまらないが、結果的に湖が安全な場所になったのだから……これはこれで怪我の功名なのだろう。 エメルダの非礼を詫び何度も頭を下げる使用人たちに送られて、冒険者たちは街へと帰って行ったのだった。

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参加者:8人
作成日:2003/08/25
得票数:冒険活劇11
戦闘1
ほのぼの3
コメディ12
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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