【COLORS】白黄紅梅の町〜モルテとスピナスの誕生日



<オープニング>


●宿敵再び
「お誕生日会をしようと思ってるの。それでね、どうしてもシギルちゃんにも来てほしくって」
「誕生日だって? 一体誰の……」
 金狐の霊査士・ミュリン(a90025)に連れられてきた酒場のドアを開いた白夜の射手・シギル(a90122)が目にしたのは、懐かしくもあり、だが二度と見たくなかった顔でもあった。
「――テメェ、モルテじゃねえか!」
 酒場の奥まり、最も人の行き来が少ないテーブルには、3つの人の姿が在る。皆、両腕に鎖で繋がった特徴的な腕輪を填めていた。
「あら……」
 一人は壁を背にして座る少女、白月の霊査士・ミニュイ(a90031)。声に気付いた彼女だったがそれには動ぜず、ランドアースはまだまだ寒いなあなどと思いながら、その口に温かいアップルレモネードを運ぶ。
 もう一人はカウンター側、ミニュイの向かいに座る白銀の霊査士・アズヴァル(a90071)だ。彼の前のティーカップには、僅かに橙黄の液体が残っていた。
「ほら、いらっしゃいましたよ」
 そして最後の一人。ミニュイとアズヴァルとの間でテーブルに突っ伏していた男は、アズヴァルに体を揺すられてむくりと起き上がった。
「────やぁ。久しぶりだな、シギル」
 旧知の間柄である二人を、斜陽の霊査士・モルテ(a90043)はいつもの如く鷹揚に出迎えた。
「……ミュリン。まさか、こいつの?」
 殊更にモルテの応対を無視したシギルは、苦虫を噛み潰したような顔で傍らの少女に尋ねる。
「そーだよ〜♪」
「………………………………」
 しかし、そんなシギルの表情などミュリンはまったく気付く様子もない。
「必要ないと言っているんだが……君も祝ってくれるというなら私も嬉しいかな」
「──ざけんな! 何が悲しくて俺がテメェの誕生日なんぞ祝わにゃならねぇんだよ!」
 軽口をたたくモルテに、怒髪天をつくとはこのことかとばかりにシギルは吼える。いつになく語調が荒く激しいのは、真剣(マジ)で怒っている証拠といったところか。
「ふたりともあいかわらず仲いいね〜♪」
「どこからそういう発想が生まれてくるんでしょう……」
 険悪な雰囲気の中、素っ頓狂なことを口にするミュリンに、アズヴァルは首を傾げる。
「ねえねえ、二人って一体どういう関係なの?」
 不思議そうにモルテとシギルの顔を交互に見比べていたミニュイが、こそっとミュリンに囁く。
「モルテ兄さんが霊査士になる前、よく二人で一緒に冒険してたんだってー」
「へえ〜……」
 どんなコンビだったのかしらとミニュイは純粋に興味に駆られ、アズヴァルはまた別のことに関心を抱くのだった。
「……しかし一体何をやらかしたんです?」
 昔よく組んでいたにしては、今のこの状況は想像し難い。二人の間に何かがあったのは違いないのだが、それをモルテのせいだと決めつけているあたり、アズヴァルの聡明さが伺える。
「やらかしたとは失礼な。君にだってあるだろう、過去のひとつやふたつ」
「はあ……」
 シギルから浴びせかけられる罵声に伏せていた目を半分開いたモルテの分かったような分からないような答えに、アズヴァルは複雑な表情を浮かべた。
「ぱぁぱ……」
 そんなモルテ達を酒場の離れた所から、伺うように見つめている浮浪児のような様相の子供がいた。彩雲の天鳥・スピナス(a90123)だ。
「テメェ、まさかそいつは……?」
 スピナスがモルテを呼ぶ時のお決まりの呼称に、シギルは眉根を寄せる。
「何を言いたいのかは敢えて聞かないが一言だけ言わせて貰おう──違うぞ」
「──はン、どうだか怪しいもんだな」
「あら、モルテさんたらいつの間にお子さんが……」
「だから違うと言っているだろう」
 悪気がないのか否か、ミニュイはしれっと繰り返す。
「そういえば、スピナスちゃんの誕生日っていつなの?」
 ミュリンはおいでおいでと手招きしながらスピナスを呼び寄せた。
「…………あまりよくはわからんのじゃが、たぶんちょっとまえじゃな」
 両手の指を折ったり伸ばしたりしながら、難しい顔をしてスピナスは答える。
「あら。もしかして、誰も祝ってあげていないのかしら」
「モルテ兄さんひどぉい。どうして教えてくれないの〜?」
「知らんよ私は。自分のだってどうでもいいのに他人の誕生日なんぞ」
 モルテは集まる非難の目を払い落とすように手を振る。
「そういう奴だよ、コイツは……」
「それでは、スピナスさんの誕生日も一緒に祝うというのはどうでしょうか」
 薄汚れたスピナスの髪を見て、何か閃いた様子でアズヴァルは口を開いた。
「そうね──それでどうかしら、シギルさん」
「……む。ガキんちょには興味ないが、モルテのというだけよりはマシか」
 振られたシギルは、仕方なしに妥協する。
「ここから程近い麓に、梅林で名高い町がありまして。そちらで梅見などはいかがでしょう」
「梅の花か……この季節だとちょうどいいかもしれないわね」
 何か考えるような素振りをしていたミニュイは、納得したように頷く。
「──じゅる。なに食べよっかなぁ〜♪」
「なにかくえるのか? それはたのしみじゃのう」
 涎を垂らすミュリンは、やっぱり花よりだんごである。それに釣られてスピナスもわくわくと胸躍らせていた。
「そういえばモルテ兄さん、確か去年の誕生日は貰ったお菓子になにか盛られててお祝いどころじゃなかったって……」
「………………ああ。あれは、危うく永遠の眠りにつくところだったなぁ……」
「……馬鹿め」
 ひきつった笑みを浮かべながら、モルテは果てしなく遠くを見つめていた。

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参加者
NPC:斜陽の霊査士・モルテ(a90043)



<リプレイ>

●prelude
 遠くからでもそれと気付くほどの光景が広がる梅林の町に訪れた一行は、その梅の花の見事さに見惚れていた。
 だが、しばらくすると早くも数人の姿がないことに気付く者が現れた。
「あれ? ソウさんがいませんね」
「町に入るなりどっかに走っていったが」
 きょろきょろと辺りを見回すファオに、アキナが答える。
「そういえば、スピナスはどこに?」
「ニューラ達に捕まって連れて行かれた。風呂に入れるんだそうだ」
 言いながら、ティキは微かに複雑そうな顔をする。
「なんてうらやま……いやいやいや」
 そんな本音が誰の口から洩れたかは置いといて。

「せっかくの誕生日にいつものあの格好のままでは!」
 と思い立ったシノーディアに賛同する者数名。
 彼女達は町に入ってすぐ、風呂を借り受けてスピナスのリニューアルを試みることにした。
「――どうしてもか?」
「どうしても!」
「そうか……ならばしかたがないのぅ」
 やはりスピナスには入浴という習慣自体があまりないようだった。
 そんなこんなでスピナスは、あっという間に服を脱がされ全身泡まみれになっていた。
「ぶくぶく……」
「はいはい、次は腕出して」
「うぬ」
 ニューラの命令にも、されるがままだ。
「ホントはモルテさんにスピナス君を洗ってあげてほしかったんだけどなぁ」
 厚みのある髪の毛を揉み洗いするようにわしゃわしゃと手を動かすアンジェリーナ。彼女から二人への贈り物であったハーブシャンプーは、そのままここでスピナスのために使われていた。
 同様にして入浴剤も風呂に投入され、湯船からは独特の香りが漂っている。
「はい、おしまい!」
 丸洗いを終えて泡を落としたスピナスは、ラジスラヴァに抱えられて、湯に入れられる。
「ちゃんと百まで数えてね☆」
「のぼせそうなのじゃ〜」

「たたかえ〜♪」
 待ちくたびれて居眠りするモルテに、ミニュイは鼻歌をうたいながら、いたずら書きをしていた。
「なんですか、それ?」
 苦笑しつつシェードが尋ねる。
「ないしょなの☆」
 夢見が悪いのか、眉間に皺を寄せているモルテの額には、『中』という謎のマークが……。

 ちょーん。
 という効果音と共に、スピナス改は完成した。
 ニューラは、浅葱に小梅を白く染め抜いた、小紋柄の着物を着せた。その上から黒の羽二重の羽織をはおらせている。
「これを機に、普段の服装も改善できるといいんですけど」
 シノーディアが一仕事終えてほっと一息つく。
 ちなみに着物の下にはラジスラヴァから贈られた服を着ていた。
「馬子にも衣装というより……着せられている感が強いのだが」
 微妙にギクシャクした動きを見せるスピナスに、クウォーツは違和感を覚える。
 伸びるに任せた髪の毛は、アンジェリーナによって念入りに梳かされ、整えられていた。また、その一部をシノーディアによって編まれている。
 くすんだ髪の緑は、本来の淡い鶸色に戻っていた。
「っていうか、こうして見ると女の子みたいですね」
「……男の子だったんだよな?」
「何を聞いてるんですか」

●ballade
 長い前置きはあったが、こうして梅見は始まった。
 風が吹くとまだ肌寒いものの、幸い空に残る雲は散り散りになっていて、梅の町には春の陽気が訪れ始めていた。
「綺麗ですね……」
「黄梅って私見たことがなくて……香りも漂ってますね」
 のんびりとして言葉を洩らすファオに、ヴェノムもまたぼんやりと続ける。
 宴の席にはおにぎり、ケーキを始めとした菓子類、ワイルドファイアから持ち込まれた怪獣肉等、多様な品が取り揃えられていた。
「おいしそう〜☆」
「……じゅる」
 当然のごとくミュリンは目を輝かせ、スピナスもよだれを垂らす。
 また、参加者の平均年齢が低めのため、酒は――何故か大量に持ち込まれていた。
「誰がこんなに……」
「未成年に飲ませないようにしないと」
 サガンやチハヤが並べられた酒瓶を手に顔を見合わせる。
 実は犯人は未成年ばかりだったのだが……。


「…………」
 シギルとモルテの間に位置したアーシアやティキは、どうやらシギルの方が一方的にモルテを毛嫌いしているようだと気付き始めていた。
 そんなシギルは言葉も視線も交わそうとせず、モルテもそれに倣っていたので、誰かが話を振らない限り、何かが起こる様子もない。
「シギルさんがそんなに邪険にするなんて珍しいですね。せっかくのパーティなんですし、今はそう眉間に皺寄せないで楽しみましょうよ」
 だが、そんな冷ややかな雰囲気に、敢えてシェードは斬り込んでいった。
「別に殴りかかりはしないけどな」
 ひとつ溜息をついてシギルが答える。
「霊査士なんかになりやがって……殴りたくても殴れやしねえ」
 そう言ってグラスに残るワインを一気に呷ったシギルは、顔を伏せた。
 密かにモルテとシギルがナンパ仲間だったのではと思っていたシノーディアにとって、二人の険悪さは意外だった。
 だが、彼女の推理は的外れなものでもない――彼らのタイプはまるで違ったのだが。
「……こ、こんなに多くの霊査士さんが一堂に会するのもすごく珍しいですよね。……皆さんの霊視によって救われた人はとても多いと思います」
 シギルの言葉に隣にいる霊査士が頭に浮かんだファオは、咄嗟に口を開いた。
「……だから、どうかご自身の決断を責めないで下さい。決して、間違いではなかったと思います」
 優しく心に触れてくるファオに、アズヴァルはただ黙って髪を撫でて応えた。それを受けて、心地良よさそうにファオは微笑む。
 そんな二人に何を感じたか、シギルはぼそりと言葉を続けた。
「……リーリアのため、なのか?」
「そんなんじゃない。ただ、疲れただけだよ」
 シギルとモルテ、彼らにしか分からない会話に、様々な思惑を伴って周囲の沈黙は続く。
「――仕方ねえ。今日のところは一時休戦ってことにしといてやる」
「それはありがたいね」
 フンッと鼻をならすと、手にしたワインをモルテのグラスに注ぎ始めた。

「モルテさんって霊査士の前は何のクラスの冒険者だったんですか?」
「さて……」
「吟遊詩人とかですかね」
「邪竜導師っぽいかな」
 アズヴァルやミニュイを始めとした面々の憶測が流れる中、モルテは言葉を濁したまま答えを明かさなかった。
「二人ともいいコンビだったそうですけど」
「……昔の話だ」
 シギルへ話を振ってみるサガンだが、やはり多くを語ろうとはしなかった。
「大体、アイツは昔から――危っ」
 ぶんっと横から飛んできた何かがシギルの鼻先を掠める。勢いで角が地面にめり込んだそれは、厚みのある本のようだった。
「シギルも良い大人なのだから……今日くらい主役を立てるものだぞ……」
「おまえな……」
 クウォーツは自分で投げた本を拾い上げ、土を払うとスピナスに手渡した。
「兄上の代わりに、とりあえずわしが本など見繕ってきた」
「…ち…いて……を…ごす……?」
 厚めの本を両手で受け取ったスピナスは、表紙を見て何事か呟く。
「……スピナス殿、読める所だけ拾ってませんか?」
「うむ。さっぱりなのじゃ!」
 チハヤの問いに、スピナスは堂々と言い切った。
「いっそ今みたいに投擲武器にしたらどうだ?」
「シギル……」
 シギルの反撃に、クウォーツはむっとする。
「おまたせ……そこ、喧嘩するなよ」
 そんなタイミングで野草のスープを運んできたティキが、淡々と止めに入る。
「なんというか……素朴な味だな」
「ほっとけ」
 そのスープをずずっと啜ったアキナの呟きに、ティキは思わず突っ込んだ。

●capriccio
「幾つになっても、お誕生日はおめでたいものですよ」
 ヴェノムは二人の顔形に似せて型抜きされたクッキーを差し出す。
「ありがとうなのじゃ〜☆」
「はい、モルテさんも」
「また可愛らしいものを……」
 自分の顔のクッキーを一枚摘むと、モルテは何を思ったか、
「ミュリン、スピナス、ちょっとおいで」
「なに〜?」「なんじゃ?」
 それを二つに折り、呼び寄せた二人の口に放り込んだ。
「んがんぐ」「むぐむぐ」
 口の中でひとしきり噛み砕いて、二人はクッキーを食べ終える。
「……どうだい?」
「おいしいよ?」「うむ」
「そうか。……大丈夫そうだね」
「……毒消しの風、用意してありますけど」
 他意ないアーシアの気遣いで、モルテの行為に首を傾げていたヴェノムはそれを悟ってしまった。
「――何も入ってません!」
「あ、いや……」
 失礼な、と普段見せない表情でふくれるヴェノムを、モルテはしばらく宥め続けることになった。

「はい、私からはこれ」
「これは――蛍石か」
「ええ。色は違うけど、スピナスさんのもね」
 ニューラから渡された葡萄の葉形のブローチに使われている石を覗き込むモルテ。スピナスの首には、縞模様の石を使った魚のペンダントがかけられている。
「えと……どうぞです」
 ファオは二人へ鉢植えを用意していた。
 鮮やかな黄色が映える金鳳花をスピナスに、岩蓮華をモルテに手渡す。
「ほう、何やら珍妙な形の……」
 岩蓮華の外観に、珍しそうに眼鏡をかけ直して覗き込むモルテ。
「めがねじゃ、ぱぁぱとおそろいじゃ〜」
 サガンから二人へ贈られた伊達眼鏡には、だがスピナスだけが喜んでいた。

 参加者からプレゼントを贈られる中、次にモルテに話し掛けてきたのはミュリンだった。
「モルテ兄さん、アルシェンドちゃんが何か挨拶したいんだって〜」
「は、初めてお目にかかります……アルシェンドと申します。ミュリン……さんにはいつもお世話になっております」
 箱詰め菓子を差し出しながら、モルテの前に平伏せんばかりの体勢のアルシェンド。
「これは何の余興だい?」
 それを尻目に、モルテは後方に控えていたアーシアへ顔を向ける。
「……モルテさんがミュリンさんの親代わりと伺って、兄がご挨拶したいんだそうです」
「――ほう、それは殊勝な心掛けじゃないか」
 大仰な『挨拶』に、ニヤリといやらしい笑みを浮かべると、
「……で、幾ら出す?」
「――――は?」
 モルテはアルシェンドに真顔で向き直った。
「欲しければやらんでもないが、アレには結構な元手が掛かっててね」
「……って、えぇっ?」
 予想外の話に対応出来ず、パニックに陥りかけるアルシェンド。
「あんまりからかうものじゃありませんよ」
 それに助け船を出したのは、アズヴァルだった。
「なんだい、これからが面白いところだったのに」
 肩をすくめると、モルテはつまらなそうにする。
「はい、アルシェンドちゃんも食べない?」
 大仕事を成し遂げ、その余韻が抜けきらないアルシェンドは、モルテへの手土産として持ってきた菓子を貪るミュリンを愛でながら落ち着きを取り戻していった。
 だが、そんな彼をジト目で睨みつける眼差し。
「礼儀も知らない人が『騎士』だなんて良く名乗れますねぇ。みなさんが何のために集まってるんだか知ってますか?」
「……あ。申し訳ありません、お二人とも、お誕生日おめでとうございます!」
 モルテへの挨拶に頭が一杯だったアルシェンドは、妹のツッコミでようやく本来の目的を思い出す。
「来年こそは、しっかりお祝いさせて下さい!」
 どうやら来年もやれと言いたいようだ。

●finale
 一面の梅の花。紅白に加えて黄梅まであるこの町には、様々な種類の梅の花があるようだ。
「スピナス君の髪の花と同じだよねー」
「うむ。どこをみてもうめのはなじゃのぅ」
 ひとしきり食べ散らかして腹も膨れたスピナスとアンジェリーナの会話に、近くでぼんやりと梅を眺めていたチハヤが反応した。
「ここにはたくさんの梅があると聞きましたよ。早咲きから遅咲きまであるようですから、長い間楽しめるようですね」
「ほう……おぬし、ものしりじゃのぅ」
 チハヤはスピナスの前にそっと膝をつき、髪に触れる。
「スピナス殿の髪の梅の花は、私が好きな種類のものによく似ていますね」
「そうなのか?」
「そういえば、スピナス君のおかあさんの髪のお花ってなんだったのかな?」
「えーと、さくらだったはずじゃ」
「ある一部の男の人ってねー、昔の女の人の名前と顔は忘れても、香りとかは覚えてるるんだって。そうだよねー?」
 口にした内容とは裏腹に、屈託のない笑みをモルテに向けるアンジェリーナ。
「……私は誰がこの子にこういう知識を植え付けてるのかに興味があるのだが」
「そうだな……いや、おまえに言われたくはないだろうけどな」
 複雑そうな顔で話し掛けてきたモルテに、シギルは同意しつつもツッコミを入れる。

「…………なんだい、これは」
 訝しげに口を開いたモルテの目の前には、地面にぽっかりと開いた二つの穴があった。
「俺からの誕生日プレゼント!」
 町に入ってすぐに姿を消して、戻ってきたと思ったら泥だらけになって現れたソウは、一行をその穴の元へと連れて行った。
「何かで見たことがあって作ってみた。砂風呂って言って、確かこの穴の中に入って顔だけ出すの!」
 ふふんと得意げに鼻をならし、満面の笑みを浮かべる。
「……モグラか君は」
「これって毒抜きとかじゃなかったですかね、確か」
「ここにはいればよいのか?」
「スピナス、だめっ!」
 アズヴァルの言も意に介さず、シノーディアの言も届かず、ひょいっとスピナスは穴に飛び込んだ。
 嬉々としてソウによって頭だけ地面の上に出して埋められていった。
「ああっ、せっかくお風呂に入ったのに……」
「着物が……」
 シノーディアもニューラもショックを隠しきれない。
「ほら、モルテも早く入って入って!」
「――断固拒否する」
「え〜っ」
 心底残念そうにするソウ。そしてスピナス。
「遊び終わったらちゃんと元に戻しておくように。いいね?」

 宴は終盤を迎え、気分を良くしたラジスラヴァが、歌と踊りで場を盛り上げる。
 それに合わせる透き通るようなニューラの鉄琴の伴奏、サガンのフルートがゆったりとした旋律を奏でた。
 その演出に、主役の一人はラジスラヴァと一緒に踊り始め、もう一人は頬杖をつきながら、心地よさそうに眠りに落ちていた。
「け〜がさーんぼんっ、と♪」
 再び居眠りをし始めたモルテの頬に、今度はすっすっすっと猫髭を書いていくミニュイ。
 ――モルテは再び悪夢に襲われていた。


マスター:和好 紹介ページ
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冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
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参加者:15人
作成日:2005/03/15
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