チキンレッグラン:巨大なる亡者



<オープニング>


●チキンレッグラン
 新たに同盟諸国に加わったランドアース屈指の商業国『チキンレッグ王国』。
 チキンレッグの商人達の往来は、同盟諸国に新たな活力を与えてくれる事でしょう。
 特に、チキンレッグ王国から旧モンスター地域を抜けてリザードマン王国を結ぶ交易が始まれば、旧モンスター地域、リザードマン王国の双方の支援活動の大きな助けとなるのは間違いありません。

 しかし、ここで解決しなければならない問題が一つ出てきました。
 それは、臆病なチキンレッグの商人が安全に通る事の出来る街道の復興です。
 モンスターやグドンやアンデッドや盗賊の危険のある街道では、チキンレッグの商人達は、通ってくれません。

 そう、街道を安全にするのは冒険者の仕事なのです。
 この問題を解決する為、チキンレッグ王国では七色鶏冠と呼ばれる精鋭護衛士団を動員して、街道の危険を取り去る為の大作戦『チキンレッグラン』を発動しました。
 チキンレッグランとは街道の危険を取り除き、安全に商売ができるようにする大作戦です。
 野を越え川を渡り山を越えて、モンスターと戦いアンデッドを倒しグドンを殲滅し盗賊を平らげる……。
 特に、大作戦終了後に『冒険者達が安全になった街道を走りきる大競争』はチキンレッグ達の大きな楽しみともなっています。

※※※

「ということなのよ」
 ヒトの霊査士・リゼルは、今回の依頼の背景を説明し終わると、酒場に集まる冒険者達の顔を見渡してこう続けた。
「あまり危険度の高く無い敵は、チキンレッグの護衛士団の人が人海戦術でやっちゃってくれるから、私達の担当は『強敵』の退治になるわね」と。
 街道の安全が確保された後の街道整備などは、チキンレッグ王国側で受け持ってくれるので、この条件はまぁ妥当であろう。

「倒すべき敵については、後で担当する霊査士が詳しく説明するから、みんな、頑張ってやっちゃってね」
 最後にリゼルは、今回の依頼が成功したら、大々的なチキンレッグラン競技があるから、是非参加してねと付け加えたのだった。


●巨大なる亡者
「さて、諸君にはアンデッドを退治してもらいたい」
 リゼルに代わり、仮面の霊査士・エドワウが説明を始める。
「モンスターの襲撃によって壊滅した街がある。逃げ遅れた住民はアンデッドと化し、近づく者を襲うようになっていたのだ。まあ、このアンデッド達はそれ程強力なものではなかったのだが……」
 やれやれと言わんばかりに肩をすくめ、
「最近、そこに強力なゾンビジャイアントが1体加わってな。チキンレッグ王国では手がつけられん」
『おい』
 冷や汗交じりの声は、その強さを知るが故のものだろう。冒険者達の突っ込みに、エドワウは困ったような視線を返した。
「そう言われても、いるものはいるのだから仕方無いだろう? おそらくは、先日のノスフェラトゥ戦役で倒されなかったものが落ち延びたのだろうな。諸君にはこのゾンビジャイアントを倒してもらう」
「残りはどうするんだ?」
「チキンレッグ王国側で対応する手筈になっている。ゾンビジャイアント以外、大した力は持っていないからな」
 問いかけに答えたエドワウは、淡々と言葉を続ける。
「ただ、ゾンビジャイアントと戦っている最中でも、それ以外のアンデッド達も襲ってくるだろうから注意したまえ。一体一体は弱くとも、囲まれればまぐれ当たりもあり得るからな」
 諸君にその気があるならアンデッドを全て倒してもらっても構わんが、と付け加え、彼は話を締めくくった。

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!注意!
 このシナリオは同盟諸国の命運を掛けた重要なシナリオ(全体シナリオ)となっています。全体シナリオは、通常の依頼よりも危険度が高く、その結果は全体の状況に大きな影響を与えます。
 全体シナリオでは『グリモアエフェクト』と言う特別なグリモアの加護を得る事ができます。このグリモアエフェクトを得たキャラクターは、シナリオ中に1回だけ非常に強力な力(攻撃或いは行動)を発揮する事ができます。

 グリモアエフェクトは参加者全員が『グリモアエフェクトに相応しい行為』を行う事で発揮しやすくなります。
 この『グリモアエフェクトに相応しい行為』はシナリオ毎に変化します。
 仮面の霊査士・エドワウ(a90136)の『グリモアエフェクトに相応しい行為』は『殲滅(eliminate)』となります。

※グリモアエフェクトについては、図書館の<霊査士>の項目で確認する事ができます。

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参加者
浄火の紋章術師・グレイ(a04597)
紅虎・アキラ(a08684)
木陰の医術士・シュシュ(a09463)
至高の光・サルサ(a09812)
白色のココロ・アリサ(a12096)
焔獣・ティム(a12812)
剣狼戦華・カイザー(a12898)
漆黒の薔薇・メリシュランヅ(a16460)
華散里・コノハ(a17298)
エルの天秤・ヴァリス(a21093)


<リプレイ>

 初春のいまだ冷たい風の中、依頼を受けた冒険者達は目的の街の近くで待機していた。
「これはきっと死の国の陰謀に違いありません」
「グ、グレイさん?」
 浄火の紋章術師・グレイ(a04597)が放った突然の台詞に、木陰の医術士・シュシュ(a09463)はぎょっとした様な視線を彼へと向ける。日頃共にアンサラー護衛士として活動している二人だが、
「普段はこんな事を言い出す人ではないのですが……」
「……グレイ、なんか妙なものでも食べたなぁ〜ん?」
(「妙なもの……」)
 散る為に咲く華・コノハ(a17298)の問いに、シュシュはアンサラー名物髑髏うさまんを連想するが、すぐに頭を強く振って思考を戻す。
 二人の視線を受け、グレイははっとしたように表情を改めると誤魔化すように咳払いを一つ、
「……私は何を言っているのでしょう?」
「と、ともかく、ゾンビジャイアント以外の敵は私達にお任せくださいね」
「ああ。あんた達はデカブツを倒すのに集中してな」
 困ったように笑みを浮かべる不思議の探求者・アリサ(a12096)と、不敵な笑みを浮かべる紅虎・アキラ(a08684)。
 二人の言葉を受け、シュシュと剣狼戦華・カイザー(a12898)は頷きを返す。
「ああ。お互い気をつけよう」
 言葉少なに言ったカイザーは、風に乗って運ばれて来た異臭に顔をしかめた。
「しかし、こればかりは慣れんな……嫌になる」
 先程から感じていた匂いだが、街に近づくにつれ、それはますます強まって来ていた。その正体が街に満ちたアンデッド達の体が放つ腐臭である事を察し、カイザーは一つ首を振る。
「そーいや、ティム達はどうしたんだ?」
「そろそろ戻る頃だと思うなぁ〜ん」
 アキラの問いに答え、コノハは近くの高台を見やった。

「ぞっとしないな……」
 遠眼鏡からしかめたままの顔をあげ、焔獣・ティム(a12812)は一つ息をついた。滅びた街の中をアンデッドだけが徘徊している光景には、肝の冷えるものがある。
「で、街の様子は分かったっ?」
「ああ」
 勢い込んで問いかけてくる煌く蒼き光・サルサ(a09812)に、ティムは頷きを返した。彼が手にしているのは、霊査士から予め受け取っておいた街の地図だ。高台に背を向け、彼は地図の上に指を這わせる。
「ゾンビジャイアントがいるのは街の西側の方だな。街の外れは建物が少ないから、ここで戦うのが良いと思う」
「術を使うのに、遮蔽があると面倒だからな」
 不如帰・ヴァリス(a21093)が頷く。数では遙かに勝るアンデッドを掃討するために冒険者達が活性化して来たアビリティのうち、術攻撃は視界内に敵を収める事が必要となる。不意打ちを避ける意味でも、ティムの選択は妥当だと言えた。
 背中でその会話を聞いていた傭兵王・メリシュランヅ(a16460)は、足音高く歩き出す。
「準備が出来たのなら行くぞ、遅れるな!」
 颯爽と歩く彼のマントが、風に乗って大きく翻る。一瞬ぽかんとそれを見送ったサルサ達だが、すぐに気を取り直すとメリシュランヅに続いた。
「ああっ、メリシュランヅ、待てよぉ!」
「やれやれ、せっかちでいけねぇや」
 他の仲間達も後を追い、そして彼等は、戦場へと進入する。

 生者の気配に反応し、街の中に巣食うアンデッド達が動き始めた。目標たるゾンビジャイアントを目の前にし、ティムは携える武器を握りなおした。赤銀の刀身が日の光を反射し、
「せっかくの機会だ。ノスフェラトゥ戦役の借り、返させてもらうぜ!」
 勢い良く駆け出した彼目掛け、ゾンビジャイアントがその長大な右腕を勢い良く突き出した。ティムは右足で地面を蹴りつけ、左へ跳躍。地面が穿ち砕かれるのを背後にさらに加速、伸ばされた腕目掛けてオーガイーターを振るう。ティムが腕に痺れるような感覚を覚えると共に、ゾンビジャイアントの右手の先が削られた。
 だが、敵はゾンビジャイアントだけでは無い。
 巨体の脇を抜けて現れるアンデッドの群れが、ティムとともに前に出たカイザーの目に飛び込んで来る。一体一体は大したことの無い相手だが、囲まれると厄介なものがある。
「邪魔くせぇ連中はこっちに任せな!」
「頼んだ!」
 アンデッド達の掃討に入るアキラとコノハの言葉を受け、カイザーは視線をゾンビジャイアントへと駆け寄った。すぐさま武具の魂を用い、斬りつけにかかる。
 後方ではサルサが鎧進化を発動。メリシュランヅが予め呼び出していたリングスラッシャー達は、加速しながらゾンビジャイアントの後方へと回り込もうとする。
 それに反応してか、ゾンビジャイアントの全身に貼りついた人面の目が赤い光を発した。癇に障る軋みを立てながら口を開き始める人面に、ティムは思わず息を呑む。
「皆、声が来るぞ!」
「なんだってぇっ!?」
 サルサが問いかけの声を寄越した次の瞬間、ゾンビジャイアントは全身の人面から強烈な怨嗟の叫びを上げた。亡者の吼声は半ば物理的な圧力すら伴って戦場に響き渡り、冒険者達の動きを止める。
「……そうでした、こんな攻撃もあるんでしたね」
 耳の痺れに顔をしかめながら、シュシュは姿勢を立て直すと即座に毒消しの風を発動する。続けざまに振り回された腕は、幸い麻痺から立ち直った冒険者達にはそれ程の被害は無いようだが、
「リングスラッシャーは一撃か……やってくれる」
 ゾンビジャイアントの後方にリングスラッシャーが見えなくなっている事実に、メリシュランヅは眉をしかめた。自分の後ろを見れば、サルサ達後衛も先程の吼声で被害を受けている。
「呼び出すまで持ちこたえろよ……」
 カイザーとティムに向けて呟き、彼は後退した。

「ひゅ〜……すげぇな、俺がゾンビジャイアントの近くにいたら、死人の仲間入りするところだったぜ」
「敵が来ますよ、ヴァリスさん」
 冷や汗を隠しながら軽口を叩くヴァリスに、アリサが声をかけた。戦闘が始まってから大した時間も経っていないが、アンデッドの群れは次第にその数を増している。冒険者達を取り囲むように移動しているのは、
「統率者がいるわけではなく、単に移動距離の問題ですね」
 街の北、南から向かってくるため、必然的にそうなるのだろうと判断し、グレイはその数を数える。総数は30や40ではきかないのだろうが、
「片っ端から倒していくしかねぇか」
「無理はなさらないで下さいね?」
 グレイはアキラ、コノハとともに、アリサとヴァリスを中心とした円周を形作る。
 近づいて来るアンデッド達を十分にひきつけ、アキラは巨大な斧を振りかぶった。過剰すぎる重さは、しかしアキラの膂力によって純粋な凶器となる。
「まとめてくたばりやがれっ!!」
 猛々しい叫びと共に、両刃の斧は荒々しい弧を描いた。刃自体が斬るのは空気だけだが、軌道に沿って生まれた衝撃は駆け抜けるままにアンデッド達を死体へと叩き戻す。
「アンサラー護衛士の矜持にかけて……この依頼、落とすわけには行きません」
 グレイは呟き、コノハに近づくアンデッド達に視線を向ける。円形に動く腕がそのまま虚空に紋章を描き、
「コノハさん!」
「任せるなぁ〜ん!」
 合図は一言で事足りた。グレイが紋章の中心を突いた瞬間、コノハが敵の真ん中へと突進する。彼女に殺到しようとアンデッド達が向きを変えるが、その頭上から紋章の光が降り注ぎ足を止める。瞬間、
「行くなぁ〜んっ! 流水撃!」
 コノハが竜巻のように武器を回転させた。放たれた衝撃は波となってアンデッド達を撃ち滅ぼす。僅かに撃ち漏らした敵は、ヴァリスのニードルスピアに貫かれ動きを止めて行った。
「第一陣は片付いたか?」
「今のうちに回復を……」
 アリサがヒーリングウェーブを発動、皆の負傷を癒す。その時、ゾンビジャイアントの方を見やったグレイが眉を上げた。
「いけない……ヴァリスさん、アリサさん、こちらへ!」
「……っ!」
 警告の声に二人が咄嗟に走り出した瞬間、毒を含んだ霧が大気を覆った。

 口の中に血の味を感じ、シュシュは咳き込みながら立ち上がった。すぐさま毒消しの風を発動し、彼女はサルサに声をかける。
「けほっ……大丈夫ですか、サルサさん?」
「ああ……!」
 膝を震わせながら立ち上がったサルサは、紋章の雨を放つとゾンビジャイアントを打ち据える。先程から幾度となく攻撃を仕掛けているのだが、ゾンビジャイアントの動きは鈍る様子も無い。後ろを見れば、ヴァリス達との距離が狭まっていた。
「戦ってる間に近づいてしまったようですね……」
「けど、これ以上はやばいってぇ!」
 体力の乏しいヴァリスやアリサがゾンビジャイアントの攻撃に巻き込まれれば、一撃で重傷を負う可能性が高い。前衛に出ている3人にも焦りが募る。
「……呼び出しても意味が無いな」
 メリシュランヅは追加のリングスラッシャーがまたも瞬壊された事に嘆息しながら、手にした剣を突き出した。鋭い一撃は腐肉を貫き通し、そこから白い骨が覗く。
「避けろメリシュランヅ!」
「何っ!?」
 カイザーが警告の声を上げる。覗いたと見えた骨は、そのまま勢い良く伸びるとメリシュランヅの腹部に突き立った。一瞬熱い感覚が走り、それはすぐに冷たさへと転じる。さらに連打で伸びて来る骨を盾で受け止め、メリシュランヅはよろめく様に後退する。
「全く……いつになったら倒れるんだ?」
「落ち着け、ダメージは蓄積されているはずだ」
 いい加減辟易しながら剣を振るうティムに、カイザーが告げた。振り回された巨腕を左手の剣で受け止めた彼の腕に、鈍い衝撃が走る。
(「衝撃を殺しきれなかったか……」)
 腕を砕かれた苦痛に顔を歪めながらも、カイザーは右手の剣に雷を纏わせた。
「だが、いい加減終わらせるべきだなっ!」
 剣を突き立てる。深々と差し込まれた剣から紫電がゾンビジャイアントの腕を這い上がり、その動きに停滞を生んだ。
「今だっ!」
「応ッ!」
 大きく跳躍したティムの剣に炎が宿る。だが、ゾンビジャイアントは一瞬早く麻痺から立ち直ると彼に顔を向けた。左腕を伸ばしてティムをつかみとろうとし、
「……させんよ!」
「やっちまえティムっ!」
 腹部を朱に染めたメリシュランヅが連続して放った突きと、サルサが放った紋章の雨。二つの攻撃が、死巨人の全身を地に縫いとめる。ティムの剣に宿った炎が金色の輝きを放ち、
「死者らしく、灰に還れ!!」
 大上段からの一撃が、ゾンビジャイアントの頭部を切り飛ばした。


 街に巣食うアンデッドの討伐を終えた冒険者達は、ようやく帰途についていた。西日の赤色が、彼等の影を長く伸ばしている。
「さぁて、んじゃ酒でも呑んで帰るとするか?」
 唐突にそう言ったアキラに、一同は思わず苦笑した。
「おいおい……いきなりそれか?」
「何言ってんだティム。せっかく二十歳になったんだ、飲めるだけ飲むっきゃ無ェだろ」
「ボクやシュシュさんは未成年だからだめなぁ〜ん」
「あはははは……そうでなくても私は遠慮しておきますけど」
 コノハの言葉に、シュシュは乾いた笑みを浮かべた。買い物が過ぎたせいか、財布の中が寒い今日この頃である。
「大丈夫ですよシュシュさん、アキラさんが奢ってくれるそうですから」
「待て、そんな事は言ってねぇぞ!?」
 焦りを顔に浮かべるアキラに、一同の間にどっと笑いが起こる。
 仲間達のにぎやかな会話からそっと顔を離し、アリサは街の方角を振り返ると小さく呟いた。
「……これで、あの街の方々も、ゾンビジャイアントにされた方達も……安らかに眠れるといいですね」
「ああ。魂は闇に堕ち、肉体は異形へと作り変えられた哀れなる亡者達……手向ける花は無いが、今度こそ静かな眠りを 」
 体の痛みに先程まで戦っていた者達を想い、カイザーは長い黙祷を捧げた。


マスター:真壁真人 紹介ページ
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死亡者:なし
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