<リプレイ>
かつては冒険者であったモノ――グリモアの加護を喪い、今は何を想い、其処に在るのか……。 けして誰も知り得ない――それは、瑣末の真意。
「チキンレッグランかぁ。これが無事終わって、交易が盛んになったら、皆の暮らしがもっと良くなるよね?」 張り切っているのは白ネコ戦闘魔楽師・マルス(a05368)だ。 同盟諸国は急速に拡大したが、旧モンスター地域の問題は勿論、ドラゴンズゲートの謎も進展していない。他の大陸も判らない事だらけだ。気になる事は多々あれど。 「……っと、今は集中、集中〜。まずは僕の手の届く所から、だよね」 目下の敵は渓谷を縄張りとするモンスター。その数4体。あまつさえ、連携するという。 「連携……ですか……」 (「集団対集団で、正面からこうやって戦うのは初めてですね」) 戦役ならば兎も角、モンスターが相手ではその勝手も違うだろう。観察者・ヒリヨ(a02084)は少なからず緊張した面持ちだ。 「さて、何とも難しいですねぇ」 小さく肩を竦めた白銀纏いし紅の剣姫・フユカ(a00297)は、大き目のマントをバサリと羽織る。 「私達も負けないように、頑張らないといけないですね」 少女と見紛う柔和な面を和ませる医学生・カウェル(a01014)。だが、モノクル越しの眼差しは真剣そのもの。 (「道を塞ぐモンスター、か。……守っているのか? 何の為に?」) 「だが、この道は必要なものだ……殺すさ。奴等にとっても、何時までもモンスターとして生き長らえているのも不本意だろうしな」 業の刻印・ヴァイス(a06493)は淡々と目を細めている。 (「テーブル一見を何処まで信頼出来るか……皮肉な挑戦かもな」) そんな仲間を見遣る黒紋の灰虎・カラベルク(a03076)の表情は、何処か醒めているだろうか。 「さ……て、攻め入る前にもう1度流れを確認する」 永遠幻創・イゥロス(a05145)の言葉に、冒険者達はそれぞれ頷いた。
「いました」 小型遠眼鏡を下ろして、牙商人・イワン(a07102)は小さく呻り声を上げた。 渓谷は、元はせせらぎの通り道。緩やかに曲がりくねっている。目的の『それ』は、渓谷の半ばにいた。 本道は左に湾曲しており、その正面を抉るかのような亀裂。巌の如き巨漢があたかも番人のように立ち尽くす。 その奥までは、遠眼鏡をしても推し量れない。 出来るだけ気付かれぬように近付き速攻で鎧を足止め、その間に後方の癒し手を撃破して残りを殲滅する――これが大まかな作戦だが。 見晴らしが良ければ、30mどころか100m先でも人影は視認出来る。全員がハイドインシャドウを用意していた訳でもなく、元々瓦礫の類も少ない谷底では。 ――――!! 「ちぃっ!」 たとえ、装備に迷彩を施し武器の音が鳴らぬよう工夫したとしても、それも全員でなければ然したる効果はなかっただろう。 空気を震わせる雄叫びは、鬨の声。 イワンは駆け出した。このまま、準備万端の敵に突撃するのは何としてでも避けたかった。 弓を引き絞る。赤く透き通った矢の先端に揺らめく炎――放たれたナパームアローが、『鎧』の足元で爆発する。 濛々と立ち上る爆煙。そのダメージの程は定かでないが、張られた煙幕目掛けて冒険者が駆け寄る。 (「此方の動きが上か、向こうの動きが上か……」) 「さぁ、試してみようか……!」 イゥロスより展開される薄闇の空間。仲間は何れも豪運揃い。寧ろモンスターの足止めの一助になれば。 「!?」 だが、次いで淡やかな輝きが広がり、鎧の周囲の空間が忽ち取って代わる。 (「フォーチュンフィールド!?」) キリと歯噛みするイゥロス。容易くアビスフィールドを塗り替えたその力から、モンスターの能力も推して知るべしか。 再度の張り返しの暇もなく、飛弾した矢が爆発する。 「くっ!」 薄れる爆煙の向こうに浮かび上がる――3体の影。 既に2射目を構える『射手』。 射手と肩を並べ、両手杖を掲げる『術士』。 1歩下がり、緞子を纏い霊布を翻す『癒手』。 そして、彼らを護るように、巨漢がメイスと大盾を構えて立ち塞がる。 その威容は、正に酒場で見た覚書通り。無論、退く気はない。彼らを倒す為に来たのだから。 ――――!! カラベルクの紅蓮の咆哮は、開戦の合図。 「では、鎧は何とか抑えますので、宜しくお願いしますね」 ―――♪♪ フユカに応えて、場違いな程に軽快な音楽が鳴り響く。 マルスのフールダンス♪――軽やかなタップに惑うかのように、刹那たたらを踏む鎧。 その隙を逃さず、冒険者の攻撃が殺到する。 イワンのホーミングアローがいち早く射手を牽制。カウェルのヒーリングウェーブを背に、ヴァイスは飛燕連撃を放ち、身を屈め滑り込んだフユカは膝狙いの一撃を叩き込む。 「――っ!!」 それでも尚、鎧は体勢は崩さない。たとえ反撃出来なかったとして、その厚い巌は生半可な攻撃を通さない。 亀裂の奥より緑なす風が吹き渡り、撃ち込まれた矢がマルス達後衛を巻き込み爆発する。 「地に、伏せろぉぉッ!」 ブンと風を切り、イゥロスの両手杖が足払いを掛ける。 ガツゥッ!! 「……痛」 まるで鋼をぶったいた感触。彼の膂力では、ビリビリ走る痺れに武器を取り落とさぬのが精一杯。 ――――!! ダンッと地に足をめり込ませ、鎧はメイスを大地に叩き付ける。 後退の暇もなく、巻き起こる砂礫がフユカとイゥロスの目を眩ませ、術士の水晶の如き針の雨が彼らの防具を容易く貫く。 息をつかせぬ攻防は、壁1枚抜くとて難く――だが、まず鎧を抜かねば勝機はない。 (「どんなに体が硬かろうと……!」) 粉塵蹴散らすように飛び込み、ダートのように闇色の矢を叩き付けるヴァイス。 その衝撃によろめく鎧に撃ち込まれたイゥロスのスキュラフレイムが、巌の表面を焦がす。 「やらせませんよ!」 後衛の動きはイワンのナパームアローが抑え、カウェルの癒しを受けたフユカの双華連剣【月華】・【風華】が、稲妻を纏い鎧に一閃する。 「今です!」 硬直した鎧を崖壁に押し付けるようにして――漸く、後衛への道が拓く。 「行きます!」 間隙を突き奥へ走ったのはヒリヨとカラベルクの2人。ヴァイスはそのまま、鎧に回り込み『串刺し』の名を冠した槍を振り上げる。 「!?」 イゥロスの狙いは明らかに鎧であり、カウェルは後方より回復に専念する様相。イワンも同じく後方援護の構えだ。 自身の予測に反して少ない後衛へ向かう戦力に、刹那怪訝を覚えたマルスだが。 ――――!! 鎧の鬨の声にハッと我に返る。 「では、全身鎧の旦那様。貴殿の御相手は引き続き僕がさせて頂くよ♪」 敵御自慢の連携を崩すべく、マルスは大魔鍵盤を奏でながら、軽やかにタップを踊り続けた。
「お前の相手は俺だ!」 カラベルクの狙いは射手。だが、一撃の力を最大限に高めたパワーブレイクは、当たらなければ意味はない。 バランスを崩した死に体にすかさず、術士の水晶の雨が迸る。 「くっ!!」 ニードルスピアにも似たその業は、カラベルクのみならずヒリヨ、こちらに背を向けていたヴァイス、そして鎧に接敵していたフユカにまで容赦なく降り注ぐ。 (「カラミティエッジは……難しいですか」) ヒリヨの狙いは癒手。アイスニードルの急所狙いは、だが、薄絹1枚に阻まれた。 薄絹を貫いた威力は幾ばくか癒手を傷付けたようだが、致命傷には程遠い。霊布を一振りされれば、忽ちに癒されてしまう。 「っ!?」 最も鎧にダメージを与えるヴァイスはそれだけに狙われ、射手の矢の軌道を振り切れず集中砲火を浴びている。 それでも鎧と後衛を分断し、連携を崩せば……戦況はやがて、回復合戦の様相を呈していた。 鎧進化で固めたカウェルが回復の要であるが、多を巻き込む攻撃が連発されれば1人では遅れを取る。マルスが回復に回れば、鎧のメイスは容赦なく最も防具の薄いイゥロスに叩き付けられる。 問題は、ヒリヨとカラベルクで後衛を抑えきれない所にあった。 (「……何故!?」) カラベルクは内心で歯噛みした。元より部位狙いは分が悪く、頭部への攻撃は中々当たらない。イワンよりホーミングアローの援護が飛ぶが、技には後れを取るだろう術士に寧ろ劇的な効果はなく、マッスルチャージ、ソードラッシュと攻撃を浴びせ続けるも、仕留めるには到らない。 癒手はひたすら回復を続けており、こちらもヒリヨは攻めあぐねていた。一見、防御に厚く見えぬというのに、さしたるダメージが通っていないように思えるのは気の所為か。 (「こうなったら……!」) 「カラベルクさん、お願いしますね!」 ――――!! 「うぉぉぉっ!!」 迸るヒリヨの紅蓮の咆哮。身を硬直させた3体に、カラベルクのソードラッシュが炸裂する。 刹那、後方よりの援護が途絶えた瞬間。 「!?」 ――――!! 突如、身を仰け反らせ吼える鎧。あたかも身の内より湧く痛みに耐えるが如く。 その身に受ける攻撃は、先刻より変わらぬというのに。 「……まさか!?」 ハッと、フユカは瞠目した。
鎧:岩鎧を纏った巨漢。前衛に立ち、メイスと大型の盾を装備――『重騎士』タイプ。
『君を守ると誓う』というアビリティがある。その身に他のダメージを請け負い、守り抜く――それこそが、鎧の真骨頂であったとすれば。 攻撃の大半を引き受け、3体のダメージをも引き受け……鎧は文字通り『鎧』であり続けた。 癒手の後援により保たれていたその均衡が、崩れた瞬間こそが――好機。 「今です!!」 麻痺より逃れた癒手にアイスニードルを突き立てるヒリヨ。 「急げ! こっちはそんなに保たないぞ!!」 射手に体当たりして押さえ込んだカラベルクが絶叫する。 「はぁっ!」 フユカの電刃衝とイゥロスのスキュラフレイムが相次いで決まる。 「これで終わりだねっ!!」 駆け寄ったマルスの衝撃波が鎧の腹を抉り、イワンの貫き通す矢が文字通り装甲を貫く。 ――――!! 絶叫がビリビリと空気を震わせる。立て続けに渾身の一撃を浴びせられ、遮二無二振り回されたメイスが大地を抉り、砂礫を巻き起こすも。 「明日は我が身……墓でも作ってやるさ」 身体ごとぶつかるように、ヴァイスの貫き通す矢の一撃が鎧に突き立てられ――。 その巨体は、漸く動かなくなった。 「やったか!?」 刹那の快哉。だが……今回の掃討は1体にあらず。 「っ!?」 鎧最期の目眩ましより逃れたカウェルの回復が、1呼吸遅れる――その遅れが命取りとなった。
――――!! 鎧が潰えたと見るや、数歩下がった術士は禍々しい叫び声を上げた。 「!?」 術士の体がぶわりと膨らむ――否、内より溢れ出た黒きオーラが今にも暴走せんばかりに逆巻く。 トンッと踊るように霊布を翻し、癒手から吹き渡る緑なす風。 「まさかっ!!」 ――まず前衛突破に主眼を置いた冒険者は、実に半数以上の戦力を鎧に割いていた。 4体掃討の依頼で、ただ、1体のモンスター相手に。 対して、直接後衛3体に斬り込んだのは僅か2人。 たとえ連携を頼りとしようが、腐ってもモンスター――その力は只人の比ではない。 「ヒリヨ! カラベルク!!」 後衛の標的が眼前に移行すれば――鎧撃破の快哉を叫んだその目の前で、2人の体が脆くも崩れ落ちた。 数の有利に胡坐をかけば痛い目を見る――霊査士の忠告は、更に違った意味で冒険者に跳ね返る。 ――その10m足らずの遠き事よ。 駆け寄らんとする冒険者に射手が放ったのは、爆発の火矢。 「か……はっ!」 巻き込まれるように吹っ飛ばされたヒリヨの体躯が崖に激突する。 「ぐぅっ!!」 同時に黒焔の直撃に、カラベルクのけして軽くない長身が跳ねる――その威力は、先を軽く越えている。 鎧が潰えて尚、モンスターの攻撃に些かの躊躇いも衰えもない。このままやり合えば、臥した2人を巻き込みその命をも奪いかねない。 そして。最奥に癒手を控え、射手と術士が前に出た布陣を崩すにも……鎧の撃破に時間を掛け過ぎた。再度長期戦を望むにはアビリティ残数は少なく、重傷者2人を抱えての突撃は余りに無謀と言えた。 「撤退しよう! 早く!!」 ヒリヨを担ぎ上げたマルスが叫ぶ。全員の生還もまた、彼の目的であれば。 「ちぃっ!」 イゥロスの魔器【ノクシス】より迸るニードルスピアの弾幕。カラベルクを2人がかりで引きずり戻したヴァイスとフユカに、お返しと言わんばかりの晶柱が雨霰と叩き付けられる。 「やらせない!」 イワンのホーミングアローが射手に牽制として放たれ、カウェルのヒーリングウェーブが辛うじて撤退の活力を繋ぎ止め――。 ダメ押しとばかりに爆発した一矢と、最後まで途切れる事のなかった癒しの光が、渓谷を駆ける冒険者への餞となった。
戦力配分のミス、そう言わざるを得ない。或いは、敵の『連携』の程を甘く見ていたとも。 だが――連中は、己が役を果たしていたに過ぎない。 鎧はあくまで『鎧』であり、癒手はあくまで『癒手』だった。射手や術士とて、敵の排除のみに動いていた。 挑戦――1人1人が最大限の力を発揮するべく行動する事。突き詰めれば、己が分を果たす事で全体の歯車を回し、恐るべき威力を生み出す。 挑戦――グリモアエフェクトの一端を、よりによってモンスターに見せ付けられたのは何たる皮肉だろう。 「(俺達が堕ちた所で……ああはならないだろうな。高名だったろう冒険者殿には…恐れ入る……)」 意識が墜ちる間際、自嘲混じりのカラベルクの呟きはゴウと唸る谷風に紛れて消えた。
チキンレッグランは、この渓谷を大きく迂回する形で執り行われるだろう。 かつては冒険者であったモノ――グリモアの加護を喪い、今は何を想い、其処に在るのか……。 パーツを1つ欠いて尚、けして其処から離れようとしない――それが、瑣末の結末。

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参加者:8人
作成日:2005/03/15
得票数:戦闘18
ダーク2
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冒険結果:失敗…
重傷者:観察者・ヒリヨ(a02084)
黒紋の灰虎・カラベルク(a03076)
死亡者:なし
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