思いは何処へ ─西編─



<オープニング>


「二つの街の二つのお店から、お祭り中の警備要請が来てるの」
 霊査士・リゼルは一枚のチラシを、やってきた冒険者達に見せた。
 そこには、大きくて激しい書き殴り文字で、『飛び入り大歓迎! 東西対抗決め台詞大会! キミの気恥ずかしい決め台詞を待っている!』とある。
 この『決め台詞大会』とは、二つの街が東と西にわかれて、とにかくカッコ素晴らしい、皆がうっとりとする、それでいて壮絶に照れ恥ずかしい言葉を堂々と吠え、いかに多くの人達に感動の(?)鳥肌を立ててもらえるかを競うのだ。
 愛、友情、面白小話にあの日の誓い、なんたらかんたらそんなんだ。
 それに簡単なエピソードを添えて、皆の前で熱く訴えかけると言うもの。
 会場は、二つの街の間にある草原となるそうだ。
 そんな賑やかな祭の最中に、困った事が起こるらしい。街人の留守を狙って、空き巣を働く悪党共がいると言うのだ。
 街には一応、数人の男達による自警団が編成されるのだが、もとは戦う事に慣れていない一般人である。盗賊がいざ威嚇の剣を抜くと、抵抗できずに逃げる背中を見送ってしまうらしい。
 全くタチの悪い話であるが、二つの街はそんな事の為に、祭を中止にしたくは無いそうだ。
 そして今年も、その祭の日が近づいている。
 毎年被害に遭う東の骨董品屋の爺さんと、西の装飾品店の女主人は、この時期になると常に気張ってピリピリとし始める。
 被害に遭うのも嫌だが、留守番の為、祭に参加できないのが切ないらしいのだ。よほど吠えたい何かがあるのだろう。
 そこで、冒険者達に、店番を頼みたいと言う。
 リゼルの調べた所によれば、やってきている盗賊達はいつも同じで、ライオネル、リチャード、ルドルフ、レイモンドと言う、赤い頭巾を被った若い四人組らしい。二人一組になって東西に分かれ、盗った物の価値を競うと言う悪ふざけまでしているそうだ。けしからん輩である。
「皆には、この『西』の盗賊達を捕まえて欲しいの。相手は二人。剣を所持していても、実際に人を傷つけた事はないそうだから、気が小さいのかもしれないわね。冒険者の皆なら、簡単に捕まえられると思うの。盗賊が狙う場所は判っているし、あとは冒険者だと気付かれずに店番をしていれば良いだけ……」
 リゼルはそう言った後、チラシに目を落として冒険者達に笑いかけた。
「──それにしても、面白いお祭りだと思わない? この大会は、毎年キーワードが前もって用意されていて、その言葉が入っているとボーナス点が加算されるそうなの。ちょっと小耳に挟んだんだけど、今年は『朝焼け』と『ノソリン』が、エントリーの一部なんですって。え? 私だったら、どんな台詞を作るか? そうねえ……。『ノソリンはとてもゆっくり歩くけれど、貴方と乗るなら、ゆっくりであればゆっくりな程良いのよ? だって、それだけ一緒にいられるでしょう?』かなあ。って、何を言わせるの?! 盗賊達をさっさと倒して、皆もお祭りに参加してみたらどうかしら。捕まえてしまえば、後は自警団の方に任せても大丈夫でしょうから」

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参加者
白銀纏いし紅の剣姫・フユカ(a00297)
白い素敵獣人・タイガーハニー(a00404)
暁の司・カルゼ(a01341)
翳る紅月・リィズ(a01358)
陽だまりの探求者・セティ(a01375)
ニュー・ダグラス(a02103)


<リプレイ>

●主、イソイソと大会へ繰り出す
 正装。レースの編み込まれた華やかな帽子に、青いドレスを着込み、装飾品店の女主人ローラは、鼻歌交じりに出かけて行った。
「一体、どんな事を叫ぶんでしょうか。興味がありますね……」 
 ローラの出ていった戸口を見つめ呟いたのは、ヒトの紋章術士・セティ(a01375)。眼鏡の奥の瞳は、含んだ笑みを浮かべている。
 それにしても、若干一名。冒険者の中にローラばりのレース使いがいるのは何故だろう。世間ではそのフリルで清楚な服装を、お手伝いさん(メイド服とも言います)スタイルと呼んだ?
 紅雪月華・リィズ(a01358)は、ヨヨヨと泣きながら弁明を開始した。
「この服? これは多数決と言う数の暴力と、闇に蠢く数多の陰謀と策略によって……」
 とにかく、そう言う事らしい。決して女装が趣味では無く、女装が趣味な訳でも無いようだ。
 そして、女装が趣味な訳でも無い。しかし、最近少しこなれてきたとの噂もあるらしい。
「大丈夫だよ、リィズ」
 ──似合ってるから(ぽそ)。
 そう言って、暁の司・カルゼ(a01341)はリィズの肩をポンと叩いた。ニコリと笑った顔は、悪魔のようでもあり、天使のようでもあり。
 微妙な沈黙が流れる中、店の戸口に仕掛けられたカウベルが鳴って、エルフの紋章術士・ダグラス(a02103)が外から戻ってきた。
 ブーブー鳴く物と観葉植物の大きな鉢を、両の脇に抱えている。
「盗賊の情報をブウ、聞きに行ったついでにブウブウ、欲しかった子豚をブヒッ、手に入れてきたブぜ」
 子豚の鳴き声がダグラスの話に混じって、何だか良く分からない。生きがいい仔だと言う事は確かだろう。
「それで、何か分かりましたか」
 白銀纏う紅の剣姫・フユカ(a00297)の目は、ダグラスの抱えているものが気になるらしく、まるで子豚に問いかけているようだ。
「ブウ霊査士のブ言った事以外にブウ、これと言ブッヒって得られなブウかったッブ」
 コラボレーション? 欲しかったんだから、しょうがない。
 ダグラスは店の裏手に子豚を括り付けておいて、店で一番狙われそうな品を探した。
 店内はやや細長く、入口からカウンターまでの間に、障害物は一つも無い。左右には、三段からなるガラスの飾り棚があり、主に天然石に細工の施された装飾品が並べられていた。
「これは目に付きそうなのです」
 そう言って、太陽の雫・タイガーハニー(a00404)が指さしたのは、カウンター脇のガラス戸の中である。赤いビロードの上に燦然と輝く虹色の石は、間違いなく、どの宝飾品よりも大切に扱われていた。
「じゃあ、ここに置いとくか」
 ダグラスは、鉢をその棚の横に設置した。

●盗賊、ルドルフとレイモンド
 入口の脇に、箱がある。
 赤い頭巾の男。ルドルフとレイモンドは、店に入るなり首を傾げた。
「……なんかでかい箱があるぜ、ルドルフ」
「お宝か? レイモンド」
 違います。中に入っているのは、タイガーハニーです。
 そんな事とは露とも知らず、二人は躊躇いもなくカウンター脇のガラス戸を目指した。そこに高価な物が並ぶと知っているのだろう。
「いらっしゃいませーーっ! 本日は何をお求めでいらっしゃいますかああ?」
 やたらとハイテンションなリィズが、二人を出迎える。盗賊にとっては、余計なお世話様的行為である。
 いつもなら、女一人が店番をする店での強盗など容易かったかもしれない。だが、今年は違っていた。なんか、鬱陶しい?
 しかも突然、観葉植物の根本から、土塊の小人が出現したのだ。盗賊の目から見れば、ホラーである。
「うわああぁ! 何だコイツは!」
「知るかぁ! 逃げるぞ!」
「そうはいかねぇ!」
 ハイドインシャドウで隠れていたダグラスは、わき上がった下僕に盗賊の足止めを命じた。
 二人は仰天して、立ち往生。その隙をついて、タイガーハニーが箱から飛び出した。大の男が、二度仰天。
「その剣を頂くのです!」
 タイガーハニーは手を伸ばすや否や、二人の腰から剣を奪い取った。丸腰になった盗賊に為す術は無い。
 慌てて戸口へ向かう背中に向かって、セティは紋章を描いた。
 錯乱する盗賊達。マリオネットコンヒューズだ。
「追いかけて来るなぁ!」
 前方を行くルドルフが、後方のレイモンドに掴みかかった。レイモンドもまた、恐怖に引きつった顔でルドルフに殴りかかる。
「うわあぁ、止めろ! 俺に触るなよ! 赤頭!」
 そう言う自分の頭も赤い。
 そして、ルドルフのパンチがレイモンドの顎に炸裂した。仲間にのされるレイモンド。
「皆が、楽しみにしてるお祭りを狙って来るなんて、言語道断です! お縄について反省しなさい!」
 他人の喜楽を邪魔する者など、断じて許せない。残るルドルフの脇腹に、フユカの峰が叩き込まれた。
 ゲフッ。
 盗賊は渋面を作って気を失い、脆くも床に頽れる。二人を縛り上げたタイガーハニーが、何故、そんなに嬉しそうなのか、冒険者達だけが知っていた。

●リィズ、注目を浴びる
 ううん、甘い。甘い美味しい!
 串に刺した林檎は、飴でコーティングされていた。そんな事はどうでも良いのだが、出店で買ったそれを手に、リィズは壇上に上がった。
 お手伝いさんの格好のままで。
 微かに涙ぐんでいるのは、別にこの姿がやっぱり恥ずかしいからだ。駄目じゃないか。しょうがないのだ。色々と理由があるのだ。放っておいてくれ。そんな訳なのである。どんなだ。
 とにかく、叫ばなければ始まらない。会場の視線も、このフリッとした可憐なスカート……ではなく、少年に注がれた。
 リィズは小さな咳払いを一つ。真面目くさった顔で、会場の顔を見据えた。
 そして──語る。
「『朝焼け』と共に、『ノソリン』にのって君に会いに行くよ。ひまわりのような君の『笑顔』が見れるのなら、僕はどんな苦労だっていとわない。君への『永遠の愛』を、『月』と『太陽』に誓おう。そしてあわよくば、最後の時まで君の事を支え続けていたい……」
 素晴らしくも美しい、愛の告白である。なんと、この内容の真面目な事か! 見よ! 会場のあちこちから。
 クス──
 プッ……。
 フハッ──
 ハッハッハッハ。
 笑いが取、漏れた。女装してるから?
「……そこ……笑わない。そこも、ハイ、笑わない」
 お手伝いさん、林檎飴を観客にいちいち突きつけた。
 突っ込めば突っ込むほど取れる笑いに、リィズの顔も林檎飴の如く。

●カルゼ、沈黙する
「……」
 開いては閉じる口。
 それが、カルゼの焦りを現していた。
 色々な事を考え、練り上げたはずだ。だが、そこからは何も出てこない。司会者がおずおずと、カルゼの顔を覗き込んだ。
「……ど、どうしたんですか?」
「わ、忘れちゃった☆」
 え?
 固まる司会者。
「アハハ、ごめんなさい」
 頭を掻いた暁の司の、瞳は暁天のスミレの様に。それは、希望の意を示し。志は胸の中に秘められたまま、熱く燃えているに違いない。

●フユカ、照れる
「恥かしい台詞ねぇ……」
 出番ギリギリまで、フユカは色々と思い巡らしていた。細い眉を潜め、小難しい顔で考え込む。だが、上手い言葉は出てこなかった。
「では、次の挑戦者の方、どうぞ!」
 司会者の声に弾かれ、フユカは舞台へと足を運んだ。
 会場の顔をゆっくりと眺める。そうしてから、フユカは訥々と語り出した。
「長き時、共に歩いた貴方。今は何を見てるのでしょう……。例え違う何かを見ていても、同じ空の下、何時かまた、同じ『朝焼け』を眺めましょう。『ノソリン』の歩みの如くゆっくりのんびり……『永久』に」
 遠く見つめた瞳は、何を見ているとも知れず。そこに描いた顔も、真意も隠して、フユカは静かに言葉を吐いた。
 そして、小首を傾げて呟く。
「……恥かしいですね……私が」
 自分で突っ込んでみた。
 拍手と共に、舞台を去るフユカの顔は、どこか満足そうだった。

●タイガーハニーの美の主張
 ダイナマイトボディ、サクサク登場! 縛り付けた男を引きずって現れたタイガーハニーは、ビシリと盗賊に指を突きつけた。
「この二人は空き巣なのです!」
 どよめく会場。項垂れる盗賊。タイガーハニーはご満悦である。
「見てください、この二人を。全身不健康そのものです。セコい犯罪を行うのも頷けるのです。そして今度は、このわたしをよ〜く見てください! この二人の逆を行くのが、冒険者なのです。健全に鍛え上げ、愛を込めて作り上げた奇跡のプロポーション! 大地を縫うカモシカの様な足。烈風を紡ぐしなやかな『腕』。陽光を纏う日輪の髪。安らぎを体現する『慈愛』の胸」
 素晴らしい肉体美を見せ付け、タイガーハニーの豪語は続く。
「わたしこそ、金色の雫より生まれし麗しき虎! わたしこそ、身も心も『魂』さえもセクシーに彩る戦『女神』! そう、わたしこそ、百花繚乱の攻撃美を奏でるセクシーアマゾネス、タイガーハニー!! これが冒険者の美徳を体現した、姿なのです」
 なるほど……と頷く会場の人々の顔は、見とれているようにも、呆れているようにも見える。
 タイガーハニーは、全て言い切った後、顔をほんのり赤らめた。
「……恥ずかしいのです」
 嘘だ! と、言いたげな赤い頭巾の二人。だが、タイガーハニーの目は、東の舞台袖に向けられていた。
 そこには、赤い布を下着変わりに巻き付け(褌とも言います)、頭には盗賊から奪った頭巾を被った、冒険者の仲間がひっそりと佇んでいた。
 負けない。ここまでしてしまえば、いくら『アレ』でも、勝てるはずが無い。
 と、思う事にして。
 タイガーハニーは、力強く頷いた。

●ダグラスは『ノソリン』
「こう見えて、俺小心者なんだよな。あぁ、いけねぇ……緊張してきたぞ。素顔でなきゃ、まだマシかもな」
 ちょっぴり──ダグラスは怪しくなった。頭にはシルクハット、そして口を布で覆ったからだ。でも、本人が良ければ、これで良し。
 ダグラスは、意を決して壇上に上がった。
 誰に何を叫ぶのか。それは、ダグラスから全てを奪った、叔父への復讐を誓う言霊だった。
「俺は昔からのんびりしていて、いざって時にはビクビクしてると、付いた仇名が『ノソリン』。結局、お家騒動にも勝てず、逃げ出した情けねぇ奴だ」
 ダグラスは、グッと拳を握りしめる。気負いが、そこに込められた。
「でも、泣いてばかりもいられねぇ! 打倒、叔父貴! 今じゃ立派に(?)冒険もしてんだ。もう誰にも、『ノソリン』何て言わせねぇ! 誰か、俺に新しい仇名をつけてくれ! 良い名なら『朝焼け』に誓って使わせてもらうぜ!!」
 ──『ノソリン』・スラッシュゼロ!
 ──リベンジャー!
 ──マッハ・ノソ!
 ──ニュー・ダグラス!
「……」
 なんか駄目っぽい。
 ダグラスの目は遠く、微かな微笑さえ浮かべていた。

●セティの咆哮
 一見、知的な眼鏡の君も、やはり訴えたい事はある。
 セティは、しかめっ面で会場の人々を見渡した。深呼吸したあと、服の下に隠れたペンダントを、ギュッと握りしめて気を落ちつかせる。
「私がいくら標準語で、一人称が私だからって、あんな目に……」
 どんな目にあったのだろう。人々はグッと身を乗り出して、セティの話に耳を傾けた。
「『ノソリン』の性別は判りづらいが、何故、何故、私は男だと思われないんだ〜!!」
 細身で色白の少年は、そう絶叫した。
「確かに、そう言われてみれば、女の子に見えなくもないねえ」
 無神経にもサラリと言ったのは、セティの真正面に座っている丸顔の親父だ。
 セティの眉間に皺が寄った。
「貴様! 自分は男のつもりでいても、周りから女のように見ら  れたら、自分が自分じゃないような気がするだろう! 例えるなら、『朝焼け』と『夕焼け』を、間違えるようなモノなんだぞ!!」
 丸顔の周囲にいた者が、鳥肌を立て青ざめた。
 セティが『貴様』と呼んだ男が、東側の村長だった事は、抜群に秘密であった。

●トリを飾ったのは?
「ブツブツブツ……」
 拝んでいた。顔は赤かったり青かったりしながら、絶えず小刻みに体を揺らし、足は激しい貧乏揺すりを繰り返している。
 東側の舞台の袖には、骨董品屋の主が佇んでいた。それを見守る異様な熱視線のローラ。
「さあ! 最後から二番目となりました! 念願叶っての初参加です! 骨董品屋のバングスさん、どうぞ!」
 コールに慌てて蹴躓き、バングスはクルクルと回りながら壇上に現れた。そして、舞台の西側を向いて一言。
「ロオオラアア! ワシの所に嫁に来てくれえぇー!」
 駆け寄るローラの青いドレスが、ヒラヒラと踊る。
「嬉しいぃぁ! 待ってたのよぉぉぁ!」
 ガッツリと抱き合った二人の目から、熱い涙が溢れた。
 同じ被害に合っていた、二つの村の二つのお店の主達の間に、いつしか芽生えた友情から恋から愛から何から。
 キーワードもそっちのけで、言いたい事だけ叫んだ決め台詞は喝采を浴び、異例の東西引き分けで幕を下ろした。え?
 ちなみに──
 冒険者達はと言うと、全員まとめて『奇想天外で賞』が、審査員特別賞として授与されたそうだ。
「何にせよ、思いを載せた言葉は言えたから、良しでしょう」
 フユカはそう呟いて、ブウブウ鳴いているダグラスの足下の物を見つめるのだったブウ。


マスター:左近江 紹介ページ
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参加者:6人
作成日:2003/11/10
得票数:ほのぼの12  コメディ4 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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