【ぷるぷる先生】氷上! しろいくま決戦!



<オープニング>


「ほっほっほ」
 短く切りそろえられた髭へ、太くてソーセージみたいな指先を伸ばし、ピンクの唇のほうへ毛の流れを向かわせると、ぷるぷる先生ことビーフ氏は、細かな呼吸から発せられる笑いを繰り返した。
「ほっほっほ? 違うなー……」
 彼が座る椅子――加えられた重みが、耐えられるぎりぎりであることを端的に、ぎいぎいと軋む音で伝えていた――の隣には、その輪郭を一回りはおろか、二回りもそれ以上も細めた、赤い髪の女性が腰掛けていた。細かなひだの寄った赤いスカートからは、魅惑的な白い足がのぞき、絡み合うように組まれている。
 背もたれに黒い革のコートをかけて、時は滴り落ちる・フィオナは、真面目に取り組んでいた。ぷるぷる先生の笑い声の習得に。
 彼女の動向に気づいていたのか、そうでなかったのか。明らかではないが、ぷるぷる先生は笑い声を繰り返していた。だが、テーブルへもうひとりの人物が現われた時点で、止めてしまう。
 残念そうな表情を浮べたフィオナは、彼に罪を問うような眼差しを向け、口紅の朱がさされた、光る唇から言葉を紡いだ。
「ベベウ……それでー、依頼ってなんなの?」
 黒髪の青年は、席に着くのを見計らって歩み寄ってきた給仕に一言だけ伝えると、丸いテーブルを囲んだ冒険者たちへ語り始めた。
「白く美しい山があります」薄明の霊査士・ベベウは、そう口にした。そして、言葉を続け、依頼に関する説明を繋げていく。「特徴は凍りついた滝があること。その眺めは、時が止まった絶景と評され、近隣でも高名を拝しています」
 あごのしたの肉を震わせて――首肯いていたのだろうか?――、ぷるぷる先生が口を開いた。
「その滝を滑り降りながら、細かく砕いた氷を食べるという祭りがありましてな」
 なあにそれ? と素直な気持ちを、うっすらと開いた口からのぞく白い歯に浮べて、フィオナはビーフ氏に尋ねた。
「ソリに乗って?」
「いえ、ソリというよりも、籐を編んだ小さな絨毯みたいな敷物ですな」
 手帳に文字を記しながら、フィオナは続ける。
「氷って味がないけど、そんなのを食べるのー?」
「いえいえ」ほっほっほと笑い声を挟んで、ぷるぷる先生は説明してくれた。「鋭利は刃で氷の固まりから削り取った粉雪のように小さな粒の氷、色とりどりの甘い蜜をかけて食するのですよ。果物などを加えれば、まさに絶品の味わいですな」
 凍った滝を、敷物に乗って滑りながら、氷に蜜や果物を投じて食べる。
 肘をテーブルについて、白い胸元を飾るアクセサリーを触れながら、フィオナは考え込んでしまった。同席していた他の冒険者たちも、同様に感じていたことだろう。
 運ばれてきた茶を、細めた声で発せられた短かな礼で受け取ると、霊査士が詳細について語ってくれた。
「皆さんが疑問に思われておられるこの祭りは、滝の上流に位置して開始されます。そして、凍りついた川をくだりながら、岩肌に留まった滝の流れを滑り落ち、小さな池を通過して、目的地の小川へと辿り着きます。参加者たちは、目的地へと辿り着くまでに、それぞれが受け取った杯に充ち満ちた氷の小山を突き崩し、すべてを食してしまわねばなりません」
 ふーんと唇を尖らせると、フィオナが質問した。
「味はどうするの? 最初から付いてるの?」
 答えたのは、ぷるぷる先生だ。
「凍りついた川や滝にですな、蜜をかけてくれる係員たちが控えておるのです。ですから、参加者たちは、好みの蜜や果物を持った係員の元を通過する際に、氷にかけてもらい、美味しくいただきながら、目的地を目指すわけです」
 ベベウが先生へ憧憬の? 眼差しを向けて言った。
「ビーフ氏は、この祭りを10年連続で制しておられます。まさに、王の中の王として、銅像が立てられてるというお話もあるそうですよ」
 霊査士がみせた珍しい表情を手帳に書き留めながら、フィオナがふとビーフ氏を見上げると、彼は元々ピンクの肌を、明るい色に変えていた。照れていたのだろう。
 やっと疑問が氷解された。
 だが、冒険者たちを呼ぶ理由は?
 信じられないことだが、ベベウは最後にこう付け加えたのである。
「参加者が手にする氷の菓子は、名前を『しろいくま』といいます。辺りで古くから棲息する、雪のように白い毛皮をまとった大きなくまに由来しているようですね。実は……体高が4メートルにも達したしろいくま――菓子ではなく、生物のほうです――が、祭りの準備で忙しい滝を襲ったのです。人々に怪我などはありませんでした。ですが、祭りの演習を行うために用意された氷の山と、蜜、果物などが、すべて平らげられてしまったのです。祭りが無事に開催されるよう、警備をお願いいたします」

マスター:水原曜 紹介ページ
 水原様でーございます。
 
 今回は、凍りついた川と滝を、籐の座布団みたいなもの乗って、滑り降りていただきます。コースは長く、滑り降りるまでにはずいぶんと時間がかかります。それだけに、参加者に手渡される氷の量は、尋常ではありません。目的地へ辿り着くまでに食べてしまうには、相当な覚悟が必要でしょう。蜜や果物のポイントは、いくつも点在していて、コースのクライマックスは、凍った滝の滑降です。
 
 大きな白いクマですが、祭りに乱入する形で登場しますので、一緒に滑り降りてしまってください。こいつに蜜を奪われたり、果物を食べられたりしてしまうと、味のない氷だけを食べなくてはいけなくなり、とても大変です。特に人に危害を加えるでもなさそうですので、脅して人間は怖いんだと教え込み、住み処に追い返してしまいましょう。
 
 冒険者の役割について、考えられるものをいくつかまとめておきます。もちろん、下記にあるもの以外の役割を作っていただいて構いません。
 ・参加者となる
 ・すべってくる参加者の氷へ蜜をかける
 ・すべってくる参加者の氷へ果物をのせる
 
 
 恒例? ぷるぷる先生の異常な体質ですが、今回は『質量がものすんごい』としておきます。
 
 それでは、皆さんの参加をお待ちしております。

参加者
騎士の剣・セレン(a06864)
超巨大肉玉・アゲモン(a07525)
月玲華・ニジコ(a10855)
白鴉・シルヴァ(a13552)
陽黄の騎士・クリストファー(a13856)
溺愛ユーモラス・ハリス(a15837)
灰色の洗濯夫・トルストイ(a18411)
紅蓮の颶風ルーズリーフ・グウェン(a19529)
聖魔神王・ヒカル(a19954)
流離う風と共に・セラ(a19983)
天かける白き虹・マウロ(a20180)
青金の守人・リュシアン(a21995)
NPC:時は滴り落ちる・フィオナ(a90130)



<リプレイ>

●よーい、どん!
「蜜に果物までのったカキ氷かぁ」
 月玲華・ニジコ(a10855)は小指の端で唇に触れている。
「美味しそうー」
 ニジコが振り返ると、そこには、時は滴り落ちる・フィオナの姿が。
「フィオナちゃんはどこにいくのかな? 一緒に応援に回るぅ?」
 ニジコが訊くと、フィオナは手にさげていた袋を持ちあげながら言った。
「果物を貰ってきたから、配るつもりー。ニジコさんはー?」
「私は蜜をかける係」
 愛する子供たちのために、蜜のレシピを覚えるつもりのニジコであった。
 
 凍りついた川の上流地点に、鮮やかな色合いが横一列に並んでいる。 
 村人たちや、遠方からやって来たとおぼしき祭りの愛好家たちに入り交じって、虚ろなる心の螺旋・セラ(a19983)は満足げな笑みを口元に浮べていた。
「時に風をきり、時に受け流し、風に乗る……こういった催しも良い物だな」
 風に吹かれる白い髪を手櫛で梳かすと、闇夜に羽ばたく白き鴉・シルヴァ(a13552)は足下に広がる景色を眺めながら、ひと言、呟いた。
「絶景か〜」
 そして、シルヴァは視線を移す。絶景の一部に、妙な適合を示す、小山のような体格の人物へと。
 自分もスリルが大好きだが、あのほのぼのとしたおじさんは、もしかしたら俺よりも……そう思えてくると、なんだか可笑しくて、シルヴァは白い笑い声をあげてしまった。
 ぷるぷる先生ことビーフ氏が白い小山であるならば、おとし肉玉・アゲモン(a07525)は赤い小丘と表現されるべき存在だ。
「ふにゃー」
 と、猫みたいな声を漏らすと、アゲモンは盟友の顔を見遣った。ぷるぷる先生は、白い肌をピンクに染め、上気した顔に精悍さをたぎらせて、籐で編まれた敷物の上にお尻を落ち着けていた。その膝の上には、巨大な氷の山があった。
 
 
●ウサギちゃんカットのりんご
 群集から、弾丸のごとく飛び出したのは、ぷるぷる先生であった。
 その圧倒的な質量を活かして、スピードに乗る。
「絶景って……まさしくこう言うことですかね……。滑り降りるのは一瞬だけど」
 穏やかな眼差しで、黒鉄の戦業主夫・クリストファー(a13856)が見つめる先には、おそらく白煙を噴き上げる先生の姿も含まれていたのだろう。彼自身は、敷物の上にゆっくりと落ち着いて白銀の世界を満喫するわけにもいかず、装備していた盾で風を受けとめながら、ゆっくりと氷上を滑り降りていった。
 テトラグラマトンと名付けられた弓を手に、セラもゆったりとした速度で先頭集団のやや後方を進んでいた。彼の武具にはターコイズに似た鮮やかな青の十字が大きく刻まれ、その幅は盾ほどあるので、仲間と同じく風を受けて滑ることができた。
「これは、どこから出てきてもおかしないっちゅーことやな」
 敷物の上であぐらをかいて、赤茶の矛盾人間・ハリス(a15837)は漆黒のマントをばたばたとはためかせながら、氷上を進んでいた。
 飛ぶ矢のように過ぎ去っていく、白い樹皮で覆われた木々たち。
 その合間から、同じような毛皮をまとった白いクマが、いつ現われたしても不思議はない。
 紅の颶風ルーズリーフ・グウェン(a19529)は敷物の上に、半身で立っていた。まるで波に乗っているような軽やかさの滑降である。
 彼がのぞき込んでいた望遠鏡のレンズに、川辺に佇む仲間の映り込んだ。
 第一のチェックポイントだ。
 次いで、視界が白い何かによって塞がれる。
 彼の目前を横切ったのは……例の巨大な獣だった。白いクマは、氷を砕きながら蜜へと突進していく。
 このままでは、氷をそのままで食べなくてはならなくなる。
 危機感を感じたクリストファーの叫びが、クマの背を襲った。
「ガオォォォ!!!」
 身体の自由を失った獣が倒れる寸前、アゲモンはその尻の下へ敷物を押し込んだ。
 硬直した四肢を天に向けた仰向けの恰好で、白いクマは下流へと流れていく。
「おお〜来やがったな〜」
 重心を低く、頭も下げて、グウェンはスピードをあげた。
 波打つ氷上を滑り抜けて、たちまち、白いクマに追いついてしまった。
 
 川辺には、肩を縮みあがらせながらりんごに細工を施しているリザードマンの姿があった。灰色蝙蝠・トルストイ(a18411)である。
「寒いっス」
 ぼそぼそと独り言を楽しみながら、彼はトントンと果実を切った。
 そんな彼の瞳に、まず最初に映ったのは、トップを独走するぷるぷる先生の姿であった。
 その氷の山へ、トルストイはウサギのりんごをを手早く埋め込んだ。
「さすが10連続制覇だぜ」
 リンゴを頬張るシルヴァは、先頭集団にいる。
「……」
 無言のままセラは、トルストイのりんごを会釈で断わった。
(「……これはこれで、悪くない……後でおかわりでも貰うか」)
 味気ないはずだが、わかるものにはわかる滋味というものが、堆く積れた氷の山にだってあるかもしれない。
 
 
●どろり濃厚ピーチミルク
 騎士に憧れし・セレン(a06864)は持参していた、容器を振ってもあまり揺れ動かぬ飲み物を薄めていた。そのままでは、この物体を飲み慣れぬ参加者たちが、喉を詰まらせてしまうのではと心配をして。
「美味しさはそのままなので、氷がすすむこと請け合いですわ」
 そう言いながら、少女はシロップを味見してみた。
 とろけるような……激甘であった。
 
 白い塊となって滑り降りてきた王者の氷へ、ほんのりとピンクの液体を注ぎかけると、セレンは慌ただしくシロップをすくった木の杓子を置いて、次に迫り来ている獣への対処に移った。
 ハリスの放った銀狼に組み伏せられた白いクマは、籐の敷物の上でばたついている。
「おとなしくなさって!」 
 再び固まったクマは、哀れな姿で下流へと向かう。
 アゲモンはふたつの氷を抱えていた。
「白熊の分もニャ〜!」
「どうぞ」
 シャバっとシロップを振りかけ、セレンは微笑む。
 白いクマの動向を後方から見つめつつ、クリストファーはどろり濃厚ピーチミルクがしみ込んだ氷を、いっきにかきこんだ。
 獣がおとなしくしている間に、氷を食べてしまおうと思ったのだが、むせ返るような甘さと氷の冷たさによって、俯いてしまう……こめかみが激痛に襲われていた。
「あー」
 そう言うしかなかった。
 硬直から解き放たれ、じたばたと蠢こうとした白いクマの目前へ、グウェンが滑り込んだ。氷へ剣を突き立て、銀の粉塵を飛び散らせて滑降のスピードを殺ぐ。そして、剣を投げて持ち手を代えると、氷の川を下りながら鮮やかな剣舞を披露した。
 白いクマは、まるであぐらをかくような姿勢で、おとなしく敷物の上に留まり……やっぱり、これまた、滑っていくのだった。
 
 
●ゾンビーくんと橙
「しろくまさーんの毛皮をはーいでコートを作ろー♪」
 と繰り返す歌声が聞こえてくる。
 天かける白き虹・マウロ(a20180)は練習していた。後々、必要になる歌を。 
 この少年は、奇妙な物体を棒の先端に括り付けていた。蝋人形に黒い帽子をかぶせ、熱のために溶けかけた顔面にメイクまで施して、さらには襟元にマントまで巻き付けてある。おどろおどろしい様相のかかし、その名も『ゾンビーくん3号』である。
 そして、自身は橙の断面が美しい、たくさんの果物を抱えて、滑り降りてくる皆の到着を待っていた。
 そこへ、白煙を巻き上げながら、白い物体が滑り降りてくる。
 獣だろうか。
 少年は頭上に輝く物体を浮べ、辺りを白い光りで充たす。
「……あ」
 素早く柑橘類を放り投げたマウロが、疾風のごとく――まあ、巨大だったから目にはっきりと映っていたのだが――通り過ぎていった物体が、ぷるぷる先生だと気づいたのは、その背が小さくなってからだった。
 さらに、迫り来る人々へ、少年は果物を投じていった。
 そして、本当の白いクマを発見して、準備に慌ただしく動く。
 真珠やオパールのように、変幻の光りを湛えた宝珠を抱える少年。アビリティによって、そのなめらかな面が金剛石のごとき無数の面を持つ形状へと変わった。神々しい光が辺りへ散開する。
 どういうわけか籐の敷物の上でぐったりと寝そべっていたクマは、光が怖かったのか目を閉じたまま、川を降っていった。
 クマをおっぱらったマウロは、参加者たちの氷へ果物を投げた。
 白と赤の巨大な物体の背後で、スラロームを繰り返しながら、グウェンは自分の氷に投じられた果物を頬張った。
 酸味が嬉しい……先ほどのピンク色をしたシロップは、あまりに甘すぎた。
 
 すべての参加者が通りすぎ、静かになった川辺に佇む少年とかかしの元へ、上流からトルストイが駆けてきた。
 祭りの仕上げに参加しようと、走ってきたのだ。
 ふたりは、果たして間に合うのだろうか。
 
 
●シロップと葡萄
 先頭を突っ切ってきたぷるぷる先生の氷は、もう随分と減っていた。
 そこへ、ニジコは的確なさじ捌きで、シロップを投下する。
 黄金色の蜜が氷へしみ込み、先生は「ほっほっほー」と笑った。
 他の参加者たちに続いて、例のぐったりとした獣が滑り降りてくる。疲れた身体に甘いものをと、切望していたのかも知れない。ニジコが抱えるシロップへ、牙を剥き、爪を伸ばした白いクマ……けれど、その願いは美しい女性の微笑みによってかき消されてしまう。
「おいたはダメよっ♪」
 シロップを飲み干すべく口を開いたまま、獣は氷の川を下へと流されていった。
「これー」
「ありがとっ!」
 フィオナの手から葡萄を受け取ると、ハリスは振り返りながら礼を言い、そのまま滑っていった。氷と一緒に粒を噛むと、なんとも言えない感触と甘さが口中に広がり……少年はむふふと満足げな息を漏らしてしまった。
 まだまだ山のような氷を抱えながらも、シルヴァは奮闘していた。ニジコからシロップを大量に、そして、フィオナから葡萄をちりばめてもらうと、気合いを入れて木のスプーンで氷を砕いた。そして、口の中をいっぱいにして、しゃくしゃくと咀嚼を繰り返していく。
「……食い続けてやる!」
 
 キィィーン!!
 
 頭蓋の中で、何か金属めいた刺激が轟いた。
 
 
●蜜と魚
 最後のチェックポイントに立っていたのは、陽を浴びた背の白い羽と灰の髪を明るく輝かせて、大きく手を振る少女であった。
「参加者さーん! 蜜は此処にありますよー!!」
 聖魔神王・ヒカル(a19954)は、通過していくぷるぷる先生たちの氷へ蜜を降り注いでいった。これが最後のチャンスだと、参加者たちは多くの蜜を要求してくる。まだたくさんの氷が残っているというのに、蜜もなしで食べられないからだ。
 どんどん減っていく瓶の中身を検めながら、ヒカルは滑り降りてきた獣の姿に気づくと、木のさじと瓶を雪面に置いた。
「白熊さん、この蜜は持って行ってはだめですよ。代わりにこれをあげますから、これでなんとかなりません?」
 蜜の代わりに、少女が持ち上げたのは、銀色のうろこをした、大きな魚であった。
 ふらふらと、クマは手を持ち上げる。もう、蜜でも果物でも、なんでもよかった。
 ただ、氷を滑り降りていくだけで、周りにいる異常に強い奴等に痛めつけられ、くたくただ……とでも思っていたのではないだろうか。
 しかし、魚へ伸ばされた腕は、半ばで凍りつき、獣は魚を手に入れることができなかった。
「氷も食えっつーの!!」
 クマの事情もわかる。腹が減っているのだろう。だが、蜜や果物は贅沢すぎる。おとなしく冬眠をしていればいいのだ。それに頭がキンキンするのだ。
 叫んだシルヴァによって、クマは魚を手に入れることすら叶わずに、凍りついたの向こうへと消えた。
 仕方なく、ヒカルは魚をアゲモンの頭部へ載せた。
 仲間が頭にかぶる『掘り出し物のフライパンなる防具』に、魚は妙にしっくりと馴染んでいた。
 最後尾を滑り降りてきたセラは、ヒカルの蜜も断わって、氷だけの大きな皿を手に、そのままゴールへと向かっていった。
 おかげで、瓶の中身はなくならずに済んだのだが、氷だけでよかったのだろうか?
 小首を傾げていたヒカルだが、木のさじを瓶へと差し向ける。
「蜜が少し残っていますね。ちょこっとだけなめさせて貰いましょう」
 
 
●滝壷の鍋
 煮えたぎる鍋へ、刻んだ野菜などを投じながら、黒衣の・リュシアン(a21995)は陶然とした眼差しを、凍りついたままいっこうに流れ落ちる気配を見せない、一筋の滝へと向けていた。
 周りには、祭りのクライマックスを楽しもうという村人たちが詰めかけている。
 これから、参加者たちが滝を滑り降りてくるのだ。
「世の中には色んな祭りがあるな……」
 両手に白い息を吹きかけながら、滝を見つめる人々。
 彼らの嬉しそうな顔を見ていると、自分がなんだか世間知らずな男に思えてしまう。
 スープをすくって味を見た……よい味が出ていた。
 そこへ、歓声があがった。
「ほっほっほー!!!」
 白髪の男性が、物凄い勢いで滝の上部に現われたかと思うと、瞬秒の後には鍋の横を通過していった。
 ゴールは随分と前に通り過ぎたはずだが、ぷるぷる先生はまた滑りたかったのだろうか。
 次々と参加者たちがゴールへ辿り着く。
 そして、悲鳴があがった。
 雪塗れになった白いクマが、ふらふらとゴール付近を歩いていた。
 杓子を鍋の縁にかけると、リュシアンは手を前かけで拭いて、獣を取り囲む仲間たちの円に加わった。
 
『しろくまさーんのお肉ーでお鍋を作ろー♪』
 作詞作曲はアゲモン。ハリス、グウェン、セレン、そして、リュシアンに、間に合ったマウロが大きな口を開いて、獣達の歌の大合唱である。
 毛皮をはいでコートを作るだの、皆で殺しちゃおうだのという歌詞が、白いクマの耳に届いたのだろうか?
 少なくとも、巨大な身体の獣は怯えているように見えた。
 ハリスの後方に立っていた人々が鍋などを打ち鳴らして、追い討ちをかけると、クマは一目散に森へと逃げていった。
 
 
 鍋を村人たちに取り分けながら、セレンは楽しそうにしている。
 レースは無事に終わり、祭りは鍋を囲んでの祝宴となっていた。
「なかなか楽しかったですね。機会があれば今度は普通に参加してみたいものです……」
 さらりと言ってのけたセラ。結局、シロップにいっさい頼らず氷を食して、ゴールしたようだ。
 リュシアンはアゲモンの頭の乗っていたヒカルの魚を手早くさばき鍋の具とすると、「余興が足りないようなら」と立ち上がり、村人たちへ歌を披露した。子供も大人も、大きな獣の恐怖を忘れて、その美声に酔いしれている。
「マジ速かったニャねー?」
「ほっほっほ」
 アゲモンは、V11を飾ったぷるぷる先生との友情を、鍋の底までさらいながら深めたようである。
「このフルーツと蜜のバランスが最高っ!」
 ニジコは鍋を食べずに、震えながら『しろいくま』食べていた。
「寒くないのー?」
 と尋ねるフィオナに彼女は言う。
「だからいいのよぉ、大人の楽しみなの」


マスター:水原曜 紹介ページ
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冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:12人
作成日:2005/03/16
得票数:ほのぼの5  コメディ12 
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