【御嬢様と一緒】御嬢と子供と賞でる盗賊



<オープニング>


「依頼が来ている」
 何時もの冒険者の酒場。其のテーブルの一角。
 青銀髪の霊査士は、何時もの様に冒険者達へと話を切り出した。
 ――今日は、橙の薔薇も咲いている。

「此処いらの一帯に、盗賊が出るらしい」
 そう言うと、広げた地図を指で示す。其処は然程離れていない距離に、集落が点在する地域だ。要は、この周りから品々を強奪をしている盗賊と言う事だろう。
 其の後何処其処にある棄てられた屋敷を根城に使っているだの、数はどれ位だの、盗賊達の軽い説明が続いた。
「――で、この盗賊の退治と、浚われた子供達の救出をして貰う」
 さらりと、纏めの様な発言に今まで説明に一度も出て来なかった単語が混ざっていた。唐突さに面を喰らった冒険者、しかし其の中にぴくりとも動じない者が居る。
「ほーッほほほほッ!」
 今まで大人しく、一言も口を開かなかったルナロッサが、御得意の高笑いと共についに立ち上がった。其の表情には何の疑念も窺い知れない。
「フッ! 高々盗賊如き、このルナロッサに掛かれば容易き事! 手早く退治して差し上げますわ、ほーほほほ……ッ!」
 否。単に子供達の救出、と言う件を聞いて居なかっただけの様だ。大方、盗賊の退治、と聞いた段階で頭の中は其れだけになって居たのだろう。以前と同じ様な台詞を吐いている。
「…………」
 ちらり、と今だ高笑いを続ける御嬢に一瞥をくれると、青銀髪を揺らし直ぐに戻す。既に訂正する気も、重ねて説明する気も無い事を如実に表していた。若しかしたら、彼女の中では御嬢は居なかった事に成っているのかも知れない。

「では、行って来い」
 彼女は、高笑いの響く中、冒険者達を淡々と見送った。

 石造りの暗い地下。子供達の泣き声が響く。声は反響し、何重にも重なって聞えた。
 石造りの暗い地下。其の一角、唯一光の洩れている扉がある。其の中では……
「いやぁ〜んッ♪ 泣いてる顔も可愛ゅい〜★」
 室内にバリトンの声が響く。其の発信源は子供達の目の前で身体をくねらせている一人の男……禿げ上がった頭に割と立派なカイゼル髭を生やし、筋骨隆々の身体を誇示するかの様な半裸――だが、表情はでれりとだらしなく崩れている。子供達の泣き声が大きくなる。まぁ、無理も無い事だが。
 其の部屋は、地下だと言うに煌々と灯りが点され、何ら暗い事は無い。周りには、妙に仕立ての良く、可愛らしい子供服が散ばっていた。小さいながらチェストも据えられており、開いた引き出しには同じ様な子供服が見える事から、棚一杯に子供服が詰まっている事は想像に難く無い。他には、部屋の隅に生地布や裁ち鋏、縫い針の乗った作業台が置いてある。若しや之等子供服は手作りなのかも知れなかった。
「さぁ〜て……次は何を着ましょうね? 之がイイかしら」
 裾にフリルがあしらわれた赤いワンピースを手に取る。と、其の時部屋唯一の扉から新たな人影が入って来た。
「御頭ぁちょいと来――げぶぁッ!?」
「手前ェッ! 行き成り入って来やがったら子供達が怖がるじゃねぇか、何時も入る時はノックしろっつってるだろッ!」
「へっ、へぇ……スンマセン……」
 絶対怖がってるのは御頭の顔だと思いつつ、ただただ殴られた頬を押さえ謝る手下其の一。
「で、何だって?」
「今回の稼ぎが上がりましたんで、品定め御願ェします」
「おぅ、解った今行く」
 大仰に頷き、連れ立って部屋を出て行く髭の御頭。戸をくぐるとクルリと振り返り、再び顔がでれりと崩れ。

「直ぐ戻ってくるから待っててねぇん♪」
 ガチャリ、と鍵は掛けられた。

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
天衝星・エルト(a03499)
蒼燈夜行・ザイダー(a13371)
あんこ熊神・ティータ(a13708)
水月姫・アクアマリン(a14520)
聖骸探索者・ルミリア(a18506)
リザードマンの狂戦士・ジャスミン(a21801)
氷刃の雌猫・セト(a22554)


<リプレイ>

「――ち、ちぃぃッ冒険者の野郎共がふっざけやがってェッ!」
 一人、又一人と仲間達が倒れて行く。数は此方が上、いや倍は居た。が、既に大半は床に転がっている。
 辺りには無闇に高笑いが響き、ごりごりと彼の神経を逆撫でして行く。
「クソッ、手前ェらただじゃおかねぇ――げぶぁッ!」
 振り上げた彼の剣は、振り下ろされる事無く、床へと転がった……
「……さて、と」
 ピシリッ。少女の手の中で、縄が鳴った。

「メ〜ルヘン♪ お嬢さん、そんなに急がなくても〜♪」
「又貴女ですのッ!? ――えぇい御放し為さいッたらッ!」
 示された盗賊の根城への道すがら。わいわいと歩く冒険者達。大あんこ熊王・ティータ(a13708)がルナロッサの背から抱き付いていた。
「まぁま、そうカッカされずに〜♪ 触れ合いですよ〜スキンシップですね〜♪」
 そう言いつつ、腕が腰や胸に回されていたりするが……本人にとってはあくまでもスキンシップなのである。
「仲が良いね、お二人さん」
 御止めなさい、メルヘンですよ〜♪ と擦った揉んだする二人に天衝星・エルト(a03499)の笑みが零れる。
「ハイ〜、私とお嬢さんの仲ですね〜♪」
「何ですの其の仲と言うのは!?」
「あはは、ホント仲が良いね。――っと、そうそう、お嬢様はどうするんだい?」
「どうする、と申されますと?」
「ほら、盗賊の屋敷は地下も合わせて三階分だからね。上と下に分かれ様って話に成っているんだ」
 其処まで言うと、すっと顔を寄せ、幾分声音も下げた。笑みは変わらぬまま。
「……だけど、何とかは高いところが好きっていうだろう、僕の見立てなら首領は必ず2階にいるはず。君の手で正義の鉄槌を下してやるんだ」
「ぇッ? ――ふ、フンッ、何をおっしゃるのかと思えば……、斯様な事ぐらいこのルナロッサには御見通しでしてよほーッほほほほッ!」
 明らかに其の手が有ったかと言う顔を一瞬見せるも、直に無理矢理気を取り直し高笑いを上げるルナロッサ。
 そう言えば、お嬢様も良く考えれば何とやらだったなと改めて思いつつ、そんな様子を微笑ましく眺める。
 強がってはいるが、単純と言うより素直なのかも知れ無い。何だかんだ言って、目的に対し常に意欲的だし、やる事を間違えさえしなければ十分頼りに成る筈。意気込みは買ってあげたい、今回は応援をする事に決めていた。
「エルトさん、メ〜ルヘン♪ な顔をされてますよ〜?」
「えっ? そうかい、そんな積りは無かったんだけどなぁ」
 笑みに僅かな苦味が混ざる。

 苦笑したエルトが二人から離れて暫し行くと、リザードマンの狂戦士・ジャスミン(a21801)が独りごちながら近寄ってくる。
「車が用意出来ないとは……まぁ仕方ありませんか」
 幾台か車を用意する積りだったが……車はあれで中々、作るのに技術が要る物なのだ。ノソリンに引かせる物が一般的だが、其れだって一般的と言える程普及している訳では無い。冒険者と言えどもそうそう気軽に借りられる物では無いのだ。
「……ルナロッサ嬢、もしかしたら首領は二階に居るかもしれませんよ。そろそろ、盗賊の根城も見えて来るでしょうしね」
「ふ、斯様な事ぐらいこのルナロッサには御見通しでしてよッほーッほほほほッ!」
 口を寄せて囁く言葉に、今度は淀み無く答え高笑う。
「それは、余計な口出しでしたね。盗賊退治頑張りましょう」
 御嬢の言葉に、満足気に目を細めた。このままならば誘導は問題無さそうだ、着いた後にもう一押しすれば完璧だろう。取り敢えず前準備は終わったと二人から離れ様とした其の時、何かに足を取られ蹴躓く様に倒れた。
「痛たた……、何が一体?」
「之は……!」
 転んだジャスミンの足元を見て、氷刃の雌猫・セト(a22554)が目を見張る。其処には、地に生える草が結んで輪にしてあった。
「おやおや、中々利巧な盗賊さんなんですね」
 所謂草輪と言う古典的な罠である。良く良く見ると周りにも多数作られていた。想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451) はにこにこと笑うが……草輪だけならば確かに其れ程の物では無いかも知れないけれど、其の他の罠と組み合わせるとそうも言ってられない事にも成り兼ねない。事実、其の本の少し先には、どうやら落とし穴が掘られている様だ。
「小癪な手を使う盗賊ですね……。屋敷は目前、気をつけて進みましょう……」
 蒼夜行路・ザイダー(a13371)が、木々の先に見える屋敷の屋根に目をやり周りへ注意を促す。
 其の矢先。
「――あら、何かしら? この紐……」
 ひょい、と……御嬢があからさまな頭上を渡るロープを引っ張る。
 止める間も在らば。遠くでからころと軽やかな音が響く。言わずもがな、鳴子の音だ。
「ルナロッサ嬢……」
 狭間に彷徨いし水月の姫・アクアマリン(a14520)が此れ見よがしに大きく息を吐いた。

「御頭ァッ! 大変でさぁッ冒険者の連中が来やがったッ!」
「んだとぅッ!? 絶対ェ俺様の可愛い可愛い子供達を奪いに来たに違ェねえ……おいッ、屋敷ん中に入れさせんなよ!」
「わ、解りやしたッ!」
「御前ェは俺に付いて来いッ万一の為子供部屋守んぞッ!」

 盗賊達は、幾人か二階から弓を構えてもいた。浮足立つとまでは言わないが、彼等に冷静でいられる筈も無く。
「うらぁッ!」
 捨て身か其れとも破れかぶれか、叫びを上げて斬り掛かる盗賊を、セトは悠々楯で受け止め、体重を掛けて逆に打ち噛ます。吹っ飛んだ盗賊はごろごろ転がり、壁に頭をぶつけ大人しくなった。
「嬢が皆殺しにしないか少々心配ね」
 軽く盗賊達を往なしつつ、御嬢へ視線を寄越す。扇で描かれた紋章から光がドバドバ景気良く流れているが、盗賊達は根性回避。御嬢が手加減しているのか盗賊達が必死なのか、多分後者だと思った。ラジスラヴァも見張っている事だし、どうやら大丈夫そうだ。
「ま、手早く盗賊を始末しちゃわないと」
 御嬢へ回り込もうとしていた盗賊を楯で押し返し、体勢の崩れた所へ剣の背を打ち付け、一丁上がり。
「――峰打ちよ」

「ちょっとこれは……面倒だね」
 ばらばらと疎らな矢を擦り抜けつつ、牽制の矢を放ちエルトが裏口へ走る。
「結局、正面からッ……突入ですわね、よいしょッ」
 皆に殴られたり眠らせたりされた盗賊を、ディバインウイング・ルミリア(a18506)がロープで縛っていく。
「畜生ォッ! 冒険者が何だってんだッ!? この野……ぐ、ぅ……zzZZZ」
「御休み為さい。子供達のことが心配だわ、早く助けに行かないと」
 アクアマリンの歌声で眠ってしまった盗賊は転がしたまま、入り口へ急ぐ。子供を誘拐という、なんて卑劣許す事なぞ出来る訳が無い。況してや酷い目に合わせていたらタダじゃおかない。
 正に破竹の勢い。
 冒険者達は屋敷へと雪崩れ込む。

「――ち、ちぃぃッ冒険者の野郎共がふっざけやがってェッ!」
 中に居た盗賊達も、あれよあれよと眠らされ、気絶させられ、残るは彼一人。
「ほーッほほほほッたった一人で何をしようと言うのかしらッ!?」
「ねぇ、諦めて大人しくしたらどうです?」
「クソッ、手前ェらただじゃおかねぇ――げぶぁッ!」
 ジャスミンの勧めも聞かぬ、自棄っぱちの特攻も、大剣の腹の一撫であっさり沈む。
「聞き分けの無い子供みたいね……あ、ルナロッサ嬢はどうぞ先に二階へ」
「そうそう〜♪ ボスは上にいるのがお約束ですよ〜♪」
 ガルルルー。喉を鳴らして、鎧を丸で熊の様に変えたティータが御嬢を伴って二階へ上がって行く。
「……さて、と。盗賊さん達は縛らないといけませんわね」
 ピシリ、ルミリアの手の中で縄が鳴る。縄の強度は十分だ。
 盗賊達を縄で拘束しつつ、二階班が上って行くのをのを見送る。怪我の酷い者には、癒しも与えていた。
「……では……、私達は地下へ……」
 ザイダー達は地下へと潜った。

「ここは通り抜け禁止だよ。もう一度お嬢様にもまれてきなさい」
「うわッ、手前ェ止めろッ!」
 ニッ、と笑ったエルトが丸い鏃を付けた矢で下ろうとした盗賊達を追い返す。堪らず二階へ戻されると……
「Galululuuuーッ!」
 待ち構えていた様に、熊の口から虹の奔流が飲み込んだ。
 悲鳴は哀れ、響き渡る盛大なファンファーレに掻き消される。
「……♪ さて、之ぐらいでしょうか」
 丁度ラジスラヴァの歌も終り、辺りは倒れた盗賊達で死屍累々の有様。
「いやあ、流石わたしが見込んだだけはありますね〜♪ お嬢さんが居た御蔭でこ〜んなに簡単に終りましたね〜♪」
「ほーッほほほほッ! 其の様な事当ぜ……ですからティータ! 抱き付くのは御止めなさい! ……ふ、ふわふわもこもこでも騙されなくってよッ!」
「もう終ったのよ、おとなしく縛につきなさい!」
 二階の盗賊達をセトが縛って行く。
「……良し、ルナロッサ嬢はティータさんが引き止めている様だから、今の内に」
 其のまま、先に縛った一階の連中も合わせて屋敷から引き摺り出した。
「あとは……救出班の成功を待つのみね」

 石造りの暗い地下。一人、進む。
 しん……、と辺りは静まっており、人の気配は無い。
「部屋の中……篭った様だな……」
 ポツリ、呟いて唯一光の漏れる扉の前へ。先ずはノックか。拳を持ち上げ。

 ――この扉の先に居るだろう盗賊の首領。
 一般的に言って、特殊な嗜好を持つらしい。
 純然たる興味に、瞳の輝きが増した――

 ……コンコン。
「……すみません。扉を開けていただけませんか」
 ごつごつした片手袋が戸を打つ。返答は、直ぐにあった。
「何寝ぼけた事ぬかしてやがるッ!」
 拒否されてもザイダーの瞳には、一分の揺れも表れない。もう一度、繰り返す。
「扉を、開けていただけませんか……」
「手前ェ舐めてンのかッ!? ハイそーですかと……! ぇっ? ちょ、ちょいと御頭ッ!」
 同じ様に、拒否を繰り返そうとした声が、不意に裏返った。
 扉越しに、其の狼狽した声と、新たな声が伝わってくる。

 ――御頭待って下せえ絶対アイツは冒険者ですって!
 ――馬鹿やろうこんな可愛い声の子供がいて黙ってられるか!
 ――か、可愛い……? そんなこんな操り人形みてーな、抑揚の無ぇ声な――ごぶぁッ!?
 ――馬鹿野郎ゥッ! この声の良さも解ら無ェのに適当な事ぬかすンじゃねぇッ!
 ――痛たたた……ッ、あぁッ!? 御頭駄目ですってばッ!

 ややあって。ガチャリ、と鍵の外れる音。扉は、ゆっくりと開かれた。
「……」
「……」
 見詰め合う二人。視線が絡み合う。
 其のまま時が止まった様に二人は微動だにする事は無く……
「ぃ、やぁ〜んッ♪ 無表情な顔が可愛ゅい〜★」
 ――行き成り破顔した。
 御頭は両手で頬を押えくねくねと身体を揺らす。
 ……気は惹けた様だな。ザイダーは確信する。そして、ゆっくり後退りを始めると。
「ああッ、行かないでぇ〜ンッ♪」
 案の定追い掛けて来た。後ろで叫ぶ手下の制止も全く耳に入らない。
 奇妙な追いかけっこは長くは続かない。そもそも狭い地下なのだ。
 最早薄暗い。地下廊には光源無く、戸口から差す光だけで照らされていた。
 上り口の直ぐ近く、ザイダーは不意に止まると声を発する。
「……有難う御座いました」
 突然の謝辞。何の事かと、御頭が疑問符を浮べた時――輪光が、辺りを照らした。
「ひっ!?」
 ルミリアの短い悲鳴。上の盗賊を縛る時間分遅れたのが、禍したらしい。下りて来た途端に之では……。
「きゃあアンッ!♪ こんな可愛い子がもう一人来るだなんてっ、羽が生えちゃってるわぁ〜♪」
「はわ……ッ、なんだか怖気が……こっちに来ないで下さいまし〜!」
 ルミリアに大きな杖でぽかぽか殴られるのも何のその、限度を突破した興奮で、思わず二人を抱き締めようと――
「さぁさぁ二人共、こっちにいらっ――げぼぶべらァッ!?」
 正に怪鳥が啼くが如き、雄叫びを上げたジャスミンが土手っ腹に盛大に打ち噛ます。流石に之には御頭も胸の空気を一滴たりとも残らず吐き出し激しく打ち付けられた。
「死にたぁなかったら降参しいやッ! もうおんどれ一人じゃどぅにも成らんどッ!?」
 盛大な啖呵を切り、首根をふんずと捕まえガクガク揺する。
「あぁッ!? 黙ッとらんと何か言イや早ゥッ!」
「……えっと、ジャスミンさん……?」
「ちょい待ちぃ、今真剣な交渉してんねや」
 ルミリアの言葉にも、顔を向ける事無く、ジャスミンの手が休む事は無かった。
「いや、そうではなく……その、御頭さん。――気絶してるみたいですわよ?」
「――あ」

 開け放たれた子供部屋。
「く、来ンじゃねぇッ!」
 御頭が誘導された隙に入り込むと、中の盗賊は可哀想な程怯えていた。
「あらあら……」
 対するアクアマリンは涼しい顔。あまり騒がれるのも難だと、唄歌い眠りへ誘おうとしたが、相手が怯えている所為か今一つ効果が無い。
 それどころか――
「キャアアッ!?」
「何を――ッ」
 あろう事か、部屋の隅で縮こまっていた子供達を無理矢理抱えると――刃を突き付ける。
「之以上来ンと餓鬼ァ命ねーぞ、おらァッ!?」
 鈍い鋼が柔肌に当る感触。
「ほ、ほらッ! 早く出てけやッ!」
 人質を取った盗賊の催促。
「…………」
 子供の泣き声が、酷く響いた。
「……その様な事を為さって、ただで済むとは……努々想って御座いませんでしょうね?」
 ざわり。空気がざわめく。
 空気裂く甲高い音。そして途切れる事無き哀れな悲鳴が木霊した。

 無事、御頭以下盗賊達は退治られ、子供達は救われた。
「貴方達が無事で良かったわ……」
 恐い思いをした子供達を抱き締める。傍には真っ赤な筋を全身に付けた盗賊が縛られ転がっていた。
「――羽を触らないで〜はみゅぅぅ〜くすぐったいですわ〜」
 泣く子はアクアマリンの腕の中に居たが、其処は好奇心の強い子供達。直ぐに立ち直った子は物珍しそうにルミリアの羽を弄っていた。
「……にしても、あれだけの腕があるなら盗賊なんてやらずに普通に子供服作って売ってれば、捕まらなかったでしょうに」
 そんな天使と子供達の戯れを見つつ、傍らの赤いワンピースを手に取る。確かに出来は何等見劣る所か……良く出来ている。
「良い経験でした……。心は奥深いですね……」
 ジャスミンに引き摺られて行く、ぐるぐる巻きの御頭を見送りつつ、ザイダーは呟いた。

「みんなお疲れ様。其れと大活躍だったねお嬢様」
 皆が合流した後、エルトが皆を労い御嬢を労う。
「このルナロッサに掛かれば此れしきの事は当然……ほーッほほほほッ!」
 気持ち良く高笑う御嬢。其の傍ではラジスラヴァが何やら難しい顔をしていた。
「思ったより……ですね。之では少々不足かも」
 手には一片のメモ。

「や〜御頭さん〜♪ ちょぉ〜っと教えてもらえませんでしょうかね〜?」
「な、何を教えれと……ッ」
「勿論……――」
「――……!? なッ、駄目だッ其れだけはッ!」
 其の頃脇の茂みでは、二人だけの怪しい取引が行われていたのだった。


マスター:新井木絵流乃 紹介ページ
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作成日:2005/03/23
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冒険結果:成功!
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