【佳辰令月】白桜祭〜柳暗花明



<オープニング>



 春分前の白い桜の咲く頃。
 町外れの丘に咲く桜の木の下で思いを告げれば恋が叶う。
 ホワイトチェリーの町に伝わる伝説は、
 どこにでもありそうな恋の伝説。

「ランララのお返しに、今度は男の子から女の子へプレゼントは如何?」
 商売上手な商人達がそんな事を考えた。
 ホワイトチェリーの春を祝う白桜祭。毎年3月の14日。丁度ランララ祭りの1ヶ月後。
 色んなお店が彼女への贈り物を準備してますよ?

 ホワイトチェリーの町に、白桜祭に来ませんか?


 春に満開になる桃色の桜の前。春を告げる早咲きの白い桜はサクランボの桜。ホワイトチェリーの町の片隅には、白い桜に包まれたお茶屋さんがあるという。
「チェリータルトの美味しいお茶屋さんがあるらしいのよ」
──トワルさんに聞いたのだけど……。
 酒場でレモネードのグラスを手にしながら、ミニュイがにっこりと笑った。

 花の季節の今は未だ、サクランボのなる事は無いのだが、昨年、初夏に店先いっぱいに実ったサクランボが、大事にシロップ漬けにされて保管されているのだ。
「そのチェリータルトはね、バターたっぷりのざくざく生地に、シロップでツヤツヤのサクランボがいっぱいに詰まってるらしいのよ……はー……」
 チェリーごろごろのタルトを想像して、ミニュイはちょっと別の世界へ……。
「早めに申し込んでおけば、チェリータルトの作り方も教えてくれるのですって」
 材料は勿論お店で用意してくれる、との事である。
 どうしようかな〜、迷うなあ〜。
 頭の中はチェリータルトでいっぱいのミニュイの様子に、隣に座っていたエマイユは密かに笑みを漏らした。


──桜の花の、少し塩の利いたお茶と一緒に
          甘いタルトは如何ですか?
 

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参加者
NPC:霽月の霊査士・ミニュイ(a90031)



<リプレイ>


「お姉ちゃんの作ったタルトはとってもおいしいのー♪」
 夜の少し冷たい空気にアルマの声が響く。桜の下で、アルマとシャリィラは二人大きなブランケットに包まって。
 シャリィラの作ったタルトと、暖かい紅茶をお伴に二人だけのお花見だった。
「桜はいつか散っちゃうけど、来年また同じような時間を過ごせるといいねー」
 言って、はぐ、ともう1つタルトを口に。
「…お腹いっぱいになっても寝ては駄目ですよ?」
「…うにゅ、そういえばちょっと眠くなってきたのー」
 シャリィラはタルトを作ったあの日を思い出してにっこり笑った。


 寒さも緩んだこの頃、ほんのり暖かな風が、ふんわりと甘い香りを運んで来る。お茶の準備にテラスへと出たリルミアの鼻先を、白い花びらがかすめて落ちた。
 見上げると、今日は雲ひとつない青い空が、白い花達のすらりとした花びらで彩られている。
「お天気で良かったです」
 眺めの良い席はどこだろう、と広いテラスに並べられたテーブルの間を歩きながら、リルミアはお手伝いに赤と白のギンガムチェックのテーブルクロスを丁寧に敷いていくのだった。

 広い厨房。「わー」や「ふわー」という声と共に、開けられたオーブンの熱がふんわり広がると、甘いバターや小麦やチェリーの香りが室内をぎゅうぎゅうに満たしていった。手作りをどうしようかと厨房を覗いていたテトリエッタも、香りに思わず足を進めてしまう。
 お手本はこんがり焼いたタルト生地にクリームと共にチェリーを並べたものと、クリームを流し込んだ生地に沢山のチェリーを沈ませて焼いたもの。お手本のタルトに皆で舌鼓を打ちながら、各々用意されたテーブルで、いよいよタルト作りである。

「イチゴとかチェリーのタルトって、宝石みたいだよねえ」
 今日は多分味見専門の奥さんサガラと共に、グラースプも厨房に潜入。
「ティナ、タルト作っておとーさんとおかーさんに食べてもらうの。今度はちゃんと教えてもらって調味料使って味付けるから大丈夫なのなぁ〜ん」
 ティナはぐっと両手を握るとマーブルの台の上に小麦粉を広げて行く。隣ではエンも、食べるだけだと言っているサガラとグラースプの為に、腕を振るう事にした。

「おとーさん、アル、頑張って作るから食べて、ね?」
 ぱたぱた、と背中の翼を動かしながら、アルジャンは「おとーさん」ズュースカイトの顔を覗き見る。その視線ににっこりしながら「アル、一緒に作ろうね〜」と返した。

 材料が用意されたテーブルにつくと、いよいよ開始である。
 バターを細かく刻みながら、ミアはお向かいで粉をふるうルィンフィーネの一所懸命な様子に小さく笑う。
「そういえば…去年、川へ行った時のフィーネさんのリクエストはチェリーパイでしたね…美味しいチェリーパイを作って、ウィスさんに喜んでもらいましょうね」
「うみゅ♪ 美味しく作れるといいニャァァ」
 もう既に肘の先どころかエプロンまで真っ白な壁猫さんは、果たしてうまく作ることができるのでしょうか(何

 さっき頂いた見本の一口が完成目標。美味しく出来るかな、とタルト型に合わせて、丁寧にタルト生地を整えるファオの隣。
「……? ルシアさん、どうかしましたか?」
ちらちらと、こちらの手元を何度も覗き込むルシアにファオが声を掛けた。
「ぇ、あ、あの、ボク、その…お料理苦手で…あぅ…」
 苦手だけれど、今日は何時もご飯をくれる大好きなあの人の為に…。
「それなら、一緒に頑張りましょうか」
 いつも一生懸命なルシアを心の中で応援しながら、ファオは一緒に作業を進める事にした…少しでもお手伝い出来るように。

 何故かパイ作成を強制されたエマイユの向かい、アモンがタルト型に並んだチェリーの上をきっちりと生地で蓋をしていくのが見えた。
「生地で包むんだね」
「どうかな、と思いまして」
 料理が趣味のアモンは、タルト型も皆とは違う小さな物を自分で用意している。
「食べ易い一口サイズで…食べるとサクサクした生地からチェリーが溢れ出す…チェリーの風味と甘さ、シロップの甘さが口いっぱいに広がるように」
 アモンの言葉に、ざっくり生地の中から、ジューシーなチェリーの溢れる様を想像して、おっと、とティキが涎を拭う。彼は今、バターのクリーム色と粉の白をさっくり混ぜ合わせるのに命を懸けていた。
「甘いといっても甘すぎず、さっくり焼けるように〜♪」
 アルトも配られたレシピを見ながら、丁寧にバターを入れた生地を刻んで行く。
「そういえば、3月旅団ではお世話になってるね」
 アルトの言葉に、隣で生地を伸ばしているエマイユは「こちらこそ」と笑った。
 さらに隣。
 リンは生地の焼きあがるのを待っている時間で、上に載せるチェリーと何か果物を検討中。話を聞いた店主が持って来てくれた、やはりシロップ漬けの果物の中から洋梨の白やリンゴの生成りならチェリーの赤が映えるだろうかと、悩んでみた。
 赤いチェリーの上、仕上げには鮮やかな緑のミントの葉を飾る予定である。

 一方こちらは沢山のタルトを一緒に焼ける大きなオーブンの前。ひよこアップリケのミトンにフリルのエプロンでちょこちょこ歩き回っているのはマイン。今は店主と一緒にオーブンに新しい火を入れるお手伝い中である。
「いっつもファイアブレードとか使ってるので熱いのは全然平気♪」
 とりゃー、と綺麗に薪を積みつつ、額に汗して働くマインに店主がにっこりと笑う。何かお手伝いできるかな〜と、うろうろしていたテトリエッタも薪を運ぶのを手伝った。

「…ラスキュー殿、喜んでくれますかにゃ」
 黒耳のあの人を想いながら、シルビアーナがくるくると回す手の中にはクリーム色のカスタードクリーム。ラム酒でほんのり香りをつけて、甘さはチェリーに合わせて少し抑えめである。
 
「シロップ漬けがあるといつでも作れますよね…」
 いつかのリボンのささやかなお礼。アルマのためにも沢山のタルトを作りたい。大きなタルトが出来たら、用意したバスケットに詰めて…それから暖かいお茶と毛布もあったほうがいいだろう。
 喜んで貰えるでしょうか…シャリィラは少しだけ微笑んだ。

「ふわふわなの〜」
 ズュースカイトがボールいっぱいのクリームを空焼きしたタルトに注ぐと、わくわくとアルジャンが目を見開いた。あとはここにシロップ漬けのチェリーを飾ってもう一度焼けば出来上がりである。
「チェリーはたくさんがいいの」
 お料理得意のアルジャンは瓶詰めの瓶からお皿にチェリーを移して行った。
「…おとーさん?」
「……やっぱり可愛いなー…」
 謎の呟き。一瞬、父が遠くを見ていた事に気付いて、アルジャンは首を傾げた。

「あ゛ー! そんなとこ食ったら見映えが悪くなるだろうが!」
 ひょいぱく、とタルト台ごとつまみ食いしたサガラにエンが声を上げた。
「後で切っちゃえば大丈夫。味見、味見♪ っと」
 さっきから材料のチェリーだけを「そのまんまでも甘くておいしーっ」と、たらふくつまみ食いしていたサガラだが、やっぱりタルトはひと味違うらしい。
「…私もお菓子つくってみようかな…ランララのリベンジもしたいしっ」
「駄目! 絶対作らせません!!」
 材料が勿体ないことになるから…エンの隣でティナの手伝いをしていたグラースプが、速攻、ぶんぶん首を振った。
「…いいもーん」
 3人を置いて、どこかへ歩いて行くサガラを見送っていたエンは、向こうのテーブルから注がれる熱い視線に気付いた。どうやら羽毛をフカフカしたいらしい。
「モフモフ…していいぜ」
 抵抗しても良い事は無いからな、と呟いたその言葉。後でズュースカイトやアルジャンに混じって、その場にいた殆どの者に羽毛をモフモフされまくるのだが、それはまた、別のお話。

 最後のチェリーを真ん中に飾って、シルヴェストルは静かに息を吐き出した。ゆっくりと手を離すと、並んだチェリー達がつやつやに輝いているのが見える。
「…今までで一番良い出来、だな…」
 甘さ控えめの綺麗なタルトを満足げにしばし見つめたあと、傍らに散らばった、タルトに目を移した。
「残りの失敗作…土産にでもするか…」
 慎重に成功のタルトを箱に仕舞い、シルヴェストルは満足げに1つ頷いた。


「ざくざくにツヤツヤ…ざくざく、ツヤツヤ…」
 じゅるる、と涎を溢れさせるロアンの隣では、シスも一緒に今日のお手本、のチェリータルト達を見下ろしていた。味見用のフォークに視線を合わせて「ざくざく生地につやつやのチェリー…でも」とても高カロリーな予感、を「気にしたら負け」と振り払う。
 厨房からの香り、お店中もう甘い匂いでいっぱいだった。
「甘酸っぱい香りだね」
 焼けた頃を見計らって訪れたケイが店内を見渡して、テラスの一角で、ぼんやりと桜を見上げているディルムンに気付く。
 ミニュイとエマイユは厨房だろうか。所在無さげに1人座っているディルムンが可笑しくて、ケイはロアンとシスをつついて彼を呼びに行った。

「こっちは紅茶で…ええっとこっちが桜茶です♪」
 ミニュイとタルトを仕上げたミライは、早々にお茶出しのお手伝い。暖まったポットに茶葉を入れて、お湯の沸いたケトルを両手に持ったミニュイに指示を与えて行く。
「エリーシャさんはこのポット2つをテラスのテーブルまでお願いしますね…」
「任せとけ…お?」
 手伝う、とだけ告げてディルムンがエリーシャの手から、ポットを1つ受け取った。後に続いたケイ達にカップを揃えてもらって、そろそろお茶会の始まりだった。

「はい、こちらプレゼントでございますね」
 クーガーが、店員の言葉に頷く。今日は、ランララのお返しに──お菓子作りには昨年で懲りたのか、今年は無難に美味しいタルトを購入することに決めたのだった。
「──やあ。今からお茶会だけれど、良かったら一緒にどうかな?」
 今店に入って来たイングリドと、包装を待つクーガー。見知った顔を見つけてエマイユが声を掛ける。
「あら、ご一緒させて頂きますわ。タルトは好きですし何度か習った事もあるんですが、まだ美味しいと思えるものは作れた事がないんですの」
 今日は美味しいタルトを頂いて、何が足りないか研究しますわ♪ イングリドは笑った。
「折角の誘いだが」
 お待たせしました、の店員の声にクーガーが言葉を止める。桃色の綺麗な用紙に包まれたタルトを受け取って、軽く指差した。
「待っている人がいるんでな…」
「それは、ご馳走さま」
 エマイユはイングリドと皿の山を分け合って、クーガーに小さく手を振った。

 とぽとぽ、とミアがポットから紅茶を注いでいく。テーブルを挟んだ向かいではルィンフィーネがわくわくと。暖かい紅茶を手に、小さく二人でいただきますを交わすと、さく、とミアのパイにフォークを入れた。
「…美味しいにゃ」
「それは、良かったです。フィーネさんの作ったパイも喜んで貰えるといいですね」
「…これと同じくらい美味しく出来てるといいにゃ」
「ええ。きっと」
 はらり、と舞い落ちた白い花びらが赤いタルトの上を飾った。

「俺の自信作だ! 食いねぇ食いねぇ〜」
 エンが取り出したのは大皿タルトが3枚。ティナのタルトと一緒に、グラースプ、サガラの4人でお茶会だ。
「おとーさん美味しい?」
 今度はちゃんと甘いタルト。にっこり笑ってグラースプは頷いた。のんびり皆で美味しいものを食べられる幸せを噛み締めてみる。
「エンのも美味しいね」
「…はい、あ〜ん♪」
 サガラは振り向いた夫の口に、何やら黒煙を上げる物体を放り込んだ。直後、激しい轟音が辺りに響き渡ったらしいが、真実はグラースプのみが知る。

 暖かい日差しと桜の下。エリーシャは大きなテーブルが沢山のタルトで飾られるのを眺めていた。
「こういう穏やかな時間が持てるなんて、数年前は考えられもしなかったな…」
 虐げられていた日々を思い出し、思わずエリーシャが呟いた言葉。エマイユが首を傾げるのに、何でも無いと笑って誤摩化した。

「うわぁ、花びらが雨みたいに振ってくるよ」
 ロアンの声。置かれた皆のカップに、はらはらと、白い花びらが落ちる。一緒に飲んじゃいそうだねっ、とディルムンと共にフォークを並べて行った。
「美味しく出来てるかな?」
 席についたアルトは、味見してくれたリンが微笑んで頷くのに少し息を吐いた。交換したお皿で、今度はリンの2色のタルトをざっくりと。粘らないようにさっくり混ぜたバターで、タルトの生地は小気味良くざっくりと。口の中では、ふんわりほどけて広がった。
 リンやミライ達が作ったタルトも広げられる。ファオのタルトにはアクセントに塩漬けの桜の花。
「…わぁ、物凄く美味しいです…」
 ほわっと口中に広がる甘さ。ほんのり感じた爽やかな酸味が、頭上の桜の面影を残している気がして、シスはそっと見上げて桜のお茶を一口。塩味に口の中が引き締まる。隣でタルトを一口食べたリルミアも笑みを零した。
 ディルムンにタルトを勧めたミライは、じっともぐもぐと動く口元に注視する。
「…えとえと、美味しいかな?」
──ふ、と咀嚼が止まり、ついと視線が落ちる。
「…男なら飲み込め、飲み込むんだ」
 そんなエリーシャの声に、皆から笑いが漏れる。
 目を閉じて、漸くこくりと飲んだディルムンの隣でケイが頭を撫でてやると、薄いグリーンのお茶をカップに注いだ。
「ワイルドファイアで摘んで来た生ハーブのミントティーなんてどうだい? すっきりとするよ♪」
「いただきます」
 ミライが新しいカップを差し出すと、注いだ先から清涼な香りが溢れた。

「あの…イングリドさん」
 今日3切れ目のタルトを手にしたイングリドは、ぽそ、と呟かれた声に、振り返る。隣に座ったリューシャはイングリドに軽く会釈した。
「その節はいろいろと気遣って下さって、有り難うございました。…おかげで、依頼から無事に戻ることが出来て、ホッとしています」
 茶と紫の瞳を合わせて、二人はにっこりと笑った。

「ディルはもう、タルト食べないのか?」
 むぐまぐ、いくらでも入るぞっ、と今日もう幾つ目かのタルトを平らげていたロアンがお茶ばかりを飲むディルムンを不思議そうに見つめる。
「…あまりに、美味しかったから、…一口で充分だ」
 困った顔でそう告げたディルムンに、ロアンは「そうかー」とにっこり。
「ウィアトルノのみんなにも持ってかえりたいけど、でもきっとこの位の量じゃ足んないよなぁ」
 溢れる笑い声に、桜が舞った。

──このまま白桜祭が花見と食欲のイベントとして定着するのを祈りつつ
 独り身のティキは頭上に枝を伸ばす桜を見上げていた。
「…ティキさん?」
「大丈夫ですか?」
 ファオとルシアにゆさゆさ揺すぶられて、ティキは我にかえる。
──世の中平和で泣けてくらぁ…

 花の香りとお菓子の香り。
 沢山の甘い香りに包まれて、幸せな時間は穏やかに過ぎていくのだった。


マスター: 紹介ページ
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参加者:29人
作成日:2005/03/25
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