【暁の星】誓いの星



<オープニング>


──その昔 まだ太陽と月が仲良く地上で暮らしていた頃
     空には今よりもずっとずっと沢山の星が輝いていました──

「………星?」
 背後から聞こえて来た声に、エマイユは慌てて振り返り、その声の主がディルムンだと知って息を吐いた。手の中、月明りの下に光るのは2つの護り。
「星か……。いや、……星じゃない。石だよ」
 1つは涙形に象られた、黒曜石のペンダント。もう1つは、掠れるように黒い血染みに覆われた、淡い白い石の嵌まった指輪。
「誓いを込めた石は星だ……向こうでは違うのか?」
 その言葉に目を幾度か瞬かせてから、エマイユは隣に腰掛けたディルムンを眺め見た。彼は首に繋がれた紐の先、懐から小さな小さな石を取り出した。
「これは『帰ってくる』という誓いだ」
 ディルムンの静かな声。エマイユは「誰の」とは聞かなかった。革紐の先に括られたのは、その誓いが些細な物である事を表したかのような、小さな石。
「誓い、か」
 ミニュイから預かった黒曜石にも、幼い時に拾われた自分が握っていたこの指輪にも、何らかの想いは込められているのだろう。

──25年

 無為に過ぎた年月を想い、エマイユは少しだけ息を吐いた。

「その細工は、父上が?」
「いや、シュクランのルハバン爺が」
 皺面の老人を思い出し、エマイユは口元を僅かに緩めた。
「……その、余所者にも誓う事はできるのだろうか?」
 ディルムンも「何を」とは聞かない。ただ視線を寄越すとそのまま頷いた。
 

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参加者
NPC:晨明の紋章術士・エマイユ(a90062)



<リプレイ>

 ──両手のひらを空へ向け 陽光の下で確かめる
    腥が己の身に染み付いていないか 最後まで人で在れるかどうか


 常夏のワイルドファイアの日差しは強い。陽を浴びて地に落ちる影も力強く、時折薫る花や獣、それから草の匂いが一層、体に眠る躍動を呼び起こすようだった。
 シュクランの集落では相変わらず素朴な暮らしが営まれていた。布張りの簡易な天幕に露天のかまど、集落のあちこちでは子供達の元気な声が響いていた。
「……という訳だ」
 相変わらず表情も変えず、淡々とこれまでの道行きを極く完結に語ったディルムンは、細工師の爺に1つだけ頷くと後ろに続く冒険者達を振り返った。
 ルハバンと呼ばれる爺は面倒そうに首を傾げると「判った判った」と答えてやはり頷いた。
「よろしく、お願いします」
 どこか似た様子の二人を微笑しながら眺めていたエマイユは爺に軽く頭を下げた。


 細かい作業は爺やエマイユに任せたりして(何 麻布を敷いた露天で作業が始まっていた。兄から預かったという鎖や金具の類いを用意して、一息つくとエマイユは懐から黒い石を大事に取り出した。
「さあしっかりと願いと誓いを込めて作るですよー♪」
 ヴァルは手元の石を取り上げると、陽に透かしてその青を確かめた。
 置かれた作業机の上に石を研磨するための石台を準備しながら、爺は集まった人数に、目尻に皺を増やす。
 シュハクが爺に気付いて顔を上げた。
「えっと…コレ、ヒトに贈りたいんだケド、他のヒトに渡すとお祈りの効果ってなくなっちゃう?」
 今は遠くにいるとても大事な人へ、今度は絶対に護るという守護を誓って作った首飾り。爺がゆっくりと頷くとシュハクの顔に笑みが浮かんだ。

 イヤーカフスを作りたいリエルは、細工の事で爺に相談。
 込める誓い…誓いと言う程大層なものじゃないけれど…ちゃんと生きてるし、これからも生きるよ。
 落陽は終りだけど、暁は始まりだから──

「えっと、石に誓ったら星になるんだよね? じゃあ誓ってみる! 石、石〜…じゃあ、これっ」
 布の上に並べられた石から適当な1つを掴んだユイリに、眺めていたディルムンが微かに笑う。そんなディルに、ユイリは少しだけ頬を膨らませて抗議の表情を見せた。

「ワイルドファイアの空は広いなぁ」
 シェルトに誘われてここを訪れたリュキアが声を上げた。空に広がる星を思い浮かべ、そんな星が自分にも作れるだろうかと考える。
「器用なシェルトが一緒だから、きっと作れるよね!」
 そんなリュキアを微か笑顔で眺め乍ら、シェルトも空を見上げる。空と同じ青い石を手に、この誓いはどんな事があっても必ず護り通す、と誓う。
──初めて、愛したいと思った人のために。

「…ブルーダイヤはあるかしら」
 エルはエマイユに尋ねてみる。微かに青を宿した強固に誓うのは旅の無事。完全。
 ウィアトルノの皆が欠ける事無く、揃って帰れるように。無事に。

 黒曜石を丁寧に細く磨いて、アヤナが込める誓いは「戦い抜く」という覚悟。
「戦って戦って戦い抜いて最後まで立っていられたら、大好きな人達の居る場所に帰る事ができて、美味しいご飯が頂けますもの…ね」

「誓い…」
 メディスは手にした蛍石に想いを込める。
──二度と手放さないということ
 大好きな旦那様
 もう、迷わない…新たな誓い。
 愛は唯だ、泉のように溢れるそれを与えるもので──

 オウミは薄青を選んで手に取るとまだ原石の欠片達にそっと誓う。
──僕は、新しい人生を与えてくれた恩人を必ず探すと星に誓う。そのために僕は冒険者になったんだから

「うわぁ、リライト…」
「なんとなく参加してみたらキミと会えるとはね」
 リライトは笑顔を浮かべ乍らイーリスの肩を叩いた。
「実は、…どうしても二つ作りたいのじゃがのぅ…」
「私の分をイーリスにあげるよ。手伝ってあげるから」
 青と虹色の2つのムーンストーンを手にしたイーリスから、虹色のを受け取り、リライトは頷き、温和な笑みを添える。
「イーリスの幸せを祈って…ね」

「一言ですませると『己に克つ』ということになるのかな?」
 石を選ぶエマイユへ告げ乍ら、アネットはその言葉を自らにも刻み付ける。
 心を堅く冷たく強くすること──そう、例えば決して折れない剣のように…

 紅と蒼、色は違う同じ石を手に、イリスは誓いを込める。
「私は忘れません、大切だった人を…そしてずっと、大切な人と共に…」
 ペンダントにして、ずっと誓いを身に纏うことの出来るように。

「ぅな…オレンジいろのいしがいいな。たいようみたいな、あたたかないし」
 ショコラーデはそっと石達を覗く。
 こめるちかいは…コノハとともにあり、まもりつづけること。それをちかう…なぁ〜ん。ちかいをうけて、ほしになれ…なぁ〜ん♪

 ユウは、真剣な表情で丁寧に針を使うエッジの横顔をじっと見つめていた。
「込める誓いは、「帰還」だ。ユウの元へと帰ってくる様にってな」
 エッジの言葉にごく小さく頷いて、ユウは手元の水晶に視線を移す。
──ユウの誓いは『いつも傍に』
 エッジと違って慣れない手つきで、でも出来る限り丁寧に。二人は肩を並べて、お互いへの想いを石に込めていた。

──国境線のナイ、ランドアースの空を、ぼんやりと風に吹かれて飛びたい…。
 ゆっくりと蛍石を磨き乍ら、スーリアは空を見る。込めるのは平和への願い。
 その為に、オレに何ができるのか…今はわからないケド…。

 久しぶりに会ったリオネルに、ミニュイが笑顔で手を振った。
「やっぱりワイルドファイアは暖かくていいですね」
 少し爺臭いその台詞に、隣でシスが微笑んだ。
 布に置かれた石達から、気に入った物を選び二人は一緒に作業を始める。まずは、石を磨く所から。
「シスは……何を誓うの?」
 ぽそりと呟かれたリオネルの言葉に、シスは小さな星を磨く手を止めた。
「…秘密、です」
 誓いを込めて、石を星に。手の中の星を覗き、シスはそっと笑った。

 小さな、けど美しいアメシストを手に、リンは目を閉じた。
──私の出来る事などたかがしれていますが、それでも…
 関わった方々の想いを、命を護りたいんです
 これまでの、嬉しい事も、悲しい事も、全てを糧にして頑張りたい。

「──でも、尊敬する人とか好きな(仲の良い)人とか…恋人さんはまだいないですけど…」
 アルクスはターコイズを磨く手を止めて、爺の皺面を見上げた。
「…大事な人を護れるようになれたらって、思います」
 背中越しに、そんなアルクスと爺の会話を聞きながら、エイヴィは黄緑の石を4つハート型に磨く。口元には笑みを浮かべて、てきぱきと楽しそうに。

──俺は…何を誓って良いのか、誓えるのか
 1つ息を吐き、エリオノールは瞼に手を添える。
「…生きる事かな」
 そうして、ごく微かに口にする言葉。
 色々と出逢って生きて…想いを繋げる事
──それを
 絶対に生きて行く
 それだけを

「わたしの誓いは生きるって事かな。肝心な記憶は失くしてしまって思い出せないのだけど、ずっと逃げ続けて、疲れ果てて、でも生きろって誰かに言われたような気がするんだ…」
 眼前の爺へではなく自分の中へ声を響かせるように、オリエは石に誓いをかけた。

 青い月が星を抱く様に。
「守れなかった誓いは忘れない。新しき誓いは胸に誓い、二度目の過ちは犯さない」
 ブレスレットに埋める為の石を磨き乍ら、セリオスはそっと呟いた。

「しかし、誓いを込めた石は星となり、か。空に輝く星々も誰かの願いを受けたものか…」
 シフォンはエマイユに呟き、少しはにかんだ。石を取り、目を落とす。
「誓いは、大した事は浮かばないが…こういった物に意味を見出そうとしたこの心、魂を忘れぬよう…」

「台座は銀が良いなぁ…」
 磨いた青い石を置いてリュフィリクトが呟くのを、イツキは穏やかな表情で眺める。彼の手には持ち主を護ると言われる翡翠があった。
 リュフィリクトは台座に埋める前の石にそっと誓う。
──世界で1番大好きな、特別な人の傍に居る
 そうしてそっと視線を動かし隣の存在を確かめた。
──イツキさんの傍にずっと居られますように!

 浜辺で拾った小さな巻貝に夏草色の橄欖石を選んだメロディは、割れ易い貝を前にちょっと悪戦苦闘。
 違う場所で出会った大切な友達がいつでもこの場所に戻れるように、希望が常に共にありますように。

 ミニュイを連れて見て回るエマイユを視界に、ティキが手を止める。
──よくよく考えりゃ、俺の植物知識も育ちが起因してるものだしな
 同じように、エマイユにも石に対して何気に理由があったりするのだろうか。滅んだ故郷を思い、ティキはふと考えた。

 薄桃の石を磨くマオーガー。慣れてくると作業が楽しくなったらしく笑みが浮かんでいた。
「…丸くしたいのに…」
 唐突に隣から聞こえた声に、マオーガーは首を傾げた。隣ではルーシェンが難しい顔をして石を磨いていた。手の石は丸、というのには、ちょっと遠い。
「なんだよ、そりゃ。貸してみろよ」
「…自分で作らなきゃ意味がないと思うんじゃが…」
 台になるブレスレットの作業は任せる事になるのだ。せめて石だけでも自分の手で磨きたかった。

──もう…誰の涙も…悲しむところも見たくないから…人を支えられる者になりたい…な
 真白い、だが角度に寄っては青く見える石を手に、イヴは誓う。
 閉じた瞼にはひっそりと微かな憂いの色を宿して。
 そんなイヴが怪我したりしないか、見守りながら作業を続けるのはセリオス。こちらは、小さい星がいくつか磨き上がると微かに鼻歌が混じって来た。
「イヴ、大丈夫?」
 掛けられた優しい言葉に、イヴは振り返り、もう笑顔を浮かべていた。



 磨き上げた天青石を前に、イドゥナは少し満足げに首を傾ける。あとは金具を付けるだけ。身に着ける者に平穏を与え続けられるように。
 向こうに見えるハルに何か助言を貰いたいと思ったのだが、何やら真剣な表情に、躊躇ってしまった。
 ハルはというと、ブレスレットを飾る翡翠を選んでいた。
──この身勝手な想いすらも、星になれるのならば
 ただ彼の人の幸いを祈ろう。
 せめて誓いとなり、その身を護ることの叶うよう。


 青い髪の見えないのを確かめて、隅っこでこっそり細工を始めたのはメイノリア。
 これからも、少しでもずっと一緒にいられる事を願って。

 
──喜びも憂いも貴方と共に分ちあいたい
 アイシャは石にそっと誓うと、隣で心配そうにこちらを窺う夫、サンタナに微笑んだ。二人で旅等久方振りで、それだけでアイシャはもうとても幸せな気分だった。
 サンタナはおっちょこちょいな彼女が大丈夫かと、まだ微かに心配しながら、手の中のオレンジ色の石を見る。
 誓うのは、離れていても心は傍にあるということ。文字を刻もうと思い立ち、サンタナは針を手にした。

 レナードの手には深い翠の星。
 込められた誓いは、君に捧げる──
 彼の現状が好転するように。レナードは幸運全てを捧げようと誓う。
 この星が彼にとっても星となるように。

「石細工に誓いを込める、か…。見た事もない神様なんかに頼るより、俺の性にあってるな」
 呟いたワスプの持つ紫のラブラドライトに、エマイユが瞬いた。
 紫に光る物はめずらしいのだ。
 そんなエマイユの肩を叩き乍ら「後で宴会な」と心の中で呟いたのは秘密だった。
「首飾りはコレがあるから、ブレスレットを作ろうと思うよ」
 首もと、胡桃の飾りをエマイユに示してから、ディアナが3つの石を布から開く。銀、薄青、青碧の組み合わせ。「どんな状況でも負けない心の強さ」が持てるように。
 ケイは翠の石を前に革紐で小さな籠を編んでいた。籠目の形に凝ろうとして、少し挫折しながら眉を寄せる。
──必ず護る。傍にいる限り…
 大切に思うあの人への、誓い。

「サイパン…お前、オレの知らない所でのたれ死んだりしたら、承知しねぇぞ…」
 手の中、赤に稲妻を宿したチョーカーに込めた誓いを抱き乍ら、グレンデルは1人、集落の外れで杯を傾けた。

「石は、凄く好き」
 俺達よりずっとずっと長い時を「生きてる」もの。だから、願いをかけるのも、何かを誓うのも、凄く素敵なこと。
 グラースプの言葉に頷いて、エマイユはガーデンクォーツを受け取った。

「エマイユお誕生日おめでとうー!」
 通りがかったエマイユに、ロアンが満面の笑みでお祝いを告げる。
「オレの誓いはモチロン「世界一の武道家になること」!」
 ロアンにつられるように、エマイユはきっと叶うよと、笑んだ。

 フルーツケーキ、ショートケーキ、それから紅茶を使った甘さ控えめのケーキ。シュクランで火を借り乍ら、ミライの腕にあるのは「平和」の誓いを込めた龍を象ったブレスレット。一日でも早く全種族が仲良く平和になるように、という誓いが込められたものだ。
 アネットが「皆からだ…30ある」と、花束を取り出すと笑い、いや、拍手が上がる。「おめでとう」とレナード達からも声が掛けられた。
 ニューラのリュートに添えて、エルが三十路を祝う歌を歌う。ワスプがシュクランの人達に頼んだ料理等と共に、ささやかなお祝いの宴。ケイもケーキや酒を取り出すと、グレンデルが火酒を勧める。リンも篭もりの苺を皆へと差し出した。
「エマイユさん、三十路の大台おめでとうございま、…す♪」
「今迄色々あったと思うが、これを1つの区切りにして、また新たな人生を迎えられると良いな」
 『三十路』の言葉にエリオノールのほっぺを引っ張り乍ら、メイノリアが笑った。
「おめでとうございます。無為であっても、得られた物があるならば有意義な年月だと思います…」
 手の中のペンダントはファオの絆や感謝を込めた物。
 その言葉に瞬き乍ら、エマイユは静かに頷き笑みを返した。
「大台おめでとうな、エマ♪ 何かの節目みたいに感じるモンらしいが、とりあえず新しい一年が良いものとなるよう」
 軽口を叩いたスィーニーの耳には新しい紅玉随のピアス。いつか森へ帰る事になっても、今在る自分を忘れないように。

 星はきれい。
 そして星になって輝くこともなく果てていったもっとたくさんの路傍の石たちの事を、私達は決して忘れてはいけない。
 ニューラはチェヴゲンの天辺に飾った石達を撫でて、空を見上げた。


 青い空にも、目には届かない微かな光を放って星達が居るのだと、そう聞かせてくれたのは何時だったろう。
 肚の底に沈み続ける物に名前をつけられないまま、エマイユはただ天を仰ぐ。

「なあ、誓いをこめて交換しないか?」
 不意に掛けられた声に、エマイユは表情を緩め振り返った。
「過去の連なりから現在があるとすれば、俺は辛かった時間も無為なものじゃなかったんだと思う…、ていうか思えるようになった。この先もずっとエマイユと一緒にいて、誕生日祝ってやる」
 そんな言葉にエマイユは笑顔を取り戻し、黒に近い深い紫をエリーシャに預けた。


マスター: 紹介ページ
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参加者:52人
作成日:2005/04/13
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冒険結果:成功!
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