<リプレイ>
「噂には聞いてたけど、こりゃ想像以上の暑さだなぁ」 貴腐なる吟遊詩人・アルバート(a21107)はこのワイルドファイアの暑さにすっかり茹だっていた。仕方有るまい。彼は全身を羽毛に覆われているのだから。 手でパタパタと顔を仰ぐのは彼だけではない。哉生明・イングリド(a03908)もまた額の汗を拭うとビシィと風上にその指を突きつけて叫ぶ。 「桜、待っていらっしゃい。その姿、あたくしの眼にしっかり焼き付けて見せましてよ!」 高笑いすら聞こえてきそうな気合いの入り様。それをのんびり見つめながら木陰の医術士・シュシュ(a09463)は沢山抱えてきた風呂敷包みをヨイショと男性陣に持たせながら笑って言う。 「お重箱一杯にお弁当作ってきちゃいました」 「シュシュ、それの匂い漏れ防止に油紙使う?」 「あ、イングリドさんありがとうですー♪ 久々の遠足楽しみですよ。それにしても――」 彼女は刀弧九重・ノーヴェ(a16645)が手にした桜の花びらに注目する。 「掌大の花びら……流石ワイルドファイアはスケールが違います。楽しみですねぇ」 「これを手がかりに出来れば良いです、けど」 小さな瓶に花びらを入れてノーヴェも微笑む。香りや色などの状態を出来るだけ保って、動物達を頼りに探せれば良いのだが。 赤と白の狩人・マイト(a12506)も淡い桃色の花びら見て目を細める。 「巨大桜ですか……さぞ美しい花なのでしょうね……」 「その巨大桜って奴を探し当てる前に、バテてなければいいんだけどな……」 アルバートは汗を拭きながら、ちらと一番張り切っている男に目を向けた。 「う〜ん、流石は、ワイルドファイア! 雄々しき大自然。巨大かつ美しき獣達。ほれぼれしてしまう程の、生命力!」 饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)はバナナをもぐもぐ食べながら、感動に打ち震え声を上げる。 「……いやいや、見とれている場合ではない。この奥ではかの素晴らしき枝垂れ桜が、我々の訪れを待っているのだから!」 のっけからの超ハイテンション。本当にバテなければ良いのだが。
「これが噂のマンも……でっかー!」 灼杖の紋商術士・クィンクラウド(a04748)は雄大な自然の神秘に文字通り触れ、感じながら感動して叫ぶ。いや、巨大亀に何か踏み潰されてウリウリされてるんですが。 「うむ、それもまた神秘である!」 納得してないで助けろアレク。 「さて、こっちが南ですから西はあちらになりますわね」 風向きと太陽の位置を確かめるイングリド。何せ広い森だ。迷わない様にしなくては。 一行は花びらの飛んできた方向に歩を進める。その際、周囲の地面や草むらに目を向けたり、鳥などの動物がいないかを探してみる。 「……私の思った通りだな」 アレクはシリアスな顔をして何かを拾う。土にまみれたやはり大きな花びらだ。他にも落ちていると言う予想は当たった。そしてそれは同時に進む方向に間違いは無いと言う意味でもあった。 「間違いなく、同じ花びらです、ね」 ノーヴェは瓶に入れた花びらとアレクが拾ったそれを見比べる。他にも無いか、探しながら彼らは進むと再び風と共に桃色の何かが飛んでくるのが見えた。 「あ、また、花びらですね……。あっちの方からやってきたので、多分、風向きは……」 マイトは風の方向を指でなぞるようにする。所々に散る花びら。だが、大まかな方角は掴めても具体的な位置まではなかなか掴めない。風とは、そう、気まぐれなモノだからだ。
「さっくら♪ おべんとっ♪ おべんとうっ♪ お弁当♪ お弁当お弁当ッ!」 謎の唄を口ずさみながらご機嫌に進むは月下に舞う蝶・アシュレイ(a10003)。段々食い気重視な歌になっているあたり、花より団子と言った所だろうか。 「美味しいんだろうなぁ、シュシュの手作り」 じゅるりと風呂敷包みの中の重箱に顔近づけるアシュレイ。クンクン匂い嗅いでも匂いは漏れない様になっているのがちょっと残念。 「アシュレイさん、ヨダレヨダレ」 「……はっ!? いやいやっ桜も楽しみだよ、勿論、うん」 「とりあえず拭いてから言って下さい」 シュシュにハンカチで口元ぐりぐり拭かれるアシュレイ。 さて、花びらを途中途中で拾いながら、マイトは不思議な色した植物を観察してみたり、ノーヴェも果物を物色してみたりする。 「これ食えそうだなぁ……うぉっ!? これバナナか? でけーっ!」 果物採取していたクィンはワイルドファイア名物巨大バナナ発見。一振りの剣ほどのサイズはあろうか。良くバナナはおやつに含まれるかと言う論争を聞くが、これは果たしておやつと言って良いレベルなのであろうか。 「あんまり大きいと運ぶのも大変ですし、食べる分だけ包丁で切って採れば良いと思いますよ」 シュシュは食べ頃の果物を見つけては、そう言って採取する。 「桜の近くに水場があれば冷やして後で頂けるんですけど。鍋背負ってきましたし、簡単なデザートだって作れますよ?」 「うわぁ、シュシュ凄いや。そうだなー、ボクも何か作ろう……って」 尊敬の眼差しでシュシュを見つめていたアシュレイ、ペチッと自らの額を叩いて苦笑い。 「ちゃっはー、ボク料理下手なんだった☆」 「あらあら。それなら教えてあげますよ」 「ホントー!? わーい♪」 やんちゃなアシュレイの笑顔にシュシュの顔も自然と綻ぶのであった。
『チチチチ……』 聞こえるは鳥の鳴き声。見上げると色鮮やかな鳥達が木の枝に止まって物珍しそうに此方を眺めている。 「♪御機嫌よう美しき鳥の諸君 ♪私は遠きランドアースの地より参ったアレクサンドラという者」 丁寧に獣達の歌を用いて挨拶を交わすアレク。興味が湧いた鳥達は間近まで舞い降りる。怪獣と比べれば大した事はないが、それでも鳥達が翼を広げれば優に1m越す大きさ。 「鳥は行動範囲が広いから桜の事知ってるかも知れないな?」 そう考えたクィン。イングリドは優しく微笑んで獣達の歌で尋ねる。 害意の無い事を。瓶に入った花びらを見せ、それと同じ物を見た事がないか、同じ香りを知らないかを。 『確かここからもうちょっと行った所にこの色をした木があったなぁ』 『うん、あっちだよ、あっち』 どうやら鳥は知っているらしい。そこに重度の鳥好きなクィンは興奮した様子で問う。 「♪本当か? ♪案内してくれたら団子やるぞ」 『団子ってなぁに?』 文明とは無縁の地。それが解らない鳥に持ってきた団子を与える。ごっくん。良く解らないけど美味しい物を貰って満足する鳥達。他にもシュシュが途中で摘んできた果物も啄み、お腹一杯になる鳥たち。 「♪あなたのように大きくて綺麗な鳥に初めてお目にかかった、是非お友達に――」 『おいしかったよ。ありがとー♪』 ばさっ!ばっさばっさばっさ…… クィンが鳥達を口説く前に、つれなく行ってしまった。がっくり肩を落とすクィン。 「うぅむ、共に花見が出来ないか誘ってみようと思っていたのに」 残念そうに見送るアレク。背に乗せてって貰えないかと期待してたのは此処だけの秘密である。 「アルバートさんの獣達の歌も期待してましたけど、出番無かったですね」 「ん? あ、ああ……」 マイトの残念そうな視線はアルバートが吟遊詩人であるからこそ。しかし当の本人はその辺の石に腰掛けたまま、その台詞に冷や汗浮かべていた。 (「言えない……体力無いから既にへばって、歌う気力も無くてアレク達が鳥と話してる間に身体休めてたなんて……」) 実は息が切れてたり足が棒になってたりしているアルバート。しかしそこは男の意地というか面子というか、そんな素振りを見せない様にしている。 「それじゃ、鳥は西の方向を示していましたから其方に向かいましょう。アルバートさん、良いですか?」 「やれやれ、道程はまだ長そうだ――なっ!?」 ふくらはぎに走る激痛。俗に言うこむら返り。要は足を攣ったのだ。流石体力が無いと自負するだけあり、表情で誤魔化せても筋肉は誤魔化せなかった模様。 彼がシュシュの応急処置を受けている間。クィンは鳥にフラれたんでまだイジケている。 「ドンマイ俺……家に帰れば愛鳥がいるさ。浮気するなって事だろ、うん」 地面に「の」の字。哀愁と呻き声が同時にそこに存在した。
鳥の教えてくれた方向に確信を持って進む一行。 むにゅ。 ……アレクの足下、何か踏んだ感触。 『シギャーーー!』 「うぎゃーーー!?」 蛇であった。それも太くてでかくて長い。踏んだのは尻尾の先の細い所、と言っても大人の腕程の太さ。胴体となると大人の胴体の二倍程の太さを持つ。 「あ、謝れ、早く!」 「う、うむ、誠にもって申し訳な――」 「獣達の歌使わないと通じないってばーーっ!?」 「逃げろーーっ!!」 慌てて獣達の歌を使うどころではなく、いきり立った大蛇は問答無用で襲いかかってくる。 「はぐれるなっ! 固まって逃げるのだ!」 叫ぶアレク。こんな森の中ではぐれては大変だ。 彼らは全力で走るも、蛇も意外と早い。時折鎌首をもたげてバクッと噛み付いてきたりするのをすんでの所でかわす。 「はぁ……はぁ……! な、なんか、お、俺ばかり、狙われているのは、き、気のせいか!?」 「気のせいじゃ、無いと、思い、ます!」 息を切らせながらアルバートは悲痛な声を上げ、ノーヴェはそれを肯定する。そう、何故か蛇はアルバートばかり狙っている。 「やっぱり鳥さんだから、美味しそうに見えるのかなぁ?」 走りながらアシュレイが首傾げる。アルバートは全力で否定したい気分だったが、可能性の高さは頷ける物であった。 ずでーんっ!! 素敵に転ぶ音。アレクが自らの服を踏みつけて盛大に転んだ模様。 皆がそれに気づき、振り返り見ると蛇は大きな口を開けてアレクに襲いかかろうとしている! 「あまり傷つけたくないんですけど……ごめんなさい」 マイトは素早く影縫いの矢を放つ! 大蛇の落とす影はその巨体に見合って大きく、アビリティの矢がそこに突き刺さると同時に大蛇の動きが止まる。 走り寄り、ノーヴェはチキンスピードで皆の行動速度を高める。早くアレクを回収して、麻痺が解ける前に逃げなければ。 「アレク、大丈夫?」 「ううむ、済まないな皆……」 抱き起こし、急いでその場を離れ逃げようとする一行。出来るなら無駄な殺生はしたくないから戦いは避けるつもりなのだ。 だが、彼らが走り出したと同じ頃、蛇が動き出す! 『シャーーッ!!』 赤い舌をチロチロ見せながら目を血走らせる蛇。だが、 『♪〜〜』 響き渡る歌声。アルバートだ。眠りの歌により、蛇はその頭を落とし、ずぅん!と大きな音立てて地面に崩れる! 「やりますわね、アルバート!」 イングリドの賞賛に、彼は苦笑して答えた。 「これでも吟遊詩人の端くれだ。やる時はやるぜ」 さっきの面目躍如と言った所か。蛇が寝ている間に皆は急いで桜の木に向かって走ったのであった。
「花びらの道……凄く綺麗ですわね」 緩やかな風によって巨大な花びらが流れてきたのか、進む毎に地面がピンクに染められていく。 ふと、木々が途切れた。長かった森を抜けた所にちょっとした広い空間が出来ていた。 そして、その中央には……
巨大な、枝垂れ桜が咲き誇る。
視界全てを埋め尽くす様に巨大な桜の枝が広がる。 青空すら桜色の屋根は覆ってしまう。 「ほぇぇ……」 余りに壮大に美しい光景に、8人は思わず口を開けたまま見上げ、言葉を失ってしまう。 「それじゃ、無事に着いたし皆で乾杯だね!」 呆ける皆の意識を戻すかのようにアシュレイが明るく促した。やっとお弁当が食べれる……彼女の思考はそればかりなのだが。 マイトやアルバートは積極的に手伝い、敷物を敷いて持ってきたお弁当を広げる。 「うわぁ、綺麗なお弁当!」 シュシュが作ったお弁当は鮭・イクラ・桜でんぶ等を散らした桜色のちらし寿司。鮮やかな色合いは上空の桜の花にも負けやしない。 他にも桜の花の塩漬けを混ぜたご飯で握ったオニギリも可愛らしく。オカズはウナギや野菜の煮物入れた出汁巻き卵に鳥の唐揚げに、デザートに桜餅に。 イングリドも負けてはいない。彼女が作ってきたのは苺ジャム混ぜて焼いた桜色のパン。それを切ってハムやチーズやドライカレー等を挟めば即席サンドの出来上がり。 オカズもオムレツにタコさんウィンナー、デザートはチェリークラフィティ♪ アレクも実は自ら弁当を持ってきていた。通常サイズのオニギリの他、巨大なおにぎり。ボール大はあるかも知れない。 「ワイルドファイアっぽいだろう?」 そうアレクは満足そうに言う。食べきれるかは別の話だけど。 「それでは、美しい桜と美味しそうな弁当に、乾杯!」 アレクの音頭に皆グラスを掲げて乾杯。見目も味も素敵な弁当に、皆舌鼓を打つ。 「あれ、ノーヴェは?」 イングリドは首傾げ、キョロキョロ周囲探す。彼の姿が見当たらない。 「ここ、ですよー!」 いつの間にか巨大桜に登っていたノーヴェ。見上げるのも良いけども、360°全周囲が桜色なんてまず普通は見られた景色ではないだろう。 「落ちないで下さいねー! そろそろ暗くなってきたし、夜桜も風流かも知れませんね」 シュシュはそう言うとホーリーライトの明かりを照らす。夜の帳が降り、その光に照らされた桜もまた、美しい。 「さて、そろそろ一曲披露するかな?」 「旅団の皆さんには久々ですね、私の舞をお見せするなんて……」 アルバートが杯を飲み干し、マイトはゆっくりと立ち上がる。 朗々としたアルバートの歌声に合わせ、マイトは優雅にしずしずと舞う。ヒラヒラと舞い落ちる花びらと薄明かりの下、とても幻想的な夢心地を皆に与え。 ピィィィン…… 最後に軽く弓を鳴らして舞は終わる。静けさが残り、皆その余韻に酔いしれる。 「常夏の大陸の桜というのも、風流ですねぇ」 「本当だな。桜は世界中どの大陸でも同じ美しさをこうして我々に見せ、感動を与えてくれるのであるな」 シュシュは目を細めて静かに言い、アレクも感動に酔いしれた。
後日。アレクの屋敷にはその日拾った大きな桜の花一輪が花瓶に飾られていた。 クィンの作った押し花は記念に額に飾られ、ノーヴェの作った桜の花びらのジャムはしばし皆の食卓を彩ったと言う事である。

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参加者:8人
作成日:2005/04/30
得票数:冒険活劇1
ほのぼの12
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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