届けるもの



<オープニング>


 これを届けて下さい。
 たったそれだけでいいのです。
 でも、本当は……

 道中に野生動物が出る。
 本当は護衛の依頼にして、自ら赴きたいが、諸事情でそうできない。
 そんな理由から、今回の依頼は、頼まれた荷物を運ぶだけという、大変地味な内容。
 しかしそれにしては、伴ってゆく人数が多くはあるまいか。
 いぶかしむ酒場の冒険者らに、品を託された霊査師は、険しい表情を覗かせる。
 届けるべき品は、前に持ち主がやってきた時に、忘れていったものだ……依頼主は、そう説明したそうだ。
 他にも何か言いたげな様子はあったものの、品を託すと、依頼主は他に用があると、すぐに去ってしまった。
 様子がおかしいと思い、託された品を霊査し……そこで、ただ荷物を届けるだけでは駄目だと、判断した。

 誰か言い争う姿が見えた。
 片方は、依頼主。
 暫くして。依頼主でない方が、何かをテーブルに叩きつけて、出て行ってしまった。
 叩きつけられたそれは、届けて欲しいと言われた、この品。

 景色が変わる。
 雨。
 山を背に立つ小屋の中、先ほど出て行った者が、何か作業をしている。
 雨が激しさを増す。
 ……俄かに。
 山から転げ落ちてきたのか。
 小石が、窓を叩いた。
 振り返った先。
 山から土が、滑り降りて……

 視えていたものは、そこで途絶えた。
 もう起こってしまったのか、それとも、これから起こるのか。
 もし起こっていたら、助け出さねばならない。
 まだであるなら、そこから引き離さなければならない。
 どちらにしろ、一刻を争う。
 取り急ぎ、この品を届けに向かって欲しい。
 どうか、急いで。

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参加者
風睡星・クゥリッシュ(a00222)
翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)
臥竜の験者・フェルディナン(a06510)
緑薔薇さま・エレナ(a06559)
月影の魔術師・バイビレッジ(a13869)
恐怖を乗り越えた・ライアット(a16001)
男爵・クッカード(a21051)
奏でるは悠久の旋律・ククル(a22464)
蒼き夢の旋律・セレスティアル(a22728)
火の・ハンソー(a22844)


<リプレイ>

●進行
 酒場を発った時には青々としていたのが、今はもう見る影もなく。鬱葱とした灰色の雲は、行く先の空までもびっしりと覆い尽くしている。
 依頼を受けた十名は、運送屋・ハンソー(a22844)と、彼の持つ荷物とを護るように、閑散とした道を急ぐ。それほど大きくは無い荷物は、大切に布に包まれ、更にそれをがっちりと掴むハンソーの両手の中。
 俄かに、いつもより臆病者の勘を頼りにしていた、奏でるは悠久の旋律・ククル(a22464)に胸騒ぎ。様子に気付いたドリアッドの舞踏家・エレナ(a06559)が、今にも旋空脚で出てきたものを蹴散らしてしまいそうなハンソーを背に、一歩進み出る。
「お届け先をお願いしますわね」
 そうなのだ。
 届けるべき先にある、憂慮すべき事柄。
「今の内に」
 草木の陰から現れた動物達を、見習い翔剣士・ライアット(a16001)がスーパースポットライトで引き付ける。ククルも獣達の歌で、動物に道を空けてくれるよう歌いかけた。
「邪魔しないで頂戴な〜♪」
 そうして、動物達が気を取られ、足止めされている隙に、先行班は届け先の小屋へ向かうべく、次々遠ざかる。
 だが、見送ってばかりも居られない。
 こちらも急がなければ。
 エレナはどうしても退かない動物達の輪に飛び込むと、そこで眠りの歌を歌い始めた。一部に対して説得が無理だと察したククルも、獣達の歌から眠りの歌へと切り替える。
「寝る〜♪ 寝るとき〜♪ 寝れば〜♪ ……寝・ろ♪」
 くわっ!
 怖。

●先行
 先頭を突っ走る、翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)の前に、多少の野生動物などはある意味問題にならなかった。
「ちょっと乱暴では……」
 眠りの歌で眠らせるより早く、進路に現れたが最後、ナタクに吹っ飛ばされる動物を前に、蒼き旋律・セレスティアル(a22728)は複雑な心境。
 同じく、獣達の歌で退いて貰う前に容赦なく退けられた様を目にして、臥竜の験者・フェルディナン(a06510)が、ナタクには様々で危なそうな二つ名があるとかないとか、そんな噂を思い出す。
 とはいえ、進行は順調だ。後続の本隊のように、荷物を気にしながら進む必要がない分、進路上のものだけ退けてしまえばよい。
 ふと。
 風睡星・クゥリッシュ(a00222)の防水マントに、飛沫。
「雨が……」
 水滴は徐々に数を増し、また別な意味で進路を害す。
 視界が悪くなる前に。
 向かう先を遠眼鏡で覗き込んだ月影の魔術師・バイビレッジ(a13869)が、雨水の重みに目深な三角帽子を押し上げる。
 何軒かまばらに建つ家。
 その中で、山を背に建っているのは……
「まだ無事だ、急ぐぜ」
「大変嫌な予感がしますぞー!」
 臆病者の勘なのだろうか。注意を促しながら鎧進化で複雑な形状と化して行く男爵・クッカード(a21051)の姿に、皆は土砂崩れまでそう間がないことを悟る。
「あのーぅ……」
 いくら人命が掛かっているといえど、いきなり飛び込んでしまうのは……しかし、外から声をかけようとしたクゥリッシュの脇を抜け、バイビレッジとクッカードが遠慮無く扉を開けて入り込んでいった。
「助けにきましたぞ!」
 唐突に飛び込んできたずぶ濡れの集団に、届け先の小屋に居た者は、目を丸くして作業の手を止める。
「時間がねぇんだ、行くぜ」
 問答無用で腕を引くバイビレッジに、住人ならずフェルディナンも困り顔。
「せっかちな方々ですね」
 説得の間もないと嘆息しながらも、こうなっては一刻を争うと、クゥリッシュと共に土塊の下僕を喚び出し、作業に使っていた荷物の運び出しを命じる。
 引っ張り出されて来る人と、土塊の下僕が運び出す荷物を不安げに見つめ、蝋を塗ったマントを被ったセレスティアルが、雨の中で待つ。
 その時。
 クッカードのとさかがびびんと震える。
「こっ、これはいけませんぞ!」
 そして、聴こえた。
 雨に混じり、窓を叩く小石の音が。

●土砂
 降りしきる雨。
 崩れ落ちた大小様々な土と、それに押し流されたのであろう、小屋の残骸。
「こいつぁ骨が折れそうだな」
 雨粒すらも触れさせぬといった様子で荷物を抱えながら、ハンソーが目の前の光景に眉をひそめる。
 いや、既にこのような状況であることは、予想のうちなのだが。
「皆さんはどこですの?」
 救出用に用意しておいたスコップを手に、エレナが辺りを見回すが、それらしい人影が作業している様子はない。
 その時。
 呼びかけをしようと、滑り止めの縄を巻きつけたブーツで歩むライアットの足元で、瓦礫が動く。
「クゥリッシュさん!?」
 慌てて手持ちのシャベルで瓦礫を退けると、クゥリッシュがそこから這い出て、本隊の到着にまずは一息。
「どーなっちまってんだこりゃあ?」
 ハンソーのもっともな問いかけに、しかしまたその近くで僅かに動いた土砂を見つけ、エレナが物凄い速度で掘り返す。別の場所からは、いつ出てきたのかフェルディナンの姿が。
「少々脱出が遅れてしまいまして」
「全員巻き込まれた、って事ですね♪」
 既にシャベルで救出作業を始めているククルに、エレナに引っ張り出されたセレスティアルが、翼の泥を軽く払いながら頷く。
「わたくし達は、比較的浅くて済んだのですが」
 ナタク達は届け人を護る為、あえて一緒に埋れたのだという。
「仕方ねぇな」
 凡その状況を見て、荷物を安全そうな場所……付近で心配そうに見守っている住人の一人に預けると、ハンソーは爆砕拳で瓦礫も土砂も構わず吹き飛ばし、穴を穿つ。
「急ぎましょう。更に崩れないとも限りません」
 新たに喚び出した土塊の下僕達と共に、フェルディナンがシャベルでめぼしい場所を掘り返す。
「出てきて! 土の子供達!」
 こうなればもう人海戦術。セレスティアルも、もてる全ての力でありったけの土塊の下僕を喚び、自らもシャベルで救出に加わる。
 そんな中。
 隙間に向けて呼びかけた、ライアットの声に反応するかのように、僅かな何か。
 雨音にかき消され、鮮明には聞き取れないが……
「皆さん!」
 ライアットの呼びかけに、クゥリッシュが急いで駆け込んできて、共に耳を澄ます。
 やはり、聴こえる。
「みんな! ここを!」

●脱出
 真っ暗く湿った土。
 僅かに出来た隙間に、卵型の何か。
「助かりましたぞ」
 それは、共に埋まった者達を護る為、鎧進化を施したクッカード。届け先の人は失神しているのか、反応はない。ナタクは上下を確認して、つっかえ棒に使った建材を軽く小突く。
 到着直後。説得や連れ出しは他に任せ、ナタクは万が一の為にと、埋れても安全な場所と、道具を物色していたのだ。
「ちょっと狭いけどね」
「咄嗟にしちゃ上出来だぜ」
 暗がりの中、夜目で互いの位置を確認し、バイビレッジが周囲の土砂から土塊の下僕を生み出していく。
「下僕共、しっかり抑えてろ」
 言われるまま、下僕達は周囲の土を身を呈して押え、これ以上空間が狭まらないようにする。クッカードはしかし、皆を支えているせいで、手が塞がって動けない。
「どなたか。私のオルゴールを開いてくれませんか」
「オルゴールは音届かないかも。そうだ、代わりに吹いてて」
 ナタクはぽいっとクッカードのくちばしの先にホイッスルを突っ込むと、天井に向け、爆砕拳の体制を取った。
「こっちからも出るよっ!」

 徐々に確実な音となっていくホイッスル。
 数多くの下僕達と共に掘り進められたそこは、もう随分な深さに達していた。
 俄かに。
「あらあら。ナタクさんですかしら」
 シャベルを持つ手を一旦休め、エレナが不審な場所に目をやる。マントをさっきよりもきっちり着込み、セレスティアルが小走りにやってきた。
 その瞬間。
 泥だか土砂だか判らない塊が、噴水のように吹き上がった。
 雨と共に降る泥をマントで防ぐセレスティアル。
「そんなに派手にぶっぱなして……大丈夫か?」
 穿たれた穴から拳を覗かせるナタクの姿に、ハンソーは呆れ顔。
 ナタクが穴からひょいと飛び出ると、続けてバイビレッジと、彼の下僕達が人を抱えて這い出てきた。ライアットがすぐ様その人を毛布で包み、クゥリッシュが皆も一緒にヒーリングウェーブで包み込む。
「ご主人様〜」
 出て来ないクッカードに、ククルがにこにこ顔で穴を覗く。
「ケーキとお紅茶が待ってますわよ〜♪」
「ぴょっ、ぴょれぷあ、ぴそがぺば!」
 暗かったせいなのだろうか。
 ホイッスルの穴に、くちばしの先が刺さっていた。

●完了
「ホラよ、お届け物だ」
 汚れた布を剥ぎ、ハンソーは包んであった荷物を手渡す。
「この品がなければ、あなたの危険に気付くことは無かったのですよね」
 セレスティアルが微笑む。バイビレッジは事も無げに帽子の泥を払い、横目でちらと荷物を見やる。
「何か言いたそうだったぜ」
「忘れ物だと言われましたが」
 本当は、持っていて欲しいものなのだろう。だから、届けさせた。
 フェルディナンの言葉に、ライアットが頷く。
「もう一度会いたいと願っているのでしょう」
 手の平に転げ出た品……腕輪を見つめ、荷を受け取った人は目を伏せた。
 些細な喧嘩。
 だから、ほとぼりが冷めたら。
 新しい仲直りの印を持って、会いに行こう。
 でも、それは、瓦礫の中に消えてしまった。
「命とやる気さえあれば、何だってできるものですわ」
 兎に角は、一度戻ってゆっくり休んで、全てはそれから。
「そうさ」
 説き伏せるようなエレナの横で、ハンソーがにぃと笑う。
「命より重い荷物なんざ、そうそうねぇもんだぜ」
 雨上がり。
 見上げた空に、虹が出ていた。


マスター:BOSS 紹介ページ
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