<リプレイ>
●悪いお化け 村はすっかりお祭り色だった。かぼちゃで作ったランタンが灯を灯されるのを待ちながら軒先で揺れている。 リザードマンの脅威から解放され、祭りをするだけの心のゆとりが出てきた村を、獅子の娘・レオフラウ(a00880)はくわえ煙草で見回す。 「お祭りか……こういうの、良いよね。お祭りは良いお化けに任せておいて、悪いお化けの方は私たちで退治と行きましょうか」 この祭りはウィン村の災厄を払う大切な行事。村人の為にも、お化け役として祭りに参加する冒険者たちの為にも、悪いお化け……アンデッドは倒さねばならない。 アンデッドがどこから現れるかを突き止めるため、金髪の・アゼル(a00436)はまず村の墓地へ向かった。 墓石や盛り土に不自然な処があるか確認して回ったが、付近の土はどこも乾いて平らであり、ひび割れも崩れも見あたらない。 「ここではなさそうだな」 アンデッドだから出現は墓場。そう決め込んでいたら裏をかかれることになり、対応は後手に回ることになっただろう。 「最近、死者は出ていないのか?」 アゼルに尋ねられ、墓参りをしている村人は首を振る。 「ありがたいことにここしばらくは誰も亡くなった人はいないんだ」 「この一年で亡くなった子供さんもいないのでしょうか?」 闇に舞う白梟・メイプル(a02143)が確認するように問うと、村人はこれにもすぐ答える。 「うん。なかったよ」 「最近、この近くで落盤や崖崩れはなかったか?」 御隠居・クァル(a00789)の質問に、村人は村からなだらかに繋がる山を指差した。 「2年ぐらい前だったかな。雨が続いた後、あの山が崩れたことがあったよ」 「それで亡くなった人は?」 「この村にはいなかったけど、隣町では行方不明になった人が出たんじゃなかったかなぁ」 村人はそれ以上のことを知らなかったので、3人は隣町へ赴いて行方不明者について尋ねてみた。 「地盤が緩いからやめとけって言ったのに、山に出かけていった家族がいたんだ。帰ってこないから心配して探しに行ったら、崩れた崖の上に子供の靴だけが残ってて、飼ってた子犬がその前できゅんきゅん鳴いてた……。結局その家族は見つけられなかった。犬はその場から動こうとしないから、諦めて山に残して来たんだが……どこかで生きているといいな」 教えてくれた人に頼んで連れて行ってもらった崩落現場は、土地が不自然に落ち込み、むき出しになった岩の間に短い草がところどころに生えていた。 「土に食い込み岩をつかむ両手と転がる小石。大きな2体と小さな1体。肩幅よりやや小さい程度のものが1体。リゼル姉ぇがいってたのはこれだな」 とすれば、アンデッドは山からやってくる。冒険者たちはその場所から村への経路を確認した。
●祭りの夜 ウィン村に祭りの夜が来る。かぼちゃのランタンから漏れる光が道にぎざぎざの光と影を投げかけ、子供たちは訪れるお化けへの不安と期待をこめて窓を見上げ。 「ナイジェルさん、女装似合うね♪」 ストライダーの武人・ルシエラ(a03407)ははしゃいだ様子で暁月の豹牙・ナイジェル(a02553)の扮装を眺めた。 「強そうだとアンデッドに逃げられるから、男に見えない方がいいだろ?」 ゆったりした黒の衣装に長く金髪を垂らしたナイジェルは、遠目どころか近くから見ても女性そのものだ。 「うん。ちゃんと女の人に見えるよ。黒の衣装も似合ってるね♪ 私もお仕事が終わったらお祭りの衣装に着替えるつもりなの」 ルシエラはうきうきと、大きな荷物を指した。 「そのためにもアンデッドはさっさと倒さないとね」 ぱきっと指を鳴らす翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)の肘には籠がかけられ、中には米で作った醤油味の焼き菓子と、甘く煮た餡を薄い皮でくるんだ菓子が山盛りに入っていた。村の子供たちに渡す為のものだ。 「周りが暗ければ人とアンデッドは見分けられるんだけど……」 紅魔医師・ルビナ(a00869)は村に飾られたカンテラ、空に浮かぶ月、仲間の持つ灯りに目を移す。エルフの目は便利なものだけれど、明るければその特殊な使い方はできず、かといって暗闇ではアンデッドの姿自体を見つけることができなくて危険だ。 「こうなったら私の15歳以下探知レーダーに頼るしかないわね」 「期待してるよ。でも、美少年のアンデッドだったらどうなるのかな?」 ナタクに聞かれ、ルビナはう〜んと首をひねる。 「……やっぱり見た目次第かしら?」 アンデッドにときめくのはちょっと嫌かもしれない……。
アンデッドが山から来るのを想定して作ったルートを、冒険者は2つのグループに分かれて巡回することになった。 そのうちにも祭りが始まり、あちらこちらから笑い声が漏れ聞こえてくる。 途中、身体をぐるぐる包帯巻きにしたアズフェルと白いポンチョを着たエミリーのお化けペアを見つけ、ぎょっとしたりもしたが、いきなり殴りかかったりはせず落ち着いて相手を見極める。 「変な人がいるの……」 ルシエラが怖々と指差す処には、半裸に金粉というとんでもない格好をしたアルベリックと、その後を小走りでついていくミリアムの姿。 「ある意味、アンデッドより危険だね」 レオフラウは苦笑して、2人が村人の家に入っていくのを見送った。家の中であがった叫び声は何に起因するものやら。 やれやれと肩をすくめかけたレオフラウは、視線の端を横切る影に気づいて素速く身を返した。 ボロ布をひきずった一団が声もなく通り過ぎて行こうとしている。大きな影2つ。少し離れて小さな影1つとその足下にも影1つ。 「こんばんは〜♪」 ルシエラがかけた声にそれは顔をあげ……いきなり襲いかかってきた。 真っ先に動いたのはナタクとレオフラウだった。2人の拳が襲い来るアンデッド2体を捉え、容赦なく叩き込まれる。体勢を崩した処に、ナイジェルの旋空脚がうなりをたてて命中し、男性のアンデッドは吹っ飛んだ。衝撃でめくれた布の下から、半ば白骨化した身体がのぞく。と、そこにルビナの撃ち出した針が突き刺さった。 男性のアンデッドは倒れながらも腕を振り回し、レオフラウの足に歯を立てた。女性のアンデッドの方は、ぎざぎざに割れた爪でナタクを一閃する。 「えいっ」 ルシエラは居合い斬りで長剣を抜きざまにアンデッドに叩き込んだ。 瀕死になってもまだ足に歯を立てているアンデッドを、レオフラウは爆砕拳で仕留め、食い込んでいる顎を両手で外す。 ナタクは女性のアンデッドをがしっとつかむと、裏の通り名『ゴウリュウ殺しのナタク』に恥じない迫力で剛鬼投げをかける。 残った女性のアンデッドも、冒険者たちの攻撃の連続に、永遠の眠りへと戻っていった。 「子供の方には逃げられた……」 戦いの様子を見て逃げ出した子供のアンデッドをナイジェルは追ったのだが、間に合わず。逃亡防止にだけ動けばあるいは間に合ったかもしれないが、アンデッドへの攻撃をしてからでは遅すぎた。 冒険者たちは手分けして付近を探したが、アンデッドを発見することは出来なかったのだった。
●いたずらか…… 「鳥買ったり〜♪ 虎買ったり〜と♪」 すっぽりと布をかぶったクァルは、かぼちゃのランタン片手に村をふらふらと歩いていた。 「……それを言うならトリック・オア・トリートだろう」 離れて様子を見ているアゼルが呟くが、そのツッコミはクァルの耳には届かない。祭りに浮かれる子供のように、クァルは飛び跳ねながら怪しい言葉をふりまいている。 「とぉぉぉりぃぃっくぅぅぅぅおあぁぁとぉぉりぃぃぃとぉぅ」 すれ違う白のお化け役のシドゥの間延びした呼びかけも、怪しさの点では良い勝負かもしれない。シドゥとペアのミントは巡回の冒険者に軽く頭を下げると、お化け役としての仕事に戻った。 黒のお化け役のリーナとセイガは、服の裾をひらひらさせながら、踊るような足取りで家々を回っている。 参加する立場は違えども、どちらも祭りを成功させる為に動いているのには変わりない。お化け役の冒険者の為にも、逃げたアンデッドをおびきだし、倒しておかねばならない。 クァルは村の子供を装いながら、村をねり歩いた。 そこにそっと小さな影が寄る。 クァルの持つランタンの灯りは抑えられており、後を追うアゼルとメイプルは灯り自体を持っていない。だから、気づいた時にはその影はもう間近にいた。周囲が暗いのにエルフであるアゼルの目にその影は捉えられていなかった。ということは……。 子供のアンデッドは飛びかかりざま、クァルの肩にがぶりと噛みついた。クァルはそれに耐えて、普通の子供のように恐がり続ける。 「うわぁ〜〜ん。お化けが出た〜」 子犬のアンデッドに体当たりされ、クァルは地面に転倒した。それに乗じてクァルの喉笛を狙おうとする子供のアンデッドに、アゼルが素速くスピアを繰り出した。 怪我を負った子供は逃げようと身を翻す。と、そこに、ハイドインシャドウで回り込んでいたメイプルが、ドラゴンハーツ・ダガーの居合い斬りでとどめをさした。 「呪われた生ではなく、みんなの中で生きなさい……温かい心の中で……」 子犬のアンデッドは動かなくなった子供に気づくと、向きを変えて逃げ出した。それをメイプルの飛燕刃が捉える。それだけの攻撃で、子犬はあっけなくその場に倒れた。 死してなお子供と居続けた子犬も、やっと静かな眠りを得る。 死者の祭り、かぼちゃ月夜の光の中で……。
●ごちそうか…… アンデッドを倒して広場に行くと、ちょうど祭りの勝者が発表される処だった。 「今年のお化けは……白です!」 黒のお化けに扮した冒険者たちは村から走り出てゆき、白のお化けたちはもてなされる。 アンデッド退治に参加した冒険者たちにもかぼちゃ料理がふるまわれた。 白い天使の衣装に着替えたルシエラは、ご馳走をそっちのけでかぼちゃのランタンで遊んでいる。 「このランタン可愛い♪」 「ああ。よく出来てる。ランタンから漏れる光も温かで綺麗だね」 ナイジェルは楽しそうなルシエラの様子に目を細めると、かぼちゃのパイを頬張った。 甘くてほっこりしたウィン村のかぼちゃは、料理にしても美味しい。 「え〜、ほうとうはないの? 寒い夜のかぼちゃ料理といったらほうとうなのに」 ナタクは寂しさを噛みしめながら、熱々のかぼちゃスープを口に運んだ。その味が良ければ良いほど、これでほうとうを作ったらどんなにか……と無念さが募る。 「なあ、アゼル姉ぇ。鳥と虎はどこにいるんだ?」 祭りの日に鳥と虎を買うとお菓子がもらえる日だと勘違いしたままのクァルは、料理を食べながらも落ちつきなくきょろきょろと辺りを見回した。旅団に土産にするかぼちゃはしっかり確保。鳥と虎を買っていけば、かぼちゃと一緒に料理も出来そうだが、どこを見ても鳥も虎も見あたらない。 「かぼちゃ祭りだから鳥も虎も関係ない」 アゼルはクァルに答えながら、席をはずしているメイプルの皿に料理を取り分けた。
その頃メイプルは、村の子供と共に村の共同墓地に来ていた。かぼちゃのランタンを手に、小さな子供が眠る墓のそれぞれに、お菓子を置いてゆく。こうして思い出して悼むことが、せめてもの供養になればと。 ――菓子の最後の1つは、今日新しくたてられた4つの命が眠る墓へと供えられた……。

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参加者:8人
作成日:2003/11/08
得票数:冒険活劇3
ミステリ1
ほのぼの10
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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