【月夜見奇譚】朧桜〜アヤノの誕生日



<オープニング>


●新たな決意
 晴れ渡る空に咲く桜。大分暖かくなった風。
 月夜の剣士・アヤノ(a90093)は独り、ハヤトの墓前に花を供える。
「……ねえ。兄さん」
 報告という名の独白。すっかり習慣になってしまったそれを続ける。
「私、何が『望み』なのか……まだ良く判らないの」
 情けないよね、と自嘲の笑みを浮かべて俯く。
「でもね。大切なひと達に恩返しするまでは、辞められないし、辞めない」
 そう告げて。顔を上げて真っ直ぐ墓標を見る。
「……それで、いいと思う?」
 流れる沈黙。その問いに、答えるものはないけれど。
 ――何となく。
 笑った兄が、見えたような気がした。

●朧桜
「あのね〜。みんなにお願いがあるんだよ〜」
 冒険者の酒場。金狐の霊査士・ミュリン(a90025)の明るい声に冒険者達が振り返る。
「どうした?」
「えっとね。公園に出るグドンを退治して来て欲しいんだあ」
「……公園?」
 首を傾げる冒険者達に、彼女は椅子に腰掛けながら頷いて。
 ここから半日程行ったところに、ケルス公園と呼ばれる場所がある。
 小川や池などを内包する広い園内は桜の名所として知られ、桜が咲くこの季節には夜になると沢山のランタンが灯され、それはそれは幻想的で――。
 多くの屋台も建ち並び、昼夜問わず沢山の人が訪れるのだそうだ。
「桜の古木がいーーーっぱいあってね。この季節はとっても綺麗なんだよ〜。わたし、あの場所大好きなんだよね〜v」
 嬉しそうに言うミュリンに、冒険者達はふむふむと頷いて。
「そこにグドンが現れるってこと?」
「そうそう。そうなの〜。現れるのは夜でね。1匹だけで、食べ物が沢山あるところに来るみたいだから、捕まえるのはそんなに難しくないと思うんだけど」
 そう言って、冒険者達に期待の眼差しを向けるミュリン。
 例え1匹でもグドンはグドン。人に危害を加えかねないし、ましてや沢山の人がいる公園に現れるとあっては危険も倍増。
 なので、彼女のそのお願いは良く理解出来るのだが……。
「……なあ。グドン1匹にしては呼ばれた人数が多くないか?」
 お互いの顔を見合わせて言う冒険者に、彼女は良くぞ聞いてくれました☆ とばかりににっこりと笑って。
「4月の9日はね。アヤノちゃんの誕生日なの。だからね、みんなでお祝いしてあげて欲しいんだ♪」
 誕生日に桜の名所。
 そこに仲間達と一緒に出かける機会を与えてあげることが、ミュリンなりの誕生日プレゼントなのだろう。
「そう言うことか……分かった。それなら、誕生日祝いも頑張らないとな」
「そうだね!」
 そう請け負った冒険者達に、ミュリンは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「霊査した限りだから絶対とは言えないけど、当日は晴れそうだよ。折角だし、のんびり楽しんで来てね! ……あ。グドン退治も忘れちゃダメだよ?」
 言った自分が忘れかけていたのだろう。慌てて付け足す彼女に冒険者達が苦笑したその時。
 カランカラン……と酒場のドアについている鈴の音が鳴って。
「すまん。遅れた……ミュリン。事件だって?」
 息を切らせて現れたアヤノを、ミュリンと冒険者達は微笑んで迎え入れるのだった。

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参加者
月夜に永遠誓いし剣士・カズハ(a00073)
三代目雲龍の刀匠・レイド(a00211)
平和を望む剣・ローズマリー(a00557)
蒼浄の牙・ソルディン(a00668)
舞月の戦華・アリア(a00742)
お転婆医術士・チコリ(a00849)
自然と昼寝愛好家・ファンバス(a01913)
紅き紋章を描きし乙女・ショコラ(a02448)
暁月の豹牙・ナイジェル(a02553)
星影・ルシエラ(a03407)
希望と夜明けの銀狐・カーリエ(a11908)
旅人の篝火・マイト(a12506)
NPC:月夜の剣士・アヤノ(a90093)



<リプレイ>

●花見の前に
「夜だから人は少ないようだけど……」
「念には念を押した方がいいだろうね」
 辺りは夕闇。
 周囲を見渡す月華の舞姫・アリア(a00742)と蒼浄の牙・ソルディン(a00668)。
「そうだね。じゃあ、行こうか?」
「はーい」
「客寄せしようと思ってたのになー」
 2人の言葉に頷いて、連れ立って歩き出す暁月の豹牙・ナイジェル(a02553)と星影・ルシエラ(a03407)。その後を、残念そうに呟きながら希望と夜明けの銀狐・カーリエ(a11908)が追って。
「落ち着いてこちらに避難してください〜」
 そして、平和を望む剣・ローズマリー(a00557)の伸びやかな声が公園にこだまする。
 仲間達が一般客を誘導しているその間――。
「花見をしたい気持ちは分かりますが、分を弁えて戴きませんと……」
 そう呟く赤と白の狩人・マイト(a12506)の目線の先は小柄な猫グドン。
 お転婆医術士・チコリ(a00849)にグルグル縛り上げられて涙目になっている。
 あらかじめ決めておいた囮場所に、紅き紋章を描きし乙女・ショコラ(a02448)の手料理を置いて。
 アッサリ引っかかって現れたところに月夜に誓いし剣士・カズハ(a00073)の紅蓮の咆哮で見事にフリーズ。簀巻きの一丁上がりという訳で。
「……グドンの大群は?」
「誰が大群なんて言ったよ?」
 その様子を見て呆然とする月夜の剣士・アヤノ(a90093)にアッサリと答える赤き傭兵・レイド(a00211)。
「まあ、無事に済んで良かったよね」
 そんな彼女を自然と昼寝愛好家・ファンバス(a01913)が宥めて。
 そんなこんなで。任務は無事終了したのであった。

●朧桜
 天に届きそうな満開の桜で、月がぼんやりと霞んで見える。
 それはほんの一瞬の、夢のような光景で。
「……幻想的ですね」
 弓の調整の手を止め、目を細めて呟くマイト。
「一番大きな桜の下に場所を取っておいたのよ!」
 そして、お団子やリンゴ飴を抱えて胸を張るチコリ。
「そっちいいかしらー?」
「OKだ」
「ルシエラ座布団置くねーっ」
 敷物を広げるローズマリーとナイジェル、そしてルシエラも設営に忙しく走り回る中。
「花見と言えば大鍋料理ですよね〜♪」
「ショコラちゃん、アサリ洗ったよー」
「ええと……少し火から離れていいだろうか」
 そしてショコラとファンバス、アリアは料理に腕を振って。
 そんな仲間達に聞こえて来たのは、本日の主賓の声。
「皆は一体何をやって……ええ? 花見をしてからグドンを捨てに行く!?」
「そうだ。いいか。冒険者たるもの、無闇な殺生は避けるべきだ。如何に手を抜くかって言うのも必要なんだぞ?」
 驚きっぱなしのアヤノに、胸を張って力説するレイド。
 一理あるが、賛同するには躊躇われる話に、仲間達は目を反らしたり、曖昧な笑みを返したり。
「その前に……まだ重要な案件が残っているね」
 その中で、1人真面目な顔で呟くソルディン。
 何の事か判らず首を傾げるアヤノだが、彼の目線に何となく脅迫じみたものを感じて後ずさる。
「はいはい。アヤノはこっちね」
 そして、カーリエに背中を押されて座らされ、盃を持たされて。
 見上げると、天を埋め尽くさんばかりの桜の花――。
 飛び込んで来た光景に、暫し時を忘れて。
「お誕生日、おめでとうー!!」
 続いた仲間達の大きな声で我に返って、ようやく悟った。
 今日が自分の22回目の誕生日である事。
 そして、今年もまた、仲間達に謀られた事を。
「まずは乾杯と行きましょう!」
「お酒? あたしも飲む〜♪」
「あたしもー!」
 にっこりと笑うショコラに大喜びするチコリとカーリエ。
「2人共未成年だろう……」
「はずれ。こう見えてもあたしは立派な22歳よ!」
「ルシエラもー! お酒飲めるもんねー」
 アリアのツッコミに即答するカーリエ。ルシエラもエッヘンと胸を張って。
「じゃあ、チコリさんは私と一緒にジュースですね」
 マイトにあっさり窘められてチコリがむくれたりしたものの。
 ナイジェルの乾杯の音頭で、花見兼誕生会は恙無く始まった。
「ちょうどいい時期にこうして見れて幸せだねぇ」
「ええ。とても綺麗……」
 咲き乱れる桜を見上げて顔を綻ばせるファンバスとローズマリー。
 ――このグドンも、桜に惹かれてやってきたのかもしれないな。
 そんな事を考えつつ、煙草を燻らせて。ソルディンもぼんやりと桜を眺める。
「杏のお酒があるけど飲むかい?」
「ロールキャベツとパエリア出来ましたよー!」
 ナイジェルがルシエラとアヤノの盃に酒を注いでいると、聞こえて来たショコラの声。
 それに触発されて、仲間達も持ち寄ったお菓子やお弁当を広げ始める。
 そして料理を一早くせしめ、周囲に酒を勧め始めるレイド。
「義兄弟の義兄弟はみな義兄弟だ。……って事で、俺とファンバスは義兄弟! さあ、飲め!」
「うん。戴くね」
「ソルディン! 飲んでるか?」
「ああ。……あらかじめミルクを飲んで、アルコールに備えていたのだよ!」
「くっ。やるな! よし! 猫グドン! めでたい席だ。お前も飲め!」
「にゃーッ!?」
「レイドったら……程々にしときなさいよ?」
 義妹の声もノリノリの彼には届かないらしく。
「……ああ言う大人になっちゃ駄目だよ」
「心します」
 アリアの呟きに、マイトが頷いて。
「う〜ん。流石! 美味しい」
「うん。美味い」
「私も戴こう〜っと。あんみつもありますからね!」
 そして、ショコラ達の手料理に舌鼓を打つローズマリーとカズハ。
 ショコラもちょこんと座って料理をつまみ始める。
「ああ。そう言えばアヤノさんに渡すものがあるんでしたっけ」
「おう! 受け取れ!」
 そう言って、アヤノにスイトピーを捧げるソルディン。
 そしてレイドから突き出されたのは桔梗によく似た青い花。
「誕生日祝い、色々考えてたんだけど……ローズマリーが皆で花を贈ろうって言ってくれたんだよ」
 突然の事にキョトンとするアヤノに、アリアが微笑んで。
「そうだったんだ……ありがとう、姉さん」
「これだけじゃないのよ。ね?」
 頬を染めるアヤノに、ローズマリーは微笑んで仲間達を振り返る。
 それに元気に頷いたチコリから手渡されたのはタンポポ。
「何処にでも生えてる小さな花だけど……いつでも元気一杯で、大好きなのよ」
「うん。チコリみたいだね」
 そう言って、アヤノは嬉しそうに彼女の髪を撫でる。
「俺からはカスミソウだ。確か好きだと思ってな」
 恭しく花を差し出すカズハに、ますます顔が赤くなるアヤノ。
 慌てて彼から目線を外して――目が合ったファンバスの手には菜の花。
「俺の家は農家だったから、この花が一番身近にある春の花だったんだ。綺麗なだけじゃなく、役にも立つ。素敵な花だと思うよ」
「暖かい花だよね。……兄さんらしい」
 アヤノの言葉に、彼は恥ずかしそうに頬を掻いて。
 そして、可愛らしく小首を傾げたショコラから渡されたのは白いエゾギク。
「花言葉は『信ずる心』なんですよ。戦いのときに必要なのは仲間を信じる事ですからね♪」
 忘れないで下さいね、と続けた彼女に、アヤノは頷き。
「……わっ!」
 そして、いつの間にか後ろに立っていたカーリエの声に驚いて振り返ると、鮮やかな黄が美しい山吹の花を渡されて。
「私達3人からよ。皆考える事は一緒なのね〜」
「まあ……アヤノさんの誕生花ですからね」
 その横で微笑むローズマリーとマイト。アヤノが手にした山吹の花に目線を落として。
「山吹の花言葉は、『気品』なんですって」
「『高貴』という意味もあるそうですよ」
「アヤノもそんな素敵な女性になれると良いわね!」
 カーリエにぽんぽんと肩を叩かれて、アヤノははにかんだ笑み浮かべ。
 続いて、すずらんの香水とミニブーケを差し出すアリア。
「アヤノに沢山の幸福が訪れますように……」
 穏やかに微笑むアリアに、アヤノはぎゅっと抱きついて。
 そこにルシエラもー! と言って抱きついて来た彼女が持っていたのは、ふんわりとした春色のヒナゲシ。
「お花畑が素敵なんだよー♪ 満開は、もちょっと先なのー。咲いたら連れてってあげるねー」
「ルシエラ。それはアヤノじゃなくてルシエラが嬉しいんじゃないのか?」
 笑いながら言うナイジェルに、彼女はえへー♪ と笑い返して。
「このお花はねー。蕾の時は下向きだけど、咲く時はちゃーんとお日様向くんだよ。アヤノさんみたいだよね♪」
「そうだね」
 彼女の言葉に頷きながら、青紫のアヤメを贈るナイジェル。
「ルシエラに続いてになるが……今度はこの花の満開の時に、皆で見に出かけような」
 微笑む彼に、アヤノと仲間達は嬉しそうに笑い合って。
 そして。まだまだあるのよ……と言いながらローズマリーとチコリがそれぞれ差し出したのはブーケガルニと桜の花のティーカップ。
「これで、カズハさんに何かお料理を作ってあげてね」
「ホントはペアカップが良かったんだけど……それは式の時がいいかなって」
「そうそう。式で思い出した。どこかの国ではすずらんは花嫁に贈る花なんだって」
「え? 式? 花嫁!? と言うか、皆何で知ってるの……!?」
 続いた2人の言葉、そして追い討ちをかけるアリアに狼狽するアヤノ。
「知らないと思ってたのか? 馬鹿だなー。アヤノは」
「そ、そういう兄さん達はどうなのよ。お相手はっ!?」
 レイドに笑われて、彼女はキッと睨み返す。
「え? 俺はまだ若いから。ファンバスが先だろ?」
 そう言われて、アヤノはファンバスに目線を移し。
「えーと……俺はホラ。可愛い妹が幸せならそれで満足って言うか、ねえ」
 そして果てしなく遠い目をして言う彼。
「……もう! 兄さん達の馬鹿ーっ」
 ムッっとして、2人をぽかぽかと殴り始めたアヤノを、仲間達は微笑ましく見つめて。
「……アヤノさん、大分元気になったよね」
 呟くルシエラ。
 アヤノには言わなかったけれど。
 ヒナゲシの花言葉は……『心の平静・慰め』。
 彼女は大分明るくなったけれど、それでも。
 いつも気持ちの端の方に、心配があって――。
「カズハが居るし、皆も居る。大丈夫だよ」
 そんな彼女の頭をそっと、ナイジェルが撫でる。
 去年より、微笑みが増えて来ているからね……と呟いて。
 それに、アリアも黙って頷く。
 アヤノはとても、とても大切な人だから。誰よりも幸せになって欲しいと思う。
「……もう一度、乾杯しようか? アヤノの幸福の為に」
「ああ。アヤノの幸せは、私の幸せだから……」
 盃を高く掲げるナイジェルに、アリアも微笑んで。
「では、私からは……ささやかながら舞を一つ……」
 ビィーン――。
 闇に響くは、マイトが爪弾く弓弦の音。
 舞う花弁と遊ぶように。
 また、凪の海のように。
 重なり、積まれて行く静と動。
 ビィーーン――。
 大地に根を張るように座し。鳴る弓弦。
「……お粗末様でした」
 暫し静かだった空間が、拍手で満たされ。彼は深々と一礼をする。
「風流だね。感動した」
「そう言って戴けると幸いです」
 アヤノとマイトが談笑を始めたところで、チコリがこっそり仲間達を呼び寄せて。
「あのね。アヤノとカズハを、少しだけ2人っきりにさせてあげたいんだけど……」
「あ。私もそう思ってたんだ」
 アリアのヒソヒソとした話し声。
「でも、私達がこぞって席を外すのも不自然よね?」
「そうですね……」
「にゃー」
 考え込むローズマリーとソルディン。猫グドンも相槌を打つように鳴いて。
「判ったー! ルシエラ、2人っきりになって来てって言ってくるー!」
「ちょ、ちょっとそれはストレート過ぎますよ〜」
 元気良く挙手して飛び出して行こうとするルシエラを慌てて止めるショコラ。
「そうだ。2人に買出しを頼むというのはどうかな?」
 ナイジェルの案に、それだ! と手を鳴らした総員に聞こえて来たのは、泥酔したカーリエの声で……。
「ひぃっく……一番! カーリエ! ぬ……脱がせます!」
「な……ちょっと!?」
 言うが早いか、アヤノに襲い掛かった彼女。
 止める間もなく緩められる上着。白い肌と胸元が覗いて、悲鳴が上がる。
「駄目! それ以上は駄目っ」
「何ー!? じゃあ次はおーまーえーだー!」
 慌ててお兄ちゃんガードを発動させたファンバスだったが、逆に襲われたようで。
「……影縫いの矢でも撃っときましょうかね?」
 さらりと酷い事を言うマイト。だが止める人も居ない辺り、皆酷い。
「……あれ? 2人は?」
 キョロキョロと辺りを伺うチコリ。
 気がつけば、カズハとアヤノの姿がなく――。

「カズハ……降ろして」
 申し訳なさそうなアヤノの声。
 カズハは、アヤノを担いだまま桜の木々を縫うように歩いていた。
「お前が無防備だからそう言う目に遭うんだ。……男を狂わせるとは思っていたが、女まで狂わせるのか?」
 理由は判らないけれど、カズハが怒っているような気がして。
 萎縮する彼女に彼は溜息をつく。
「全く。これを渡したかっただけなのにな……」
 アヤノをそっと降ろして、彼がポケットから出したのは繊細な造りの指輪。
「これは俺なりのけじめだ。受け取ってくれるよな?」
「だ……駄目」
「……アヤノ?」
「駄目なの。最近、私変だから……。カズハが他の人と話してるだけで腹が立ったり泣きたくなったり……」
 少女のような不安げな顔。不安から護るように己の身体を抱いて俯く。
「カズハが好きになったのはこんな弱い私じゃないでしょ? だから駄……」
 不意に。アヤノの唇にカズハのそれが重なって、離れる。
「それは最初から知っている。そういう所が可愛いと……大体お前、今自分が何を言ったか判ってるのか?」
 そう言われて、ハッと口を押さえる。
 苦笑するカズハの顔。それを見て、知ってしまった。
 この気持ちが何なのかを――。
「恥ずかしくて、好きだからどうしたらいいか判らなくて……。ごめんなさい……」
「そんな無防備な顔、他のヤツに見せるな……アヤノ、愛している」
 涙に濡れるアヤノ。彼女の唇にもう一度。自身の唇を重ねて。
 彼女の左の薬指には誓いの輝き。
 そして。
「うわー。何かオットナー」
 しっかりとデバガメをするチコリの姿があった。

 一方。
「はぁ……娘を嫁に出す時ってこう言う気分なのかなぁ」
 桜並木に消えた2人を暖かく見守りつつも、こんな事を呟いているファンバスに、仲間達がそっと目頭を押さえる。
「まあまあ。アヤノが結婚したらさ。アイツにも『兄さん』って呼ばせようぜ」
 そんな彼の肩を励ますように叩き、レイドが酒を注ぎ足す。
「そうだね。……今日は飲もう!」
 2人のアヤノの兄がぐっと酒を呷ると、仲間達もそれに続いて――。

 綺麗な桜。美味しい料理と酒と愉快な仲間。
 3人が戻って来て飲み直しとなり。夜が更けるまで、談笑が絶える事はなく。
 そして明け方。
 泥酔した簀巻きグドンを山奥に捨てに行った冒険者達は、昇り来る朝日に幸福と、もう1つ。
 ――二日酔いによる頭痛を感じるのだった。


マスター:猫又ものと 紹介ページ
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参加者:12人
作成日:2005/04/19
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