<リプレイ>
空はこの上なく青く澄みきって眩しい。 だが、こんないい天気だというのに海岸は無人だった。何かの冗談ではないかと疑いたくなる。モンスターの出没情報がすっかり浸透してしまったのだろう。 そんな寂しい海岸に到着した一行。何人かはこんなことを思った。 ――退治したら、ほとんど自分たちの貸し切り状態じゃないか! 喜び勇む彼らは、まず船に乗った。事前に聞き込みしておいた出没地点にせっせと地引網を設置していく。船も網も、地元の漁師から借りたものだ。世界を巡る紫の風・フィオリナ(a19921)が水着姿で胸の谷間を強調しながら願ったところ、実にあっけなく貸してくれたのだった。 「日焼けしてしまいますね……」 オルレアンを開放せし聖少女・ジャネット(a18229)が汗を拭き吹き呟く。場所が場所だけに、彼女は水着の上にキャミソールという軽装を選んでいた。何とも言えない艶やかさに武道刃脚・キヨカズ(a01049)と守護者・マージュ(a04820)が顔をニヤつかせている。 手間のかかる作業も終わり、陸に戻った。 うみねこサルベージのオーナー・ユフキ(a00342)、放浪猫・ミン(a04357)、紅玉の魔眼・ヴィルガスト(a10769)は後方で遠距離攻撃に備えて待機。それ以外の7人全員でロープを持ち、引っ張る。普通地引網は数十人がかりでやるものだが、冒険者の力をもってすれば造作もないことだ。 「敵はすでに俺たちの気配を嗅ぎつけて近くまで来ているはず。さあやりましょう!」 キヨカズの合図で、一同はロープを引っ張り始めた。 ずっしりした重さが腕にかかる。戦闘開始前から体力を使いそうだがやむを得ない。海の魔物だけに、まずは陸に引っ張ってこないと勝ち目は薄いのだ。 20分あまりが経った。メンバーたちに玉の汗が浮かんでいる。 「あと一息だ!」 疾風怒濤の紅チャイナ・リューラン(a03610)が大声を飛ばした。皆力を振り絞る。 網の真ん中にある袋網が、波打ち際からあと少しのところまで見えてきた。 と、その時。 袋網が持ち上がった。いや、中に入っていたモノが立ち上がったのだ。ブチブチと網を引き千切る音。海草モンスターだ。 「いよいよ出ましたね。引っ掛けられて怒り心頭ってとこですか」 見習い翔剣士・ライアット(a16001)が剣を抜き、目にも止まらぬ速度で突き出す。 だが穴が開くかと思われたモンスターの体は、ひらりひらりと巧みに揺れ動いて回避する。 「見かけどおり、捕らえどころがなさそうだなあ」 注意深く観察しながら、鎧聖降臨でキヨカズの防具を強化させるマージュ。 「あっ――!」 悲鳴。モンスターが腕を伸ばしてリューランを捉えた。ヌルヌルしたそれは彼女の体を万力のように締め付けていく。 「こら、離しやがれ気持ち悪い! どこ触ってんだ!」 「そうなの!」 後方からミンが叫んでソニックウェーブを飛ばした。海草が断たれ解放されるリューラン。 「いっつー……危なかった。もう少し遅かったら骨が砕けてた」 「大丈夫ですか?」 ジャネットがヒーリングウェーブでリューランを治癒する。 「あの締め付けがやっかいじゃんっ」 ユフキが影縫いの矢を放つ。影を射抜かれたモンスターはピタリと麻痺した。 「片っ端から切り裂いてやる!」 フィオリナが接近して斬鉄蹴を叩き込む。鋭い刃物じみた威力! 普通の蹴りなら効果はなかったろうが、光をもまとうこの一撃は見事に敵を引き裂いてみせた。 続いて白の戦鬼・ブラス(a23561)がニードルスピアを放出する。無数の鋭い針は避ける隙を与えず敵に突き刺さった。 「さあて、さっきのお返しをさせてもらうぜ」 リューランもまた斬鉄蹴を食らわす。海草の切れ端がボトリと落ちる。 「よし、相手は防戦一方だ!」 紅玉の魔眼・ヴィルガスト(a10769)のエンプレムシャワーが炸裂し体を削る。 しかしこのまま黙っているモンスターではない。切りかかりに向かったキヨカズの手足に海草を伸ばす! 「おわあ?」 キヨカズの顔がみるみるうちに青くなる。何とそのまま持ち上げられ、近くにいたライアット、マージュ、リューランに次々と叩きつけられた。不幸にも強固に変化した鎧が威力を生み出している。 「わ、わ、これじゃ難しいわ」 腕を押さえながら、ライアットが慌て気味になる。モンスターはキヨカズを放さず、そのまま武器と盾にする腹積りだ。迂闊に手は出せない。 「おい卑怯者、さっさと離せー!」 「そうなのー!」 マージュとミンが怒鳴る。しかし戦いに卑怯も何もない。モンスターはやはりキヨカズを解放しようとはしなかった。ジャネットは仲間の治療に当たりながら敵を睨みつけるばかり。ユフキも矢を射ようとするがキヨカズに当たることを恐れて実行に移せなかった。 「リューラン、ちょっとよろしくて」 フィオリナがリューランに近づいて耳打ちした。頷きあう二人。 「……しゃあない、体張るかね」 彼女たちは前に出て、モンスターをズビシと指差した。次に人差し指をクイクイと曲げる。やれるものならやってみろ、の意思表示。 望むところだと言わんばかりに、モンスターは目を瞑るキヨカズを空高く持ち上げ、フルスイングした。 風を切る。大きな音が鳴る。フィオリナ、リューランは腰を落とし砂浜に踏ん張った。 バゴン! 激突と同時に、全身全霊を込めてキヨカズを受け止めた。歯を食いしばる。あまりの痛みに呼吸が止まる。気を失いそうになりながらも――見事こらえた! そしてキヨカズは。 (「こ、これは……!」) 二人の柔らかい胸がムニムニと体に当たる。グッジョブ、と心の中で叫んだ。 「今だ!」 リューランの合図。ブラスがニードルスピアを、ヴィルガストがエンブレムシュートを放射した。海草がブチリと千切れてキヨカズは解き放たれる。バランスを崩すモンスター。 「一斉攻撃です!」 「ようし!」 ライアットとマージュのダブルゴージャス斬りが敵の胴を払う。継いでミンがソニックウェーブを、ユフキがホーミングアローを放つ。脚に穴が開いた。 「今度は腹だな」 「了解」 ブラスがニードルスピアを、ヴィルガストがエンブレムシュートを再び見舞う。モンスターはいよいよ倒れようとしている。 「お疲れ様でした」 ジャネットが横たわるフィオリナとリューランを治癒する。 「今回の最大の功労者は私たちね」 「まったくだ。……おお、あれでフィニッシュかな」 とどめはキヨカズだ。その表情には憤怒が詰まっている。 「散々やってくれたな、キッチリお返しさせてもらうぜ!」 名誉挽回の一撃。疾風怒濤のリングスラッシャーが真一文字に決まり、モンスターは体をふたつに分けられどうと倒れる。わずかの痙攣、そして微動だにしなくなった。 「勝ちました!」 ライアットが宣言した。冒険者たちは拍手したり万歳したりで喜びを表した。 「迷惑をかけました。面目ないです」 キヨカズが頭を下げる。リューランは首を振る。 「いいっていいって。それより――」 「それより?」 ユフキが尋ねる。 「いや、何でも」 リューランは敵の死骸をしげしげと眺める。食えるのかな、持って帰って乾してみようか、と思いながら。
戦い終わった一同は、疲れを癒すためにしばらく留まることにした。水着に着替えてさっそく海水浴を楽しむ者もいる。 「よし、完了か」 「ども。これで雰囲気が出るね」 マージュがブラスに手伝ってもらってビーチパラソルを立てた。青と白の生地が目に心地いい。ふたりは寝そべって目を閉じ、海風を存分に感じ取った。 「海は広いし大きいしー♪」 ユフキが打ち寄せる波を蹴り返して遊んでいる。細身のしなやかな肢体がとても健康的魅力的に映る。キヨカズがそれを眼福眼福と呟きながら眺めている。 「ああ、気持ちいいわ……」 紫の髪を色っぽくきらめかせ、フィオリナはまさしく気持ちよさそうに伸び伸びと泳ぐ。ほとんど誰もいない海だ。開放感もひとしおである。 「暖かいね。もう春って感じなの」 「ええ、平和ですね……」 「いいよな、こういうのんびりした空気は」 ミン、ジャネット、リューランが海岸線を歩きながら、白砂と碧海を交互に眺めた。美しさに目が洗われるようだ。この光景を魔の手から救えて、心底よかったと思う。 ヴィルガストとライアットは仲間たちを遠くから見つめている。 「戦いがあったなんて嘘みたいな光景だ」 「そうですね。でもそれでいいと思います。誰だって戦いよりはこういうのが好きなはずですから」
数日後、海岸は元通りに人の賑わいを取り戻したという。

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参加者:10人
作成日:2005/04/19
得票数:戦闘2
ほのぼの4
コメディ27
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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