【読書の時間?】星の子ルルーン



<オープニング>


 右のページには読み易い大きな字でこう書いてある。
『ルルーンは、よぞらにひかるおほしさまのこども、ほしのこです』
 左のページには目と口のついたヒトデ型の星の挿絵。更にページをめくる。
『れいぎただしいルルーンは、よるがはじまると、よぞらのみんなにごあいさつしてまわります』
『さいしょはおつきさまです。「こんばんは」とルルーンがおじぎします』
『ろうろうとうたうようなこえで、おつきさまもおへんじします』
『「こんばんは、ルルーン。いいよるだねぇ」おつきさまは、まあるいおかおでわらいました』
『てをふりながら、すごいはやさではしっていくながれぼしにも、「こんばんは」』
『けんかばかりしている、いちばんぼしとにばんぼしにも、「こんばんは」』
『すやすやねいきをたてるおひさまには、「おやすみなさい」』
『たのしいよぞらのいちにちが、きょうもはじまります……つづく』

「それで、この絵本がどうしたの?」
 渡された絵本、『星の子ルルーン』を読み終わったエルフの紋章術士・カロリナは依頼人の少女に向かって質問した。
「各ページの最初の一文字を、最後のページから順に読んでみて下さい」
「た・す・け・て・こ・ろ・さ・れ・ル……?」
「助けて、殺される。その絵本には作者の秘密裏に助けを求めるメッセージが隠されていたんですよ」
「ええっ! 本当に!?」
「嘘です。その絵本の作者は私です。偶然そうなってしまっただけです」
「な、なんだ……」
「ところが、これが偶然だと信じてくれない子がいるんです」

 依頼人のミッシェは趣味で絵本を書き、ベレの村の子供たちに読み聞かせている。
 子供たちはミッシェの絵本を楽しみにしている。中でも一番のファンなのがレミという女の子だ。
 ある日、レミは『星の子ルルーン』に隠された「助けて、殺される」のメッセージに気づいた。ミッシェは偶然だと説明したが、レミはミッシェが本当に命を狙われており、それを公に出来ない事情があるのでこっそり助けを求めているのだと信じて疑わない。
 レミはミッシェを守るために四六時中ミッシェの後をついて回るようになった。ミッシェはレミが大好きだが、そこまでされると流石に困ってしまう。

「そこで冒険者の知識を活かして本当にあなたが命を狙われているような芝居をし、レミちゃんの目の前でそれを解決してみせて安心させれば良いのね?」
「はい。そうです」

「霊視で分かりましたが、ミッシェさんが村に戻ってきたら、レミちゃんは昼も夜も可能な限りミッシェさんを尾行するつもりのようです。お気をつけて」
 二人のやりとりを黙って聞いていた霊査士がぽつりと言った。

マスター:魚通河 紹介ページ
 本当に命を狙われていたミッシェ。だが色々あって解決する! という芝居をレミに目撃させ、安心させられれば成功です。
 楽しい芝居も深刻な芝居もどちらも可能ですが、レミに芝居だと見破られたら失敗なので、説得力が重要になるでしょう。

 ミッシェは十四歳、レミは十歳、二人とも朝は家の農業を手伝い、昼は遊んで暮らしています。
 ベレの村は普通の農村ですが、旅人が訪れたり盗賊が出たりもしなくはありません。
 ミッシェは文字が読めますが、レミは読めません。

参加者
縁・イツキ(a00311)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
聖天に舞う神翼の刃・ティエン(a00455)
翡翠の脱兎女・リヒトン(a01000)
大凶導師・メイム(a09124)
黒羽・アキナ(a10680)
若葉を透かし舞い散る銀緑・ローダンセ(a19506)
蒼穹に舞う翼・アウィス(a24878)
NPC:次のページへ・カロリナ(a90108)



<リプレイ>

「皆さん、悪人を演じるのなら悪人らしくしなくちゃいけませんね☆」
「うむ。その通りだな」
「そうですね」
 想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)の言葉に、大凶導師・メイム(a09124)とエルフの紋章術士・カロリナは頷いた。
「しかし、悪人らしくと言っても具体的にどうすれば……って、メイムさん? その格好は何なんですか?」
 振り向いてメイムを見たカロリナは仰天した。メイムが顔を覆面で隠し、丈の長いマントを羽織るという奇妙な出で立ちだったからだ。
「私は演技にさほど自信がないのでな。まずは恰好から悪人らしくしてみた」
 ごくごく普通のことをしている、といった様子でメイムは答える。
 カロリナがどう反応すれば良いのか困っている間に、ラジスラヴァは体に密着する黒い革製の衣装を取り出すと、
「カロリナさんはこれに着替えてくださいね。依頼のためですから」
 そう言ってにこにこしながらカロリナを着替えさせにかかった。
「はあ、依頼のためなら仕方ありませんけど……ラジスラヴァさん、何でそんなに楽しそうなんですか?」
「そうですか? 気のせいでしょう……きっと」
 着替えが終わるとメイムと同じ覆面を着けてマントも羽織り、カロリナはいかにも怪しげな格好となった。
「どうでも良い事だがザリガニ……あまり食生活の限界に挑戦せぬ方が良いと思うのだが」
「いえ、ザリガニはまだ限界じゃありません。世の中にはもっと厳しい生活を送っている冒険者もいますから、その人たちが無事なうちは私も大丈夫ですよ」
 そんな会話をしながら、三人は目的地へ向かった。

 冒険者たちに依頼をした翌日の昼、ミッシェはベレの村に戻ってきた。
 ミッシェが戻ったと聞いたレミは、息を切らせてミッシェの家へと急いだ。
 そのレミの前に、紫の瞳に銀の髪、背中から一対の白い翼を生やした小さな人影が現れる。エンジェルの吟遊詩人・アウィス(a24878)だ。
「やあ、キミがレミちゃんだね?」
 見慣れない顔の、しかも翼を持った人を見て、レミは目を丸くした。しかし自分と同じくらいの年恰好であることに気づくと少し安心し、こくりと頷いた。
「そうよ。あなたは誰?」
「ボク、アウィス。宜しくね」
 アウィスは安心させるように微笑ながら続ける。
「レミちゃんは、ミッシェお姉ちゃんが狙われているって知ってるよね?」
「うん。でもお姉ちゃんはそんなことはないって言い張るの。きっと皆には言えない事情が……」
 レミがそこまで言った時、
「危ないっ!」
 アウィスがレミの手を取って引き寄せた。

 アウィスがレミと出会っていた時、レミの背後にある木材置き場には、若葉を透かし舞い散る銀緑・ローダンセ(a19506)とメイムが姿を現していた。
「(たまには悪役というのも楽しいですわよね?)」
 木材の陰に隠れて、ローダンセは二人の様子を窺いながら、楽しそうに囁く。
 その時、アウィスがこちらに目配せするとレミの手を取った。
「(今ですわっ)」
 その合図を見逃さず、ローダンセは材木の束を押し倒した。材木束は今までレミが居た場所に倒れ込み、ずしんと重い音をたてた。
「きゃあっ!」
 悲鳴を上げるレミを後ろに庇いながら、アウィスは背中を見せて逃げようとする悪役二人を指差した。
「キミたちだね? ミッシェさんの命を狙っているのは」
 メイムが振り向いて告げる。
「これは警告だ。
 ミッシェと我々との問題に、部外者が関わりを持つな。これ以上関わるならば容赦はせぬぞ」
 捨て台詞を残し、ローダンセと共に素早く材木置き場の向こうに消えていった。

「おとなしくしないとだめですねぃ〜?」
「おとなしくしないとだめですよ〜?」
 メイムとローダンセが待機場所である村外れの小屋に帰り着くと、翡翠の脱兎乙女・リヒトン(a01000)とカロリナが台詞を練習していた。
「リヒトンさん、盗賊はいたのか?」
「いたんですねぃ〜。でもネイチャーのお仕置きをしてきたから大丈夫ですねぃ〜」
 ベレの村近辺にはたまに盗賊が出没することもある。という情報を得たリヒトンは、聖天に舞う神翼の刃・ティエン(a00455)と一緒に盗賊を探した。芝居の最中に本物の盗賊が出て来て混乱するような事態を防ぐためだ。
 見つけた盗賊たちは今回の依頼とは全く何の関係もなさそうだったが、とりあえず二度と悪事ができないようにしておいた。
「それは良かったですわ。
 次は脅迫状ですわよね。段々とクライマックスが近づいて参りますわね」
 ローダンセはやはり嬉しそうに言う。
 「矢文で脅迫状を送るんですねぃ〜? 文面を考えないといけませんねぃ〜」
 四人は脅迫状の作成にとりかかった。

「アウィスくん、さっきはありがとう」
「あのくらい大したことじゃないよ。……レミちゃん、ボクのお友だちになってくれるかな?」
「うん。いいよ」
 そんな会話をしながら、アウィスはレミを連れ、ミッシェの家に向かった。
 ミッシェの家にはミッシェと不安な顔をした両親の他にも、縁紡ぎ矢・イツキ(a00311)、偽りの霧・アキナ(a10680)、ラジスラヴァがいた。
 六人はこれからの芝居の展開について打ち合わせていたのだが、レミが入ってくるとぴたりと話を止めて彼女を見た。
 レミはミッシェの姿を見るなり、不服そうに頬を膨らませる。
「ミッシェお姉ちゃん! やっぱり悪い人たちに狙われていたのね!」
「実はここに来る途中……」
 アウィスが材木置き場での出来事を話した。
「そうだったんですか……。レミを守って下さってありがとうございました。レミ、怖かったでしょう? ごめんね、私のせいで……」
「ううん、いいの。ミッシェお姉ちゃんは私を巻き込まないために嘘をついていたのね」
「え?」
「そうなの。でももう大丈夫よ。あたし達がついているからね♪」
 とっさに嘘をつけないミッシェをフォローするイツキ。
「俺たちはミッシェさんを守るためにやって来た正義の冒険者なんだ」
「えっ、冒険者様? すごーい……」
 アキナの言葉を受けて、レミは四人の冒険者をまじまじと見つめる。そこへ、
「いやはや、遅れてすまない。……おや?」
 盗賊を退治してきたティエンがにこやかに姿を現した。レミは驚いてミッシェの後ろに隠れる。
 ティエン本人は気づいていなかったが、彼の頬についていた盗賊の返り血がレミを不審がらせてしまったのだ。
 幸い、仲間たちが彼も冒険者であることを説明してくれたので、レミの誤解はすぐに解けた。
「冒険者様が五人もいてくださるなら安心ね。
 ……そういえば、ミッシェお姉ちゃんはどうして命を狙われているの?」
「え? ええと、それは……」
 ミッシェはまたうろたえる。
 ちょうどその時、鋭い風切り音とともに一本の矢が飛び込んできた。
 窓枠をくぐってテーブルの真ん中に突き刺さった矢に、全員の視線が集中する。見れば矢文が結びつけてあった。
「まあ、大変。敵は本気よ」
 イツキがそんなことを言いながらそれをほどき、皆に広げてみせた。
 そこには『脱兎のお仕置きですねぃ〜』とか、今後の展開についての連絡とか、長い文章が綴られていたのだが、レミには読めない。
「『今夜、村の入り口で待つ。一人で来い。我々の秘密を人に話せば貴様の命はない』……か。
 ミッシェさん、行くことはないぞ。どの道秘密を知ったあなたを生かしておくつもりはないんだ」
 そのことを利用して、アキナが偽の文面をでっちあげた。
「えっ? それだけしか書いてないんですか? もっと長そうに見えるのに……」
「手紙ってそういうものだよ」
 やや強引にごまかす。
「でも、秘密って何なんですか? どうしてお姉ちゃんがそいつらの秘密を知ってるの?」
 レミの次の疑問には、イツキが答えた。
「それを知るとレミちゃんも狙われてしまうわ。
 世の中には知りたくても知らない方が良いこともあるのよ、分かって。ね?」
「はい……。分かりました」
 納得したレミをアウィスが家まで送り届け、この日はこれ以上何事もなく終わった。

 次の日の昼、ミッシェの家には昨日と同じ九人が集まっていた。
 話の展開からすればレミは来なくても良いはずだった。
 しかしレミは心配だからミッシェの傍にいたいとアウィスに頼んでおり、実はレミが居てくれた方が都合が良い冒険者たちがそれを断るはずもなく、アウィスが迎えに行って連れて来たのだった。
「昨日の矢文を無視したわけだから、敵も何かしら次の行動を起こしてくるはずよね」
 イツキがそう言った瞬間、ドアが激しくノックされ、「出てきな!」というローダンセの冷たい声が響いた。
「大丈夫、お姉ちゃんがミュッシェさんを守ってあげます」
 身を竦ませるレミに、ラジスラヴァがにこっと笑いかけて安心させ、その横を駆け抜けてイツキ、ティエン、アキナが外に出た。
 ラジスラヴァとアウィスは玄関を守り、その後ろから、レミたちは恐る恐る外を覗く。

「やはり秘密を知った奴を生かしておくことはできねぇんだよ。やれ!」
 ローダンセが甲冑の奥から号令を響かせる。
「そうはさせない!」
 ティエンが電刃居合い斬りで先制した。
 当たればローダンセを殺すことができる稲妻の闘気を込めた抜き打ちだったが、ティエンはわざと彼女の足元の地面に命中させる。
「ちっ!! 外したか!!」
 半分くらいは本気で悔しがっている。
「しんでもらうんですねぃ〜」
 そのティエンに、悪の一味であるリヒトンが両手をぶんぶん振り回しながら殴りかかった。
 ティエンは右手を突き出してリヒトンの頭を押さえる。
 押さえられたリヒトンはそれ以上近づけなくなり、拳は空を切り続ける。
 しかし手を離した瞬間ぼこぼこ殴られてしまうので、ティエンも身動き取れなくなってしまった。
「くっ。恐ろしい攻撃だ!」

 苦戦するティエンを尻目に、ローダンセとメイム、そしてカロリナが作っておいた土塊の下僕がイツキに襲いかかった。
 三方からローダンセの斧、メイムの杖、下僕の拳がイツキを狙ったが、イツキは巧みな足捌きでそれを避け、ハープに似せた弓を使って受け流した。
 二人と一体は臨場感を出すために本気で当てようとしているのだが、それでも当たらない。イリュージョンステップの効果だった。
(「んー、流石上級アビね♪」)
 イツキは装飾弓である蟋蟀で下僕に狙いをつける。当たり所が良く、一矢で下僕を破壊した。

 アキナはカロリナと対峙していた。
「お前みたいなザコにはこれで十分だ」
 アキナが扇をかざすと狼の姿をしたエネルギーの塊が現れ、周囲が白銀の輝きに照らされる。
「気高き銀狼、組み伏せろ」
 アキナの言葉と共に、銀狼が撃ち出されてカロリナに向かう。
「こっちも反撃ですねぃ〜」
 リヒトンの喋り方がうつってしまったカロリナも銀狼をアキナに放つ。
 二体の銀狼は空中ですれ違い、お互いの標的に迫った。
 アキナは軽く横に跳んでかわし、カロリナは正面から喰らった。
「実力の差が出たな」
 心の中では(「おー、いいねいいね。俺のキャラじゃないけど」)と思いつつ、銀狼に組み伏せられたカロリナに向かってアキナは呟く。
「すご〜い!」
 家の中から戦いを見ていたレミは冒険者たちの力に感動し、歓声を上げた。

 あまり時間をかけず、ティエンとイツキも勝負を決めた。
 ティエンは一瞬の隙を突いて相手の手首を取り、そのまま組み伏せた。
 イツキは攻撃を避け続けながら影縫いの矢で二人を麻痺させた。
 捕まえた四人の悪党を、冒険者たちは縛り上げた。
「もう二度と狙わないですねぃ〜」
 これはリヒトン。
「すまなかった。我々は改心した」
 これはメイム。
「もう悪事は働かねぇよ」
 これはローダンセ。
 口々に謝りながらお縄について引っ立てられていく悪人たちを、冒険者とレミたちは見送った。
「ミッシェを襲う者はもういない……これで彼女の安全は守られたんだ」
「これにて一件落着、これからも二人とも仲良くね♪」
「はい!」
 レミは力一杯頷く。
「レミちゃん、君に言っておきたい事がある」
「なんですか?」
 アキナを見上げてレミは首をかしげる。
「護りたいものを自分が絶対に護ってやろうと思う、それは凄く良い事だ。
 でも、これからはミッシェさんの言う事も信じてあげないと駄目だぞ?
 まぁ今回は本当に悪い奴がいたわけだから、良かったんだけどさ」
「はい、わかりました!」
 返事と一緒に、より強く頷いた。

 次の日、ラジスラヴァはミッシェを訪ねた。
 リヒトンとカロリナがミッシェの絵本を読みたがっていたのだが、昨日捕まった振りをしたのに、今日自由に行動するのはまずい、ということで、二人のために絵本を借りに来たのだ。
 ミッシェは子供たちに絵本を読み聞かせていた。その横ではアウィスとレミが話をしている。
「ボクはもう行かなくちゃ。手紙を書くからミッシェさんに読んでもらってね。また会おうね」
「うん。私も字を覚えて、手紙を書けるようになるわ」
 ミッシェはラジスラヴァに気づいて絵本を閉じた。
「実は、絵本を貸して欲しいんです」
 ラジスラヴァが小声で事情を話すと、ミッシェは、
「それなら、お貸しするのではなく差し上げます。破れたりしても良いように、絵本は全部何冊かずつ作ってあるんです。お二人に渡して下さい」
 そう言うと部屋の奥へ一度引っ込み、大量の絵本を抱えて戻ってきた。
 絵本を受け取ったラジスラヴァはミッシェに礼を言い、今は今回の事件を絵本にしようと構想を練っている、という彼女に別れを告げた。


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参加者:8人
作成日:2005/05/03
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