【かるちゃ〜しょっく☆】冒険者のお勉強



<オープニング>


「ラランおねーちゃん、何してるなぁ〜ん?」
「あ、リリルちゃん」
 長閑な春の昼下がり。一杯に書類を広げたテーブルに、ひょっこり顔を出したお子様に明朗鑑定の霊査士・ララン(a90125)は思わず笑みを浮かべた。
「報告書を整理しとったんよ」
「ホーコクショ?」
「せや、うちが仲介した依頼のな」
 パラパラと紙を捲って、ラランはその中から一束取り出す。
「ほら、これがリリルちゃんの初仕事や」
「リリルのお仕事のもあるなぁ〜ん?」
「勿論。読んでみる?」
 嬉々としてレポートを受け取った陽だまりを翔る南風・リリル(a90147)だけど。
「……」
 すぐにシュンとした表情になる。
「どないしたん?」
「……何書いてるか、わかんないなぁ〜ん」
「え……」
 一瞬、自分の字が汚いのかと焦ったラランだが、リリルの困った表情にはたと思い至る。
「もしかして……字、知らへん?」
 こっくり――報告書を丁寧に返して、リリルはションボリ寂しそうだ。
「おうちだとお祖父ちゃんとか、お兄ちゃんとかがお話してくれたなぁ〜ん」
 ワイルドファイアでそうだったのだから、ランドアースに来てからは推して知るべしか。
「せやったんや」
 うーんと腕を組むララン。まあ、リリルがこれからもランドアースにいるのなら、考えるまでもない訳で。
「……リリルちゃん、ちょっと勉強してみぃへん?」
「なぁ〜ん?」

「ランザム・キルレンと申します」
 ラランに紹介された依頼人は、杖を突いた初老のエルフの男性だった。
 元商人だという。長い間、行商で同盟領を巡っていた彼は、道中の事故で足を悪くしたのを機に故郷の町で私塾を開いた。
 子供達に読み書きや計算を教え、物語や旅の思い出を聞かせる。
「私は、子供達の世界を広げる手助けがしたいんです」
 夢を語るランザムの笑顔は、歳降りし思慮が窺える。
「それで、依頼やねんけど」
「皆さんに、冒険者について語って戴きたいんです」
 冒険者は『グリモア』の力を求めそして使いこなす、最も危険であり最も名誉ある職業。
 塾の生徒達の中にも冒険者に憧れる子供は多く、冒険者を目指している子も何人かいる。
「私は冒険者ではありませんので。冒険者の話をせがまれても、これがなかなか……」
 それならば、いっそ冒険者を招いてはとランザムは考えたようだ。
「特別授業って話で、期間は3日。まあ、塾の子供達との交流が仕事やな。上は12歳から6歳までが20人。特に冒険者を目指しているんが3人おる」
 1人目はリルカ・クルップス。ヒトの少女で12歳。商家の生まれだが本人は身体を動かす方が好きで、戦士に憧れている。
 2人目はロウン・マードラ。エルフの少年で10歳。錠前職人の末っ子で手先も器用。忍びを目指している……と言いたい所だが、流れの冒険者に怪我を治して貰った事があり、医術士にも関心があるらしい。
 3人目はフリュレ・プシィ。7歳の猫ストライダーの少女。役人の1人娘で絵本と歌が大好き。物語に出てくるような冒険者になりたいと、漠然とした夢を抱いているようだ。
「まあ、嘘さえ言わんかったら、どんな事を話してくれても構へんよ。冒険者になった理由、経験談、心構え……話題には事欠かんと思うけど、子供が相手やさかい。その辺りは気を付けたってな」
「ジュク……?」
 依頼の説明が続く中、キョトンと首を傾げているお子様が1人。
「あ、塾っていうんは……色んな勉強、字を覚えたりする所なんやで。リリルちゃん」
「じゃあ、リリルもベンキョウするなぁ〜ん?」
「一緒に授業を受けられても構いませんよ。読み書きや計算等、基本的な事ばかりですが」
「わ〜いなぁ〜ん♪」
 ワクワクした面持ちのリリルをポムポムと撫でて、ラランはぐるりと冒険者を見渡す。
「ランザムさんの町は旧同盟領にある。エンジェルやヒトノソリン、チキンレッグは勿論、リザードマンやドリアッドさえ初めてって子もおるやろな。その辺りも、よぅ考えてみたってな」

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参加者
観察者・ヒリヨ(a02084)
剣の刃塵降雨・アネット(a03137)
星影・ルシエラ(a03407)
降りそそぐ木漏れ日・スタイン(a04948)
赤烏・ソルティーク(a10158)
漆黒の瞳に宿る不朽の心・スレイツ(a11466)
おひさまいろの・サチ(a13963)
ミンストレルレヴァリー・カルフェア(a23806)
NPC:陽だまりを翔る南風・リリル(a90147)



<リプレイ>

 その日の朝。ランザムの私塾の子供達は、ちょっとしたカルチャーショックに見舞われていた。
 ヒトやストライダーのお兄さんお姉さんに混じって、あっちのお兄さん達は緑の髪に花が咲いているし、こっちの女の子達は……尻尾と耳がノソリン?
 隣同士でヒソヒソ囁き合ったり、大きく目を見開いている子もいる。
「今日から3日間、お世話になる冒険者の皆さんです。色々と教えて貰いなさい」
 ランザムの簡単な紹介が済めば、早速子供達に囲まれる。
「ねぇねぇ、このお花本物?」
「わぁ、おでこに石が付いてるよー!?」
「えっと……私達はドリアッドといって」
 まずは降りそそぐ木漏れ日・スタイン(a04948)達ドリアッドに関心が集まった様子。
「ドリアッド……わたし、ご本で読んだ事あるわ! 森の奥に住んでいる妖精さん達でしょ!」
 猫ストライダーの少女(後で名前はフリュレと聞いた)の妖精という言葉に、同じくパッと顔を輝かせる女の子が何人か。
「いえ、妖精ではなくて……」
 さてどう説明するべきか……思わず言葉に詰まる普遍たる名も無き旋律・カルフェア(a23806)。
「尻尾がノソリンのストライダーなんて見た事ないや……変なの」
 もう一方の未知との遭遇の感想はちょっと意地悪なものだったが、柔かな風抱きし甘き眠りの姫君・サチ(a13963)はおっとり頭を振った。
「ストライダー違うなぁ〜〜ん。サチは、ヒトノソリンなぁ〜〜ん」
「なぁ〜ん? ホントにノソリンみたいだー」
 わぁっと笑い声が上がる。子供は『自分と違うもの』に敏感だ。悪気はないだろうけど……突然囲まれてビックリ眼だった陽だまりを翔る南風・リリル(a90147)は、オロオロとした表情になる。
「(これは……)」
「(うん、ちょっとマズイかなぁ)」
 観察者・ヒリヨ(a02084)と光風を導く者・スレイツ(a11466)は顔を見合わせた。
 旧同盟領で生まれ育った子供達の知る種族は、寧ろ少ない。怖がられるより良かったかもしれないが……物珍しさが前面に出た大騒ぎは、誰も予想しておらず。
「はいはーい。今からちゃんと教えてあげるよー」
 星影・ルシエラ(a03407)が手を叩いて場を収めようとするが、このままでは初っ端からしっちゃかめっちゃかになりそうな。
「…………」
 そんな光景を無言で眺める緋燕・ソルティーク(a10158)の胸の内で、ゆっくりと100を数え終わる。
「……折りますよ?」
「!!」
 ……小さな小さな呟きで、ここまで静まり返ろうとは。
「結構ですね……皆さん、おはようございます。冒険者のお兄さんです。私が知る事なら何でも教えますので、何時でも質問をどうぞ」
 あくまでもにこやかなソルティークだが……その笑顔で、一部べそをかく子が出てきたり。
「……怖がらせてどーする」
「心外ですね。私は独り言を言っただけですよ」
「あー、そーかい……」
 頭痛を堪える面持ちで溜息を吐いた黒の陽炎・アネット(a03137)は、優しく子供達を見渡した。
「短い間だけど、宜しくな」

 騒ぎが収まれば子供達も落ち着いたようで、漸く授業開始。
「僕が冒険者になった理由? 父さんが冒険者だったから、何度も経験談を聞いて……誰かの役に立ちたいって思ったから」
「そうだよねー。自分に出来る事で誰かの為に頑張るのって、素敵だよねー」
 早速、経験談をせがまれたスレイツは、何処かくすぐったそう。
(「自分の事を人前で話すのは恥ずかしいけど……少しでも参考にしてもらえれば、それだけでも嬉しいよね♪」)
 そんな彼に、ルシエラもうんうんと同意する。
「では、ゆっくりと話しましょうか」
 でも、冒険者の前にまずは世界の事、色々な種族の事――スタインが絵本を広げ、カルフェアは簡単に諸国の位置を黒板に描いていく。
「同盟にはヒト、エルフ、ストライダーの他にも、リザードマン、ドリアッド、チキンレッグがいるんだ」
「私達ドリアッドは額に緑の宝石、緑の髪の先に花が生えていてこの花は誕生月によって違います。森に住む事が多いですが……妖精じゃなくて、皆さんと同じ人間です」
 スタインの補足にがっかりした子供もいたようだが、改めて花や宝石を引っこ抜かれる事はなかったので一安心。
「中には、見かけと実年齢が一致しない種族もあるよ。ドリアッドもそう……僕はこう見えても、実は30年以上生きてるんだよ〜……こらそこ! オヤジって言わない!」
 伊達眼鏡を掛けて、カルフェアの話は続く。全てが水晶で出来たインフィニティゲートの事、同盟には加わっていないソルレオンとセイレーン……一応、ノスフェラトゥの事も。そして、雲上の大陸については、怖がらせないようにピルグリムの事は控え目にして。
(「昔憧れた吟遊詩人さんみたいに、僕も何かを残してあげる事が出来るかな?」)
「……という訳で。ホワイトガーデンに住んでいるエンジェルとも仲良くなれました。その前に、遥か南の海からやって来たマリンキングボスのお陰で、もう1つ大陸が発見されました」
「サチ達のワイルドファイア大陸なぁ〜〜ん」
 スタインから引き継いで、サチはのんびり言葉を選ぶ。
(「こどもたちにおしえるの〜、サチもがんばるなぁ〜〜ん……いっぱい〜仲良しになるなぁ〜〜ん♪」)
 サチが育ったのはジャングルの奥地なので、近くの集落の話題も交えながら。
(「塾ですか……僕は物心ついた時から訓練でしたけど。こういう所には縁がなくて、ちょっと珍しいです」)
 楽しそうに常夏の大陸の話に聞き入る子供を見るヒリヨは、何処か不思議そうな面持ちだ。
「……そっか、みんな冒険者が憧れなんだー。でもね、ルシエラは塾を開くランザムさんも凄いなーって思ったんだよ。旅のお話、聞きたいなぁ」
 屈託なくルシエラがランザムに話をせがんだ所で、1日目は終了。後は子供達に混じって勉強したり、ボランティアでお手伝いしたり。
「……はい、ラランさんはリス尻尾の霊査士ですよね。眼鏡も掛けています」
「メガネ、なぁ〜ん?」
「ああ、違いますね。『眼鏡』はこう書くんです」
 自由に描いた絵に注釈を付けてサチやリリルに教えていたソルティークの読み書き講座は、子供達にも面白く映ったようで。いつの間にか、一角がお絵かきコーナーになってしまっていた。

 特別授業2日目。
「冒険者にも色々あるけど」
 今日は冒険者編。まずは形からとわざわざ用意した伊達眼鏡を掛け直し、アネットは解説を始めた。
「例えば、俺は武人。沢山の武器が使えてどんな局面にも対応出来る。前衛は他にもあって、鉄壁の防御の重騎士は勿論女性もいるよ。翔剣士は素早くて華麗な戦い方が特徴。綺麗というか……きらびやかな人が多いかな」
「サチは〜、狂戦士なぁ〜〜ん。一撃がどっかんとおっきいなぁ〜〜ん」
「リリルは武道家なぁ〜ん。パンチとキックが得意なぁ〜ん♪」
 ヒトノソリン2人の説明は、しんぷるいずべすと?
「弓が得意な牙狩人だが、近接戦が出来ない事はないし遠くからの援護は大事だね」
「忍びは……直接的な強さより、如何に状況を利用できるかが重要かもしれません」
「僕が忍びを選んだのは、陰でコソコソやるのが面白そうっていう単純な理由なんだ。なってみて後悔はないよ」
 ヒリヨの言葉には首を傾げた子供達だが、スレイツのやんちゃな笑顔に共感めいたクスクス笑いが広がる。
「ねぇ、魔法使いさんは?」
 絵本を抱きしめたフリュレのわくわくした表情に、ソルティークは肩を竦める。
「魔法使いといいますか……紋章術士の描く『紋章』は文字に、唱える『呪文』は言葉になったといわれていますね。ですから、紋章術士は学士に近いですよ」
「邪竜導士は紋章術士より攻撃的なアビリティが多いし、変り者も多いかな」
「それは……」
 アネットの微妙な物言いに、思わず頬を掻くスタイン。
「医術士は、怪我の治療が主ですね。怪我しないと無意味なアビリティが多いですけど」
「わあ、すごい」
 スタインの頭上で7色に輝くホーリーライト。それだけで子供達は目を輝かせる。
 カルフェアが歌うように吟遊詩人を紹介すれば、これで11クラス。
「私達冒険者もけして万能ではありません。仲間同士で互いの弱点を補う必要があるんです」
「ああ。どれも一長一短があるので、自分の特技で決める人が多いかな。例えばリルカのように身体を動かすのが得意なら、先に言った戦士が向いているかもね」
「あ、あたし?」
 突然名指しされてきょとんとした少女に、ルシエラはにこっと笑い掛ける。
「ちょっとだけルシエラは強いけどー、毎日特訓してるよ。ほら、お母さん達も毎日お料理の特訓してるから美味しいもんねー」
 その例えは判り易かったようで……ついでに、あちこちからお腹の虫の音が聞こえ出した。

「健康と元気が1番だよ♪」
 午後からは実践編――外に子供達を連れ出したルシエラは、まずリズム体操で準備運動。
「お昼ご飯、どうでしたか?」
「わっ!? ビックリしたぁ……」
 突然ど真ん中に現れたヒリヨに、どよめく子供達。
「これが、冒険者のアビリティの1つ――忍びが使えるハイドインシャドウだよ」
 同じく、フラリと姿を現したスレイツが説明する。
「アビリティはグリモアの力ですが、モンスターを倒す物ばかりではなくて、使い方には賢さより発想が重要なものもあります。これも、冒険者の資質の1つかもしれません」
 そうして、シャドウロックを掛けた小箱を配ったヒリヨは「解ける人、いるでしょうか?」と楽しげに微笑んでいる。
「何故紋章術士に……ですか?」
 木陰でサチ達に絵本で文字を教えていたソルティークは、そんな質問に暫く考え込む素振り。
「サチは〜、仲良しのみんなを護る為にがんばってるなぁ〜〜ん」
「リリルはシュギョウなぁ〜ん♪」
 少女達の言葉に、ソルティークもフフッと含み笑い。
「そうですね……私は色々知るには最適と思ったからでしょうか?」
「知る……?」
 彼の返答はまだお子様には難しかったよう。
「フリュレさんは〜、どんな冒険者になりたいなぁ〜〜ん……?」
「かっこいい冒険者になりたいの」
 幼い少女は、まだまだ夢一杯といったところだろうか。
「邪魔な木は……無さそうだな」
 ぐるりと庭を見渡したアネットだが、悪戯に居合い斬りを使う訳にもいくまい。
「わぁっ! すごい!!」
 そこでウェポン・オーバーロード。眩い白と黒の光を放つ一対の『降魔の剣』を召喚、剣術の基本の型を披露する。
「フワリンっていうの? ふわふわしてて可愛い」
 アネットの演武とスレイツの粘り蜘蛛糸を使った木登りは男の子達に評判が良かったが、スタインの喚び出したフワリンには女の子達が夢中になったようだ。
「……ふーん。やっぱり、前でバリバリ戦いたいんだ」
「うん……父さんは女には無理だって言うんだけど」
「そんな事ないよー」
 頭を振ったルシエラが二連剣を構える。どちらかと言えば子供っぽい風の彼女だが……その流麗な武人の剣捌きに、リルカはハッと息を呑む。
「あのね、冒険者になる時、皆を守り助ける為に頑張り続けるって約束するんだよ。ルシエラはねー……冒険者じゃなくてもランザムさんやボランティアの人みたいに、誰かのお役に立てたらいいなーって。好きな事で頑張れるのは素敵だと思うな」
 だから、リルカさんも大丈夫だよー――親指をぐっと立ててみせて。ルシエラは懐っこい猫を思わせる笑みを浮かべた。

 3日目――特別授業最終日。スレイツの照る照る坊主が功を奏したのか、雲1つない好い天気だ。
「付き合って貰って、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそお世話になりましたから」
 そろそろ中天に差し掛かろうというお日様を見上げ、カルフェアは目を細めた。
 子供達に記念品が贈りたいからと相談を持ちかけ、ランザムと買い物に出たのだけど……。
「……? 塾はあっちですが」
「知ってますよ」
 すたすたとあらぬ方に向かうカルフェアを追い掛けたランザムは、自宅の庭を前に大きく目を見開いた。
「これは……!!」
 刈りたての芝生に敷かれたシートには、スタイン特製のご馳走一杯のバスケットが広げられている。
 足の悪い独り暮らしで雑草蔓延って久しかった庭はすっかり綺麗に掃除され、得意げで照れ臭そうな子供達と冒険者が一斉に手を振ってきた。
「サプライズ♪ 子供達から貴方への感謝の気持ちです」
「お手伝いさん達も協力してくれたんだよー」
 前日からの準備の疲れは微塵も見せず、ランザムに恭しく一礼してみせるソルティーク。ルシエラは嬉々として花で飾った特等席に案内する。
「感謝状――ランザム・キルレン殿。貴方が、この町で長年に渡り教育に尽くされた功績は誠に多大であります。よって、ここに感謝状と記念品を贈呈します」
「……あ、ありがとう」
 アネットからの感謝状は字を覚えたばかりのサチとリリルの力作であり、子供達からの寄せ書きにランザムは感無量で言葉を失ってしまったようだ。
 そうして和やかに始まったお花見パーティは、忽ち子供達の笑い声と歓声で一杯になる。
「人形姫と呼ばれる少女が住んでいた城の探索がありました――」
 せがまれてスタインが語り出したのは、夜な夜な人形が動いているという噂から始まった何処か哀しい古城の冒険談。
「あ、ありがとうございます……慣れてますね」
「応急処置くらいはね。冒険者みたいにパパッと治すって訳にはいかないけど」
 うっかりナイフで指を切ってしまったヒリヨに絆創膏を貼って、ロウンは小さく肩を竦める。そう言えば昨日のシャドウロックに最後まで挑戦していたのも彼で、確かに手先は器用だろうけど。
「……冒険者は、自分が性格的に向いているのを選ぶのが一番ですよね。ロウン君に人を癒したいと思う強い意志が有れば……それは立派な医術士の素質です」
「え……」
 ヒリヨの呟きに、目を見張った少年はふと考え込むように首を傾げる。
「……そう、だよね」
 1人頷いたその横顔は、何かを吹っ切ったように清々しかった。
 そんなロウン達冒険者を目指す3人の子供達に、スレイツは自分とお揃いの木彫りのお守りを贈る。
(「冒険者になっても無茶はして欲しくないし、コレを見て僕たちの事を思い出してくれると嬉しいよね♪」)
 何時か、彼らと肩を並べて冒険する日が来るように……。
「皆さんには、こんなにまでして戴いて……」
「サチ達も〜、ランザムさんには勉強でお世話になったなぁ〜〜ん。だから、いっぱいっぱいありがとうなぁ〜〜ん」
「なぁ〜ん♪」
 感謝の気持ちを伝え合う事は、人としてとても大事な事だから。そして、「ありがとう」と言われる嬉しさが冒険者達の力も源――1番大切な冒険者からの『メッセージ』だから。最後のパーティで、上手く伝えられただろうか?

 こうして冒険者達の特別授業は、春の日差しの中で温かく修了を迎えるのだった。


マスター:柊透胡 紹介ページ
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作成日:2005/04/30
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