Praying Mantis(es) !!



<オープニング>


 春眠暁(あかつき)をおぼえずという。
 すっかり春となったこの日、老人が目覚めたときには、すでに日は昇りつつあった。
 遅くなってしまった。家畜たちはまちわびているだろう。老人はいそいそと干し草小屋へいそぐ。
 小屋の前まできて、老人はふと、背後に気配を感じた。家畜小屋のほうだ。
 誰だろうこんな時間に。家畜泥棒だろうか。
 それにしてもこの寒気はどうしたものだろう。頭から冷水をかぶったような気がする。空気はあたたかいのに、歯がガチガチするほど震える。家畜小屋にちかづくほど、その寒気は強烈になる。
 ――あとから思えばそれは、危険にたいする本能の警告だったのだ。

 家畜小屋の扉がやぶられているのを見て、老人は血相をかえてなかに飛びこんだ。
 そして斜めからとはいえ、「それ」と相対するはめになってしまった。
 若草色の、ひょろりとした姿。四本の足は体格に比すと細いが、それでも鉄の棒のように見えた。逆三角形の頭部が、くっ、くっ、と回転する。老人との距離をつかみかねているのだ。興奮しているのか、背中から薄い羽根が、バシャバシャ音をたてて開いては閉じた。触覚が、それ自体意思をもつかのように踊った。
 なによりも異形なのはその腕だ。アンバランスに大きく、胸のところであわされている。天然の刃(やいば)をたくわえた両手は、祈りを捧げる人のようにも見えた。それは鎌なのだ。見た目だけですでに凶器、老人の首など、かるく撫でるだけで飛んでしまうだろう。
 巨大なカマキリだった。老人はもちろん、ノソリンよりも大きい。頭部は天井につきそうだ。老人はふたたび、猛烈な寒気をおぼえた。
 カマキリは、シューッという音を発した。
 次の瞬間、カマキリの正面にいた仔ヤギが鮮血を噴きだして倒れた。
 カマキリの動きはまったく見えなかった。

 大声をあげながら走り、村中に急をつげた老人は、人々に保護されるまで、全身から仔ヤギの血をぼたぼたたらしていることに気がつかなかった。

********************************

「この依頼は一刻をあらそいます!」
 ヒトの霊査士・リゼルは冒険者たちのテーブルにつくや、めずらしく早口で依頼の概要を語った。

 山奥の小さな村に突然、見上げるほどの全長をもつ巨大カマキリが出現した。双(ふた)つの刃は鍛えた鋼のごとき切れ味で、たちまち家畜を切り裂いて餌食(えじき)にしてしまったという。最初にカマキリと出会った老人の話を、リゼルはくわしく説明する。
 カマキリはすばやく、ほぼ全方位に対応する視界の広さをもち、しかも飛ぶ。翼をたたんでいるかぎり、移動にほとんど音を立てないのもやっかいだ。
 村人はちかくの集落に避難し、いまのところ殺された者はない。これが唯一の救いだった。

「もちろんこの巨大カマキリの退治を依頼したいのですが、いそぐのには理由があります」

 リゼルが霊査したところ、カマキリはすでに、最初の家畜小屋の家畜達をすべて殺してしまったのだという。
 このカマキリには奇妙な習性があるようだ。標的を殺すとあたたかい肉にかじりつくが、肉がつめたくなれば興味をうしない、食べ残して他に目をむける。それを満腹するまでくりかえすのだ。
 いま、カマキリは村を徘徊しているらしい。
 このままでは、村の財産は凶暴な捕食者に殺しつくされてしまうだろう!

「計算では、いますぐむかっても深夜の到着になりそうですが、朝をまってはいられません。できるだけはやくカマキリをおびきだして退治しなければ、村の人たちは生活の道を失ってしまうでしょう」

 冒険者たちは大至急これに応じると約束し、村人がリゼルに託した村の見取り図をもって酒場からとびだしていった。
 それを見送るとリゼルはため息をつき、テーブルにのった水をぐっとあおった。喉がカラカラだった。

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参加者
六風の・ソルトムーン(a00180)
隠者・タナトス(a01890)
雪舞小笑・エレアノーラ(a01907)
破城槌・バートランド(a02640)
緑星の戦士・アリュナス(a05791)
唸る豪腕・ログナー(a08611)
泰秋・ポーラリス(a11761)
恋を探して東西南北・フェイム(a14930)


<リプレイ>

●索敵
 冒険者たちはすぐに仕度を終えた。カンテラやたいまつの準備、それに、村の見取り図をもとにした各人の配置と役割分担だ。
 エルフの医術士・エレアノーラ(a01907)はいった。
「村にとりかえしのつかない被害がでる前に間に合うといいね」
 ヒトの武人・ソルトムーン(a00180)は、彼女にうなずくと宣言する。
「多くの場合において拙速は巧遅に勝る。行動は迅速に行うべし。疾く疾く村に急がん」
 かくして一行は村にむかった。かなりの速度で移動するも、さすがは経験をつんだ冒険者たちである、戦闘余力をそこなうような抜かりはない。
 こうして彼らは戦力を温存したまま、無人の村に到着したのだった。

「ふむ、思ったより暗いな」
 村を見てのソルトムーンの第一声だ。彼は遮光ランタン『宵風』に灯をいれた。
 とうに日は落ち、光といっても弱弱しい月明かりがあるのみだった。村は墨で塗りつぶした絵のようで、音も光も動きもない。灯が見えないのはもちろんのこと、虫の鳴き声とてしないのだ。 
 ストライダーの武道家・アリュナス(a05791)は、肌が粟立つ感覚をおぼえていた。
「不気味ですね」
 アリュナスの野生の勘が、危険の存在をつげている。
「この村のどこかに、やつは……いる」
 リザードマンの狂戦士・ログナー(a08611)も、厚いウロコの下に気味の悪い圧迫感を感じていた。
 ストライダーの武道家・ポーラリス(a11761)は、用意したカンテラに灯をともす。
「自然の摂理に外れた存在か……っ!」
 語尾がゆがむ。一瞬だが激痛がはしったのだ。ポーラリスの負傷はまだ完治していない、移動には耐えられたが、予告もなくやってくる激痛はどうしようもなかった。
「大丈夫っ?」
 かたわらにいるエレアノーラが、ポーラリスをさする。
「重傷を負っていて本当にすまん…。足手まどいにならんように尽力する」
「ポーラリスさんは強い子なのですなぁ〜ん」
 ヒトノソリンの重騎士・フェイム(a14930)は感心していった。
「強い子かどうかは知らんが……ありがとう」
 どこか近寄りがたい雰囲気のあるポーラリスだが、その実は人づきあいのよい男だ。ふいに見えたポーラリスの笑顔に、フェイムははからずもドキドキする。
 ヒトの邪竜導士・タナトス(a01890)もカンテラに灯をいれた。
「さて、索敵班は出るとするかな」
 そういいながら、タナトスは肌に、血の刺青を浮き上がらせる。復讐者の血痕だ。この状態のときに彼を攻撃したものは相応の報いを受けることになる。
「大した効果は見込めぬが、ただでやられる気はない」
 老人はそういって静かに笑う。
「その意気、いいねぇ。転んでもただでは起きない。それくらいの図太さがなきゃあな」
  ヒトの重騎士・バートランド(a02640)はニヤリとして、たいまつを盛大に燃やすのだった。
「サッサと行ってブッちめようぜ? 大食いなカマキリに、贅沢は敵だって教えてやらにゃぁ」

 索敵にあたっては、灯りを最小限にしてエレアノーラの夜目を活用しようという案もあった。しかしエレアノーラは待機することに決まったので、逆に灯りはたいまつ等で、なるだけ強力にすることにしたのだ。
「こういうチラチラした灯りを使ってれば、カンテラとかを使うよりカマキリの注意を引くことができると思いますなぁ〜ん」
 フェイムがのんびりという。いつだって彼女はマイペースだ。それが一同の緊張をほぐしていった。
 フェイムは前列左端に立っている、中央にはバートランド、右端はソルトムーンだ。
「そういや…お前さんと並んで、ってのは初めてだよな。頼りにしてるぜ、六風の大将?」
 バートランドが快活にいう。
「貴殿こそ頼むぞ。中央に立つ以上、戦闘となれば貴殿は我らの要(かなめ)だ」
 たいするソルトムーンの言葉は、居丈高に聞こえぬこともない。だがその口調からは、バートランドに応える大きな信頼感がうかがえた。六風のソルトムーン、破城槌・バートランド、歴戦の古強者(ベテラン)二人が肩を並べる姿は、一枚の銅版画のように荘厳であった。
 バートランドは鎧聖降臨をかけ、みずからの鎧を獣の毛皮状の見た目に変える。また同様にソルトムーンの鎧を、曲線のフォルムを持った黒い鎧とした。こうすれば、カマキリからはバートランドの姿は動物に見えるであろうし、逆にソルトムーンは闇にまぎれ見えにくくなる。
 三人につづいてタナトスとログナーが後衛をかため、索敵班は出発した。できるだけ目立つよう、大通りを歩いていく。

●対決
 索敵班は家畜小屋のひとつにたどりついた。
 ふいうちにそなえつつ、ソルトムーンが小屋をのぞき、静かに首をふった。
「家畜はみな死んでいる。血の匂いがあるばかりだ」
「一度もどりましょう、待機しているみなさんのことも気になる」
 ログナーの言葉にしたがい、一行が引き返そうとしたとき、
 …………かさッ
 かすかに、本当にかすかに、風に揺れる稲穂のような音が聞こえた。
「やつがおるぞ!」
 タナトスがまっさきに叫び、音のするほうへカンテラを投げ捨てる。
 間一髪だった。
 真上。
 小屋の上から巨大なカマキリが、鎌を先にして飛び降りてくる!
(「俺たちの接近を、ヤツはとっくに気づいていた!」)
 ログナーは紅蓮の咆哮をあげた。敵の足止めを狙ってだが、待機中の仲間への合図にもなろう。
(「こいつぁマズいぜ!」)
 うなる凶器は二本とも、まっすぐにバートランドを狙っていた。半秒にみたない時間ですでに、バートランドの冷静な頭脳は、みずからの防御が間に合わないとの結論をだしている。彼は思う。
(「片腕くらいもってかれそうだな」)
 だがその予想は外れる。
 甲高い音が響いた。それは女の、しかもヒステリックな女の泣き声のようでもあった。金属が振動する音だ。
 凶器をとめたのは重厚なるハルバード、その持ち主はソルトムーン! 攻撃の重さにソルトムーンは思わず膝をついた。衝撃でしびれる手を一瞥し、武人は吼える。
「チィ……鋼の柄でなければ真っ二つであったわ!」
「助かったぜ大将」
「戦闘開始ですなぁ〜ん!」
 フェイムは鎧聖降臨を使い、全身鎧の装甲を高めた。
 カマキリはすでに体制をたてなおし、舌なめずりするようにくっ、くっ、と、頭を回転して一同をながめまわしていた。

「本当にこやつは一匹なのか!?」
 タナトスの言葉も無理はない。カマキリは五人の攻撃を封じこんでいた。まさに縦横無尽、フェイムの攻撃を防ぎつつバートランドを狙い、その直後にはもう、ソルトムーンの攻撃を受け流している。タナトスが飛ばしたスキュラフレイムも、すんでのところでかわしていた。一匹にして数匹分の動きだ。
「正面は俺が引き受ける! こいつは俺がお気に入りらしいからな」
 バートランドは大きく右脚をひいて、盾を全面にし防御の構えを見せる。他のメンバーに包囲をうながしているのだ。
「へっへ…俺が手前ぇの最後の晩餐、ってヤツだ。もっとも、食えりゃぁのハナシだがなぁ!」
「一人は危険だ、バート、此方の鎌は任せろ」
 おなじく正面に残り、ハルバートをふりかざしてソルトムーンは叫んだ。
「思ったよりも動きは早い、側背を取ったとて油断するな!」
 さすがに多方向からの攻撃には弱いらしい。側面に走り込んだフェイム、そしてログナーの攻撃が、ついにカマキリの体に触れた。
 カマキリの体がかたむいたとき、タイミングよくその身にとびついた者があった。
「援軍参上だぜ!」
 とびついたというよりしがみついたというのが正しい、アリュナスだ!
「その鎌は背に攻撃できないだろ! つまり背後は死角!」
 極限まで練りこんだ「気」を指先に集中、アリュナスは指殺奥義をカマキリの頭に叩き込もうとする。
 だがアリュナスは忘れていたのだ、敵には背にもそなえがあることを。彼の体は激しくはじきとばされる。
 カマキリが勢いよく、背中の羽を開いたのだ!
「しまった!」
 アリュナスの体は宙を舞い、家畜小屋の柱に激突した。警戒していたためとっさに頭だけは守れたが、激痛が一拍遅れてやってきた。
「いますぐ治すよ!」
 エレアノーラは追いつくと、彼にかけよって治療する。
 風が出てきた。ポーラリスのロングコートがばさばさと揺れた。彼はエレアノーラの「君を護ると誓う」によって守られている。
(「落ち着け……考えろ。ヤツとて無敵ではない。なにかクセがある」)
 怪我で思うように動けないポーラリスだが、目も頭も健在だ。敵から距離をとり、彼は勘と経験をフルに使いつつカマキリの動きを観察した。どんな敵であれ独自のクセがある。
「!」
 だからポーラリスがまっさきに気づいた。カマキリが両手の鎌をあわせ、祈るような奇妙なポーズをとったことを。
「気をつけろ! なにかやる気だ!」
 ポーラリスは大声で叫んだ。それと同時に、シューッという音がカマキリの口からもれた。
 音が聞こえたと思ったときには、すでにカマキリの両手から衝撃波が放たれていた。音を聞いてから防いだのでは間に合わなかっただろう、祈るポーズに気づいたポーラリスが危機を救ったのだ。
 衝撃波は二本、閃光のように襲いかかった。
 盾を構えたバートランドは、攻撃に盾ごとのけぞったが無事だ。
 もう一本の衝撃波はフェイムを襲ったが、彼女も反射的に盾でこれを受け、尻餅をついただけですんだ。
 まさかこの攻撃を防がれるとは思ってなかったのだろう、カマキリに動揺が見えた。それを見逃すソルトムーンではない!
「所詮は虫か……集中力が散じておるぞ!」
 達人の一撃奥義! 絶好の間合いに踏み込んでハルバートを突き出す。びゅっと緑色の体液が飛んだ。
 間合いを読むのが得意なのは彼だけではない、すでにログナーも、相手の懐に飛び込んでいる。カマキリの細いボディに、ガントレットによるラッシュ攻撃が面白いように決まった!
「いい手ごたえだ……」
 思わず恍惚となるログナー。彼の脇をすりぬけて、黒い炎がカマキリに襲いかかった。獅子と山羊、蛇の頭をもつ恐るべき炎、獅子と山羊がカマキリの喉に喰らいつき、蛇は胴に毒を流し込んだ上で爆発! カマキリはさらによろめく。タナトスのスキュラフレイムが命中したのだ。
「よっしゃ決めるぜ、大将!」
 ヴォーパル・ウェポンをきらめかせ、バートランドが叩き斬る! カマキリの左手が、どさっと音を立てて地面に落ちた。
「うむっ!」
 間髪をいれずソルトムーンのハルバートが、右の鎌を落とす。
「成敗っ! なぁ〜ん!」
 もはやカマキリはスキだらけだ。大きくジャンプしたフェイムの兜割り奥義は、見事、逆三角形の頭を割った! どこにそんな生命力が残っていたのか、それでもカマキリはヨロヨロと逃げようとしたが、
「さっきのお礼だ!」
アリュナスが指を突き出す。ふたたび指殺だ! 腹に突き刺さった指をズボリと抜いたとき、カマキリはついに倒れた。
「見事だ。画竜点睛を欠く訳にはいかぬからな」
 ソルトムーンは息をつくと、アリュナスを讃えた。

●朝
 やがて朝がきた。
 カマキリのいない朝は、村にとって久々となる。
 はげしい戦闘に一行は疲れきっていたが、大きな怪我人がなかったのは幸いだった。
「命の抱擁をつかう必要がなくてよかった」
 エレアノーラがにこりと笑い、一同はうなずく。
「村をまわって調べたが、無事な家畜も多い。被害は思ったほどないようじゃのう」
 タナトスがいう通りであった。急いだのは正解だったようだ。
「心配していましたが、他にカマキリはいなかったみたいですしね」
 おなじく見回りにでていたアリュナスも同意した。
「そろそろ帰りましょう。村の人たちにも早く依頼の成功を伝えたいし」
 かなり眠かったが、それでも元気にログナーは立ちあがる。
「そうだな。家畜らも村人を恋しがっているやもしれぬ」
 ソルトムーンは深くうなずいた。
「できればカマキリの出所も調べてぇトコロだが……またの機会だろうな。とにかく帰って一杯やろうぜ? 」
 バートランドの快活さは疲れを感じさせない。
「それはいい、楽しい飲みなら好きだ」
 と言いかけたポーラリスだが、すばやくエレアノーラにたしなめられる。
「お酒は怪我にさわるよ、怪我人は無理しちゃだめだよ!」
「……酒はひかえて、怪我を早く治すとしよう」
「それでは出発なぁ〜ん!」
 フェイムの声を合図に、一行は村をあとにするのだった。


マスター:桂木京介 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2005/05/01
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