<リプレイ>
●広がりを持つ地下 「これは……まさか、こんなものが」 地の底、垂らされたロープを四苦八苦して降り立ったヒトの重騎士・ジンユ(a02946)は、周囲の光景に目を見張った。寡黙な彼でさえ、驚嘆せずにはいられなかった。もちろんそれは、周りの者達の心中を代弁したものでもあったろう。 地下であるにもかかわらず、そこいら中に石の柱や煉瓦造りの壁、あるいは石畳がどこまでも続き、半ば崩れたそれらがランタンの明かりでゆらゆらと揺れる影を生む。屋敷の地下は、遺跡だったのである。 そして、これがどこまで続いているのか、知る者はいない。 「案の定、といったところだろうがな……」 緋色の悪魔・シーナ(a01670)は顔をしかめ、ジメジメとした足下を睨み付けた。 「執事さんか誰か、ご存じの方がいらっしゃってもいいかと思ったんですけど……」 月炎の魔導師・ミラージュ(a00299)も、周囲を不安げに見回す。 いい加減なことに、代々の当主のただの1人もが、この地下道の事をまともに調べたことがなかったのである。そして、まったくなにも考えずにゴミを投げ捨て続けてきたのである。呆れたことに。 「あ〜ぁ。けっきょく潜ることになっちゃったかぁ」 ヒトの武人・リトル(a03000)はため息をつく。問題の『ゴミ箱』からロープを垂らし、ここに下りてくる間にどこかに引っかかってくれでもしていたら、話は簡単だったのに。しかも悪いことに、『地面』に降りるまでに穴はいくつかに枝分かれしていたようだ。人は通れそうにないそれらでも、小さな指輪なら転がっていった可能性もある。 「まったく……たまったものじゃないな」 エルフの紋章術士・ダグラス(a02103)はバンダナで口元を抑え、悪態をつく。 広がる遺跡群は、往事の町の繁栄を物語っていた。が、今の一行にはそんなことなどどうでも良く。何十年、もしかしたら100年以上に渡って垂れ流された汚物はどこからか漏れ出てくる地下水に沈み、バンダナ越しにも、吐き気を催すほどの悪臭がする。 「さっさと終わらせようぜ。……予想はしていたが、おりゃそれ以上だ。こっちが腐ってしまいそうだぜ」 「といっても、これじゃあ地道にドブをさらっていくしかないけどな」 ヒトの武人・ユノ(a02869)はそう言って、ドブの中に一歩を踏み出した。
●地下道の主 「わ、わ、わ、なんだよこれーッ!?」 「知るか! 『化け物』だ、それでいい!」 リトルは狼狽しつつ、転がるようにして逃げた。舌打ち混じりに指摘するダグラスも、後ろを振り返りつつ息を荒げつつ、走る。 その後ろから、ネズミの群がやって来た。 ……ネズミ? ダグラスが見上げなければならないような、それがネズミ? そう。大きさこそ規格外ながら、間違いなく汚物にまみれたドブネズミが、冒険者を追ってきたのだ! また、先頭をやってくる巨大ネズミほどではないが、両手の拳ほどもあるネズミ(十分すぎる大きさである)の群れもそれを追って怒濤の勢いで、迫る。 「わ〜ん! ダグラスが『ネズミ、ネズミ……』なんて探すから!」 「話を聞こうと思ったんだよ! こういうのはさすがに予想してない!」 「あんな汚いネズミを飼い慣らそうなんてのも、信じられないッ!」 「と、とにかく下がってください!!」 ストライダーの牙狩人・アルト(a03604)は急いで弓を構えつつ、しかしながら地面の色さえ変えて迫ってくるネズミの波に、的を絞りかねた。牽制にと彼らの足下に鋭く一矢を放ったが、動じたふうもない。判断するだけの力がないのか、あるいは。 「……これだけの数だと、エサ探しも必死なんですかね。まして、あんなのもいますし。でもあの育ちッぷりからすると栄養豊富そうですけど」 「普通のネズミがあんなに育つとでも思っておるのか! えぇい、わしがやる!!」 入れ替わるように、ヒトの武道家・ソーウェ(a02762)が立ちはだかる。そして、「くらえぃ!」とばかりに『剛鬼投げ』! 巨大ネズミを豪快に投げ落とす! しかし、足場が悪かったか。ソーウェの投げはいくらかかかりが悪く、また落としたその場もヘドロのたまった泥水の中だったせいか、それがクッションになってしまったらしい。ネズミはしばし首を振っていたが、すぐさま体勢を立て直して襲いかかってきた!
●思いがけぬ脅威 「手下」ともども襲いかかってくるネズミのを前にし、ジンユが、そしてユノが壁となって立ちはだかる。 「あぁ、もう! キリがないじゃないか!」 しかし、ユノが足場を気にしつつ放った『居合い斬り』はいかにも苦し紛れで、それでも少なくないネズミを真っ二つにしたものの、確かにきりがなさそうだった。 突然、冒険者の背後でバシャバシャと水音が立つ。何かと思って振り返ってみると……ゴミ。 「あぁ〜もぉッ! ゴミは落とさないでって言ったのに!」 頭上から振ってくるゴミと飛び散るしぶきに気を取られている場合ではない! リトルは慌てて、ドブをさらうために手にしていたザルで、ネズミを追い払う。殺すことは出来ないが、ブーメランよりこの方が当てやすいし、なにより防ぎやすい。 上では奥様が「あらあら、久しぶりねぇ。今日は泊まっておいきなさいな。美味しい料理もご馳走してあげるから」などと、冒険者達とはまったく対照的な明るい笑顔で客人を迎えたりしていたのだが。 「ネ、ネズミでもこれだけ集まると!」 ランタンの明かりを受けてキラキラと光るネズミの瞳はいかにも不気味で、ミラージュの腰は少々引け気味。ふわふわまん丸な奴ならば「ねずみさん♪」という可愛いレベルで話もできるが、ドロドロ真っ黒では。 医術士不在の面子においては、いつも以上に負傷者は出したくない。だが、それを差し引いても怪我は避けたい状況だ。小さな傷1つでもつけられたら、その傷がどのような有様になるか、想像したくもない。そこだけはずいぶん白く見える歯も、案外と鋭い。 「そんなこと言ってないで、なんとかしてくれよッ!」 ユノに言われるまでもない。こういう敵には、いちいち武器で振り払うより術士のアビリティの方が役に立つ。 とりわけ、ミラージュの『ニードルスピア』は鼠たちを次々と指し貫いた。 「やれやれ……。さて、残った奴に聞いてみるか」 「やっぱり聞くの!?」 ●彼らの目的 話を聞くと言っても、所詮はネズミである。細かな物品の区別など付かず、また落とされるゴミは数多い。中には、残飯以外の硬質なものもある。だいたい、食料となるもの以外はすぐに興味を失ってしまうようだ。 「あ〜ぁ、ドブと格闘するしかないか」 「ぼやくでない。正直、よくもまぁこんな依頼に集まったものだと思うぞ?」 ソーウェはぼやくダグラスをたしなめつつ、手にしたペンを忙しく動かす。地図を書いているのだ。 「じゃあ、お前はなぜここにいる?」 目を細めるようにして道の奥を見つめつつ、シーナは問いかけた。もっとも、周囲はランタンの明かりで満たされているから、エルフの夜目も思ったほど役には立たない。が、まさか明かりを消すわけにもいかず。 「わしか? それはのう……ふっふっふ、未知! 未知じゃ! 誰も踏み込んだことのない未知の世界がここにはあるんじゃ! たとえて言うなら学者とか好事家とか、『しかるべきところ』が黄金色の何かと交換してくれそうな未知に!!」 「あーはいはい、そういうコト。どうでもいいけど、あんまり寄らないでね。汚いから」 巨大ドブネズミを抱えてドブの中に投げ飛ばしたソーウェは、周囲にとけ込みかねないカラーリングとなっていた。もっとも、そのしぶきを浴びたりもしたリトル達だって、けっこうなものなのだが。 「……まぁ、とにかく探しましょう。人を雇ってまで探すほどのルビーなのですから、きっと奥様にとっては大切な物なのでしょうから」 と、アルトは言ったものの。 一行は明らかに、「あぁ、思い出しちゃった」と言わんばかりの不機嫌な顔を向けた。よく見ると一行には、この悪臭だとかドブネズミとの戦闘だとか以外にも疲労の色が見受けられる。 礼儀正しい奥様が、『わざわざ引き受けてくださった』冒険者達を歓待しないわけはなかったのである。仕事を言い訳に、さすがに食事などは断ったものの。「まぁ、お茶だけでも」と言われたら、断る訳にもいかず。そしてもちろん、奥様を前にした午後のお茶がそれだけで済むはずもなく。 「……私、それなりに冒険者やって長いですけど……。正直、歓待されて、それをこんなに遠慮しようと思ったのは……初めてです」 ミラージュは半笑いでため息をついた。
●冒険者の仕事、それはドブさらい 2人1組で効率よく、といっても、特に細かく決めたわけでもないので、なし崩しに適当に、ドブをさらっていった。 指輪の落ちた可能性のある場所から、流された可能性も考えて徐々にそこの下流。そこを探索の中心とした。ソーウェが地図を書き、ミラージュとアルトは壁など目立つところに印を付け、キッチリと区画整理をして地面にしゃがみ込む。 どうやら、地下道はもっと広いようだが……今はそんなことを気にしている場合ではない。 ときおり、かんじきを履いてドブに踏み込もうとしたリトルがよ〜く足元を見て、「ヒルが、でっかいヒルが!」とか叫び、ソーウェがここぞとばかりに捕獲にかかったり、またまたネズミが襲ってきたりと、トラブルには事欠かなかったが。それを適当にあしらいつつ。 「ふん。ここにいるだけで、悪い病気にかかりそうだ。足下から異物が這い上がってくる感じがする」 シーナは長靴にしみこんでくる汚水の気配を感じつつ、不愉快そうに鼻を鳴らした。長靴の防水といえばニスを塗りつけるなどの手があるが、なんにせよ長時間歩き続けることで徐々にはげ落ちてきている。今更この程度と言えばそうだが、ぬるぬるとした感覚が足の裏に伝わってくるのは、気持ちの良いものではない。 それでも、地道な作業を続けること約半日。 「あった……。これ……そうだよな……?」 汚物まみれになることも顧みず、黙々とドロを掬っていたユノが、呆然と呟いた。手にしたザルから拾い上げたそれは、服にこすりつけてみれば確かに赤玉の指輪。 「やった!!」 ユノ同様、長いあいだ呆然としていた仲間達がわんわんと地下道に反響する歓声を上げる。なんというか、ずっとここで作業しているうちに、「もしかして一生ここでドブさらい奴隷なのでは?」みたいな錯覚が芽生えていたのである。 さぁ、見つけたからにはもうここに用はない! 地上に戻って、指輪を渡して。そして、風呂に入ろう! 真っ赤にゆだるほど、身も心もとろけるまで湯に浸かろう! そして、渾身の力を込めて洗濯しよう! いや、いっそ香りも爽やかな新品の服に着替えよう! そうして、馬鹿になった嗅覚と苦いを取り戻し、苦い口の中を癒してくれるような美味しい美味しいご飯をお腹一杯食べよう! よし、そうしよう!! 「これで奥様にも顔向けできますね。よかった」 嬉しそうに呟くアルトの声に。 あぁ、そうか。奥様に報告もしなくちゃいけないんだよな。 一同は、ゆっくりとアルトの方に振り返った。心底、嫌なことを思い出させてくれたという顔で。
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参加者:8人
作成日:2003/11/10
得票数:冒険活劇1
ほのぼの3
コメディ12
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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