<リプレイ>
●子供達 朝早くから、依頼者宅には子供達が集まっていた。 今日は手入れをするから、本を読むことが出来ない……説明を聞いた子供達の間から、一斉にえーっという落胆の声があがる。 ただ、残念がっているばかりでもなかった。 本でしか知らなかった冒険者のお兄さんやお姉さんが、その本の手入れのためにと、何人もやってきたのだから。 ごめんなさいね、と集まった子供達を見回す、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)。 「その代わりにお姉ちゃん達がみんなに物語りや歌を聴かせてあげるから、我慢してもらえないかしら」 期待と不安の入り混じった複数の視線。 それがあっと言う間に輝く笑顔に変わって行くのを認め、黒尾・レダ(a23184)も視線を落として笑顔を返す。 「じゃあみんな、あっちの部屋でお話を聞こう」 憧れのお兄さんお姉さんに言われて、多くの子供達は素直に別室へと向かっていく。 だが、どうしても本が読みたいのか、その場を動かない子も居る。 「こんにちわですよー♪」 そんな子供達の顔を、蜂蜜たっぷりのホットミルク・セレスティア(a16141)が覗き込む。ご本を読むのがとても好きなんですねとの問いかけに、残っていた子供達は大きな頷きを返した。 「今日は皆さんで作ってみませんか?」 思いがけない提案に、しかし、自分で作るという未知の体験に、子供達の表情に期待の色が満ちていく。 「気になるか? ははーん、見た事ないんだな?」 外見に興味を持った男の子達に、灰色の鱗を纏った立派な尾を触らせてやったりしながら、灰鱗の狂戦士・ウォルルオゥン(a22235)は少々騒いでもいいように、庭のほうへと子供達を引き連れていく。途中、持っていた籠に興味を示した子が居たが、ウォルルオゥンは開けてからのお楽しみだと、にっと笑う。 回り込んだ窓から覗くと、ラジスラヴァが自分の冒険譚を聞かせているのが見えた。最初はおっかなびっくり、仲間に話し掛けられるたびに尻尾の毛を逆立てていたストライダーの吟遊詩人・フォーナ(a25696)も、子供達に楽器の弾き方を教えたり、一緒に歌を歌ったりと、今は少し落ち着いた様子を見せていた。
●本 微かに聞こえる、歌や、はしゃぎ声。 「えーっと、とか言うと、それも書いてまうで」 自分自身が紋章筆記の特性を良く掴んでいなかったこともあり、紋章術士の菓子職人・カレン(a01462)が事前に試した結果を、注意も兼ねて皆に伝える。 子供達の前で読み聞かせながらの写本を行なおうと思っていたのだが、話し掛けられた返事で妙な字を書いてしまう恐れがある為、とりあえず持参したクッキーを配り終えると、カレンも皆と共に写本に専念することに。 「読む方……元の本やな。そっちは順番に捲って音読すりゃええだけなんやけど、書く方の手ぇは放したらそこで一回分お終いや」 「なのでー、こんなの用意してきましたー」 カレンに頷き返し、緑陰の学徒・ゼフィルシア(a05181)が取り出したのは、長い長い一枚の紙。紙には等間隔に印がつけられ、それは丁度、本の一頁分の幅。 「成る程ね」 欠落司書・トロイメライ(a17943)が感心したように覗き込む。一枚に一気に書いて、後で製本するということか。これなら書く手を放さずに済む。 そんな中、紋章筆記を用意していない者は、既に写本作業に取り掛かっている。 写本元をぱらぱらと読み、粗筋を軽く覚えながら、白き流浪の紋章術士・フィー(a17552)が、心なしか機嫌よさそうに使い慣れた筆記具セットを卓上に並べる。 「依頼主に聞いたら、男の子は魔物退治、女の子はお姫様のでてくる話をよく読んでるって言ってたよ」 「じゃあ、その辺りに挿絵の頁を用意すればいいね」 最初の一冊はそういった要素も含め、普通に書き写す為に、トロイメライも自前の羽ペンを取り出す。 そこに差し出される、他力本願・リード(a25931)の手。 掌の上には、耳栓が。 「音読が多そうだしね」 「あ、お借りします」 耳栓を受け取りながら、エンジェルの牙狩人・セルディアズ(a25777)はカレンとゼフィルシアにちらと視線を送る。ぶつぶつと呟いているさまはある種異様ではあるが、言葉に合わせてさらさらと書かれる文字は、確かに速い。 密かに期待していた通りだと頷きながら、セルディアズも写本作業に取り掛かる。 「今日一日で終わるといいんだけど……」 リードも耳栓をつっこんで、作業開始。 そんな中、エンジェルの武人・マーキス(a19583)が、こっそりと絵を描く道具を持ち込んで、写本に混じってこっそりと表紙絵を描き始めるのであった。
●大切なこと 「そしてね、わざと悪い奴に捕まったの」 速く速くと急かす子供達。ラジスラヴァは緩急をつけて、なるべく子供達が興味を失わないよう、巧みに言葉を紡いでいく。 「ここはどうしましょう?」 額を寄せ合って本を作っているセレスティアも順調であった。私ならああする、こうすれば格好いい……ラジスラヴァの話に、子供達の想像力が更に掻き立てられるのか、話は時に突拍子もない展開へ。真っ当な筋に仕上げるのは難しいかもしれないが、それはそれで苦労のし甲斐がありそうだった。 庭の子供達は、ウォルルオゥンの提案で冒険者ごっこ中。 話を聞くだけでは退屈し始めた子供達を連れて庭に出たレダも、作りかけの本の内容を元に、一緒になってやっつけたりやっつけられたり。 今日は何をされても怒らず穏やかに居よう。 そのせいという訳ではないが、必然的に敵役をやることになって、レダは小さな冒険者達に、何回も棒切れで叩かれる羽目に。 「や、やられた〜!」 長身の冒険者が、とりわけ、ウォルルオゥンがどしーんと音を立てて倒れたりすると、子供達はきゃあきゃあ言って大喜び。 外で演奏してみようかと、子供達を連れて出てきたフォーナが、ふと思いついて、ごっこ遊びの場面に音をつけてみることに。 「あ……こう。するんですよ」 中にははしゃぎすぎてでたらめに演奏している子もいたが、どの子も皆、とても楽しそう。 そこへ、写し終えたばかりの本を抱えたリードとトロイメライがやってきた。 手にしているのが綺麗になった本だと気付き、現れた二人の元へ子供達がわっと押し寄せる。トロイメライを見た子供達が、怖いおにーちゃんだーなど騒いでいるが、本当に怖がっている様子はない。 「う、正直だな……ともかくこれ、できたてね」 「挿絵書いてくれるかな」 年上のしっかりしていそうな子にそれぞれを手渡し、再び写本に戻ろうとする二人を、ウォルルオゥンが引き止めた。 少し差し入れに持っていってくれ、と彼が見せた例の籠の中には、今朝焼いたばかりのパウンドケーキと、絞って飲むための果物がどっさりと。 それを見たレダが、差し入れのついでにと、子供達を集める。 そのまま連れ立って写本作業をする部屋に向かうと、そーっとね、と注意を促しながら、隙間から中を覗かせた。 幾つもの本。 カレンとゼフィルシアはずっとぶつぶついいながら、セルディアズとフィー、そしてマーキスは黙々と、脇目も振らずペンを走らせ続けている。 「その本は皆が一生懸命綺麗に作ってくれたんだ」 一通り中の様子を見せ終えると、レダは子供達が新たに手にした本に視線を落とす。 「これからは大切に読もうな」 そのとき、一人が部屋の中へ。 唐突に横から覗き込まれて、マーキスが一瞬驚く。 「おえかき?」 表紙絵を描いていた手を止め、マーキスは見上げる視線に頷きを返し、本に載せる絵を描いているんだよと、説明する。 「……やってみるか?」 それを入口の方で聞いていた数人が、ぼくもわたしもと名乗りをあげたので、マーキスは写本作業の邪魔にならぬよう、道具を持って一緒に別の部屋へ移動していった。
●完成 紋章筆記と別室での専念の甲斐あってか、作業は思いのほか順調に進み、子供達が解散する夕暮れ頃には、残り一冊と製本を残し、写本はほぼ終了。 持参した飴を舐めながら、ゼフィルシアが既に書いた部分の誤字訂正中。ほぼ丸一日、閉じ篭った状態で音読し続けていれば、言い間違いも出ようというもの。 カレンも差し入れのミルクティーを飲みながら訂正作業。 「これ、むせてしもたとこやな」 「……あれ? もう終わり?」 手書きであるにも関わらず、時間を忘れて写本をし続けていたフィーが、あっけに取られた顔をする。差し入れを頂きながら、一足先に和んでいたセルディアズが微笑みを返す。 「凄い集中力でしたね」 「なんとか今日中に終わったね」 耳栓を外し、伸びをして、リードが首を回し肩を叩く。こんなに文字を書いたのなんて、初めてではないだろうか。 製本も終え、出来上がった本を持って部屋を出ると、そこには子供達が待ち構えていた。幾人かはフォーナに習ったばかりの楽器をかき鳴らし、お礼の演奏をして見せる。 「お姉ちゃんのお話、楽しかった?」 新しい本が渡されていくのを見て、ラジスラヴァが最初と同じように、子供達を見回す。 「次に遊びに来るとき、またお姉ちゃんのお話を聞いて貰えるかしら?」 絶対きてね、約束だよ。子供達は大きな頷きで答える。ラジスラヴァは、それに笑顔で応えた。 「またな」 レダが子供達の頭を撫でて行く。 子供達の抱える本のいくつかから、フワリンの栞。トロイメライが挟んだものだ。 最後にセレスティアが、皆で一緒に作った出来たての本を手渡す。 「本はみんなの宝物です。大切にして下さいね」 今度の本には、自分達で描いた挿絵だって載っている。 きっと大切にしてくれると、マーキスは一人、力強く頷いた。

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参加者:12人
作成日:2005/04/30
得票数:ほのぼの16
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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