<リプレイ>
●一日目 登り始めは曇っていた空も、徐々に青みを増してゆく。 まだ見通しのいい山道。緋の剣士・アルフリード(a00819)が覗く遠眼鏡の中の景色も穏やか。 歩調を合わせる為、心持ちゆっくりを足を進めながら、風舞彩月・シリック(a09118)は転々と続く花を見やる。 「マリーゴールドかと思っていましたが」 時節柄、彼の言う花も見られるが、それと比べると、道標となる橙の花は、大きい割には何なく貧相ないでたち。 「前の道もこんなだったんですか?」 皆の足取りから、まだ危険地帯ではないことを何となく察し、小春日・ティトレット(a11702)も今はまだ少し花見気分で辺りを見回す。 「中腹まではこんな感じだよ」 坂は段々きつくなるけどねと、空を望む者・シエルリード(a02850)が少し息を切らせつつ応じた。先頭を行く眠らぬ車輪・ラードルフ(a10362)も頷いて、警戒がてら振り返る。 「二日目からが大変なんですよ」 「花見は今の内、ってことですね」 時折、目にした山菜を手折りつつ、朱焔の武を目指すもの・オウリ(a15360)もまた、穏やかな景色を見回す。 その頃、食医の紋章術士・アルト(a11023)の覗く遠眼鏡には、霧のようなものが見えていた。 「でも今日中には無理かな」 見通しのいい今だから見えるにしても、結構な距離。そして、進む周囲には、徐々に木々が茂り始める。 道標の橙に負けぬ程、山が朱色に色付き始めたのを機に、皆は野営地の準備を始める。 「ご飯作りますね〜」 どうやって納めているのか、鞄から鍋釜一式を取り出して、緩やかな爽風・パルミス(a16452)が道中に採取した食材を手際よく調理していく。オウリは自らの集めたものを、沈香・リン(a00070)に託し、自らは薪拾い。 「異常はなし、です」 見張りをしていた彷徨者・アウラ(a24803)が戻った所で、皆は夜の花を眺めつつ、のんびりと夕食。 ゆっくり休めるのは今日だけになるかも知れない。 ちょっぴり不安を抱きながら、皆は安全な寝袋に護られ、一度目の眠りに就いた。
●二日目 木々の合い間に警戒しながら、一行は朝露の残る道を更に進む。 「断崖が見えます」 見上げる角度でアウラの遠眼鏡に映る景色。 「前に通った道かなあ。こっちにはない、よね?」 シエルリードが他に辺りを警戒している者達を振り返る。リンは頷くと、クリスタルインセクトの使役の為、一度立ち止まる。 「崖は無いですが、凄い霧が」 「そのせいなのかな」 足場に気を配りながら進んでいたせいか、アルフリードが真っ先に足元のぬかるみに気付く。そういえば、アルトもこの辺りに霧があったと話していた。 湿気を含んだ空気の気配。 心なしか、視界も悪くなってきているような……気がする、と思っているうちに、辺りは真っ白に。 「この道は、体でなく、心を試しているかのようですね」 カンテラでは間に合わないと悟り、ホーリーライトで頭上を照らすシリック。ティトレットは準備してきたゴーグルと防水マントに身を包む。 僅かに見える橙の花の蔓を辿る中。 不意に、霧の中から響くアルトの声。 「……何か居るよ!」 まさかむかでが? 一行に緊張が走る。 蠢く影に気付いたオウリが、鋭く踏み込んで一撃。 甲高い悲鳴に続き、重い荷物が落ちたような音が霧の中に響く。 「野生動物……の、群れか?」 警戒の為か、少し厳しい口調になっているラードルフの視線の先にも、別の影。 そこへパルミスが容赦なく飛燕連撃。 あちこちから上がる甲高い悲鳴。不利を悟ったのか、群れの気配は、じきに霧の中に溶けた。 一息つきつつも、見えない視界に緊張を保ったまま、更に歩みを進め…… 「足元……」 「うわー!?」 注意を促そうとしたアルフリードを遮って木霊する声。 「し、沈むよー!」 「落ち着いてロープをこっちに!」 「ここも沈みますね〜」 「皆さん、少し戻って!」 見えない故に思わず焦る一行。しかし、沈没の速度は遅く、ロープを投げたり結んだり引っ張ったりする余裕はあった為、沈んだ者も事なきを得た。 その後は、リンがクリスタルインセクトで足元確認、シリックが光で先導、これを繰り返し霧を抜ける。 「少々掛かりましたね」 斜めに降り注ぐ木漏れ日。木の根が生い茂る道が続く。傾斜が厳しいことを除けば、それ程大変ではない。輝く花々を見遣りながら、アウラは歩みを進める。 と、唐突に。 壁のような岩が目の前に。 中央に真っ直ぐな亀裂。それに沿って、岩の上まで橙の花が。 「登らねばならぬ訳ですが」 茜色に染まった岩を見上げるラードルフ。横ではオウリが、落石が起こらないか注意深く観察。 「大丈夫そうですね」 「不穏な気配もなし」 アルトが草むらに向けていた遠眼鏡を降ろす。 「じゃぁ〜、ご飯にしましょうか〜」 少しだけ道を戻り、平らな場所を選んで、皆は二日目の野営の準備に取り掛かった。
●三日目 幾ばかり早まった朝に目覚め、早速岩登り。 亀裂は広いものでなく、両手足をつっかえにすれば、案外容易く登れるのだが。 「う、美しくなぁい」 先に登るラードルフの姿に、アルフリードが思わず漏らす。なお、これはかに登りする自分を想像しての発言である。その辺りは知ってか知らずか、シリックも確かに、と頷く。 「ロープを使いましょう」 「僕もその方が助かるなあ」 肉体労働はだめだし。小さく付け加えて、亀裂を見上げるシエルリード。ティトレットは仕方ないなぁ、とあるだけのロープを全員から回収。それが結構な束になったので、アウラが半分を持ち、二人で先に亀裂を登って行く。その間もずっと、オウリが亀裂の状態を、アルトが遠眼鏡で茂みを、じっと観察していた。 暫くの後、上から投げ渡されるロープ。 胴に結び付けたり、自分の代わりに荷物を先に上げて貰ったり。 高さ故、全員が登るまでに多少時間は掛かったが、疲れはそれ程でもなく。 不意に振り返ってみれば、眼下に広がる虹の山。 「そろそろ〜、山頂でしょうか〜」 「ええ。すぐ先に、滝が見えます」 新たに喚んだクリスタルインセクトの偵察状況を、リンが手早く伝える。 「むかでは木の実の所かな」 「洞窟の中では会いたくないねえ」 かつての道より険しい想像をしていたせいか、思ったよりも楽な道程に、一行の足取りは軽やか。 草木分けて進んだ先。水飛沫上げる滝の裏に、赤と橙と黄の花。 「前はあちらから来た訳ですね」 別の茂みに続く黄の花を一瞥し、皆は表情を引き締める。滝の中は濡れているとの指摘に、足元の装備も再確認。 カンテラの明かりを頼りに、細長く続く道を、油断ない視線で睨め回しながら慎重に進む。 「……きゃー! むかでー!」 「ど、どこ?」 「シリックさん、帽子帽子」 「……あ、普通のですか」 道中、天井からの不意打ちでちょっとした騒ぎになったりしながら、一行は七色の花咲き乱れる山頂へと、遂に足を踏み入れた。 花の続く先、周囲の木々を押しのけるように生える一本の立派な木。アルトが遠眼鏡を覗くと、木のてっぺんに新たに熟した木の実。 「むかでは……居たっ」 別方向、這い回る影を認め、アルフリードが遠眼鏡を荷物に突っ込む。その様子に、皆が一斉に武器を構えた。 洞窟側に回り込むように。壁面を床のように余裕で進み、巨大な顎が姿を現した。 刹那、間髪入れずにリンが岩壁に張り付くむかでに気高き銀狼。飛びついた銀狼に驚いたか、むかでが壁から剥がれ落ちる。 そこへ飛来する無数の木の葉。 銀狼と、緑の束縛を振りほどこうともがくむかで。 その頭部に、無造作に踏み込んだオウリの達人の一撃が。 何事か。 余りに訳が判らなかったのか、痛みももがくことも忘れた様子で、むかでの動きが鈍る。 そんなむかでを、新たに飛来した燃える木の葉が取り巻く。容赦なく燃え上がる緑の業火。 「この一巡でいけそうです!」 魔炎すらも切り裂く勢いで駆け込んできたティトレットが、軌跡を描く蹴りを腹に叩き込む。彼女が飛び退くと同時に、アウラがデストロイブレードの力を得た斧を振り落とす。 流石に効いたか。小刻みに痙攣を始めた関節に、パルミスが飛燕連撃。更に動きを鈍らせるむかで。 「満身創痍のようですが」 「せめて美しく散らせてあげよう」 眼前に閃く、三つの銀光。 流星のような速度で描かれた輝く軌跡に生まれる、無数の薔薇の花びら。 むかでの頭部に、連撃によって何度も閃く軌跡。 辺りを覆い尽くす程に飛び交う薔薇、薔薇、薔薇。 それは、薔薇の剣戟三重奏。 三つの剣の洗礼を受けたむかでの頭部が砕け散る。 むかでの欠片は、花びらに混じって降り注ぎ、三人の翔剣士を彩った。 「まさに薔薇薔薇……」 拍手しながら、誰かが言ったとか言わないとか。
●四日目? 「忍びの方のように楽々とはいきませんな」 実を抱えて木から降り、ラードルフは一息。シエルリードがこびんから借りてきた実の皮を取り出して、念の為に見比べる。 「うん、熟れ具合もいいみたいだね」 「これが香に」 アルトと一緒に、実をまじまじと見つめるティトレット。 「少し休憩したら、青の道を通って帰りましょう」 荷物袋に仕舞われていく実を確認し、オウリが皆を見回した。
青の道は、衝撃的だった。 「……えっと」 「何でしょう、これは」 「ただの道ですね〜」 傾斜がある以外、本当に何もなかった。 黄色を知っている者は、涙が出そうなくらい、何もなかった。 余りにも何もないので、二日で帰れそうだった。 「これはでも、いい機会ですよ」 ただ帰るのは余りにも難なので、皆は食料を調達し、お花見をしながらゆっくりと、山を降りたのであった。

|
|
|
参加者:10人
作成日:2005/05/09
得票数:ほのぼの16
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
|
|