地中からの腕



<オープニング>


「モンスター退治の依頼があるんだけど、誰か行ってくれないかい?」
 ストライダーの霊査士・キーゼルは、そう酒場の中にいた冒険者達に声をかけた。
 何人かの冒険者が、その言葉を聞いて集まって来ると……キーゼルは、依頼についての詳しい説明を始める。
「西の街道を通っていた人達が、いきなり襲われる事件が起きたんだよ。……襲われる、っていうのは、ちょっと違うかな。――地中にから現れた腕に、物凄い勢いで引っ張られたのさ」
 いきなり何も無かった地面の下から、物凄い勢いで腕のような物が現れると、背後から通行人に巻きついて、そのまま地中に引きずり込む。……それは、ほんの数秒の間の事だったと、その様子を目撃した者は語ったという。
「そんな事件が、立て続きに何度も起きて……このままじゃあ恐ろしくて街道を通れない、って事で依頼が来た訳だよ。で、霊視してみたら、相手がモンスターだって判った訳さ」
 キーゼルが言うには、モンスターは1m程の黒い球体のような塊をしていて、獲物の気配を感じ取ると、地中を移動し、その足下で止まり……人間の腕のような形をした、長い触手を素早く伸ばして相手を絡め取り、そのまま一気に引きずり込んで喰らうのだという。
「地面の中からゆっくり忍び寄って、一気に捕らえて喰らいつく……厄介な相手だとは思うけど、このまま放っておく訳にはいかないからね。なんとか、上手くモンスターを地中から引き寄せて、倒して欲しい」
 モンスターには、他にはこれという能力は無いようだが……地中に潜んでいるという一点だけでも、かなり厄介な相手だといえるだろう。なにせ、そのままでは相手に手が届かない――その居場所すら判らない。
 だから、いかにしてモンスターを手の届く場所……地上にまで引き寄せるか。それが、今回の依頼を解決する為の鍵となるだろう。
「じゃあ……頼んだよ。気を付けて」
 キーゼルがそう声を掛ける中、冒険者達は、どうしたものだろうかと考え込むのだった。

マスター:七海真砂 紹介ページ
 今回の依頼は、街道に現れたモンスターを倒し、安全を取り戻す事が目的となります。
 ただし、相手は地中に潜んでいますから、無闇に挑むのは危険です。例えば「誰かが囮になってモンスターを引き寄せる」というだけでは、囮になった者が地中へと引きずり込まれて、危険に陥る可能性が高いでしょう。
 上手くモンスターを引き寄せ、こちらが有利になるように事を運べるよう、よく注意しながら作戦を考えてみて下さいませ。

参加者
白き雷光の虎・ライホウ(a01741)
漆黒の彼岸花・トモコ(a04311)
天殺星・ユキノジョウ(a14273)
蒼焔騎士・レイディオン(a18679)
天狼の薬師・シリウス(a18886)
断罪の剣・カズキ(a19185)
白暁の武人・シャオルン(a20829)
闇夜に虚ろう漆黒・ハルト(a21320)
切り裂き・マロリー(a21398)
黒薔薇に魅入られた銀の堕天使・カナメ(a21595)


<リプレイ>

●街道端の街で
 依頼を受けた十人の冒険者達は、モンスターが現れたという街道、その手前にある街に立ち寄っていた。
「道具の補強はこれで良いな……」
 白銀の魔狼・カズキ(a19185)は、モンスター退治の為に用意した道具を全てチェックすると、それらが破損する事が無いよう、補強を行い一息つく。
 彼の前にあるのは、一台の荷車と太いロープ……それらを前に、カズキは苦い顔で思う。
 荷車に乗り、それをノソリンに引かせながら街道を進み、モンスターの出現する近辺で囮を出し、囮にモンスターが襲い掛かった所で、相手を地中から引きずり出して倒す。それが今回、冒険者達が考えた作戦だったけれど……。
「……荷車は俺が運ぶか」
 作戦は、この時点で変更を余儀なくされていた。それは、ノソリンを借りる事が出来なかったからだ。
 ノソリンをモンスターのいる危険な街道へ連れて行く……そう聞いたノソリンの飼い主たちは、皆、苦い顔をした。自分の育てているノソリンを危険な場所に行かせたくは無い……それは当然の心理だろう。
 カズキは、ノソリンを借り受けるのは諦めると、荷車を自ら引くことに決めた。……ただ、一人だけで引くのは少々厳しかった為、最終的には、蒼焔騎士・レイディオン(a18679)と二人で荷車を引く事になったけれど。
「封鎖か、そりゃ構わんぜ。まあ……今は街道を通ろうなんて奴、さっぱりいないけどな」
 そのレイディオンはといえば、街道を封鎖する作業を行っていた。住民によれば、商人や旅人などが通る事はすっかり無くなってしまったそうだが……だからといって、通る者が絶対に誰もいないとは限らない。レイディオンは危険を知らせる立て札を用意すると、住民達に協力を頼み、通ろうとする者がいたら制止して貰うようにする。
「これで、相手の狙いを自分達だけに絞れそうですね」
 一生一死・シャオルン(a20829)は、左右の立て札の間にロープを張ると、余計な被害を出さずに済みそうだと呟く。
「そうですね。……ともかく、こんなスリリングな街道じゃー困りますモンね。いつ出てくるか判らない手が敵、ってのは厄介ですけど……僕達でなんとかしましょう」
 黒薔薇桃色堕天使・カナメ(a21595)は相槌を打ちつつ、人影の無い街道を見やる。一見すると、何の異常も無さそうな場所……そこに潜む危険を、取り除かねばと胸にしながら。
「杖で素振りでもして遊んで……る場合じゃないや」
 一方、街道の封鎖は誰かがやってくれるだろうし……と、杖を握ったマロやかキングダム・マロリー(a21398)は、ふるふると首を振ると、近くの住民達に聞き込みを行っていた。
 モンスターに突如襲われるという事件。それが街道の、具体的にはどの辺りで起きたのかを調べようと思っての事だったが……。
「街道の真ん中よりこっち側の道で事件は起きてるみたいですよ。街道を三分の一くらい行った所でだったり、街から三十分くらい歩いた所でだったり、それ以上の出没範囲はあんまり絞れないですけど……」
 モンスターの襲撃が起きたのは、この街から街道の真ん中辺りまでらしい。街道のうち半分、という範囲に絞れたのは良いが……それでも、まだまだ範囲が広いと言ってしまえばそこまでで。
「……」
 もっと狭い範囲に絞れるのでは、と予測していた一行は、しばし考え込み……モンスターの出現する地点の手前で止まり、囮をモンスターのいる方へ向かわせるという、予め考えていた作戦を、手直しする事になるのだった。

●敵の待つ街道へ
 そんな経緯を経ながら、冒険者達は街を出ると、街道を進み始めた。
「まずは偵察してみましょう」
 彼岸ノ花鬘・トモコ(a04311)は、荷台の上でクリスタルインセクトを召喚すると、それを前方へ偵察に出し、モンスターの姿や何か異変などが無いか、クリスタルインセクトを移動させながら調べる。
「コレがストームゲイザーっすか、何だか感覚が研ぎ澄まされる感じっすね」
 自分から進んで依頼を受けたのは今回が初めて、という天殺星・ユキノジョウ(a14273)は、借り受けた剣を握りながら呟くと……鎧進化を使い、両腕部分を中心に装甲を増させると、気合十分といった様子で立ち上がる。
「コレで準備は整ったっす、じゃ始めるっすよ」
 ユキノジョウは、自分の体にロープの片端を括りつけると歩き出す。……彼の役目は、モンスターを惹きつけるための囮。ロープは、地中に引きずり込まれそうになった時に引っ張ってもらい、対抗するための物である。
 クリスタルインセクトが偵察した後ろを彼が歩き、その後ろを、ロープが張らない程度の距離で荷車の面々が追う……結局、今回の作戦はこのような形に変更されたのだった。
「はっ!」
 ユキノジョウが大股で移動しつつ、時折地面を剣で突き刺したりしながら先へ進む一方。カズキは周囲の様子を注意深く警戒し、モンスターの接近に注意しながら、レイディオンと荷車を引いて歩く。
「忍法ハイドインシャドウ! くわっ!」
 荷台でも冒険者達が周囲の様子を警戒する一方。マロリーは、少しでも狙われ難くなれば……と、ハイドインシャドウを使い気配を絶つ。もっとも、それを使ったのは彼女一人のため、どこまで効果があるかは判らないけれど。
「………」
 周囲には、他に誰の姿も無い静かな街道。冒険者達は、それを先へ先へと進んで行った。

「――かなり先まで行きましたけど、特に何も無いですね」
 やがてトモコが顔をあげると、偵察の様子を皆に伝える。
 どうやら、異変は特に無いようだが……モンスターがクリスタルインセクトには反応しなかった、というだけで、周囲の地中にいる可能性は0ではないため、安心は出来ない。
 そして……トモコが召喚できるクリスタルインセクトの数は四体まで。時間が過ぎるうちにクリスタルインセクトは効果時間が過ぎて姿を消し……召喚を繰り返すうちに、最後の一体も消え去る。
 こうなれば、あとはユキノジョウ頼りだ。
「そろそろ街道の三分の一くらいですね」
 カナメはいつでも行動に移れるよう、弓を手にしながら呟く。周囲には相変わらず異変は無く……
 ……そう思いながら、前方を見ていた、その時。
「!」
 それは唐突だった。
 ユキノジョウの足元から伸びた黒い影……それは瞬く間に彼の身体を絡め取ると、そのまま一気に、地中へと引きずり込もうと動く。
「くっ……」
 話で聞いてはいたけれど、その出現は本当に唐突で……ユキノジョウは驚きながらも、全身に力を込め、引きずられぬように踏ん張ろうとすが、ずるずると得体の知れない腕に引っ張られる――
「出たか」
 その唐突な出現に驚きながらも、シャオルンはロープに手を伸ばし、すぐにそれを引く。レイディオンやカズキも、荷車から手を離すしてロープを掴み……ユキノジョウが引き込まれないようにと、力の限り引く。
 地中へ引きずり込もうとするモンスターと、それを止めようとする力。それは互いに引き合って……ユキノジョウは、引きずられる事も無く、引き戻される事も無く――その動きが止まる。
「――はっ!」
 そこに飛来したのは一本の矢。それはカナメが射た影縫いの矢だった。それと同時に、しゅっと伸びた蜘蛛の糸が、地中から伸びたモンスターの腕に絡みつく。
「絶対に逃がさん……逃げられると思うな」
 それは、血に濡れし孤高なる漆黒の影・ハルト(a21320)の放った、粘り蜘蛛糸だ。地中から伸びた腕は、それに絡みつかれ……身動きが取れなくなる。
「はあぁっ!」
 そこに、白き雷光の虎・ライホウ(a01741)が迫ると、モンスターの腕が伸びている地面へと向けて、黄昏に彷徨う白風・シリウス(a18886)のディバインチャージによって強化された、ブロードソードによる大地斬を放つ。
 その一撃は、地面に大きな窪みを作り……地中にあったモンスターの姿を、微かに晒させる。
 ――黒い塊の一部が見える。
「俺に力で勝とうとするなど、100年早い……!」
 カズキ達はなおもロープを引き続け、ユキノジョウはがっちりと、自分へと伸びた腕を掴み……彼らは動けずにいるモンスターを、一気に地上へと引きずり出す。
「出ましたね」
 腕のようなものを伸ばす、黒い球体。その姿を見ながら、トモコは気高き銀狼を放つ。相変わらず動けぬままの敵を、ライホウが剛鬼投げで叩きつけ、更に……。
「ハルチャ!」
 カナメが呼びかけながらライトニングアローを撃つと、それにタイミングを合わせ、身構えたハルトが敵に迫り、カラミティエッジを放つ。
 二人の攻撃に敵の体が揺れ……ぐにょりと微かに変形するが、けれど、相手を即死させるには至らない。
(「あれがどうやって土を掘り進んでたのやら……」)
 マロリーは興味が尽きないといった様子でモンスターの姿を見つつ、ユキノジョウに癒しの聖女を打ち出すと、彼が負った傷を癒す。直接的な攻撃を受けるような事は無かった為、彼の傷は非常に軽いもので……聖女によるキスを受けた瞬間、傷は全て癒えていく。
「他に怪我人はいないようだな」
 シリウスは皆の様子を確認すると、近くにいたシャオルンへの援護としてディバインチャージを使う。それを受けたシャオルンは、戦刀【鳳仙花】に稲妻の闘気を込め、一気に敵へ叩き込む。
 粘り蜘蛛糸による拘束から抜け出せず、更に麻痺し……動く事の出来ないモンスタにー、冒険者達からの攻撃が次々と降り注ぐ。彼らの武器は、シリウスだけでなくマロリーにもよって強化され……多大なダメージがモンスターを襲う。
 幾度も攻撃を受け、モンスターは苦しげに声のようなものを漏らすが……それでもなお、体は身動きを取れないままだ。
「はぁぁぁっ!」
 レイディオンは他の者を巻き込まないタイミングを狙って、ソニックウェーブを放つ。そこにユキノジョウが詰め寄ってストームゲイザーを振るい、反対側からはカズキが迫る。
「冥土に送ってやる……唸れ、天照――」
 カズキは、朱刃【天照】に闘気を込め……デストロイブレードによる渾身の一撃を叩き込む。それによって、モンスターの体がぐにゃりと震え、その形が歪む。
「……」
 そこに後方からカナメのライトニングアローが飛び、ハルトが再びカラミティエッジによる攻撃を放つと……モンスターは、ひときわ身体を大きく歪めさせ……破裂するかのように砕けると、辺りに飛び散った。
 その破片は、モンスターの残骸としか呼べるものではなく……冒険者達は、モンスターを倒した事を悟る。
「……異形の者よ、無に帰れ……」
 ハルトは、モンスターの残骸を振り返りながら、他の者には届かないほど小さな声で、囁くように呟く。何かを乗り越えた、達成感のようなものを感じながら。

●戦いは終わって
「なんとか……助かった、かな……?」
「皆様お疲れ様です」
 トモコが、疲労と安堵の入り混じった様子で、大きく息を吐き出す一方。マロリーは改めて皆に怪我が無い事を確認すると、良かった良かったと皆に言葉を掛ける。
「さてと……では後始末、しましょうか」
 シャオルンは一息つくと……モンスターと戦闘によって大きな穴の空いた状態になっている地面を見やる。ここを元に直さなければならないだろうし、モンスターの残骸も片付けておいた方が良いだろうし……街に戻って封鎖を解くという作業もある。
「まあ、手分けすればすぐだろう。あまり力仕事は得意じゃないんだが……まあ、この程度なら」
 シリウスは苦笑しつつ言うと、穴を埋めるための土を運び始める。トモコやハルトも街道を整備する作業に加わり、冒険者達によって地道な作業が進む。
「何で、俺が、こんな、事をっ!」
 レイディオンも、ブツブツと呟きながらではあるが、土をポッカリ開いた穴へと放り込み、その窪みを埋める。
「なぁ〜んなんなぁ〜ん♪」
 そこを、ノソリンに変身したユキノジョウが踏みならす。その作業を行う彼の様子は、どことなく楽しげだ。
 彼らの作業によって、戦いの舞台となった一角は、すぐに綺麗になり……すっかり元通りとなる。
「じゃあ戻るとしようぜ」
 ライホウは、皆を振り返りながら歩き出し……冒険者達は街道を戻ると、酒場への帰路についたのだった。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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