<リプレイ>
服装が変わると歩き方までこれまでとは違ってしまうものだ。たどたどしい弁明を繰り出すように、両手を大袈裟に振って歩く旧友たちへ、紫空の凪・ヴィアド(a14768)は悪戯っぽい口調と、わざと繕った好奇の眼差しを向けた。 「……おや、ファリノスにマルセロ、面白い格好して。ほんまに数奇な運命いうか……色んな体験しよるね」 照れ隠しのためにヴィアドへとつっかかったファリノスと、飛び跳ねた少年の身体を押さえようと空で交差した両手の持ち主――マルセロ――を見遣って、闇夜の夢見師・ルシア(a10548)はなんとも嬉しそうだ。 ここにいたのは、少年と男性だけではない。彼らと同じ系統の、首筋をフリルの着いた立て襟でぐるりと囲んでいても、他の親族とは異なる涼しげな表情を崩さない青年、グレンの姿があった。 「ヴィルジニーは初めまして、よろしくね〜」 振り返った天水の清かなる伴侶・ヴィルジニーに差し出された、黒い布地と手甲に覆われた指先はたおやかだった。けれど、小さな八重歯をのぞかせて笑う闘姫・ユイリ(a20340)の頬は、どこか少年らしく綻びている。夢は強くて綺麗なおねーさん……だけれど、その道程は半ばであった。 初対面のエンジェルの少女と握手を交わすと、ユイリはファリノスを背に負ぶったヴィアドへ、にこにこと満面の笑みを送る。 「あ、ヴィアドは久しぶりだね。またよろしくっ!」 風色の灰猫・シェイキクス(a00223)は若き館の主人へ白い歯を見せると言葉を続けた。 「山賊に気付かれねぇよう動きつつ、まずはグウェンの道筋を辿ってみますか」 色合いは薄紫色で、質感はふわふわとした綿の様――ねこうさの霊査士・ユギ(a04644)はそんな尾を、細くて小さな腰と一緒に揺らめかせていた。思案がまとまってくれない。 「今回は依頼人のことがよくわかってないのもさることながら……いろんなこと想定して難しく考えちゃうね。さて、どうしよ?」 頬に手の平をあてて考え込んでしまったユギへ、真っ白な肌に雪のような髪を枝垂れかけた少女が、控えめな物腰で言った。エルフな紋章術士・サリナ(a01642)である。 「賊の捕縛よりも、グウェンさんの身柄の安全が最優先だと思います。どうでしょうか」 「探し人の無事が大切ね……」 白い双子の丘を組んだ腕で支え、精霊導士・カレン(a07913)は新しい緑を想起させる澄んだ瞳で言う。 「そだね。でも重要なのはグウェンさんの保護、これは忘れちゃいけないよね」 首肯くユギへ、いささか血の気が失せたようにも見える形のよい唇で、背に臙脂の矢羽根を束ねた青年が話しかける。 「グウェンさんの背丈は……」少しく余白を空けて、明告の風・ヒース(a00692)は言を繋げた。「サリナさんと同じくらいで、髪は茶色だそうですよ」 ヒースと違って、彼は少しばかり押しの強い口調で言った。ニュー・ダグラス(a02103)は酒場の主から聞きだした情報を口にしていた。 「白い頭巾をかぶり、足元は革のミュール、紺色のジャンパースカートに、白のブラウス。以上、こんな恰好だったらしいぜ」 マルセロとグレンの顔をじゅんぐりに見上げると、ファリノス少年はヴィアドたちへ、熱意と純真とが綯い交ぜになった――そう、あまりにも少年らしい眼差しを向けて言った。 「グウェンさんをよろしくお願いします!」 依頼者たちと別れた冒険者一行は、鏡のように美しい湖を抱くという新緑の森へと足を踏み入れていた。 清冽な風が吹き抜けて、少し長めの前髪が瞳や眉を掠めて、軽く頬を打った。蒼き月光の守人・カルト(a11886)は仲間たちよりも先に、北の山を進んでいた。同じ忍であるユギが同行している。 怪しい箇所や痕跡を認めると、ふたりは辺りに山賊の気配がないものか慎重に検めてから、後続の仲間たちと合流したのだった。 「グウェンさんはお店でお仕事してる女の人だから、山登りに慣れていない思うの」 白の預言者・ティナ(a13994)はハートのステッキを胸に抱えて、真っ白な尾っぽを草の上に放りだしてしゃがみ込み、木々の根元で湿った土を見つめていた。ふらふらと覚束ない足取りで、誰かが歩んでいた。 指先でその大きさを確認したヴィアドは、先に発見していた大人数の足跡と比べた結論を端的に示した。 「こちらの方が新しい。グウェンは、賊が山に戻ってから使いに出されたっちゅうことや」 榛色の瞳を幾分か細めて、カルトは発言した。 「すると、グウェンさんを山に向かわせた商人は、山賊たちがアジトへ戻るって知っていたんでしょうか?」 すらりと伸びた身体を樹の幹に預けて、熊殺し・ミーナ(a13698)はカルトの言葉に首肯いた。そして、背を樹皮から離して、陽光の元に艶やかな黒髪を晒すと、組んだ腕の上で指を踊らせながらこう言った。 「繋がりがあるのでしょうね。グウェンさんが山賊と接触している可能性も考えられるでしょう」 いてもたってもいられないといった様子で、その少女は木立がまばらで拓けているために、天蓋からの光が白い帳のように広がる場所へ駆け出でると、銀の輪によって護られた指先を空へと広げ、透き通る声で歌った。 「知りませんか? 若い女のこと。知りませんか? たくさんの男たちのこと」 ルシアの唇から紡がれ続けた旋律は、広場を囲む木漏れ日の縁から、次々と小さな動物たちを招いた。彼女が小さな友人たちから教わった大事なことは、どちらの問いの答えも、奇麗な水がきらきらと光る場所の近くにあるということであった。 木立の合間から、白銀の光が乱れ飛ぶ、湖の美しい面がのぞいた。 ヒースは布地を巻いて物音を殺した靴を、それでも慎重に繰り出して歩み、ダグラスは金属同士が触れ合わぬように、鎧の隙間に詰め物をして、さらに、匂いを消すための薬草を用いて進んでいる。 「あれは……」 地に伏せて遠眼鏡をのぞき込むサリナから漏れだした言葉を受けるように、シェイキクスは丸く囲われた視界の中に映った人物の影について言及した。 「間違いねぇ、グウェンだ……それに、山賊らしき影が……ひとつ、ふたつ、四人いる」 シェイキクスから遠眼鏡を借り受け、ユギは湖畔の小さな建物と、そこから離れようとする一団を見つめた。 「手に持ってるのは……水桶みたいね。あんなに重そうなのに、グウェンさんにふたつも持たせてるよっ!」 上着のポケットを叩くと、重みと冷たさが肌に伝わった。ダグラスはヒースと瞳を交わすと、逆手に持った刃を目の高さに煌めかせたミーナと、儀仗を手にしたカレンを従え、湖上を吹き抜ける一陣の風のごとく茂みから飛び出した。 水をなみなみと湛えた器を手にぶらぶらと下げた男たちは、あっけにとられるばかりで抗う術を持たず、いたずらに羽ばたかせていた腕を搦め捕られると、喉の奥から苦しげな息を漏らしたのだった。 水桶を左右に落として小さな飛沫を舞わせたグウェンは、突然の出来事に呆然としていたが、「これに見覚えねぇか?」というダグラスの言葉に続いて差し出された手の平の輝きに、はっと目を奪われた。 震える手で女性が胸元から取りだした袋からのぞいたのは、美しい金の曲線だった。 足元に広がった水たまりに気付かせてやると、シェイキクスはグウェンに小屋へ戻ろうと言葉をかけた。そこで彼は、家族を失ったマルセロ、恋人を亡くしたグレン、そして、孤独な少年ファリノスについて、その境遇の昔と今を、さらに、彼らがグウェンを探し求めた物語を語り聞かせた。 「グレンは大きな館の持ち主だぜ」 シェイキクスがそう言うと、グウェンは素直に驚いていた。そのような親族があったなどと、彼女はまったく知らなかったのだ。 「山賊さんに働かされているの?」 丸く固めた指をさげて、ティナは伏し目がちにグウェンを見つめていた。疲れた顔で首肯く彼女のことを、ティナは強く案じていた。 少女の髪を撫でながらグウェンは「大丈夫ですから」と言った。そして、少しかすれた声で冒険者たちに、自分の家が没落したこと、その原因を作ったのが山賊たちであることを淡々と話した。それから彼女は、自分が奉公している商人は山賊との繋がりが囁かれる人物であり、だからこそ接近しているのだと告げた。 「…………」 彼は黙していたが、女性の勇気に感銘を受けてもいた。冗舌にして寡黙、ヴィアドとはそういう少年なのだ。彼に耳には、続けて口を開いたグウェンの声が届いていた。 「わたしが行かないと、山賊たちに怪しまれてしまいます。だから……」 ――アジトへ戻らねばならない。 ヒースの唇から言葉が紡がれるよりも早く、ダグラスの胸がドンと鳴っていた。握り拳を固めたまま、彼はグウェンに言った。 「俺たちに任せろ、あんたを必ず護ってやる。それに」 「山賊たちも捕えて見せますからね」 決めの文句をさらったヒースは、澄ました表情で女性の手を取っていたのだった。 ティナたちは慎重に深い緑のはびこる茂みを抜けた。そこには、たっぷりとした暗闇を湛えた洞窟への入り口が開き、歩哨らしき男の姿があった。シェイキクスから水桶を受け取ると、グウェンはそれを引きずるようにして歩き、山賊のアジトへと姿を消した。 見張りの男ふたりは、女性の背を追いかけるように首をひねっていたが、そのまま正面に振り返ることもなく、気を失って倒れた。彼らの背後に忍び寄っていたのは、ユギとカルトであった。 歩哨を茂みに引き入れたダグラスと入れ違いに、ルシアの手元から透けた身体を膨らませた多足の従属物が、小刻みに尖った足を繰り出して暗闇へと溶け込んだ。 ルシアは水晶の身体を慎重に歩ませて、薄暗い中にグウェンの姿を捜した。彼女の姿は事前に聞いていた通り、通路から右手に折れたところにある炊事場に見られた。グウェンは水桶を抱え上げて、鍋に水を注いだ。そこへ、屈強な体つきの男がやってくる。彼は俯いたままのグウェンの顎を指先で挟み、何やら詰問していた。湖から戻らぬ手下のことを尋ねていたのだろうか。顎から手を振り払ったグウェンは、刃物を手にして芋の皮を剥いていたが、恐れのあまりか手元が狂ってしまった。山賊の首領は、指先から滴る血を、裏切りの証と理解した――。 ルシアの瞳が見開かれ、その憂いの光を察したカルトは茂みから駆けだした。ほどなくして、洞窟の口から白い霧が漏れ、合図を受けた冒険者たちは、一斉に薄暗闇へと突入した。 疎ましくもあり、暖かくもある――そんな姉の温もりを一蛉挽歌から感じながら、ヴィアドは刃を手足のように繰り出して、霧の中を右往左往する山賊たちの攻撃を弾き飛ばした。 落ち着かない刃の行き先を、山賊たちは別の対象へと求めたが、カルトは薄汚い男たちの合間を駆け抜けると、指先から扇のように広がる糸を散開させた。顔を覆われ、足元を搦め捕られた男たちは、次々と体勢を崩して岩の床へと転がっていく。 「そっちは駄目なのよねっ」 空気を含んでふんわりと舞った紫の髪……壁を蹴って宙を舞い、音もなく降り立ったユギは指先から波状に煌めく何かを広げていた。粘り着く糸に捕えられた男たちは、手足をばたつかせていたが、愚かにも余計に自由を失うと気付いていない。 ユイリは洞窟の奥から外へと抜ける縦穴へと辿り着いていた。縄梯子をよじ登る男たちへ、空気を震撼させる咆哮を浴びせる。すると、山賊たちは身体を強張らせたまま、宙吊りとなった。 冒険者たちがいるとは露知らず、裏口へと逃げてきた男たちを、シェイキクスの口から紡がれた眠りの旋律が出向かえる。彼は言った。 「ここは任せろ!」 山賊たちを縄ばしごから容赦なく叩き落とし、ダグラスたちは光の差す場所へと急いだ。視界に広がっていたのは、様々な影を持つ岩が乱雑に転がる、迷宮のごとき様相を呈した空間であった。 岩肌からのぞいた男の顔へ、ヒースは白い線条を広く拡散させた。影に隠れて難を逃れた山賊たちへは、背の高い岩へ登りつめたダグラスが、頭上から糸の端を垂らしてやった。 (「殺したくないの、殺されるの見るのも嫌だと思うの、だからお歌で眠ってもらうの」) ティナはルシアを瞳を合わせ、鈴の音のような声で歌った。 想いはルシアも同じである。 (「死んじゃうなんて、気味悪いのは嫌です……」) 殺伐とした辺りに、ふたりの少女が奏でた眠りの調べは、冷たい山の空気に溶け込むようにして広がっていった。 「観念しなさい!」 そう叫ぶなり、岩場から足元の敵へ飛びついたのはミーナだった。 白銀の煌めきを天蓋へと捧げ、サリナは高らかに気高い言葉を解き放つ。 「私は同盟の尖兵となる北の剣! 破軍の剣を恐れぬのであればかかってくるがいい!」 身体を凍りつかせていく敵影へ、カレンの放った複数の人影が迫っていく。下僕たちは山賊らの足元へまとわりついていたが、そのまま動かなくなった。カレンは賊たちを捕縛していく。 ユイリは首領らしき男を、迷宮の奥深くに追いつめていた。だが、男の刃はグウェンの喉元に向けられていた。 (「脳天一発くらいならいいよね、多分。ふ、峰打ちだ。命拾いしたな。とか言ってみたい……でも……うぅ…叫びすぎ、喉がぁ……」) 声にならない悲鳴をあげるユイリへ、男は訝しげに首を傾げていたが、頭上から響いた声に目を丸くした。彼の瞳に映っていたのは、岩の上で太陽を背にしゃがみ込む少年の姿であり、言葉はこう聞こえていた。 「あー……俺、手加減苦手なんよ」 ヴィアドの一撃を浴びた首領はあえなく白目を剥いて昏倒した。 女性を介抱しながらも、声にならない悔しさを喉の奥から響かせて自分を睨みつけるユイリから、ヴィアドは頬を掻きながらまわれ右をして、逃げるように遠ざかったのだった。 「グウェンさんが悪党たちの女ボスになってたらどうしよーって」ユギは恥ずかしそうに両手をふとももの間に押し込んで言った。「ずっと心配してたのー」 グレンの館に揃った一族と、その友人である人々の口から、笑い声が広がった。黒い梁に支えられた高い天井に、愉快な響きが余韻を残す。 「込み入った事情だと思うけど成功を祈るわ」 そう言って手を取ったカレンに、グウェンは深々と頭を下げた。 「四人のメダルに、四人の紋章術士か、揃ったもんだな」 苦笑を浮べるダグラスの隣で、ヒースは穏やかな微笑みを浮べていた。 ――すべてが揃ったのである。 やがて、机上に並べられていた金のメダルへ、ファリノス、マルセロ、グレン、グウェン、四人の手が伸ばされた。 金色の輝きは、永年を経ているにも関わらず、まるで滑るように重ね合わさり、一体となった。 美しい円柱の側面には、刻まれた紋章文字が浮かび上がっていた。 そこには、こう記されてあった。 ――マインバーグ、焔が栄え、煙を燻らす地――
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参加者:12人
作成日:2005/05/25
得票数:冒険活劇12
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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