≪破軍の剣アンサラー≫落日



<オープニング>


●密談
「パンドラ……これから、どうするのだ」
 苦々しい表情を浮かべるのは比較的整った顔立ちに、生きた年月と性格を示すかのようにいかめしい皺を刻む男。名をサフーという。
 その威風堂々たる立ち姿も、無敵大帝・ザンギャバス率いるミュントス軍と同行している現在は、只の一兵士でしかない。
 答えに窮し考え込むは、同盟との仲介役――あくまでノスフェラトゥサイドにおける認識だが――である闇き宝玉・パンドラである。
「……取り敢えず、彼らの意志を確認せねば、と」
 壮年のノスフェラトゥは頷いた。そうであろうな、と。
「ならば、行くがいい。幸い、殿下の軍はほぼ散っていている……殿下に問われれば邪魔な護衛士団への攻撃に行ったとでも、伝えておこう」
 サフーの言葉に返事をする代わり、パンドラは敬礼する。それは決して感謝の気持ちだけではなかっただろう。
「全ては麗冥帝のために」

●斑模様の空の下
 彼女は近くを通るのだと、霊査士は遠くにてソレを知る。
「パンドラを、捕らえてクダサイ。捕虜として」
 彼は遠くにてそう告げた。
 パンドラはアンデッドを従え、着実に何処かへと向かっていた――

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参加者
求道者・ギー(a00041)
朽葉の八咫狐・ルディ(a00300)
白銀の星芒術士・アスティル(a00990)
死徒・ヨハン(a04720)
緋炎鋼騎・ゴウラン(a05773)
笑顔の約束・ソレイユ(a06226)
万寿菊の絆・リツ(a07264)
白骨夢譚・クララ(a08850)
巨剣の傭兵・アレグロ(a10145)
流水の道標・グラースプ(a13405)


<リプレイ>

●邂逅
「パンドラさんの真意を確かめに行きますの……」
 笑顔の約束・ソレイユ(a06226)はそう語った。
 護衛士それぞれ様々な思惑があるであろうが、言うなればパンドラと進展のある話し合いが出来るチャンスが巡ってきた――けれどもその前にこんな偽装が必要だとはと、戸惑う者もいただろう。
 パンドラは、どのタイミングで何処におり、どう遭遇するのか――
 護衛士達は知らぬし、ロウも漠然とこの辺に来ると告げただけである。
 思うに、パンドラには監視のアンデッドがいるやもしれぬと求道者・ギー(a00041)がジョーカーとは違う存在・カリスに言う。
「パンドラがミュントス軍に信を置かれておらぬのであるならば、であるがね…」
 監視されていては面倒だし、また、不愉快である。鳥のアンデッドが居たら容赦なく打ち落とせという。
「……判った……任せておけ」
 カリスは力強く頷き、役目を引き受けた。
「……シンにギローム、そしてキティが倒れ…その仇すら取れぬうちに目まぐるしく情勢は動き、直接手を下したパンドラを抑えねばならぬ……か」
 誰にも聞こえぬほど小さく、ギーは言葉を洩らす。
 思いを割り切ることが、これほどまでに無念を呼び起こすとは。しかし彼は只、呟くことしかできぬ。

 これで何度目かしらと、白骨夢譚・クララ(a08850)は思う。
 不思議なことだ。一時留まったエルヴォーグならともかくも、この地で、出逢う日がまた来るとは。
 くすり、微笑むような状況でもないのに、笑みが零れた。
「………彼女と出会うのは、いつも…慌しいとき、ばかりですね」
 裡の言葉が零れただけで、誰に話し掛けたわけでもない。
 いつもならそんな独白も聞き漏らさず、穏和な笑みで話し掛ける流水の道標・グラースプ(a13405)は、頑なに先を見据えている。
 生憎、クララもそんなことを気にする気質ではない。ゆったりと、今度は己の小さな望みを呟いた。
「今度こそ…ゆっくりとお話の出来る場が作れれば、素敵…なのだけど」

「さぁてと、落とし前はキッチリ付けなきゃね。命は取らないにせよ、腕の一本くらいは…覚悟してもらおうかねぇ!」
 いつものように武器に酒を吹き付けた緋炎暴牛・ゴウラン(a05773)が、威勢良く立ち上がる。
 勢いあまり過ぎませんように、ソレイユが咎めるのも、ゴウランはわかってるよと笑い飛ばす。
「…手荒いのは本位ではないのですけどねぇ」
 万寿菊の絆・リツ(a07264)が苦笑を浮かべた。
 ――やるしかないのだ。

 些か物足りぬ、というのは死徒・ヨハン(a04720)だ。
 戦闘というのは殺意と狂気と血の匂いの満ちた世界であってしかるべきで、それが自然なのだ――偽装であるなら彼が求める戦闘としては不十分である。
 しかしこの舞台は滑稽なほど非常によくできている。
 近隣の村々では略奪が行われ、まさにこの世の地獄となっており、その最前線では狸と狐の化かし合いである。
「折角の機会です、戦う以上は手加減はしません」
 自身に納得させるが如く呟き――帽子の奥の瞳が鋭さを増した。


 護衛士達が目指す当ては特別にない。
 自然と死者の祭壇の方角へ、何となしにゆっくり進み――されどその絶妙な位置を加減せねばならない。
 ミュントス軍に近付きすぎれば、コレもまた失敗なのだ。
「カリス」
「わかった……」
 ギーが遠眼鏡を下ろす。カリスが頷き、何処かへと彼女は足音もなく駆けていく。
 少し先から数本矢が飛んで、何かを打ち落とした。
 その動きを後方へ知らせながらもリツが遠眼鏡の視界でもってそれを確認、軌跡を追う。
 その下に――彼女はいた。
 姐さんやっぱり隠れもせずに堂々と歩いていますねとは朽葉の八咫狐・ルディ(a00300)の言。
 もっともノスフェラトゥに向けてやましいことがないのであれば、彼女が隠れる必要はないのだが。
 アンデッドより数メートル後ろに、堂々とパンドラは立っていた。
 敵意を顕わにした冷たい表情で、アンデッド達に何事か告げている。
 白い肌は過去出逢ったときよりも青ざめて見える。
 彼女は口を噤み、護衛士達をただじっと見つめ返す。
 それはあたかもうっかり包囲された者が追いつめられたときの表情である。
 彼女との距離は、未だ遠い。
 ――アンデッドが動いた。
 護衛士達も、動いた。

●暗転
「あら、サフー、パンドラはどうしたの?」
 剣牙虎を連れた少女が一人で本陣へと戻ったサフーに問うた。
「ザンギャバス殿下に、そのことを報告申し上げようと」
「必要ないわね。此処で言いなさい」
 極々自然に少女はサフーに命じた。
 ソレに従う義理はない――そう思ったことも時折ある。彼の主は麗冥帝を除きこの世に存在しない。
 しかし、その忠義の篤さが逆に彼を縛るのだ。
「は、パンドラは撤退しました護衛士団への偵察へと向かいました」
「ふぅん……」
 聞いておきながら興味もなさそうに頷いて、少女は踵を返した。
「どちらへ?」
「私は自分の目で確かめるよう命じられているのよ――そうそう」
 サフーを一瞥し、少女は言う。
「……真の忠臣とは主の誤った挙動を命をかけて正すものだと覚えておきなさい?」
 小馬鹿にしたような、物言いだった。

●捕縛
 ミラージュアタックを持ってグラースプがトカゲに斬りかかる。トカゲは冷静な初撃をグラースプ本人への突進で回避する。
 深入りはしない。その反動――痛みはあるにせよ――でパンドラの方へと道を開く形で退く。
 短い気合いを込め、巨剣の傭兵・アレグロ(a10145)がスケルトンへ無造作にスフォルツァンドを振り下ろし、初太刀を与え、スケルトンの注意を此方へと向ける。重い剣がそれなりの早さで振り下ろされ、かなり苦しい反撃をアレグロは全身で受け止めた。
 全身をバネに受け止めねば、吹き飛ばされるやも、と言うほど強烈な一撃。
「只のアンデッドとは格が違う、か」
 アレグロはスフォルツァンドの柄に力を込める。
 空中が明るく輝いたかと思うと、エンブレムシャワーが降り注ぐ。アスティルの狙い通りか否か、パンドラは後ろへと下がり、その身体が黒炎を纏う。
「……上級、当然ながらパンドラさん……本気ですの」
 複雑そうな表情でソレイユが呟いた。
 相手が理解しているか否かは関係ない――
「ゴウラン嬢、忝いで良かったであったかな?」
「止めろって!」
 流石に照れ照れとすることはなかったが、ゴウランは聖鎧降臨の礼ついでにからかってくれたギーへと声を張り上げた。
 パンドラと同じく黒い炎に包まれたルディがトカゲに狙いを定め黒炎を繰り出す。
 同時に気高き銀狼がトカゲに身体をぶつけにいくも、ひらりと躱される。
 ぐっと喉元が膨れ上がると、大きな粘性の液をぶちまける。強烈な腐臭と、少量掠めた手の甲に感じるひりひりとした痛み。
 接近戦は危険だ――リツは構えを直す。

 開いた真ん中を一気に駆けるはゴウランの力添えを受けて守りを固めたヨハン。
 黒炎覚醒によって黒い炎を纏うパンドラは、その杖を前に傾けた。
 正面から黒い炎を受け止める事になったヨハンは足を一度止めた。
「一人と言って、あまり、甘く見ないで貰いましょう」
「……面白い」
 口の端を歪めた。パンドラは強い――恨み辛みを無視しても、偽りの殺し合いであることが無念なほど。
 彼女がヨハンに気を取られた隙に、横からグラースプがカードを投げた。
 躱す事は許さぬとばかり、ヨハンが斬りかかる。
 どちらか一方――パンドラはヨハンへとその力を振るった。
 カードがパンドラの手の甲に刺さり。空に待ちかまえていた白い槍が、パンドラを目掛けて光の軌跡を描く。

 ギーが電刃衝で麻痺させたところをリツがエンブレムノヴァでトカゲを容赦なくズタボロに痛めつけたところで、動きの緩慢になったトカゲに悪魔の顔が迫る。
「クローン成功」
 感無量といった様子でルディ。
 トカゲはそのまま、命じられぬから何もせずに其処に放っておかれたのだが。
 ゴウランとアレグロが相手を務めるスケルトンは――ゴウランが攻撃を身で止め、アレグロがデストロイブレードでケリを付ける。
 ソレイユがやっとという感じで二人に向かいヒーリングウェーブを放つ。
 一息つく間もなく――視線はパンドラへ、一斉に向けられた。

 ヨハンは深い傷を負うも、何とか留まれた。アスティルが咄嗟に対応してその傷を癒したからだ。
 傷の痛みを堪えつつ、ヨハンは粘り蜘蛛糸をパンドラへ投げつけ――同時にパンドラが全身から黒い鎖を放射する。
 この状況で、暗黒縛鎖など自滅するようなものだと、アスティルは目を疑った。
 蜷局を描いた鎖がヨハンとグラースプ二人に向かい、空気を浸食していくように黒い腕を伸ばす。
 木の葉が舞う。
 クララはパンドラの腕を黒く染めるカードと、その木の葉の力を信じて待った。
 ――思惑通り、パンドラに対抗する術は、尽きていた。

 ようやく――
 護衛士達はそんな気分であった。
 クララの持ってきたロープで、パンドラを改めて捕縛する。パンドラの杖は既にルディが拾っている。
 パンドラの首元にウィンザルフの切っ先を突き付け、鋭い眼光で見下ろす。
 そのギーの表情が本気であるため、皆が息を呑む。
「さて、個人的にはその首を刎ねても良いのだがね」
 所詮首を刎ねたところで――ギーは頭を振って、嘆息した。
 剣の切っ先をパンドラの首元から離し、鞘に納め、一足先に踵を返す。
 ゴウランがパンドラを引っ張り、立ち上がらせた。
「さあ、続きは拠点でじっくりなぶってやるよ! 楽しみにしな!」
 パンドラの足を蹴りつけ、ゴウランが大声で宣言する。
「ようこそ、アンサラーへ――」
 胸に秘める無念の心を微塵も感じさせずヨハンは告げたのだった。

「おや、意外と…」
 両手両足を自由にならぬよう縛られたパンドラを抱え、アスティルが呟く。
 それ以上は野暮と思い口にしないが、どうだったというのか。
「相手が女の人とはいえ、アスティルさんがああやって誰かを担ぐって新鮮な光景ですね――」
 リツが口元を抑えながら、ぼそりと呟く。
 途中でやはり、アレグロが引き受けていたのだが。
 ひとり――実はクララが傍でそんな彼の様子を見ていたが――戦闘を終え、それでもなお口を閉ざし己の内と話すかのようなグラースプは、死者の祭壇を振り返る。
 この先に何が待つのだろうと、漠然とした先へ繋がる仄かな希望を捉え、また只戦うだけの彼は。
 何かの影を見つけたような気がして、眉間にしわを寄せた。
 ――影は消えた。

●監視者
 監視者が居る。そのギーの思惑は正しかった。
 だが、ただのアンデッド如きに見張らせて事足りる存在ではないのだ。パンドラ・アルナリスというノスフェラトゥは、実力も、その立場も。
 そうであればこそこの一幕、監視アンデッドが墜ちたにも関わらず、パンドラが本気にならざるを得なかった理由は自ずと知れる。監視者は他にも居たのだ。
「あら、パンドラは捕まってしまったようね……」
 剣牙虎をつれた黒服の少女は、遠眼鏡を片手に淡々と言葉を紡いだ。
 そこにパンドラを案じる感情が無いことは確かだった。
 只感じられるのは、己の予想が外れた無念さだけだろう。否、ある意味では予想の範疇でもあるか。
「……いっそ剣を向けてくれれば、簡単でいいのに」
 ねえ、といって剣牙虎の首を撫でる。
 実に楽しげに、くすくすと笑いながら少女は引き返していくのであった――


マスター:神崎無月 紹介ページ
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