ミュントス略奪部隊:BAD CONNECTION-Rare



<オープニング>


●ミュントス略奪部隊
 5月8日行われた大作戦『ザンギャバス包囲網』において、冒険者達は苦い敗北を味わった。
 多くの冒険者が命を落とし、或いは重傷となりながら、ゲート転送を使い退却してきたのだ。

 しかし、退却できたのは冒険者だけであった。
 チキンレッグランで街道が整備され、本格的な復興が始まったばかりの旧モンスター地域に住む人々は、冒険者という楯を失い、侵攻して来るミュントス軍の前に無防備で置き去りにされたのだ。
(アンサラー護衛士団、エルドール護衛士団の一部が、旧モンスター地域の砦に駐留しているが、その戦力ではミュントス軍の侵攻を牽制する程度の効果しか見込めず、旧モンスター地域全域を守ることは不可能だった)。

 この事態に、円卓の間でも、ザンギャバスとの再戦・死者の祭壇の再奪取を行う為の議論が続けられていたが、そこに、旧モンスター地域の現状を知らせる報告がもたらされた。
 それは、ミュントス軍の冒険者達が、旧モンスター地域の住民を襲い、次々と死者の祭壇方面へと連れ去っているという報告であった。

 冒険者にとって、この報告は到底見逃せる物ではなかった。
 冒険者としての誓約の中で最も大切な誓約。
 それは『自らの民を守り、助ける為の努力を怠らない』なのだから……。

※※※※

「どうやら大変な事になっているようね」
 今回の依頼の背景を説明したヒトの霊査士・リゼルは、沈痛な面持ちで、こう続けた。

「彼らが何故、人々を攫っているかは判っていないわ。でも、若い女性が攫われて残りは皆殺しにされたという村が多いみたい」

 ミュントス軍は、数人のノスフェラトゥ冒険者と多数のアンデッドで一つの部隊を編成して略奪を行っている。
 そして、アンデッドの中には『骨で出来た家のようなアンデッド』が居て、そこに攫った人々を閉じ込めて護送しているようなのだ。
 ノスフェラトゥ戦役で使われた『骨の城』の小型の物といった物なのだろう。移動速度はノソリンより少し早い程度だが、一度捕まったら、冒険者で無い者が自力で逃げ出すのは不可能だろう。

「今回の作戦の目的は、ミュントスの略奪部隊から人々を守る事。そして、攫われてしまった人達を、無事に救出すること。それに、ミュントス軍が放った強力なアンデッド……ゾンビジャイアントやアンデッドモンスターを退治する事も重要な任務になるわ」
 ゾンビジャイアントやアンデッドモンスターは、周辺の街を襲いながら街道沿いに移動している。

 周囲にノスフェラトゥの冒険者の姿が無い事から、略奪では無く破壊工作の為に放たれているのだろう。
 同盟諸国に打撃を与えるだけで無く、街道沿いに多くの死体がある事は、ノスフェラトゥ軍の次の作戦に有益な事なのだろう。

「いま、先の大作戦や旧モンスター地域から送られた物品などから霊査士達が最優先で霊視しているわ。詳しい事は、それぞれ霊査士から聞いて頂戴」
 リゼルはそう言うと、冒険者達に、祈るような視線を向けた。

●BAD CONECTION-Rare
 移送中の『骨で出来た家のようなアンデッド』……便宜上、『骨の家』とでも呼ぶべきか。
 最早、唯一の生き残りと化した、その中に囚われた者達の救出。
 今の目的は、それだけ。
 デジャヴュを感じた一人が、内容を告げる声を遮る。
 伏せ目がちな視線の先に、幾つもの物品。
「ええ、そうでしょうね」
 敵の細やかな編成、陣形の特徴を除けば。
 救出すべき者達の状況は、判で押したかの如く。
「状況は似通っているのです」
 ようやっと復興の兆しを得たばかりの、戻るべき故郷に待つものはもう無く。
 ただただ、身を襲った凶事に、呪詛を吐く。
 ……彼女等をその様な命運に陥れた者達。
 指揮をしているノスフェラトゥ冒険者が一人。
 骨の家が一騎。
 その他、三十程の奉仕種族アンデッドで構成されている。
 現在確認されているノスフェラトゥ冒険者達は、総じて露出度の高い服装をしているらしく、それを念頭においておけば、雑魚などと見間う事はないだろう。
 骨の家を護るようにしながら、奴等はまっすぐ死者の祭壇方面へ。
 奉仕種族を人質に取った例も聞かれるが……
「御武運を」
 今ならばまだ、追いつける。


!注意!
 このシナリオは同盟諸国の命運を掛けた重要なシナリオ(全体シナリオ)となっています。全体シナリオは、通常の依頼よりも危険度が高く、その結果は全体の状況に大きな影響を与えます。
 全体シナリオでは『グリモアエフェクト』と言う特別なグリモアの加護を得る事ができます。このグリモアエフェクトを得たキャラクターは、シナリオ中に1回だけ非常に強力な力(攻撃或いは行動)を発揮する事ができます。

 グリモアエフェクトは参加者全員が『グリモアエフェクトに相応しい行為』を行う事で発揮しやすくなります。
 この『グリモアエフェクトに相応しい行為』はシナリオ毎に変化します。
 エルフの霊査士・ユリシアの『グリモアエフェクトに相応しい行為』は『非情(heartless)』となります。

※グリモアエフェクトについては、図書館の<霊査士>の項目で確認する事ができます。

マスター:BOSS 紹介ページ
 編成にのみ多少の差異。
 救出の可否が、成功の可否。

参加者
漆黒の彼岸花・トモコ(a04311)
女装推進教師・ワカハ(a06764)
昼行灯・エイシス(a06773)
閃剣の蒼輝竜・ヒリュウ(a12083)
愛するうさぎ達の医術師・シトロン(a13307)
運命の・ペコー(a14333)
朧月の紋章術士・ネフィリム(a15256)
緋鳳戦姫・ミーナ(a15330)
永劫の知・アルミナ(a17367)
黒扉・ヨシダ(a17577)


<リプレイ>

●屍者の壁
 腐乱した集団を率い進む一団。
 見えた。
「あれか……!」
 あちらからも見えているのだろう。
 行商のように列を成していた屍者共に、青白い肌の女が布陣の指揮を執る。
 壁となり道を塞ぎ、わらわらと行く手を阻む屍者の群れ。
 そして、自らは骨の家の傍らに寄って……黒い炎を身に纏う。
「退いて下さい……!」
 若干の距離から、壁を成す屍者に向かい、夢見る箱入り狐・ネフィリム(a15256)がエンブレムシャワーを放つ。
 全部倒せなくていい。まだ生きている人を助ける為に。
 三分の一程の屍者が、光線に撃たれよろめく。
 続けて追いついた、咎を断ち切る一振りの刀・ヨシダ(a17577)の着衣が、甘王・アルミナ(a17367)が駆けながら施した鎧聖降臨に、みるみると変形していく。
「我らの不手際とはいえ」
 肉の壁の向こう、遠ざかっていく骨の家。
 そのまま敵陣に踏み込み、手にした斧を握り締める。
「貴様らに蹂躙されるのを黙って見ているわけにはいかないのでな!」
 力任せに振るったそこから吹き荒れる竜巻。
 全てを、とはゆかずとも、半数の敵を巻き込んだ風は、手負いであった数匹を薙ぎ倒す。
 反動に痺れた身体を跪くヨシダの両脇を、蒼き聖風を纏いし戦乙女・ヒリュウ(a12083)、紅き聖風を纏いし戦乙女・ミーナ(a15330)親子が駆け抜ける。
 目指すは指揮官。だが、その眼前には、未だ数多い肉の壁。
 二人に続き、前を目指す運命の・ペコー(a14333)が、目の前に立ち塞がる邪魔な屍者を切り捨てる。
 一刻も早くこの中を抜け、指揮官を叩く……
 そんな彼女等を囲み、迫る、無数の屍者の腕。
「そんな攻撃……!」
 鎧進化の力を得た母子に、中途半端な攻撃は通用するはずもなく。また、彼女等は突破のために、手薄な箇所を選んでいる。
 屍者の攻撃は、辛うじてペコーに傷を負わせる程度に留まった。
 あの程度では恐らく、後ろに控える医術師が、瞬く間に帳消しにしてしまうのだろう。
 僅かずつ遠ざかる骨の家の傍らで、女は舌を打つ。
 戦力が足りなかった? 相手の力を見くびった?
 いや、理由など今はいい。
 このままでは、突破されるも時間の問題。
 現にこうして、昼行灯・エイシス(a06773)の放った矢が、活路を見出さんと燃え上り、屍者共を打ち倒しているではないか。
「後ろは守ってやらぁ! 行って来やがれ!」
 エイシスの心強い言葉に頷き、護りの天使を従えた彼岸ノ愛華・トモコ(a04311)と、白と黒の境界・ワカハ(a06764)が、屍者の相手などはせず、ただひたすらに骨の家を目指さんと、前進する。
 一刻も、一刻も早く、囚われの者達の元へ。
 二人の後ろからの・シトロン(a13307)が放った慈悲の聖槍は、その射程の倍程に距離の開いた骨の家には届くはずも無かったが、その白い輝きに女が危機感を募らせるには十分であった。
 再び舌を打つ。
 あの壁を越えて駆け出した冒険者共を、この緩慢な骨の脚が振り切れるものか。
 そしてあの数に囲まれれば、自らとて無事では済むまい。
 止むを得まい。
 九を捨て、一を取る。
 女は、閂に手を掛けた。

●残された者
 響き渡る絹を裂くような悲鳴。
「そんな……!」
 思わず見開いた黒い瞳に、恐怖に引き攣り、本来の美貌の欠片も無い女性の姿が映る。
 開け放たれた入口から引きずり出した一人を、女は見せつけるように抱え上げ……
 ……骨の家を明後日の方向へと差し向けると、単身、自らの足で全力で離脱を始めたのだ。
「残りは殺せ!」
 そんな指示を残して。
「……腐ってます……」
 根性がね。
 そんな言葉を投げつけてやりたい。
 突破目前、屍者の攻撃に晒されるペコーを護らんと鎧聖降臨を施すアルミナの心中に、不快なものが沸き上がる。
 そして、屍者達は。
 向かいくる者達の邪魔を止め、骨の家へと足を向ける。
「だめーっ!」
 彼らよりも早く。ネフィリムが群れを追い越し、骨の家ごと周りに殺到しようとする屍者にエンブレムシャワーを放つ。
 打ち据えられ、しかし屍者達は、命令通りに、骨の家に取り付き、壁を屋根を壊さんと迫る。
「おのれ……なんという……」
 今、ヨシダの肩を震わせるのは、痺れではない。
「近づくな!」
 先ほどよりも、尚一層。
 力込めて振るわれた斧より発した竜巻が、家を取り巻かんと迫る屍者共を纏めて打ち倒す。
「女ならばここにも居るぞ!」
 固まり始めた屍者共に向かい、ペコーがスーパースポットライトを照射する。
 だが、屍者共は一瞬足を止めたのみで、さして意に介した様子もなく、再び骨の家へと進む。
「命令による目標設定のほうが上位ということか……」
 忌々しげに剣で風を切り、ペコーも屍者の群れへ。
 邪魔が消えたことで、一気に駆け出すヒリュウ、ミーナ親子の頭上を、闇色に透き通った矢が通り過ぎ、しかしそれは敵影に辿り着く前に消える。
「テメェっ……! くそっ!」
 もう弓でも届かない。
 矢を射た姿勢のまま、エイシスが鋼すらも千切らんばかりに、加えた煙管を噛み締める。
 崩れていく壁。
 空いた穴から、声とも言い難い、複数の悲鳴。
「壊すのは……私達の仕事のはずでしたのよ!」
 救出の為に振るうはずだった長剣で眼前の屍者を切り倒し、退け、ワカハの作ったその空間へ、トモコが駆け込んでいく。
「はやく! はやく逃げましょう!」
 自らの痛みは護りの天使に任せ、エンブレムシャワーで辺りの屍者を蹴散らしながら、空いた穴から中に居る女性達に手を差し伸べる。
 そこへ裁きのように飛来する、慈悲の聖槍。
「皆さん、早くこちらへ!」
 トモコが居るとは別の穴から、中の者を手に掛けようとしていた一体が、輝く槍に葬り去られる。
 これ以上、酷い目に遭わせてなるものか。
 いや、だが。
 手数を前に、骨の家は存外にあっさりと崩れ去り、ふるわれる屍者の腕に、返り血が飛沫く。
「……馬鹿……早く逃げろ……」
 自らにも鎧聖降臨を施し、四方を囲まれ息も絶え絶えな女性との間に、アルミナが身を呈す。
 自分とヨシダの攻撃で、屍者達ももう満身創痍なはず。
 今度こそ、今度こそ道を明けて。
 ネフィリムはみたび、祈る様な思いでエンブレムシャワーを打ち放った。
 刹那、浮かぶ紋章が、普段とは違う輝きを帯びる。
 果たして、多くの屍者は、限界であった。
 眩く輝いた光線に撃たれ、次々に倒れていく中、続けて降り注ぐ癒しの光。
 ルナのヒーリングウェーブに、息のあった者は一旦持ち直し、腕を引かれるまま、屍者の囲いの外へと、走り出す。
「ここを通すわけにはいかない!」
 まだ残る屍者が追いすがる目の前に、痺れから立ち直ったヨシダが立ち塞がる。
 そこへ飛来する、ソニックウェーブ。
 切り裂かれ、倒れ伏す屍者の向こうに、佇むヒリュウ。
 そしてもう一体。
 朽ち果てた屍者に変わり、二つの残像と共に、悔しげに唇を噛むミーナの姿が現れる。
 これで、この力で……母と共に、敵を討ち倒すはずだったのに。
 逃げられたのか。
 二人の様子に察した皆の胸の内に、言い難い感情が渦巻く。
 手足を失っても追い縋ろうとする屍者達の姿に、狂乱しそうな程に怯える女性達。
 トモコとシトロンの導きで岩陰へと下がった彼女等を庇うべく、それらの前に立ち塞がるワカハ。
 護りの天使の力を乗せた一撃が、最後の一体を葬り去る。
 そして、戦いは幕を閉じた。

●悔恨
 どうしてこんなことになったのよ。
 どうしてわたしたちなのよ。
 おとうさんをおかあさんをあのひとをこどもたちを。
 かぞくをかえして。

 涙も出ないのか。
 危機が去った彼女等が口にする言葉は、自らをこのような境遇に陥れた……自分以外の全てへの、憎しみと、恨みと。
 心に刺さる。
 あの時の事が、今を引き起こしているのに。
 今また、目の前で……
 声が枯れるまで、吐き出され続けるそれを。
 皆はただ、静かに聞いていた。


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わからない
参加者:10人
作成日:2005/05/23
得票数:冒険活劇3  戦闘3  ダーク39 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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