<リプレイ>
●屍者の壁 腐乱した集団を率い進む一団。 見えた。 「あれか……!」 あちらからも見えているのだろう。 行商のように列を成していた屍者共に、青白い肌の女が布陣の指揮を執る。 壁となり道を塞ぎ、わらわらと行く手を阻む屍者の群れ。 そして、自らは骨の家の傍らに寄って……黒い炎を身に纏う。 「退いて下さい……!」 若干の距離から、壁を成す屍者に向かい、夢見る箱入り狐・ネフィリム(a15256)がエンブレムシャワーを放つ。 全部倒せなくていい。まだ生きている人を助ける為に。 三分の一程の屍者が、光線に撃たれよろめく。 続けて追いついた、咎を断ち切る一振りの刀・ヨシダ(a17577)の着衣が、甘王・アルミナ(a17367)が駆けながら施した鎧聖降臨に、みるみると変形していく。 「我らの不手際とはいえ」 肉の壁の向こう、遠ざかっていく骨の家。 そのまま敵陣に踏み込み、手にした斧を握り締める。 「貴様らに蹂躙されるのを黙って見ているわけにはいかないのでな!」 力任せに振るったそこから吹き荒れる竜巻。 全てを、とはゆかずとも、半数の敵を巻き込んだ風は、手負いであった数匹を薙ぎ倒す。 反動に痺れた身体を跪くヨシダの両脇を、蒼き聖風を纏いし戦乙女・ヒリュウ(a12083)、紅き聖風を纏いし戦乙女・ミーナ(a15330)親子が駆け抜ける。 目指すは指揮官。だが、その眼前には、未だ数多い肉の壁。 二人に続き、前を目指す運命の・ペコー(a14333)が、目の前に立ち塞がる邪魔な屍者を切り捨てる。 一刻も早くこの中を抜け、指揮官を叩く…… そんな彼女等を囲み、迫る、無数の屍者の腕。 「そんな攻撃……!」 鎧進化の力を得た母子に、中途半端な攻撃は通用するはずもなく。また、彼女等は突破のために、手薄な箇所を選んでいる。 屍者の攻撃は、辛うじてペコーに傷を負わせる程度に留まった。 あの程度では恐らく、後ろに控える医術師が、瞬く間に帳消しにしてしまうのだろう。 僅かずつ遠ざかる骨の家の傍らで、女は舌を打つ。 戦力が足りなかった? 相手の力を見くびった? いや、理由など今はいい。 このままでは、突破されるも時間の問題。 現にこうして、昼行灯・エイシス(a06773)の放った矢が、活路を見出さんと燃え上り、屍者共を打ち倒しているではないか。 「後ろは守ってやらぁ! 行って来やがれ!」 エイシスの心強い言葉に頷き、護りの天使を従えた彼岸ノ愛華・トモコ(a04311)と、白と黒の境界・ワカハ(a06764)が、屍者の相手などはせず、ただひたすらに骨の家を目指さんと、前進する。 一刻も、一刻も早く、囚われの者達の元へ。 二人の後ろからの・シトロン(a13307)が放った慈悲の聖槍は、その射程の倍程に距離の開いた骨の家には届くはずも無かったが、その白い輝きに女が危機感を募らせるには十分であった。 再び舌を打つ。 あの壁を越えて駆け出した冒険者共を、この緩慢な骨の脚が振り切れるものか。 そしてあの数に囲まれれば、自らとて無事では済むまい。 止むを得まい。 九を捨て、一を取る。 女は、閂に手を掛けた。
●残された者 響き渡る絹を裂くような悲鳴。 「そんな……!」 思わず見開いた黒い瞳に、恐怖に引き攣り、本来の美貌の欠片も無い女性の姿が映る。 開け放たれた入口から引きずり出した一人を、女は見せつけるように抱え上げ…… ……骨の家を明後日の方向へと差し向けると、単身、自らの足で全力で離脱を始めたのだ。 「残りは殺せ!」 そんな指示を残して。 「……腐ってます……」 根性がね。 そんな言葉を投げつけてやりたい。 突破目前、屍者の攻撃に晒されるペコーを護らんと鎧聖降臨を施すアルミナの心中に、不快なものが沸き上がる。 そして、屍者達は。 向かいくる者達の邪魔を止め、骨の家へと足を向ける。 「だめーっ!」 彼らよりも早く。ネフィリムが群れを追い越し、骨の家ごと周りに殺到しようとする屍者にエンブレムシャワーを放つ。 打ち据えられ、しかし屍者達は、命令通りに、骨の家に取り付き、壁を屋根を壊さんと迫る。 「おのれ……なんという……」 今、ヨシダの肩を震わせるのは、痺れではない。 「近づくな!」 先ほどよりも、尚一層。 力込めて振るわれた斧より発した竜巻が、家を取り巻かんと迫る屍者共を纏めて打ち倒す。 「女ならばここにも居るぞ!」 固まり始めた屍者共に向かい、ペコーがスーパースポットライトを照射する。 だが、屍者共は一瞬足を止めたのみで、さして意に介した様子もなく、再び骨の家へと進む。 「命令による目標設定のほうが上位ということか……」 忌々しげに剣で風を切り、ペコーも屍者の群れへ。 邪魔が消えたことで、一気に駆け出すヒリュウ、ミーナ親子の頭上を、闇色に透き通った矢が通り過ぎ、しかしそれは敵影に辿り着く前に消える。 「テメェっ……! くそっ!」 もう弓でも届かない。 矢を射た姿勢のまま、エイシスが鋼すらも千切らんばかりに、加えた煙管を噛み締める。 崩れていく壁。 空いた穴から、声とも言い難い、複数の悲鳴。 「壊すのは……私達の仕事のはずでしたのよ!」 救出の為に振るうはずだった長剣で眼前の屍者を切り倒し、退け、ワカハの作ったその空間へ、トモコが駆け込んでいく。 「はやく! はやく逃げましょう!」 自らの痛みは護りの天使に任せ、エンブレムシャワーで辺りの屍者を蹴散らしながら、空いた穴から中に居る女性達に手を差し伸べる。 そこへ裁きのように飛来する、慈悲の聖槍。 「皆さん、早くこちらへ!」 トモコが居るとは別の穴から、中の者を手に掛けようとしていた一体が、輝く槍に葬り去られる。 これ以上、酷い目に遭わせてなるものか。 いや、だが。 手数を前に、骨の家は存外にあっさりと崩れ去り、ふるわれる屍者の腕に、返り血が飛沫く。 「……馬鹿……早く逃げろ……」 自らにも鎧聖降臨を施し、四方を囲まれ息も絶え絶えな女性との間に、アルミナが身を呈す。 自分とヨシダの攻撃で、屍者達ももう満身創痍なはず。 今度こそ、今度こそ道を明けて。 ネフィリムはみたび、祈る様な思いでエンブレムシャワーを打ち放った。 刹那、浮かぶ紋章が、普段とは違う輝きを帯びる。 果たして、多くの屍者は、限界であった。 眩く輝いた光線に撃たれ、次々に倒れていく中、続けて降り注ぐ癒しの光。 ルナのヒーリングウェーブに、息のあった者は一旦持ち直し、腕を引かれるまま、屍者の囲いの外へと、走り出す。 「ここを通すわけにはいかない!」 まだ残る屍者が追いすがる目の前に、痺れから立ち直ったヨシダが立ち塞がる。 そこへ飛来する、ソニックウェーブ。 切り裂かれ、倒れ伏す屍者の向こうに、佇むヒリュウ。 そしてもう一体。 朽ち果てた屍者に変わり、二つの残像と共に、悔しげに唇を噛むミーナの姿が現れる。 これで、この力で……母と共に、敵を討ち倒すはずだったのに。 逃げられたのか。 二人の様子に察した皆の胸の内に、言い難い感情が渦巻く。 手足を失っても追い縋ろうとする屍者達の姿に、狂乱しそうな程に怯える女性達。 トモコとシトロンの導きで岩陰へと下がった彼女等を庇うべく、それらの前に立ち塞がるワカハ。 護りの天使の力を乗せた一撃が、最後の一体を葬り去る。 そして、戦いは幕を閉じた。
●悔恨 どうしてこんなことになったのよ。 どうしてわたしたちなのよ。 おとうさんをおかあさんをあのひとをこどもたちを。 かぞくをかえして。
涙も出ないのか。 危機が去った彼女等が口にする言葉は、自らをこのような境遇に陥れた……自分以外の全てへの、憎しみと、恨みと。 心に刺さる。 あの時の事が、今を引き起こしているのに。 今また、目の前で…… 声が枯れるまで、吐き出され続けるそれを。 皆はただ、静かに聞いていた。

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参加者:10人
作成日:2005/05/23
得票数:冒険活劇3
戦闘3
ダーク39
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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