お菓子の宅急便



<オープニング>


 大地からの恵みが豊かにもたらされる。それは、やがて来る冬のため、自然が用意してくれた贈り物。
「この季節になると美味しいものが食べたくなるのよね」
 アップルパイに使う林檎の皮を楽しそうに剥いていたヒトの霊査士・グリシナは、ふと手を止めて窓の外を眺めた。
 ここはさいはて山脈の麓パルシア村。背は高い山々に守られているけれど、冬の訪れは早い。
 窓から見える風景はすっかり冬色の寒々しさに覆われ。だが、元気に遊び回る子供たちの姿が鮮やかに明るい色を添えている。
 家の中にまでは声は届かないが、はしゃぎ回るその動きを見ているだけで、笑い声が聞こえてきそうだ。
 リザードマンとの戦いは、ランドアース大陸のあちこちに爪痕を残した。犠牲となった町や村でも、子供達は笑顔でいるのだろうか。
 少しの間考えこんだ後、グリシナは剥きかけの林檎をそのままに、手紙を書き始めた。


 冒険者の酒場には、いつものように多くの依頼が並んでいた。その中に、依頼ではない手紙が1通、離れた場所にぽつんと貼られている。
 それは、さいはて山脈の麓に住むグリシナから冒険者にむけた手紙だ。

    ――冒険者の皆様へ――

 このたびのリザードマンとの戦い、お疲れさまでした。
 撃退に成功したことによりこの地の平和は保たれましたが、大陸各所にはさまざまな苦しみや悲しみの余波が残っています。
 悲しみの中で冬を過ごすのは、耐え難く寒いもの。本格的な冬が来てしまう前に、傷ついた地が立ち直りに向かうきっかけをあげたいのです。
 冒険者の皆様。
 収穫の秋に採れた美味しいものを使ってお菓子を作り、それを被害にあった町や村の子供たちに届けるのを手伝っていただけないでしょうか。
 失われたものは返らず、傷が癒えるのには時間がかかります。ですがそんな中でも、子供たちの笑顔は、明るさをもたらしてくれることでしょう。
 ランドアースに明日への希望の明かりを灯すため、どうか力をお貸し下さいませ。

                              ――グリシナ・ディオラシス

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参加者
NPC:リディアの霊査士・グリシナ(a90053)



<リプレイ>


 11月のある寒い日。
 様々な種類の豆、木の実、栗、芋を持った氷雪の獣霊・ネフティル(a03775)は、一足早くグリシナの家を訪れた。
 ネフティルが作るのは砂糖漬けの豆等を煮詰め、砂糖をまぶした菓子。時間がかかるため、早めに準備を始めないといけない。
「おはようございます」
 手順を考えながら扉を開けるとそこには、三角帽子に魔女の服を着た陽光の後胤・ナル(a01122)がいた。
「あ、おはよ〜」
 ナルはマロングラッセを作るために、グリシナの家に泊まり込み。今朝最後の煮詰めを終えて、後は乾くのを待つばかり。
「子供達が喜んでくれるといいな」
 配達用の扮装で、ナルはくるくる踊ってみせる。
 そこにまたノックの音。
 入ってきた心を癒す蒼白き光の癒し手・ニーナ(a01794)は、不安に揺れる瞳でグリシナの姿を探した。
「子供達にお菓子を届ける依頼があると聞いたので……でも、わたし……心を癒すような自信……ない。自分の居場所、やってきたことが間違いなのかどうかさえ……」
 ニーナの言葉に、グリシナはため息とも微笑ともつかないものを漏らした。
「自信が持てないのは辛いわよね。でも、人を癒せる、なんて自信を持ってしまうよりも、癒したい、でもどうしたら、と考え続ける方が大切なんじゃないか、って私は思うわ」
 判定を下すのは人生の終わりで十分、と笑うと、グリシナは林檎を剥く作業に戻った。


「お菓子の材料を持ってきました」
 想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は、ノソリン車に満載した小麦粉や玉子と共に到着した。車に入っている紋章は我儘お嬢様エメルダの家の物。
 手伝いもと頼んだのだが、エメルダは未だに怪我が治らないとかで、援助は食材だけになった。それでも随分助かる。
 車から降ろされた食材は台所に運ばれ、菓子に生まれ変わる。
「♪おっかし〜お菓子〜食べるの〜大好き〜 でも今日は〜みんなのため〜に作るの〜♪」
 天真爛漫颱風・シャルム(a00964)は生地をくるくる丸める。綺麗な丸もあり、歪な物もあり。でも串に刺してしまえばちゃんとみたらし団子に見える。
「皆のお菓子美味しそう〜」
 シャルムの隣では無垢なる銀穢す紫藍の十字架・アコナイト(a03039)が、慣れた手つきで種類豊富なケーキ、クッキー、季節の菓子、芋澱粉を練って作った餅等を作っている。
 ナッツを刻みながらアコナイトは歌を口ずさむ。
「♪ちっちゃいけど幸せ 確かに幸せ 甘くて幸せ 笑顔になあれ♪」
 その向こうでは、陽光の歌姫・ラピス(a00617)がコーンスターチに玉子で作った窪みに、生地を流し込んでいた。
 生地そのままの白、グレナデンのピンク、ペパーミントの緑。固まったらコーンスターチをまぶし直し。ふわふわのマシュマロの出来上がり。
 白陽の剣士・セラフィード(a00935)は、グリシナのパイ生地作りを手伝いながら、モンブランを作る。季節の栗にクリームたっぷり。
「甘さはこれくらいで大丈夫かしら?」
「子供用ならもう少し甘い方がいいかもしれないわね」
 グリシナと相談しながら味付けをし、クリームを絞り出す。
 真紅か漆黒の菓子職人・ユース(a03370)はブランデーケーキ、ココアブラウニーを焼いている間に、特製フルーツの砂糖漬けの瓶に添えるレシピを書いた。保存食にもなる甘味物はこの冬を越す助けとなるだろう。
「何か不思議ですね……」
 生活する為にパティシエになった。ただそれだけ。なのにその菓子が人を癒し、感謝される。
 くすぐったいような……でも悪くない、そう思える感覚だ。

 銀閃の・ウルフェナイト(a04043)は動物の抜き型で野菜クッキー作り。
「日持ちが良くて分配に向いていて数が出来、できれば栄養が豊富な物がいいだろうからな」
 料理は実益を兼ねた独身男の趣味。と言い切ってしまうウルフェナイトの手つきは見事なものだ。
「クッキーは何を入れても美味しいですよね」
 各種ナッツ、チーズ、チョコレート。水鏡の不香花・ヴェノム(a00411)は持参した材料を混ぜ込んだ様々なクッキーを作ってゆく。
 持ち運びの時に割れないかどうかが心配だが、色々な種類、形ができるクッキーは作っている方も楽しい。
「次は粉をふるってまぜるのね」
 萌笑の調べを愛し紡ぎ手・ニケー(a00301)は『初めてさんでも大丈夫』と書かれた本を見ながらのクッキー作り。
「生地を練らないようにさっくりね」
 グリシナは初めて菓子を作るニケーの手を取り、こうやって、と作り方を教える。
「にゅ♪ 沢山笑顔が見られるように、沢山作るのね」
 沢山作ればそれだけ多くの子供に笑顔を届けられる。
「お菓子を作る人は何人いるの? 配達に行く人はどのくらい?」
 夢幻・フュール(a00031)は、誰が何のお菓子をどのくらい作るのか、配達に行くのは何人でどのくらい回れそうなのか、をまとめて整理した。
 出来上がった順に、遠くの場所から配達開始。壊れやすい物や傷みやすい物は近くに配達……と、より多くの子供に菓子が届けられるよう工夫する。
 あっち、こっち、とメモを並び替えているフュールの横に、剣闘士・ラファエル(a02286)が手製の地図を広げる。
「これがレグルス護衛士団が収集した調査情報よ。手渡しした方が子供も喜ぶだろうから、中継点を使わない直送便に」
 ラファエルは地図に何本もルートを書き入れた。物資や医薬品も運びたい処だが、パルシアでは用意できない。代わりに、癒しの水滴や毒消しを可能な限り活性化してもらえるよう配達の人に頼んでおく。
「幸せの願いをばーんと配りに行きましょう」
 ラファエルは率先して立ち上がった。


 綺麗な色の包み紙にリボン。
「少しでも元気になって欲しいですからね」
 エルフの紋章術士・リルミア(a01194)は、菓子に受け取った子供たちが明るい気分になれるようなラッピングをする。
 エルフの医術士・ギフト(a03402)は、ラッピングに使う紙の隅に小さな絵とメッセージを書いていた。
「俺、料理も力仕事も出来ないけど、子供の喜ぶ顔が見たいから」
 自分宛ての手書きのメッセージがついていたら、受け取った子供も嬉しいだろうと。
「グリシナさんは少しだけ、ちょっと前に死んだ私の祖母に似てるんですよ……」
 銀の旋律・ミラ(a00839)に言われ、焼き上がったパイを持ったグリシナはにこりと笑顔になる。
「あら、それは光栄だわ」
「ええ。……と、すみません。手が疎かになってますね」
 ミラは苦笑してラッピング作業に戻った。仕事は次から次にやってくる。
「クッキー80袋、パイ20個、梱包終わりました。D班は残り50袋の梱包が終わり次第、配送開始願います!」
 エルフの医術士・ライラナ(a04238)はきびきびと動き回り、出来上がった菓子を配達に回す。
「グリシナおばちゃん、お弁当作ってくれないとお菓子に手を出しちゃうからな」
 難所を通る場所への配達係になった喰い盛りの牙狩人・ジャム(a00470)が言う処に、ぺ天使・ヒカリ(a00382)がクリームたっぷりのケーキを置く。
「……これあげますよ。その代わり悪戯したら……第三級神執行です」
 フライパンを掲げて見せ、ヒカリはまた梨のタルトを作る作業に戻った。
「僕はそろそろ配達の方に行くから。終わったら一緒にお茶しようね」
 蒼夜・キリ(a00339)はヒカリに手を振ると、お菓子を満載したノソリン車へと向かった。表に出てこられない怪我や病気をした子供にも配る為、1軒1軒丁寧に回るつもりだから早めの便で出発だ。
「……ペアティーを用意して待ってますから」
 一緒に食べさせあいっこするためのお菓子も、と付け加えるヒカリにキリは振り返って笑顔を見せ、配達に出かけるのだった。


「♪お菓子を〜運んで〜何千里〜やって来ました〜 さあ、皆〜仲良く分けるんだよ〜♪」
 ストライダーの武人・ラスター(a03068)は歌いながら村々に入り、何事かと目を丸くしている子供たちに菓子を渡す。
「お菓子は沢山ありますから、押さないで順番に並んでくださいね」
 射干玉の捜索者・カルーア(a01502)は魔女の扮装で子供達の間を回る。きちんと仕分けられた菓子を効率よく配ると、空いた時間でカルーアは子供たちと鬼ごっこをして遊び始めた。
 その様子をぽつんと離れた場所で見ている子供に、天翔る一矢・ミヤコ(a00675)は玩具の矢につけた菓子をひゅんと投げた。子供は足下に落ちた矢を拾い、逃げるように走って行く。
「お菓子を食べて少しでも元気になってくれたら嬉しいんやけど……」
 小さな後ろ姿をじっと眺めているミヤコに、紺青の氷輪・アルフィルク(a01617)も頷く。
「亡くなった人は戻らんし、焼かれた家も元には戻らへん。でも傷はいつか癒えるものや。……自分ら冒険者が支えになれる事って言うんは本当に少ないけど、あのお菓子が小さな希望の元になってくれたらいいな」
 平和が訪れても、戦いが残した傷が癒えるには時間がかかる。菓子を食べながら泣いている子供を薄紅色の野ばら・アキレギア(a04072)は両腕で抱きしめる。
「泣き顔は誰も喜ばないわ……あなたの大切な人も。笑顔は……誰でも出来る最良の感謝と祝福の表現……だから笑いましょう」
 戦渦に巻き込まれる辛さはアキレギアにはひしひしと解る。だから……共に死を悼み、そして共に死者のことを懐かしめる日が来ると信じられる……。

 配達をする町や村にはまだ荒廃の色が濃い。
 魔導剣士・アルヴェーク(a01124)は傷ついた家屋や農耕具の修理、木材の切り出し等の重労働を引き受けた。子供と触れ合う機会がない代わりに、菓子と一緒に配ってくれるよう、他の皆に木の玩具を託してある。復興の手伝いをする事によって、親が子供と遊ぶ時間ができるようにと願いつつ。
「こけこっこ〜青こっこ〜」
 蒼空を渡る翼・ジェイ(a00838)は青い鳥の着ぐるみ姿での配達だ。雛の『白玉』も一緒に連れて、菓子を作った人の心が幸せとなって子供達に届くようにと、群がる子供に潰されそうになりながらせっせと配り続ける。
 とことことこ……。
 関風の・エブリース(a00778)は土塊の下僕に菓子を配らせた。冒険者ならではの配り方は、子供に安心感を与えられる事だろう。無心に菓子に手を伸ばす子供達に、エブリースは目を細め。この可愛さこそが子供の身を守る為の武器なのだというフレーズを思い浮かべる。
「つまみ食いしたらオシオキだぞ」
 御隠居・クァル(a00789)に注意され、ジャムは大きく首を振った。
「解ってるよ。今日は子供達の笑顔を土産にして帰るんだからな」
 お菓子に手作りの矢を添えて、ジャムは子供たちに手渡す。
「こんなちっこい俺だって護衛士になれたンだ。お前らも頑張れよ♪」
 未来は子供が作るもの。希望を忘れなければ明日はきっと来る。
「子供がぜ〜んぶちっちゃいっ!」
 揺流白花・セーネード(a04230)は声をあげたが、子供がむくれるのを見て慌てて頭を撫で、菓子で機嫌をとる。
「あーいや、失礼。ちっちゃくないぞ、うん」
 マロンタルトとスイートポテト。小さなおしゃまさんにプレゼント。

 村の家の台所を借りて、天眼・キャスレイ(a02922)は子供たちと一緒に菓子作りをしていた。
 かぼちゃペーストで作ったスフレのタネを裏ごしし、ぴんと角が立つまで泡立てたメレンゲと手早く混ぜ合わせ。天板に湯を張ってオーブンで湯煎焼き。むくむくふくらむスフレと共に、気持ちもふわふわにふくらむようにと。
 輪に入れずにいる子供に話しかけ、ナナイロ・ハチャック(a02091)はその子がうち解けられるよう色々試してみた。ただ甘やかして誘うのではなく、叱るべき処はしっかり叱るように気をつける。その子を歪めてしまっては何にもならない。
 白尾の黎明士・シリア(a02382)はスフレが焼けるのを待つ間、子供達と遊んで……というより子供達に遊んでもらっていた。
「ほう、そうやって遊ぶのか」
 自分で作った玩具だけれど、子供から遊び方を教えると言われれば、うんうんと頷きその言葉に耳を傾け。
 そこにキャスレイがふかふかに焼き上がったスフレを持ってくる。
 ハチャックはうち解けつつある子供の背に手を添えて促す。
「さ、みんなで食べよう」
「美味しい物食べれば自然に顔もほころぶのじゃ」
 かぼちゃのスフレにかぶりつく子供達をシリアはにこにこと眺めた。

「さあ、食べましょう」
 楽風の・ニューラ(a00126)はオレンジのテーブルクロスの上に、鳥や動物の形のナプキン、菓子と茶を並べた。
 その横で朽澄楔・ティキ(a02763)はこの辺りの薬草の群生地のメモ書きを作成したり、植物で作る玩具とその作り方を記したりと、細かな配慮を添えている。
 ニューラはアップルパイにリキュールをふりかけて火をつけた。青白い炎と子供達の歓声があがる。
 酸っぱい林檎の方が美味しく出来るアップルパイは、不幸を知る事によって優しくなれる人の心。ショートブレッドのワイルドフラワー模様は、野の花のようにたくましく育てとの願い。
「はい、そこのティキさん、味見しちゃだめですよ〜」
 ニューラにぺしっと手を叩かれたティキは、違う、と反論する。
「俺は玩具を置こうとしただけだ」
 2人のやりとりを優しき雫の・エレアノーラ(a01907)は微笑混じりに眺め、子供たちに水色の小袋を渡していった。中身は林檎やオレンジが入ったハートや星形のビスケット。小袋には『お父さんやお母さんのお手伝いを頑張ってね』のメッセージカードつき。
 配り終わってもまだ対決姿勢にある2人を、エレアノーラは癒しの水滴の心づもりをしながら見守った。

 金髪の・アゼル(a00436)と闇に舞う白梟・メイプル(a02143)の2人は近くの区域を選んで配達していた。バスケットの菓子はまだ温かい。
 村につくとアゼルは広場に子供を集めた。メイプルはハイドインシャドウで傍らにそっと控え。
 アゼルが掛け声と共にマントを翻すのにあわせ、メイプルはその影から姿を現す。胸に抱いたバスケットに微笑みを添えて。
 きゃあきゃあと大騒ぎする子供達に、2人はまだ温かみが残る菓子を渡してゆく。受け取った時に見せる子供達の笑顔がまぶしい。
「アゼル様」
 菓子を配り終え村を離れる時、メイプルはアゼルを見上げる。
「私たちは明日への希望を求め、未来を信じて戦った。でも、その未来を育てるのは子供達なんですね。種を植えても陽が射さなければ大樹は夢で終わる。子供達の笑顔……希望の陽射しを私も見たい……」
 ゆっくりと微笑むメイプルを、アゼルはマントの中に包み込んだ。


 ただいま、と帰るのもそこそこに、クァルは戻ってくる皆の為に作っておいたプリンに、栗とクリームを飾り付ける。
 キャスレイは全員分のスフレを焼こうとひっきりなしに手を動かし。
 菓子の配達に行った人々の帰りを待つ。きっと子供達以上の笑顔で帰ってくると信じて。
 みんなみんなお疲れさま。そして。
 おかえりなさい♪


マスター:香月深里 紹介ページ
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参加者:39人
作成日:2003/11/30
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