あめ。



<オープニング>


 雨か。
 ざんざと降り注ぐ窓の外を見て、始めはそう思ったそうだ。
 ところがどうにも、妙な雨音がする。
 何か硬いものが……そうだ、ひょうかあられのような。
 止むのを待って、おもてへ出てみれば、透き通った針のようなものが、無数に見て取れた。
 あるものは砕け、あるものは地面や屋根に突き刺さる。
 おそるおそる手にしてみれば、なにやら、甘い香りと共に糸を引く。
 飴、だった。

 大きさは、がたいのいい男一人分くらいか。
 褐色のなめくじのようななりをしたそいつは、体表から甘い汁を出し、それを針にして、全方位に射出する。
 奴は現れて数日、ずっと村に常駐している。
 正確な意図はわからない。ただ、気が向いた時に針の飴を降らしながら、気侭に村の中を這い回っているそうだ。
 針の強度はどうやら調節が利くようで、適当にばら撒いているときは、ちゃんと服を着ていれば、気にはなれども痛くはないらしいのだが。
 この程度なら村人だけでもなんとかなるだろうと、退治しようとした際、敵意を持って放たれた強い飴に撃たれ、村人の多くが大怪我を負うという事態が起こってしまった。
 これはやはり、自分達では手におえない。
 そうして、冒険者へ依頼と相成ったのである。

 基本的な攻撃は、針を広範囲に降らせること。この針の射程は遠距離。さしずめ、飴のニードルスピアといった所か。
 また、針以外にも、臨戦態勢にある折は、太く固めた槍状のものを突き出し、近接の対象を串刺しにしようとした事例も目撃されている。
 飛んだり跳ねたりもなく、動きも鈍い為、敵としてみればそれ程手強くもなさそうだが、奴は必ず村の路地に居る。無闇にその気にさせると、付近の家屋ごと攻撃を仕掛けてきそうだ。

 そっとしておけば、いつかは何処かへ行くかもしれない。
 だが、既に何人もの怪我人が出ている。万が一が起こる前に、どうかこの妙なあめふらしを退治して欲しい。

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参加者
神殺騎士・サファイ(a00625)
射干玉の捜索者・カルーア(a01502)
喰えない老人・ジュラン(a01956)
大地の歌い手・フェンネル(a02415)
千変・ギネット(a02508)
緋炎を狩る者・チェリム(a03150)
赤毛の女剣士・フィオ(a06729)
香水茅・シトラ(a07329)
風舞・ティナ(a10082)
灼陽と赤月の双剣士・ラスク(a19350)


<リプレイ>

●ところによりあめ
 遠くでばらばらと乾いた音がする。
 村人へ避難のお願いをして回っていた緋炎を狩る者・チェリム(a03150)が、渋い顔をしている喰えない老人・ジュラン(a01956)に気付いて足を止めた。
「何してらっしゃいますの?」
「おお。いやなに、釣られてくれんでのう」
 喚び出した土塊の下僕に指示を与え、あめふらしを広い場所へ誘き出そうとするも、中々思うように行かないらしい。
 少し考えて、チェリムは先ほど村人から聞いた話を思い出す。
 路地しかうろつかないこと、障害物があると避けて通ること。
「道を塞いでみては?」
「おお、おお。それはよい。流石、若い者は冴えとるのう」
「まあ。鼻の下が伸びていましてよ」
 にこりと笑って言い残し、チェリムは再び避難のお願いをしに、路地の角へ消えていった。
 一人、また一人と村人が移動する中、大地の歌い手・フェンネル(a02415)の高らかな凱歌が響く。
 人々を包み込む歌は、あっと言う間に傷を癒していく。
「これで大丈夫ですわ」
 傷が癒えたことを確認すると、フェンネルは暫く安全な場所に居て下さいねと念を押し、あめふらしの動向を注視する仲間達の元へ。
 皆はひらけた路地で、あめふらしがやってくるのを待ち構えていた。
 飴避けの大盾を持ち直し、神殺騎士・サファイ(a00625)が矢返しの剣風で自身を包む。
 飴が屋根で跳ねる音が、段々近付く。
「上手く誘導されてるな」
 紅き断罪の双剣士・ラスク(a19350)も矢返しの剣風で身を包み、近付く飴音に耳を傾ける。
 確実にやってくるであろう先を注視するその後ろ、別の路地から、射干玉の捜索者・カルーア(a01502)が姿を現す。
「終わりましたよ」
 どうやら、辺りの住人の避難は済んだようだ。
「こっちも終わりました」
 何故か飴売りの姿で現れた千変・ギネット(a02508)に、しかし、そのことについて誰も附言しないのは、きっと何となくだろう。
 いよいよ、飴が跳ねるのが見えた。
「やんないよりはいいよね」
 転がり落ちてくる飴を前に、悪をぶっ飛ばす疾風迅雷・フィオ(a06729)がストリームフィールドを展開する。
「おいしいのかなっ……」
「え」
 風舞・ティナ(a10082)の呟きに、飴を食べてみようかと思っていたフィオが振り返る。そう思っていたのが自分一人でなかったと知って、何となくほっとした表情。
 体液なのになぁ、などと二人を見て思いつつ、香水茅・シトラ(a07329)は、剣風を纏う二人を始め、近くに居る仲間に片っ端からディバインチャージを施す。
 そしてそこへ。
 いかにも飴色なあめふらしが、細い角を曲がって、姿を現した。

●あめあめふれふれ
 黒炎覚醒で暖かいというよりは熱そうな外見となったギネットが、範囲ぎりぎりからデモニックフレイムを撃ち放つ。
「丸ごと溶けないものでしょうか」
 あめふらしにしてみれば、今までにない出来事だったのだろう。飛び出た目を白黒させているそこへ、なんともう一度、悪魔のような炎が。
 今はまだ回復の必要なしと判断したフェンネルが、同じくデモニックフレイムを撃ち込んだのだ。
 驚き、機嫌を段々斜めに傾けながらも、あまり動きの鈍らないあめふらし。
「体力がおありのようですわね」
「硬くなったりするのかな」
 先ずはこれでと、フィオの放ったソニックウェーブは見事あめふらしを捕らえ、その身体を衝撃波の形にぐにゃりと凹ませる。
 凹みが収まるより早く、鎧進化を済ませたカルーアが接近、ホーリースマッシュを叩き込んだ。
 思ったよりもずっしりした手応え。
「弾力がありますね」
 引き戻した剣には、うっすらと水飴のようなものが付着している。
 痛そうに身悶えしながら、元の形を取り戻していくあめふらしの表皮で、飴の体液が流動を始めた。
 何か撃つ気だ。
 だが、それよりも早く。サファイがあめふらしの間合いへと、無造作に足を踏み入れる。
 またもや起こった突然の出来事。
 あめふらしはやる気をなくしたのか、叩き込まれた一撃にさらに身体を凹ませながら、流動していた体液をねとりと地面に垂れ落とす。
「……こいつは確かに、食らうと面倒そうだぜ」
 剣に付着した飴が糸を引く様子に、小さく舌を打つ。
 ティナは粘りゆく飴とあめふらしの様子を伺いながら、次々にリングスラッシャーを喚び出していく。
「えとえと、まだ元気そうだねっ」
 範囲外であることに気を配りつつ、飛んでいく衝撃波達を見送る。
 そして、それらが飛来するよりも早く。
 ラスクもまた、あめふらしの間合いへと、無造作に踏み込む。
 目の前に次々現れる敵達。
 飛び出た目を右往左往させて戸惑っているあめふらしへと、ラスクが目一杯の力で一撃を放つ。
 ばしゃり。
 気力を奪われていたせいか、粘性が低下していた飴が、剣を叩きつけた衝撃で跳ね返る。
「……俺だけっ?」
 ちょっぴり損した気分だが、今はこいつを倒すのが先だ。ラスクは気を取り直して、再び距離を取る。
 そこへ飛来する闇色の矢。
 他の仲間よりもまた少し後方、曲がり角を利用して捕捉から逃れつつ射たチェリムのそれは、命中はしたものの、あめふらしの動きを止めるには至らない。
 すると今度は、炎を纏った木の葉が無数に飛来、あめふらしの身体に纏わり付いて激しく燃え上がった。そして、その木の葉に混じったいくつかのリングスラッシャーが、あめふらしの身体を切り裂こうと次々魔炎の中へ衝突していく。
 もんどりうって身悶えするあめふらし。
 ただ、今の攻撃でやる気を取り戻してしまったのか、再び表皮の飴が流動を始め……
 次の瞬間、無数の針の飴が降り注いだ。
 今までとは明らかに違う音で、路地を、屋根を、冒険者達を撃ち据える茶褐色の針。
「うわっとと、やっぱり跳ね返らないね」
 ぎりぎりに届いてきた飴をかわしながら、飴がストリームフィールドの影響を受けないことを確認するフィオ。
 グリモアの加護によって、この手の攻撃の威力は軽減されるものだが、それでも結構な威力。
 ジュランがよろめいたのも、歳のせいではなく、体力の低さゆえであろう。
「あれの体液……うぅー、やだやだ」
 ぶんぶんと頭を左右に振ると、飴の範囲外にいたシトラが、皆に効果を届かせる為、数歩だけ前に出てヒーリングウェーブを発動する。
 降り注ぐ光に、徐々に塞がっていく傷。
 入れ替わるように、未だ緑の業火の名残で魔炎に包まれているあめふらしへと、再びデモニックフレイムが襲い掛かる。
「まだまだお元気そうですね」
 怒りのせいだろうか、体表に模様を描く勢いで、流動する体液。
 残る傷を全快させるべく高らかな凱歌を歌っていたフェンネルは、その時にふと、違和感を感じた。
「縮んでませんこと?」
 眉間に皺寄せる目の前で、フィオがソニックウェーブを放つ。命中した衝撃波は再びあめふらしの身体を凹ませ……
「……ほんとだ」
 確かに、縮んでいる気がする。
 身悶えするあめふらしへ、そして、更に凹ませる為、カルーアが徐々に平らになっていく部位へと、ホーリースマッシュを叩き込む。
 そこへまた踏み込んでくる、二人の男。
 両側から時間差で打ち込まれる達人の一撃に、あめふらしはまたやる気をなくして、体表の飴を地面に垂れ流す。
「……縮んだな」
 はじめ見たときは、自分達の倍かそこいらあったはずなのに。
「中身が出たのか」
 そう、確かに。
 質量分の飴が足元に広がって、動きを阻害されているような違和感はあった。
「えとえと、そろそろ弱ってるよねっ」
 広がっていく飴溜まりに足を取られながらも、なんとか踏み越え一気に接近、ティナの薔薇の剣戟があめふらしの体を捕らえた。
 舞散る花びら。
 飛び散る飴飛沫。
 そして、縮めば縮むほど、凹みは大きく。
「狙い辛くなりましたわ」
 角から弧を描いて飛来したチェリムのホーミングアローに、あめふらしはごっそり凹み、更に半分に。
 そこへまた飛来する緑の業火。
「これで終いにならんかのう」
 まるで、溶けていくかのように小さくなっていくあめふらし。
 なんだか、塩を振ったなめくじを見ているような気分だ。
 しかし、そんなになっても、あめふらしは必死に抵抗する。
「……槍が針に……」
 最早回復の必要もないだろうと判断したシトラが、近付いて覗き込んだ時には。
 魔炎の残り火に焼かれて、すっかりただの飴と化していた。

●あめのちそうじ
 飴溜まりの中に残った小さな飴を埋葬し、数名が手を合わせる。
「お前に恨みがあったわけじゃなかったが……すまないな」
 小さく告げるラスクの横で、拳で語りたかったと、ギネットが今は亡きあめふらしに思いを馳せる。
 弔いを済ませたフェンネルが振り返れば、戦闘に使った路地にたっぷり零れた茶褐色の水溜り。
「さあ、お掃除のお手伝いをしなくてはなりませんわ」
「ええ。修理も」
 同じくカルーアも戦場跡を振り返り……針の飴に打たれ、崩れた屋根を見渡した。
「……結構、皆食べようとしてる?」
 既に掃除を始めていたフィオが、拾った飴をまじまじと見つめている仲間を注視。ティナに至っては袋に詰めてお土産状態。恐らく他人に食べさせるつもりだ。
 そんな中、真っ先に飴を食べたチェリムの第一声。
「お、大人の味ですわっ」
 その様子に、興味を持っていた皆が次々に一口舐めては。
「……うっ、甘いけど苦いっ」
 中々複雑な味だったとか。
 掃除と修繕を終えた皆は、やっと体についた飴を洗い流す。
 目の前の皆は、なんだか凄く苦労している。
 サファイは大盾やマントに刺さった飴を引き抜き、剣に付いたねばねばを洗い流しながら、これが溶けなくて良かったと、つくづく思うのであった。


マスター:BOSS 紹介ページ
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