黒桔梗の森 〜アナタノチヲチョウダイ〜



<オープニング>


「嘘こけ、桜の咲く時期はとっくの昔に終わって、もう葉っぱだけしか残っていないだろうが」
「本当に見たんですってばー」
 雪月歌の斎女・オウカ(a05357)がこの間黒桔梗の森に入った時、桜が満開の花が咲いているのを見たのだという。
 木々の隙間から見えた遠くの景色だが、一本丸々が薄い桃色になっていたのだ。
「なんなら、一緒に見に行きましょうよぉ」

 きっかけは興味本位であるものの、やはり危険な黒桔梗の森。オウカ達は多くの仲間と共に件の桜を目指し、森を歩いた。
 そして、一同は見つけた。薄い桃色の花を咲かせた木を。その木は、幹の半ばから美しい乙女の上半身を生やし、その手は一体の白骨化した骸を抱き、木の根元には無数の、もはや何の生き物かわからない多くの骸が絡まっていた。
 乙女はオウカ達を見て、口の端を僅かに吊り上げた。それはまるで、鼠を追い詰めた猫が浮かべるような微笑み。
 最近桜にまつわる怪談話を聞いていたオウカには、こう言っているように感じるのだった。

『アナタノチヲチョウダイ』

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参加者
桜雪灯の花女・オウカ(a05357)
騎士の剣・セレン(a06864)
落焔の魔学博士・ミシェル(a06912)
蒼夜の黒猫・シンハ(a07807)
深緑の風詠・エウリア(a16513)
金木犀の座敷童子・キラ(a16913)
黒焔の執行者・レグルス(a20725)
凶狼・ヴォルグ(a24791)


<リプレイ>

●その憐れな姿は見るに耐えない
 女の上半身を生やした桜のモンスター。その両手に抱えるのは、白骨化した1体の骸。その骸はモンスターの一部なのだろうか。それとも本当に犠牲者の白骨なのだろうか。真実は分からない。
 だが、騎士に憧れし・セレン(a06864)は、雪月華の斎女・オウカ(a05357)と共に最近桜の話を聞いた事もあり、相手の姿を直視できなかった。
(「きっと……、私たちのように興味を惹かれて見にやってきて巻き込まれた人もいるのでしょうね……」)
 セレンが顔を背けたその時、モンスターは新たなる8つの血袋を見つけ、さも嬉しそうに妖しく微笑んだ。
「セレンさん、来ますよ!」
 オウカの言葉で戦う意志を呼び起こしたセレンは、仲間と共に術具である竪琴をしっかりと構えるのだった。

●花びらが誘う世界
 空夜の黒猫・シンハ(a07807)の手から気を練って作られた刃が幾本も飛び出し、モンスターを傷つける。幹に当たった所から、赤い液体が一筋流れ出た。まるでこれまで吸い取った血のように。
「オウカお義姉様、危ないですわ!」
 オウカを庇うかのように前に進み出て、深緑の風詠・エウリア(a16513)はライクアフェザーの構えを取る。まだ完全に相手と接近する前に、リングスラッシャーを呼び出して手数を増やさなければ。エウリアはサーベルを一本大きく振りかぶった。
「こういう怪談物は春というより夏の風物詩だろう」
 凶嵐の刃・ヴォルグ(a24791)も斧を構えつつ、後ろの仲間に攻撃がいかないように、かつ支援は届くように距離を図り、陣を取った。
 急な遭遇戦。全員が慌てて準備を済ませた時。モンスターは頭上の枝を揺らし、周囲に桜の花びらを舞わせた。花びらはシンハ、エウリア、ヴォルグの3人の元に届いた。美しく舞う花びらが、3人の心を蝕んでいく。
「くっ!」
 シンハは心に入ってくる花びらを辛うじて押し返した。今は何とか押し返せたが、後方の術を扱う仲間達ならともかく、シンハには次に花びらの力を使われた時に抵抗できる自信はない。
 その時、シンハに向かって一本のサーベルが振り下ろされた。エウリアのものである。
 エウリアは悠然と微笑みながら、シンハにサーベルを向ける。シンハの意識がエウリアに向いた時、彼の背後で大気が大きく動く気配を感じ、横に飛びのいた。ヴォルグの斧が、シンハが居た場所の大地を抉った。
「エウリア、ヴォルグ、目を覚ましな!」
 呼びかけてもなお襲い掛かる2人。2人の瞳にはシンハが映ってはいるものの、焦点はどこか遠くを結んでいるかのようだ。
 そしてその3人に、モンスターは接近し、棘だらけの枝の鞭を振るった。
 打ち据えられる3人。皮膚が裂け、流れ出る赤い液体。それはゆっくりと水溜りを形成しようとしていた。

●失って気づく偉大な力
「盛大に燃やすか」
「あるべき世界へお帰りなさい」
 異形の生き物の頭部を持つ黒い炎と、3つの獣の頭を持った黒い炎がモンスターの体を包み込む。黒焔の執行者・レグルス(a20725)のデモニックフレイムと、邪悪な金木犀・キラ(a16913)のスキュラフレイムである。手痛い炎の攻撃を受け、モンスターの顔は苦痛に歪む。その火力に満足感を覚える2人。陽炎の魔学博士・ミシェル(a06912)も黒い炎を身に纏い、デモニックフレイムを叩き込んでいた。
 その3人の少し後ろでは、オウカがレグルスの言動にびっくりしつつ、前衛3人の様子を見て治癒の術を練り上げていた。
「治って!」
 癒しの力を秘めた風が心地良く吹き流れ、モンスターを含めたこの場にいる全員を包み込む。ヴォルグの体から流血が止まり、その瞳に正気の色が戻った。モンスターの体からも赤い液体が流れ、炎が幹や枝を包んだままだが、これはこれで問題ない。
 しかし、ヴォルグ、エウリアの2人の出血は止まらず、またエウリアもヴォルグに向けて武器を構えたままである。
「どうしてぇ!?」
「……。あの最初の微笑み、何かの術だったのかも」
 ある可能性を口にしつつ、キラが毒消しの風を呼び起こすと、今度はヴォルグの出血のみが止まった。
「やはり、災いを退ける力が薄れているわね」
「それってかなり不味いじゃないですか」
 人を『不幸』にする微笑み。グリモアに与えられし運を大きく引き下げる力。それは確実に冒険者達の足並みを乱していた。オウカの慌てぶりが気に入ったのだろうか。モンスターは再び微笑んだ。その微笑を見たのは、正気を取り戻してモンスターに向き直ったヴォルグと、モンスターに積極的に攻撃をしているレグルス、ミシェル。
 セレンが、元々枝攻撃の囮として作り上げた土塊の下僕にエウリアを抑えるべく命じ、回復を手助けするべくヒーリングウェーブを出す。
「持てるだけの治療術を使って回復させるしかありません、体力の回復は私が行いますから」
「そうですね。キラさん、セレンさん、お手伝いお願いします」
「やるだけやってみるわ」

●辛うじての勝利
 前衛の仲間がモンスターの進行を留める間に後方から炎を叩き込み、エウリアが自力で辛うじて目覚めた直後に、舞い散る桜の花びら。距離が離れていた先程とは異なり、治療に専念するべく後ろに下がったキラ、セレンと、オウカの3人を除いた全員に花びらが届く。
 3人が仲間同士で剣をぶつけ、血を流し合う。今度はシンハもその術中に陥っていた。シンハの容赦ない攻撃を受け、ヴォルグが片膝をつく。
「毒消しの風を、お願いします」
 ミシェルが、レグルスの衝撃波を逸らしつつ治療術を急かす。花びらの呪力はレグルスまでも捕らえていた。もしキラも攻撃に加わったままであれば危なかっただろう。こちらの術が届くという事は、相手の術も届くという事なのだから。
 セレンが仲間の体力を取り戻し、オウカとキラが災いを払う力を呼び覚ます術を使う。シンハとエウリアの2人が正気に戻り、ヴォルグも手痛い一撃もあってか目を覚ます。今度はモンスターが被っていた、スキュラフレイムが与える出血や魔炎をも祓ったが、その蓄積は相当のもののはずだ。
 モンスターはヴォルグに向き直り、且つ前進を続ける。ヴォルグの足元には、小さいながらも血の溜りが出来上がっていた。根にまとわり着く白骨をカラカラと鳴らしつつ、その血に向かい根を伸ばそうとするモンスター。
「いけない!」
 作られた血溜に向かい、斧を振り下ろすヴォルグ。大地が陥没し、血はその中に染みこむなり飛び散るなりして、血溜は消し去られた。モンスターが根を伸ばした意図は判らないが、怪談話を知った後では、血溜を残すのがためらわれた。
「惑わされた屈辱、忘れません!」
 エウリアがモンスターの脇に回りこみ、サーベルを幾度も振るって斬り付ける。モンスターと正面から対するのが危険だと分かった今、囲むように陣を展開したほうが得策なのだ。
 同様にシンハがエウリアとは反対側に回り、幹から生えた女性の心臓付近目掛けて、刀を突き刺す。そこに急所はなかったのか、モンスターは倒れなかったが、彼の素早く正確な攻撃は不得手の領域らしく、女の姿をしたモンスターは両手で頭を抱えていやいやするかの様に首を振った。
「……何だこれは」
「気づかれましたか?」
 レグルスが正気に戻ると、ミシェルは彼に、杖を喉元に突きつけられた状態で声を掛けた。
「…………灰も残さず燃やし尽くす。オウカァ!」
「はい〜!」
 何をしろ、といわれなくても、要求の中身はすぐに分かった。オウカが扇をバッと広げると、レグルスの杖に光で描かれた紋が付与された。
 再び禍々しい異形の姿の黒い炎を作り上げるレグルス。ディバインチャージが付加されたそれは、先程のものよりも濃かった。
「合わせます」
 ミシェルも同じくデモニックフレイムを作り上げた。2人は一緒にその炎を放つ。炎がモンスターを舐め尽すと、そこには傷一つない状態のモンスターが立っていた。
「効かなかったのですか!?」
 セレンが癒しの力を皆に放ちつつ、尋ねた。
「違うな。あれはクローンだ。今の戦いで与えた外傷や火傷が何もない」
「ということは……やったのですね、オウカお義姉様」
「みたいねぇ」
 疲労と緊張からの開放で、全員がぺたりとその場に座り込んだ。

●悲しくも呪われし生
 オウカとセレンが引き続いて治療術を使って皆の傷を塞ぎ、小休止。
「観賞用、実戦用、血液のお掃除用……なかなかに多芸で面白い桜でした」
「オウカお義姉様の見たという桜、気になっていたのですが……こんな得体の知れないものだったのですね……」
 ミシェルとエウリアがぽつりと言ったその言葉に、オウカを責める意図はない。
 その後ろで、レグルスが猛烈な勢いで何かを手帳に書き込んでいた。閻魔帳なのだろうか。
「って、オウカお義姉様は?」
「あちらにいらっしゃいます」
 キラが指差す方向に、シンハがいた。彼の体に隠れるかのように座り込み、ガタガタ震えるオウカ。ちなみにオウカの体はシンハからはみ出ていて丸見えだったが、シンハが細いのであってオウカが丸いわけではない。念のため。
「シンハ様助けてください〜」
 レグルスの筆の音がやけに森に響いた。

「怪談話、の方だが。その桜は単に死んだ男性を助けたかっただけなのだろうな」
 クローンを見つめつつ、ヴォルグが呟いた。
「怪談話が真実で、且つそれがこのモンスターであれば、私達はどうしていたでしょうか」
 キラは問いかけて考え込んだ。モンスターとは、自らのグリモアを奪われた冒険者の慣れの果て。明確な意思を持たず、誰かを助けるといった事もない。それが全て。それでも、そう問わずにはいられなかった。
「まずは、元冒険者だった方を捻れた生から開放できた、という事を喜びましょう」
 もしも、ならば、という思考の迷路から脱出するべく、セレンが皆に言った。そして言葉にはしなかったが、その機会が与えられた事をオウカに感謝した。
 やがてクローンも、その仮初の命が存在できる時を終え、消滅する。邪竜導士の禍々しい術で作り上げたクローンが消滅する時、それは微笑んだように見えた。戦いの中で見た妖しい微笑みではなく、誰かに礼を捧げる時に浮かべる笑みを。それはセレンの言葉を聞いた事による幻想なのだろう。だが、それでもそうあってほしいという願いが、一同に残った。
「おやすみ」
 シンハが、消えたモンスターに向かって安らぎの言葉を贈り、一同は森を出るのだった。


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参加者:8人
作成日:2005/06/12
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