里山の熊退治



<オープニング>


「熊が出るらしいの……」
 そんな霊査士・リゼルの切り出しを聞いたエルフの医術士・メイリィ(a90026)は、例によって瞳をきらきらと輝かせた。
「クマさんですの?」
 問いかけられ、リゼルは困ったように「うう〜ん」と眉を寄せた。
「倒して頂かなければならないのが、その熊なのだけど……」
「……!」
 途端にしおしおと元気をなくしたメイリィに、少し焦った様子でリゼルは説明を続けた。
「その……熊と言っても、普通の熊とは少し違います。身体が1回り大きいようですし、強力な爪以外に、咆哮で人を麻痺させてしまう事があります。まあ、麻痺の効果は、冒険者の皆さんには必ずしもかかるとは言えないですけれど。かと言って、無用心に近寄ってはいけないでしょうね」
「……怖いクマさんですの……」
「ええ。山へ狩りに出た村人が襲われかけて……、ただ、その時は咆哮を聞かなかったのもあり、命からがら麓の村に逃げ帰る事ができたのですが……」
 すぐに村から出されたのは、『山にいる熊退治』依頼だったが、霊視の結果、逃げた村人の匂いを辿ってなのか、その熊が人里に下りて来てしまう事が分かったのだ。
「村の人達は、熊が山から下りて来るとは知りませんから、その辺りも気をつけて下さい。急いで村に向かって頂かないと、熊が皆さんよりも先に現れてしまうでしょう。向こうでの準備時間をより多く稼ぐには、走って頂く方が良いです」
 言ってから、リゼルはふと思い出したように付け足した。
「そうそう! その村にはね、よく兎が現れるそうよ。兎の足のお守りも、陶器などで作っていたりするらしいわ」
 若干1名。再度、瞳をきらめかせたのは言うまでもない。

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参加者
燃える瞳の王子・メルメル(a00055)
静流の癒しの雫・リッカ(a00174)
暁の派遣執行官・シューファ(a00377)
石の拳・ロラン(a00630)
ストライダーの忍び・キザイア(a01866)
ニュー・ダグラス(a02103)
ペンで戦う女流作家・アニタ(a02614)
女神に捧ぐ賛歌・コーラル(a02695)
NPC:護りの天使・メイリィ(a90026)



<リプレイ>

「とにかく、まずは急いで行かないとね。……ふふ、熊が相手なんだね。腕が鳴るわ」
 キラリと輝く爆裂中華的道士・シューファ(a00377)の瞳は、まるで武道家のもの。医術士の肩書きは、何処かに置いて来たらしい。
 ダッシュする彼女を、「むむっ」と唸って本物の武道家、石の拳・ロラン(a00630)が追う。本能で『熊殺し』を狙うライバルだと察知したのだ。
「武道家にとって、熊と戦いこれに勝つ事はとても名誉ある事なんだ。この機会を逃すワケには行かないね!」
「おや。皆さん、お急ぎですね?」
 肉切り包丁やら深鍋やら、熊料理用に道具を抱えて、他人事のように言うストライダーの忍び・キザイア(a01866)に、ニュー・ダグラス(a02103)の視線が……。
「やっぱ、熊は食ってこそだよな……」
 と、妙なところで納得する。
「急がなければいけませんよ、キザイアさん。では、私はお先に」
 フワリと舞うような仕草で駆けた、戦に舞う白い妖精・アニタ(a02614)は、この中の誰よりも速い。
「おお! 速ぇっ 俺も行くぜっ」
 ダグラスが熊鍋の為に走っているのは、この際、大目に見よう。ちなみに、こっそりアニタも熊鍋仲間だったりする。――『普通と違う熊』が、同じように美味しいかは誰も知らない。
「ふ……っ 今回は可愛らしい娘さん達が沢山でやる気がわくね」
 先に行く彼らを見送っていた女神に歌捧げし者・コーラル(a02695)は、そう言って微笑むと護りの天使・メイリィ(a90026)に目を向ける。
(「ライバルっ?!」)
 ビクリとそれに反応したのは、燃える瞳の・メルメル(a00055)だった。メイリィを撫でなでするコーラルの手をじぃっと見ている瞳は、ホントに燃え出しそうだ。
「よろしくですの」
 言って、メイリィがにこっとコーラルに微笑み返す。
(「……っ!!!! まさかーっ そんなーっ!!」)
 勝手に打ちひしがれるメルメルを、端で見ていた静流の医術士・リッカ(a00174)は「プッ」とふき出した。
(「面白いから、しばらく観察してようっと」)
「い……急ごうね、メイリィちゃんっ!」
 メルメルは、動揺しながらもメイリィの手を取る。
 小さな彼女が転ばぬように、今日は気を配りつつ頑張るメルメルだったが、コーラルが気になって自分がバタリとコケる破目になった。
「……大丈夫ですの?」
「だ、大丈、夫……」
 陰で「プッ」とふき出すのが聞こえたのは……きっと空耳ではないだろう。


 シューファやロランも追い越して、村に1番に着いたのはアニタ。辺りを見回し、まずは村人達に声をかける。
「ちょっとは休まない?」
 続いて到着したシューファは、ふぅ……と息をついて、
「そうも行かないかな?」
 と苦笑した。出来れば、熊が来る前に鳴子でも仕掛けておきたかったのだ。
「休んでいる暇はないね。早く警告しなくちゃ」
 張り合うように、ロランは少し大袈裟な身振りで駆けて行く。走るのなら彼は得意だ。まだまだ駆け回っても大丈夫。
「ボクらは冒険者だ。例の熊が山を下りてくるんだ! 皆、家に戻って外に出ないようにね!」
「まずは村長に言わなきゃ駄目じゃん。基本だろ、基本。しょうがねぇなあ」
 ロランの様子を見やって、ダグラスはポリポリと頭をかく。行き逢った村人に村長宅を訪ね、すぐに向かった。まるで、年下の面倒事を引き受ける兄貴のようだ。
「……大丈夫なのかい?」
 彼らの声を聞き、アニタと話していた老婆が不安そうに言う。
「大丈夫です。その為に私達が来たのですから」
 そう言って、彼女は笑んで見せる。こうして人を救える事こそが喜び。だから、依頼に臨む時こそ彼女の微笑みは映えた。
「そうかい? よろしく頼むねぇ」
 頷いて、アニタは老婆の皺深い手を取り、家まで送ってやった。

 他に合わせていたキザイアは、彼にしてはのんびり速度で着いていた。
「避難は任せて、熊の方を偵察に行きましょうか」
 どの辺りとか、どうやってとか、何も考えてないのは……熊の燻製やら鍋に心奪われているせいだろう。山へ直行しようとして、さて、どこを探そうかと困った。追跡は得意だが、何のアテも無しでは日が暮れてしまう。
 ――と、思ったところにメルメルの声がした。
「熊を見た場所を聞きにいかなくちゃ。メイリィちゃん、動物に詳しいよね? 場所が分かったら一緒に行ってくれる?」
「はい、ですの」
「ボクも動物はよく知ってるけどね……」
 あらぬ方を向いてボソリと言うリッカ。
「いいよ。ボクは避難を手伝って来るから」
 慌てて弁解を始めたメルメルに、義兄弟の力関係がとてもよく見える。
「熊を見た場所なら、さっき、ロランが男の人に聞いてたわよ」
 現地調達で何とかなった、鳴子仕掛け用の材料を抱え、シューファが報せる。彼女の指差す方に、そのロランが村人と話しているのが見えた。
「あ、ありがとう。ボクも聞いてくるね!」
 メイリィに歌なんか聞かせちゃったりしているコーラルは気になるけれどーっ リッカからの逃げの一手で半泣きダーッシュ!
「ある〜ひ、もりのなっか♪ くまさんに♪ であぁった♪ ……とは行かないだろうねぇ。とりあえず、兎さんとは後で仲良く……」
 何かに気付いて、コーラルはピタリと止まった。アニタが捕まえた兎を手に現れたのだ。
「……」
「うささん……?」
「まさか、それ……」
「ん? これですか? 囮に使えるかなと思っ……」
 自分に向けられていた青い瞳がみるみる涙で溢れ、だーっと泣き出したので、今度はアニタが言葉に詰まってしまった。
「……ええと、やめましょう……か?」
 こういう反応には、ちょっと弱いアニタだった。


 ダグラスは熊の出る方角の見当を付けながら、熊用に準備してきた食べ物をドサリとぶちまける。そうしてから、自身が潜んでおく場所を探した。良い具合に潅木の茂る辺りで、匂いも、知識で選り分けた草などを擦り付けて誤魔化す。あとはハイドインシャドウを使って完璧だ。ただ、誘き出すタイミングを計れば良かったと思ったのは、後での事だ。
 先に山へと思っていたキザイアは、場所の確認を済ませてから、皆と一緒に偵察する事になった。
「今の季節、冬眠に入る前に栄養をためようと、熊も必死でしょうから……、気が立っているかも。気をつけないといけませんね」
 言いながら、足跡を探していたキザイアは、ふと気配を感じた。
「「「あ……っ!」」」
 顔を上げていたロランやメルメル達の上げた声の意味は、わざわざ問うまでもなかった。探すまでもなく、熊が山を下りてきたのだ。皆が思ったよりも早い。
「来たね! 任せたわよ、詩人!」
 グオッと2足で立ち上がった熊を指差し、怒鳴るシューファ。さっそく、バリバリで前衛に立つ為、自分の防御は護りの天使をかけて。
「……ちゃんとコーラルと呼んでくれないか?」
 ブツブツと文句を言いながら、コーラルはアビリティを使う。ロランが先に立ち、継いでメルメル、そしてキザイアがフォローして広い場所へと熊を誘導する間に、獣達の歌が響いた。
 しかし、キザイアの予想通り、冬篭り前で気が立っているのか、熊がその歌に耳を傾ける事はなかった。代わりに、
『オオオオオッ!』
 と咆哮を上げ、やる気満々のロランと、メルメル、アニタの3人がビキリと固まってしまった。熊の爪が彼らに迫る。
「しばいてこい!」
 命じて、自分は村人達の護りに行くダグラス。そして土塊の下僕2体は、ハリセンを武器にロランをたこ殴りしていた……。
「麻痺なんてひと捻りよっ!」
 吹き抜けるシューファの毒消しの風が、アニタとメルメルにも効いたのだが、気付かぬ振りで、リッカは勢い良くハリセンツッコミをした。
「酷い〜」
「咆哮がなかったら、普通の熊で済ませられるんだけどねぇ……」
 腰に手を当て、メイリィを護るように仁王立ちで嘆息。
「く〜っ! 固まっちゃうなんて、失態だーっ!」
 色々言いたい事はあるが後回し……にしないと熊が迫ってくる。ロランは熊の懐に飛び込んで剛鬼投げを打ち、巨体はぐるりと宙で回った。
 地に打ち付けられて動きを止めた熊に、シューファが衝撃波を撃ち込み、改めてコーラルが眠りの歌で補佐に回った。
 アニタの双龍剣が閃き、スピードラッシュの連撃で熊を葬ったのだった。
「「ああっ!! 麻痺ってさえいなければ……っ!」」
 若干2名、激しく悔しがったのは言うまでもない。


「これで冬の間のいい保存用肉が手に入りましたね」
 ぶった切るまではともかく。料理は出来ないキザイアは、鍋と燻製のこしらえは人に任せて得意顔。
「むう」
 他人が引導を渡した熊では戦利品にならないと、シューファは頬を膨らませながら鍋を覗き込んでちょっと味見。不満そうな顔のまま、調味料を足した。これでも家事はちょっと得意なのだ。
 可愛い女性陣のため、コーラルが獣達の歌でナンパしてくれた兎達が、彼らの足元にもひょこりひょこりと動いていた。
 リッカはメルメルとメイリィを引き連れて、陶器の『うさぎの足』作りを見学していた。最近、すっかり『保護者』役。
「はい、メイリィちゃん、これ」
 こちらはすっかり貢くん。小さな『うさぎの足』を、メルメルはそっとプレゼントする。
 そのメイリィの手には、アニタが捕まえてきた兎さん。コーラルになだめてもらったのだ。
「可愛いですの。ね?」
 と同意を求められ、つぶらな兎の瞳にうるうるうるうるっと見つめられたアニタが、改めて兎さんの可愛らしさにどぎまぎしてしまったのは……、本人としては秘密な話。
 それから。
 案外、美味しかった熊鍋を堪能し、冒険者達は帰途に着く。
 村には冬の備えが増えて、彼ら自身は『うさぎの足』をお土産に買ったり、そっと誰かにプレゼントしたりした。
 遊んでくれた兎達には、お礼のニンジンを振舞って……。


マスター:北原みなみ 紹介ページ
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