白猫の行方



<オープニング>


「きっと、この子だったら知ってるって、そう思って……」
 ソフィーという名の少女は、そういって膝の上に乗せていた黒猫の頭を撫でた。
 つややかな毛並みの持ち主は、前脚をテーブルに突っ張るように突きだして、やや緊張した面持ちであったが、薄明の霊査士・ベベウが差し向けた人差し指の匂いを嗅ぎ、やがて顎の下をなぞられてごろごろと音を鳴らすようになった。
「ジャンヌちゃんの行き先を突き止めていただきたいのです、彼と……リュックくんの力を借りて」
 そう言って黒猫の頭に手の平を載せたベベウへ、烈日と晦冥の旗手・パオロは怪訝な眼差しを向けていたが、ぽんと手を叩いて納得した様子である。
「こいつなら、ジャンヌって白猫がどこへ行ったか知ってるってわけだな」
「ええ」
 そう首肯いてベベウは言葉を続けた。ソフィーが家族たちと暮らす町では、盗難事件が相次いでいること、そして、黒猫リュックと白猫ジャンヌは、家財道具と一緒に盗まれてしまっていたこと。数日後、リュックだけが帰ってきたこと……。
「その数は、おそらく十に満たないでしょう。そして、彼らは裏の顔とは別に表の顔を持っているものと思われます」
「そうか、こいつは悪党たちのアジトから帰ってきたか。よ〜し、任せてくれ。私たちが悪党どもをひっつかまえてやるからな。おお? ジャンヌを助けたいって言ってるのか?」
 ソフィーにウインクをして、パオロは黒猫リュックの顔をのぞきこんだ。
 物言わぬ緑の瞳が、勇気のなんたるかについて雄弁に語っているようだった。

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参加者
猫の日広報活動中・ヨナタン(a00117)
狼牙の守護神・アールグレイド(a15955)
回帰する魂の風・チーロ(a17595)
木陰にまどろむ人形師・ミラ(a21899)
悠揚灯・スウ(a22471)
黄昏を撃つ雷撃・リリィ(a22501)
永劫の銀海・バルトス(a24498)
流離人・フロウ(a25444)
愛を振りまく翼・ミャア(a25700)
白夜に舞う銀狐・ディルフィー(a27492)
星屑・ジック(a27523)
天穹風花・クローネ(a27721)
NPC:烈日と晦冥の旗手・パオロ(a90141)



<リプレイ>

●緑の瞳
 なんとも愉快な気持ちにさせてくれることもあれば、猫という存在は不思議なもので、酷く惨めな気分にもさせてくれるものだ。
 大きな身体はしゃがみこんでも、腕が膝に巻き付けられても、まだ大きかった。風に導かれし琥珀の魂・チーロ(a17595)は指先に、勇気らんらんの瞳を輝かせる黒猫の、濡れた鼻を感じていた。
「リュック、チーロたちは味方だ。皆でジャンヌを助けに行く。リュックに手伝って欲しい……なぁん」
 冒険者たちは、少女ソフィーの家を訪ねていた。盗賊たちに家財道具を盗まれた部屋は閑散として寂しかったが、広くなった床に寝そべる黒猫のリュックは、そのさらさらとした毛並みの腹を「なでれ」とでもいわんばかりに広げてみせている。
「猫助けはライフワークと思っているヨナタンです」
 くるりと波打つ髪をした青年は、そう言ったソフィーに丁寧なお辞儀をした。
 少女は猫派・ヨナタン(a00117)に、しばしの間、敬意のこもる眼差しをおくっていたが、しばらくするとリュックの転がる床にお尻を落ち着けて、ため息をついた。
 そんな彼女の姿を見ていると、柔らかに揺らめく白き灯り・スウ(a22471)は悲しくなってしまった。不意に見上げた少女と視線を交わすと、スウは微笑みかけてみたが、ソフィーは弱々しい笑みを浮べただけだった。
(「ソフィーさん、とても寂しがっています……。ジャンヌちゃんを連れ去った盗賊さんには、ちゃんと、反省していただきますのですー」)
 はりきった様子で部屋から出てきたスウに道を空けると、硝子の氷・クローネ(a27721)は代わりに今へと入り、ソフィーの前に立った。依頼者の指にじゃれつくリュックの姿は、あの子に似ていたが、不思議と悲しくはなかった。彼女は言う。
「ジャンヌちゃん、ぜったいに助けてあげるからね」
 白キ夜ニ舞ウ銀狐・ディルフィー(a27492)の表情は、凍りついた湖面のようで、ただ端正な顔が美しいだけのものだった。見るものに、あの娘は冷たい人間なのではないかと誤解を抱かせることも少なくはない。だが、彼女はなんとか口元を綻ばせてソフィーに言った。
「必ず助ける……だから安心して」
「うん、助けてね」
 ぎろりとした瞳をいたずらっぽく光らせると、偽りの箒星・ジック(a27523)は芝居がかった言葉を紡いで、少女にかしずいてみせた。
「……御意」
 建物から外の通りへとやって来たソフィーたちを出迎えると、流離人・フロウ(a25444)は額の汗を拭った。リュックを出迎えるために、町の路地をすでに何週も駆けずり回ってきたことは秘密である――公然の、ではあるが……。
「さてと……どんな依頼でも油断は禁物ってな。気ぃ引き締めて行きますか」
 かくして、12人と1匹はソフィーに見送られ、意気揚々と冒険にでかけたのだった。
 
●町中の冒険
 明るい陽射しに透されて、緑の葉は美しく煌めいていた。吹き抜ける風に撫でられてささやく、頭上の葉擦れも、なんともいえぬ心地よさだ。
 灰の瞳にかかる漆黒の髪へ指先で触れながら、狼牙の守護神・アールグレイド(a15955)は盗賊たちについての疑問を口にした。
「表の顔が気になるが盗品を売りさばいているのだろうか?」
 軒を連ねる商店の数々には、食べ物や花の他にも、骨董や家具などが並べられている。
「窃盗団は普段は別の顔を持ってる可能性があると霊査士が言ってたな。俺の感だが、裏の仕事とはまったく別の様な気がする」
 そう言うと永劫の銀海・バルトス(a24498)は、そよ風にのって近づいてきた旨いものの匂いに敏感な反応を示した。鼻をひくつかせているのは、彼だけではない。愛を振りまく翼・ミャア(a25700)の腕に抱かれたリュックも、前足で支えた上体を乗り出すようにして、匂いの元を捜していた。
「それにしても、いい町じゃないか。なんか懐かしい香りがするな……。こういう場所にゃあ、旨い酒を飲ませてくれる隠れた名店があるんだよ……な?」
 同意を求めてみたが、リュックはバルトスに「ニャ」と短く鳴いただけで、とっておきのお店については何も教えてくれなかった。
 町を歩きながら、チーロとスウは順番にリュックに唄いかけて、盗賊の人数やアジトの位置といった情報を聞きだしていった。
 ミャアの胸で腕組みを……してはいないがそう見えないこともないリュックへ、スウは歌にのせて尋ねた。リュックはミャアの指先がお気に召したのか、喉を鳴らしながら長考していたが、こう答えてくれた。
「あいやしばらくまたれよ、いや、その、そうでござるな。それがしがおもうに、おなじような建物がならぶ場所でござった」
 出身地が気になったが、チーロはジャンヌのための質問を先にしようと思った。
「道はここでいいのか……なぁ〜ん」
「相違ござらぬ。この先の塀を乗り越え、そのうえを東へとゆきもうす。さらには広場よこぎれば、そこはもう建物の裏手にござるよ」
 自信に満ちた眼差しと、丸められた右前足で前方を指差したリュックへ、ミャアは指先を伸ばしつつ言った。
「それだけわかれば十分だよぉ♪」
 
●猫の道
 自分はさっさと塀に飛び乗り、高々と突き上げた鼻先と尻尾を上下させて、リュックは狭い猫の道を悠然と歩みはじめた。
「窃盗団のアジトがこの先に?」
 よじのぼりながらヨナタンが歌で訪ねると、振り返りもせずにリュックは「左様」と答えた。
 横幅の狭い塀によつんばいとなりながら、クローネは慎重に手足を前へ前へと進めていった。手元から顔をあげて、彼女は先頭を進んでいるリュックの姿を捜した。だが、伸びる白い石の塀に、揺らめく黒い尾は見えなくなっていた。
 猫の道で猫ではないものに鉢合わせ、逃げ出そうとした灰色の猫を、アールグレイドは素早く呼び止め、報償の品である煮干しをちらつかせながら質問した。
「黒猫のリュックを見なかったか?」
 真っ白な猫のきぐるみに、少し汚れが目立つようになってしまったが、猫の道を進むミャアの顔は晴れ晴れだ。――なんて猫らしいのだろう!
 薄暗い塀の上を進んでいた冒険者たちは、角のところで前足を揃えて背筋を伸ばす、リュックの姿を認めた。彼の黒い毛皮には、暖かな陽射しが当たっている。リュックは振り返ると、塀から軽やかに飛び降りた。
「出来れば人の通れる道を頼むぜ、リュック殿……これは」
 突然の光景に、アールグレイドは目を疑った。周囲はすべて塀に囲まれ、ここへと続く道はすべて閉じられている。家々の屋根が連なるさなかに、このような場所があるなどと、誰が思うだろう。
 枯れた噴水のある丸い広場に降り立って、クローネは辺りを見渡してみた。素直に驚くもの、表情を崩さないもの、黒い尾っぽを誇らしげに揺らめかせるもの……。
 ニャンとリュックが鳴いたので、ヨナタンは歌を口ずさんだ。足元の黒猫は、彼にこう言っていた。
「ここは夜半に訪れるのが乙なのでござるよ」
 再び塀の上に戻った冒険者たちは、リュックに続いて屋根に上がった。その眺めはなんとも愉快なものだったが、町ゆく人たちにとっても、一匹の黒猫を先頭に続く行列は愉快なものだったようである。子供は指差して声援を、老人は拍手をしてくれた。
「ここでござる」
 澄ました顔で、リュックはひとつの窓を傾けた顎で示した。
「このお店は……」 
 黄昏を撃つ雷撃・リリィ(a22501)は薄く開かれた窓から中の様子をうかがった。埃っぽい室内には、いくつもの衣装戸棚が並べられていた。表通りから裏路地へ、さらには猫の道を通って――冒険者たちは今、家具の店の屋根に立っていた。
 
●アジト
「臭う、臭うぞ……まるまる肥えたドブ鼠の臭いだ」
 並べられた家具の数々は、まだ新しいものだった。ジックは鼻を働かせて、床の軋みをあげぬようにゆっくりと足を運ぶ。暗闇に気配を沈めるようにして隠し、お手の物とする偵察を行っていた。
 店の裏側、路地に面した部屋に入った彼は、テーブルの上に乱雑にばらまかれた装飾品を見つけ、ニヤリと唇の端を歪めた。家具を扱う商人にしては、どうにも怪しいではないか。
「こっちまで捕まったら元も子もねぇ……か」
 開かれた扉の向こうで、男たちが談笑している。その前を、影に身をひそめたジックは、ゆっくりと通過した。そして、衣装戸棚が並べられた二階の一室へと戻り、窓から外の屋根へとでたのだった。
 
●夜半の襲撃
 月影を仰ぐ人影がひとつ、薄暗い路地に佇んでいた。歩みはじめた彼は、固い靴底で石畳を打ち鳴らし、冷たい音を響かせていた。
 開かれた扉から男の顔がのぞいた。木陰にまどろむ人形師・ミラ(a21899)は欲深い人間に対し、いささか食傷気味だった。人付き合いが得意でない彼にとっては、特にお近づきにはなりたくない相手である。けれど、捨て置くわけにもいかない。
 緑が舞い散って、男の周囲を取り巻いた。束縛された男の傍らを、次々と烈日と晦冥の旗手・パオロたちが駆け抜けていった。
「一気に眠らせてしまいましょう!」
 室内に飛び込むなり、ヨナタンはこう言って、あんぐりと口を開いた。同じ効果とは不思議だが、ヨナタンの子守歌に続いて、リリィも静かな旋律を響かせている。
「縫いの矢、なんざ使ったことねぇからな……。うまく当たってくれよっと!」
 手の平に作り出した灰色の矢を、フロウは盗賊の足元に投げつけた。ランプの灯に浮かんでいた男の影、矢はその頭部に突き刺さっていた。
 どさりと音がする。アールグレイドは手の平から埃を払っていた。足元に転がる男へ冷ややかな視線を送りながら、彼は言った。
「しばらくの間そこで寝てて貰うぜ」
 大きな弓を構えて、クローネは薄闇色の矢羽根を耳元にまで引き寄せていた。震える左手で弓を支えて、片方の瞳で走る男の、路地に延びた影を狙う。
「お願い、当たれー!」
 月明かりに照らされた男の顔は、動きたくても動けない状況への驚きで満たされ、クローネはといえばほっと安堵の色を浮べている。
「えっとぉ。賊の皆さぁん。大人しく投降していただければ痛くしないですよぉ♪」
 もこもことしたきぐるみを着込んでいても、ミャアの小さな身体はやっぱり小さく見える。そんな少女からの催促に、開き直った男たちはただただにやついていた。けれど、笑顔のまま天井へと向いた肉球のある手の平から光が伸びて、それが槍となった途端に男たちの顔から笑顔は消え去った。
 ディルフィーは店の正面に立っていた。表から逃げ出そうとする輩もいるだろうと思っていた。勢いよく開かれた扉から、案の定、男たちが飛び出してきた。だが、彼らはディルフィーの足元にすがって、助けを求めてきた。
「あの白い猫が怖い! なんとかしてくれ!」
 素直にお縄をちょうだいする盗賊たちへ、ディルフィーが小首を傾げていると、店先に二足歩行する白い猫が現れた。にゃりーんと? 瞳を輝かせてミャアは言った。
「そうそう、投降していただければ痛くしないですよぉ〜♪」
  
「盗難事件か……家財を持ってかれたらそりゃ不便だろうな。しかも、猫まで連れてくなんて。一体何を考えてるんだ?」
 怯える盗賊たちにロープを巻き付けながら、バルトスが疑問を口にする。
「元の持ち主に返すように手配しないとな」
 首領らしき男の頭をこづきながらアールグレイドは言った。バルトスも首肯いている。
「……猫まで一緒に盗んでしまったのが運のつき、と思っていただきましょうか」リリィは柔らかな笑みで言葉を紡いだ。「何がイケナイことなのか身を持って知っていただきましょうか……色々と、ね……」
 
 リュックを胸に抱いて、スウはアジトを探索していた。まだジャンヌの姿は見つかっていない。
「怖くて何処かに隠れているかな?」
 猫の好きな食べ物を手に、ヨナタンは重ねられたテーブルの下をのぞいてみたが、白い尾っぽは見つからなかった。
 歌による問いかけでリュックの記憶を呼び起こそうと、チーロは喉を震わせている。スウは唄うチーロに人の言葉で伝えた。
「石畳の路地が入り組んだところですからどこか別の所に隠れているかもです」
 その時だった。リュックの耳が起き上がり、スウの胸から黒猫ははじかれたように飛び降りて、まっすぐにひとつの衣装戸棚へと駆け寄ったのだ。
「こいつか?」
 ジックは両開きの扉を開いて、中をのぞきこんだ。彼の足の間をリュックが走り抜けて、戸棚に飛び込む。すると、弱々しい鳴き声が聞こえてきたではないか。
 ジックは腕を伸ばして、小さな身体を抱き上げた。
「ずっと知らない場所で独りきりだったんだな……」
 白い猫は自らを抱く腕に不安げに爪を立て、優美な背を丸めて小さくなっていた。
 
●月と泉
「懐かしい雰囲気がする……」
 クローネは鼻の頭を冷たくする空気を胸いっぱいに吸い込み、それから、目の前で繰り広げられる不思議な光景を飽きもせずに見つめ続けた。彼女のかたわらには、リュックと同じ色をしていたが、ずっと小さな子猫の姿がある。 
 丸く組まれた石の泉、その中央には小さな塔を模した噴水がある。水は湛えられていなかったが、そこには、色鮮やかな猫たちの共演という驚異があった。顔を洗い、友達の尾を追いかけ、何やら哲学的な談笑を交わす、そんな彼らの姿があったのである。
 ジャンヌとリュックを肩にのせて、チーロは枯れた噴水の淵に腰かけていた。
「素敵な場所ですね〜」
 うっとりとした口調のヨナタンに続いて、猫にまみれたスウは嬉しそうに言った。
「猫さんをなでなでできてうれしいです♪」
 手を塀へと伸ばして――やっぱり入り口はそこしかなかったのだ――バルトスは広場から離れようとしていた。その足元に触れた柔らかな何かに、バルトスは問うた。
「お前もいくのか?」
 猫を抱えると、バルトスは旨い酒を求めて去っていった。
「……ありがとう。成功したのは黒猫さんのおかげです」
 ディルフィーはリュックの手をとって、そう言った。かすれる声で、あまり得意ではない笑顔を浮べて。猫は緑の瞳を輝かせて、ニャアニャと鳴いた。「その方こそ」とでも言っていたのだろうか。
 黒猫はチーロの頭によじ登り、そこで胸を張った。アールグレイドが歌を唄い、武勇伝をジャンヌに伝えてくれたからだ。
「美人な猫……って、こんなこと言ったらリュックに怒られちまうかなぁ」
 そう言って、ジックは笑っている。白猫を顔を洗っていて、なんだか気恥ずかしそうにも見えた。
 そこへ、白い大きな猫が広場へとやって来た。塀の上のミャアの隣には、驚きの声をあげる少女がいる。チーロの頭と肩から猫たちが飛び上がった。
 ソフィーに飛びかかる二匹を、ミャアは満足げに見つめ、猫のかぶりものを脱いだ。汗でまとまった紫の髪に風を通して、彼女は言う。
「ご主人のところに帰れてよかったねぇ♪」
 空は月の光に、足元は幸せそうな猫たちに、ぼんやりと埋め尽くされていた。


マスター:水原曜 紹介ページ
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わからない
参加者:12人
作成日:2005/06/22
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