【男達の哀歌】魔の手紙



<オープニング>


 暗がりの中、丸いテーブルの上に1本の蝋燭だけが灯っている。
 そしてそのテーブルを囲む5人の黒覆面達。
「……同志達よ……よくぞ集まってくれた……」
 両肘をテーブルに付き、顔の前で手を組んだ覆面が口を開いた。
「我々は長い間虐げられて来た……酷い……酷い迫害を受けて来た……」
 覆面Aが涙に言葉を詰まらせる。
「そうだ! 我々は迫害され続けてきた!」
「今までの恨み……晴らさずにいられるものか!」
 覆面Bと覆面Cが拳を突き上げ憤怒する。
「そうだ諸君! 我々は奴等に復讐せねばならん!! その為に我々は集ったのだ!!!」
 ダン! とテーブルを叩き立ち上がる覆面A
「「「「おう!!!」」」」
 他の覆面達も覆面Aに習ってテーブルを叩き立ち上がる!

 ――ガンガンガンガンガン!!!
「うるせーぞ! オラぁ!!」
 隣の部屋から抗議が。少々はしゃぎ過ぎたようである。
 5人はビクッ! っと身を縮ませると静かに座り直す。

 しばし沈黙が流れた。
「……よし、まずは俺が行こう!」
 すっと立ち上がると、覆面Eが意を決したように言った。
「……行くのか?」
 覆面Aが聞く。
「無論! 同志達よ! 俺の生き様をその眼に焼き付けるが良い!」
 覆面Eは強く言い返す。
「「「「我等! 全てのもてない独身男性の為に!!!」」」」
 覆面達は立ち上がると、旅立つ同志に手向けの言葉を贈った!

 ――この後、隣の人に怒られたのは言うまでも無い。


「ある町で、最近、変な事件が起こっているらしいの」
 リゼルは頬に手をあて困った顔をする。
「どんな?」
 ヒトの吟遊詩人・メルフィナ(a90240)はアイスティを一口飲んでから興味なさそうに聞き返す。
「これよ」
 リゼルは一通の手紙を見せる。
「? なになに……貴方のお付き合いしている男性は浮気をしています?! お〜! 彼氏やるなー♪」
 嬉しそうに手紙の朗読を始めるメルフィナ。
「そう言う手紙が、女性の家に届けられるのよ……霊査の結果、仲の良いカップルを後ろからコソコソとつける男の姿が見えたわ」
「その男がこんな手紙を? カップルを破局させて喜んでいるのかしら?」
「そうなのよ、その手紙の男性は本当に浮気してたみたいだけど、中には完全な言い掛かりも在るしね。こんな馬鹿な事は止めさせてあげて?」
 一通り依頼の内容を言うと、リゼルは恋愛話を肴にメルフィナと一緒にアイスティを啜り始めた。

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参加者
ウェイトレスの大魔術師・ルーシア(a01033)
白き雷光の虎・ライホウ(a01741)
氷輪の影・サンタナ(a03094)
赤烏・ソルティーク(a10158)
天衣無縫なつむじ風・マイラ(a14685)
風雅舞踏・ミツヒサ(a23254)
旅団裏の昏倒者・アウラ(a24803)
静かな大地・ソイル(a27309)
NPC:悠久の誘い・メルフィナ(a90240)



<リプレイ>

●とあるカップル・その1
 賑やかな昼下がりの街中。
 暖かくなって来たせいか、手を組んだり、談笑したりしながら歩くカップル達の姿が目立つ。
 そんな中に在って、必要以上に目を引くカップルが1組。
「ねぇ、アレは少し無理があったんじゃない?」
 唖然とした様子で、ウェイトレスの大魔術師・ルーシア(a01033)は言う。
「……ねぇってば」
 頬を膨らせて再度聞いて来るルーシアに、白き雷光の虎・ライホウ(a01741)は仕方無いと言う感じで応える。
「……まぁ、本人の希望だしな」
「見た目は悪く無いと思うけど、脛毛が気になるわよね♪」
 ヒトの吟遊詩人・メルフィナ(a90240)は言う。
「カップルを装って犯人をおびき出すと言う作戦は良いと思うのですが……」
 彷徨者・アウラ(a24803)は額から流れ落ちる冷や汗を拭いながら言った。

 ――で、アレとは何か。
 くりくりな作り物の金髪にカチューシャを飾り、足元は真っ赤なハイヒールで御洒落に。
 そして体のラインが良く解る黒いキャミソールをぱっつんぱっつんに着こなす。
 普段地味に生きている反動か……或いは何かに目覚めたのか、静かな大地・ソイル(a27309)の女装姿を指しているのであろう。
「ミッチーあれ見て♪」
 ウキウキな声で言うソイル、そしてミッチー呼ばわりされた相方は、風雅舞踏・ミツヒサ(a23254)である。
「あ……あぁ……」
 ミツヒサは何処か視点の定まらない眼で遠くを見つめ。
 口から魂が抜け出ようとしている気がするが、気のせいと言う事にして置こう。
「どうしたの?」
 そんなミツヒサの様子を、ひょこっと横からソイルが覗き込む。
 ……過去のトラウマから、人をなかなか信用しないミツヒサ。
 ……人恋とか愛とか未だによく判っていないミツヒサ。
 ……そんなミツヒサだが、自分の顔を覗き込んだソイル顔がキラキラ輝いて見えて……ついでにソイルの背後に輝く薔薇の世界が見えた気がしたのだ。
「ミッチー?」
 ソイルがミツヒサの名前を呼ぶ、ソイルに名前を呼ばれただけでミツヒサの心臓はバクバクである。
 今にも破裂しそうである!
「……ぅ……うわぁぁぁ!」
 ミツヒサは堪らず明後日の方向に逃げ出した。

「……若さかのぅ」
 氷輪に仇成す・サンタナ(a03094)は走り去るミツヒサの様子に呟いたものだ。

●とあるカップル・その2
「エビドリアと、オレンジジュースと、パンプキンパイと、ボンゴレスパゲティと……えと、それから、ん〜とシナモントーストも頼んで良いなぁ〜んか?」
 料理屋にて、天衣無縫なつむじ風・マイラ(a14685)が目をキラキラと輝かせながら言う。
 そんな様子を笑顔で見つめるのは、緋燕・ソルティーク(a10158)。
 運ばれて来た料理を、さっそくパクつき始めるマイラ。
(「ちみっちゃくは無いけど獣耳少女が元気に食べている風情はそれはそれで……」)
 そんなマイラの様子を見ながらソルティークは思うのだった。
 ちみっちゃい方が良かったのか? という突っ込みは入れちゃ駄目なのだろう、多分。

「今度は何とか行けそうね」
 同じ料理屋で遅めの昼御飯を食べながらルーシアは言った。
「やっかむ気持ちはわからないでもないが、こんな悪質な悪戯は駄目だろう」
 ソイルは今更ながらに犯人への憤りを口にする。ちなみに着替える暇は無かったので女装したままである。そして小指を立てながらお茶を飲んでいる。
 ミツヒサは、時々ソイルの方を盗み見ているが、視線が合うと顔を赤くしてそっぽを向いたりしている。
 そんなミツヒサを生暖かい眼で見つめながら、アウラは言う。
「怪しい人なら、既にいますね。私達……です」
 ……確かに怪しい、特にキャミソールを着た長身の男と、それを熱い視線で見つめる若者が。
「でも、ヒトノソで大丈夫なの?」
 シャクシャクと果物を食べながらメルフィナが何気なく突っ込む。
「「「「……あっ!」」」」
 ヒトノソリン=冒険者である。

「これだけ奢ってくれる優しい人を、ぽいっなんてできないなぁ〜んよ!」
 取り合えず出て来た食べ物を完食したマイラは、み〜っと泣きながらソルティークの腕にしがみ付き、更に上目遣いでお願いする。
「……チョコレートとホットケーキも追加していいなぁ〜んか?」
「どうぞどうぞ」
 ソルティークは終始しまりの無い顔だった。

「あれはカップルと言うより、女の子を食べ物で釣っている怪しい兄さんだよね」
 ルーシアは言った、実に的確な突っ込みである。
「……奴じゃないか?」
 ライホウは店の外からソルティーク達を見つめる黒覆面の男を指しながら言う。
「奴ですね……」
 アウラも同意した。

●追跡せよ
「良い天気じゃのぅ」
 サンタナは街の地理を頭に入れるために粘着性の糸を使い、屋根に上っていた。
 しかし、白昼堂々と屋根に登るのは流石に拙かったらしく、下には野次馬が集まっている。
 そして遠眼鏡を持っていたのがいけなかったのか、
「あれ、何ザマス? 手に遠眼鏡を持っているザマス」
「いやザマスね、最近の若い子は……こんな昼間っから覗き見なんて……!」
「そうザマスね、奥様。まったく親の顔が見たいザマス」
「ボクチャマ、あんな大人にだけは成ってはいけないザマスよ?」
「うん! ボクあんな変態さんにはならないよ!」
 言われたい放題だった。
「本当に……良い天気じゃのぅ……フフフ……ハハハハ……フーッハッハッハ!!」
 青空に笑うサンタナの眼に熱いものがこみ上げて来た気がした。

 一行はソルティークとそれを追う覆面男を追っていた。
「あれ? サンタナさんは?」
 先程から姿の見えないサンタナが気になったのかアウラが聞く。
「ん〜、一人になりたいって言ってたわよ」
 メルフィナが簡単に応えた。
「宿の場所は教えてあるから大丈夫だろう」
 ライホウが追加するとアウラは納得したのか、それ以上は聞かなかった。
 何か悲しいものを感じ取ったのかも知れない。

 そしてマイラが囮の為に借りていた宿に戻り、その前で見張る冒険者達。
「……怪しいよね」
 ルーシアは言う。
「まぁ、あれで間違い無いだろう」
 ライホウはキョロキョロと辺りを見回す覆面男を見ながら応える。
 ルーシアは後ろ……キャミソールを着た男とそれをチラチラと盗み見ている少年を見て言ったのだが、ライホウは見なかった事にした。
「あ、手紙を入れましたよ!」
「良し! 現行犯で取り押さえろ!」
 バタバタと駆けつけた冒険者達によって覆面男は取り押さえられた。

●愛?
「ちょっと抗議されるとおとなしくなるのに女性はつけ回すなんて許せないよ! 天誅!」
「うわっち、熱!」
 ルーシアの特大お灸を据えられて悶える簀巻きにされた覆面男。
 ライホウがそんな覆面男に言う。
「まっ、もてたいと思う気持ちは判るぜ。でもよ、それだから駄目なんじゃないか? 別にもてなくてもいい。そもそも男とは女や子供を守るのが役目だ。だから男として威厳をもって生きていけば、女の方から近寄ってくるだろ」
 一息に言い切ると、覆面男の肩に手を置き、
「お前はそれだけの事が出来る男だと俺は見た。だから頑張れよ」
 良い笑顔で言った、覆面男はライホウを見上げると……
「…………あん」
 恍惚とした表情で吐息を漏らした。ルーシアのお灸が快感になって来たらしい。

 ――暫くお待ちください――

「……ごべんざばい」
 何があったのか全身痣だらけで謝る覆面。
「男としてもっとちゃんとしなきゃ駄目だろう?」
 ソイルは真面目な顔で言う、ソイルもあまりもてないと自負しているため、少し同情の視線が含まれている。
 勿論キャミソールのまま。
「……ぷっ」
 覆面男はたまらず噴出した。

 ――暫く音楽をお楽しみ下さい。るるるらる〜♪――

「まったく……カップルに嘘を教えたところでそれをネタに更に親密になるだけなんですよ?」
 口から泡を吹いて痙攣し始めた覆面男に、ソルティークは呆れた調子で言う。
「なぁ〜ん!!! ソルティークさん、これに書いてある事本当かなぁ〜んか? マイラ以外の女の子にも奢ってるって、本当なぁ〜んか!?」
 覆面男が入れた手紙を持ってマイラが突然泣き出す。『奢っている』の部分がやたら強調されているの気のせいだろう。
 ちなみに読んで聞かせたのがメルフィナなのは内緒だ。
「ははは、そんな訳ある筈ありませんよ」
 ソルティークは一瞬、バニーな眼鏡っ子や、黒怪獣耳の女の子を思い出したが、何事も無かったように笑顔で言う。
「……本当なぁ〜んか? それじゃ、ミルフィーユケーキを奢ってくれるなぁ〜ん?」
 ソルティークの腕にギュッっとしがみ付いて言うマイラ。
「勿論です、行きましょう、今すぐ行きましょう!」
 ソルティークは鼻血を流さんばかりの勢いでマイラを抱き上げると、そのまま走り去っていった。
「……つまり中途半端な事をすると、ああなると言う事です」
 キノコ料理のお弁当を覆面男に手渡しながら解説するアウラ。
「なるほどな……」
 さっそくキノコ料理を頬張りながら頷く覆面男。
「遅くなったかのぅ?」
 そこへ現れるサンタナ。何とか立ち直ったようだ。
「……」
 サンタナをジーっと見つめる覆面男。何処となく眼が虚ろだ。
「……ん?」
 何か背筋に嫌な物を感じたサンタナ。
「……好きだぁ!」
 グァバ! っとサンタナに抱き付く覆面男。
「な、何をするのじゃ!?」
 困惑するサンタナ。
「……それじゃ帰ろうか」
 ルーシアの言葉に冒険者達はぞろぞろと宿を後にする。
「お、おぬし達、何処へ行く気じゃ!」

 ……サンタナと覆面男を微笑ましくそっと見守り、冒険者達は部屋の扉を閉めた。

 ある意味、真実の愛に目覚めた覆面男はもう大丈夫だろう。
 だが、第2、第3の覆面が必ずや現れる。
 冒険者達よ、心して掛かるが良い!

 え? その後サンタナがどうなったか? ………………ふっ。

【おしまい】


マスター:八幡 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2005/06/21
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ウェイトレスの大魔術師・ルーシア(a01033)  2009年09月01日 21時  通報
ただお灸を据えたかっただけなんだよね。