<リプレイ>
●偵察 村人から教えて貰った道は……道とは言いながら、それは獣道と大差ないものであった。ほんの少し左右に折れた跡のある草が続くだけだ。そのあるかないかの道を辿り、なるべく音を立てずに進む。村人によれば敵は猿に似たクドンだという。用心して進まなければ、すぐに気がつかれてしまうだろう。ゆっくり静かに歩を進め、村人がグドンを目撃したとおぼしき地点に到着した。 「……見えますわ。ほら」 雪月華の斎女・オウカ(a05357)が密やかな声で言う。白く輝きを放つ服は鮮やかに美しくオウカに似合っている。しかし、索敵行動にはかなり不向きだと言えるだろう。あまり前に出ては敵に気づかれそうで、木の葉の更に奥からしか覗き見ることが出来ない。 「残されている百合の様子も見えますかしら?」 そっと背伸びをして、蒼灰の銀花・ニクス(a17966)は葉陰から顔を覗かせた。やはり白い翼が気になってか、そう大胆には覗くことが出来ない。けれど、どうやらグドン達は花園のほぼ中央を切り開き、平地になったその場所に居を構えている様だった。なので、中心から遠ざかる程白い花は残っている。 「お花の状態を見た限りではどちらの方向に誘導することも出来そうですね」 追想天使・ライラック(a18759)は小首を傾げながら、今見ている光景を分析し始める。 「戦うなら拓けている場所がいいだろう。それを考えると花園の西へ誘導するか……」 先ほど歩いてきた途中に手頃な草っぱらがあったことを暗闇の太陽・バド(a26283)は思い出した。戦場にするには手頃な広さだった。 「……それにしても、グドン達はなんであそこでに棲み着いたのかな? もしかして百合の根を食べるために?」 静流の癒しの雫・リッカ(a00174)がもっとよくグドン達を見ようとして身を乗り出す。その時、バドの防具とほんの少し触れあった。金属のこすれる鈍い音が響く。比較的近くにいたグドンがこちらに顔を向けた。音に反応したのか、それとも木の葉越しに見える白い色に反応したのか……それはわからない。けれど、グドンは強い警戒の声を発した。 「見つかったかも?」 「見つかりましたわ」 「どうする?」 「どう致しましょうか?」 「もうやるしかありません!」 隠密行動をかなぐり捨てて、5人は立ち上がり走り出した。1人、リッカだけが別方向へと走る。 「手筈通りに!」 いきなり、作戦は開始された。
●陽動 リッカは苦労して草むらの中を横切り、花園の外周を西へと走っていた。最初に警戒の声を発したグドンは遠ざかった4人よりも姿を見せたまま走るリッカを追ってきている。 「なんだよ、いきなりおっ始めたみたいだな」 いつの間にか雄風乱舞・ユダ(a27741)が併走していた。どうやら走るのはあまり苦に ならないらしく、その姿も慣れた者の持つ美しさがある。 「僕、あわてちゃいました」 上弦の月・クオン(a10247)も少し遅れながらもリッカの速度についてきている。 「予定より早めだけど、もうこうなったら始めちゃうね。よろしく」 リッカは木の枝や草をかき分けては場所を確かめ、速度も微妙に調整しながら走る。 「そろそろだ」 やはり現在地を確認しつつユダが止まる。誘導したい西にある草っぱらと花園を一直線で結ぶ地点だ。 「いきましょう」 クオンが丈の高い草を無造作にかき分けて花園へと出た。 一斉に目が向けられた。グドン達の小さくて遠慮のない視線が3人に向けられる。追ってきたグドンの強い叫びがまたあがった。すると、その場にいたグドン達が一斉にこちらへと向かってくる。 「き、来ました」 素早くクオンが今出てきた草の中へと身を隠す。 「俺より素早いとは……見直したな」 「いいから早く!」 クオンの身ごなしに感心するユダの腕を引っ張り、リッカはクオンの後を追って草の中に身を躍らせた。スポットライトを使う暇もない。すっかり警戒心と敵対心を煽られたグドン達は攻撃態勢のまま3人を追った。
●反撃 もう随分前から見習い守護者・テフテフ(a28538) は『ハイドインシャドウ』を使っていた。その為か誰もテフテフに注意を向けてこない。 「ひきつけ班が来た」 草っぱらの端で様子を見ていたドリアッドの吟遊詩人・アロン(a90180)が声をかけたのも、テフテフのいる方ではない別の方角であった。しかし、ここまで誘導してきたグドンが花園へと戻るのを防ぐためには、その退路を断たなくてはならない。テフテフが今いいるのはその為の好位置であった。 テフテフの目の前をリッカ、バド、そしてクオンが駆け抜ける。間髪入れずにその後をグドンの群れが追ってきていた。敵味方とも草っぱらに入る。 「覚悟はいいなぁ〜ん」 テフテフは立ち上がり『大地斬』を使った。敵を追ってきた筈のグドンはその背後から攻撃を受け、一瞬で混乱する。テフテフの攻撃を避けるために列を崩した。それこそが狙いだった。敵を一カ所に集めて味方の範囲攻撃の射程に1体でも多くのグドンを追い込む。 「申し訳ありませんが、容赦なくゆきます」 オウカは『眠りの歌』をグドンに使った。あっさりとグドン達が眠りに落ちる。 「では……参ります」 眠りを逃れた者にはライラックが『暗黒縛鎖』で絡め取る。範囲から漏れたグドンにはニクスが同じ技を使って行動不能にする。その間にリッカ、クオンがニードルスピアが次々にグドンを倒す。まさに容赦ない攻撃だった。逃げる者とていなかったが、もし逃れようとしてもそこにはテフテフの他にバドも待ちかまえていた。『紅蓮の咆哮』で麻痺させるつもりだ。 「追ってきた奴らはみんな倒したみたいだな」 バドは息をゆっくりと吐き出しそう言った。 「そうだね」 クオンは倒れたグドン達を見ながら言った。なんとなく空気が重い。皆の心の中にこの倒れたグドン達への憐憫が全くないと言ったら嘘になるだろう。彼我の戦力が違いすぎる場合、こういう気持ちになることはよくあることだった。 「所詮はグドンだ。奴らには俺達の気持ちなんざわからない」 重い雰囲気を払拭するように強い調子でユダが言った。 「でも……先ほどの花園にいたグドン全てではないですわね。数が少なすぎますわ」 ニクスは倒れたグドンを数えていた。 「もう一回行ってくるよ! すぐだから待ってて」 リッカがきびすを返した。そしてすぐにその姿は森の奥へと消えてゆく。引き付け班の2人もすぐに後を追った。 「も、もう一回隠れるなぁ〜ん」 テフテフは左右を確認し、先ほどとほぼ同じ場所にうずくまり『ハイドインシャドウ』をもう一度使った。
●戦いの終わり 陽動作戦は3回行った。花園を占拠していたグドンは1体も残っていない。ほとんどは花園から引き離されて倒された。もしかしたら数体は危険を察知して逃れたかもしれないが、さして多い数ではないだろう。グドン達は戦場となった草っぱらに埋葬された。村まで戻って報告をし、花園の様子を伝えた。これまでは人の手を入れずにいた花園であるが、今回ばかりは元通りになるよう村人が手助けをする様だ。この『依頼』を引き受けたのも何かの縁、その時には是非この秘密の花園のために一肌脱ぎたい……と、思うのだった。そして、そんなささやかな願いも次々と舞い込む『依頼』や作戦の為に滅多に実現されることはない、というのもまた厳しい真実であった。
いつか……そう遠くない未来に百合の花園が元の美しさを取り戻すことを願い、皆はこの村を後にした。

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参加者:8人
作成日:2005/06/28
得票数:冒険活劇8
戦闘2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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