【リベルダの悩み】探し人



<オープニング>


「とーちゃんが心配なんだ」
 ――と、酒場を訪れた赤髪の少年は言った。
「何かあったわけ?」
「何かあったわけじゃねーけど……」
 ストライダーの霊査士・キーゼルの問いかけに、少年……ディールは椅子を引きながら言う。
「いっつも、どこにいてもしょっちゅう手紙を寄越してたのに、最近とーちゃんからの手紙が来ないんだよ。もう一ヶ月くらいサッパリ。……だからもしかして、とーちゃんに何かあったんじゃないかって」
 椅子に座って、そう心配そうに口を尖らせるディールの隣で、一緒について来ていた友達のノエルが、心配そうな顔でディールとキーゼルを見比べた。

「さてと……誰か、ちょっと用事を頼まれてくれる人はいないかい?」
 やがて、キーゼルは冒険者達に呼びかけると、依頼についての話を始めた。
「行って欲しい人の所があるんだよ。相手の名前はランディ。眼鏡をかけた、ひょろっとした優男って感じの人で……ここにいるディールの父親だよ」
 え、という声が聞こえたのは、ディールやその母親のリベルダを知る者が、思わず声を出したからだろう。彼らと年単位で縁のある冒険者でも、話題が父親の事になるのは珍しかったから。
「ランディは、古い物を調べるのが好きな人でね。そういった物を見に、よく出かけているんだよ」
 それは芸術品だったり、古い建物だったり、本だったり。あるいは遺跡だったりして……ランディはそれらを見るために、家を空けている事が多いのだという。
「ところが、ここ一ヶ月くらいランディからの連絡が無いらしい。あんまり連絡を絶やすような人じゃないから、心配している訳だね」
「……ばーちゃんが死んだ後、かーちゃんすっごく頑張ってて……この間、倒れたりまでしたんだ。とーちゃんの事を心配してたら、また倒れたりするかもしれないだろ。それに……ここだけの話だけど、かーちゃん、結構一人で心細がってるみたいでさ。だから、早くとーちゃんに帰って来て欲しいんだ」
 ディールはそう呟くと――無事なのか確かめて、無事だったらそう伝えて欲しいと頼む。
「で、ランディの居場所だけど……どうも、ドリアッド領らしい。遺跡見物に行ったらしいんだけど……ドリアッドの暮らす森の中に入った訳だろ。で、ランディはヒトで……不慣れな道に加えて、樹木の結界が働いて――迷子になったらしい」
 35歳にもなって迷子、と嘆息しつつ。キーゼルは、その目的地の遺跡と、大体この辺りを迷っているらしいという範囲を、地図の上で指を動かして示す。
「ランディが森に入ったのは一週間くらい前。食料は持ってるようだし、森の中で補給もできてるだろうけど、そろそろ心配だね。それから……その辺りはどうも、狼の群れが徘徊しているらしい。遭遇したら危険だから、出来るだけ早く保護してやって欲しい」
「にーちゃん、ねーちゃん。とーちゃんの事、よろしくお願いします」
 キーゼルの話が終わるのを待つと、ディールは冒険者達を見回し、言葉遣いを正してお辞儀する。
「ボクからもお願いなのです。ディくんのぱーぱを、たすけてあげてくださいです」
 その隣では、ノエルが同じように頭を下げた。ディール達の力になりたいけど、自分が助けに行くのは無理で、役に立つ事は出来ない……それを口惜しそうにしながら、それが出来る冒険者達にどうか……と。

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参加者
幸せを求めし白き鷹使い・シャンナ(a00062)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
緑風の双翼・エリオス(a04224)
休まない翼・シルヴィア(a07172)
大凶導師・メイム(a09124)
エルフの翔剣士・シェルト(a11554)
軽業拳法使い・ヤイチ(a12330)
紅い城塞・カーディス(a26625)


<リプレイ>

●ドリアッドの森へ
「ディールくんのお父さんっていたんですね……」
 想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は、話を聞きながらぽつりと漏らすと、ドリアッドの森へ向かう準備を始めながら、出発前に確認しておかなければと、キーゼルに一つ質問を投げかけた。
「ランディさんの年恰好を教えて頂けますか?」
「大体さっき話した通りだよ。ひょろっとした優男って感じの35歳、眼鏡を掛けてて髪は茶色。あと……」
 キーゼルは先程の内容の繰り返しに加えて、目に付きそうな特徴をいくつか話す。――ドリアッドの森に一人でいるヒトの男が、他に何人もいるとは思えないから、細かい特徴までは要らないと思うけどと付け加えつつ。
「この地図、借りていっていいよな?」
「ああ、構わないよ」
 彼らの話が一段落すると、朱い城塞・カーディス(a26625)はキーゼルの手元を指す。確かに、地図がある方が便利だろうと頷くキーゼルに、幸せを求めし白き鷹使い・シャンナ(a00062)はペンを手に近付くと、ランディがいるという範囲や遺跡の位置などを、間違いの無いよう確認しながら地図に書き込む。
「あと……」
 シャンナは羊皮紙を取り出すと、その地図を簡略化しながら手早く模写し、二枚に増やして荷物に加える。
「必ずお父さんを見つけて来ますからね。お父さんには家に戻る様にガツンと! 言っておきますからね♪」
 シャンナは、皆の準備が既に済んでいるのを見ると、ディールににっこりと笑いかけながら告げ、足早に酒場を出る。
 事態はあまり楽観できない。出来るだけ早くランディを見つけ、保護できるように……冒険者達は急ぎ、ドリアッドの森へと向かった。

 やがてドリアッドの森に入った冒険者達は、疲労を感じながらもペースは落とさず、ランディがいると聞いた方角へと進んでいた。
「範囲がこの辺りという事は、そろそろかな」
 ドリアッドである緑風の剣士・エリオス(a04224)は、皆が道に迷わないよう道案内を兼ね先頭を歩きつつ、地図に視線を落として呟く。
 ランディがいると思われるのは、この先の一角……ここまで来る間に、効率よく探す為に二手に分かれようと相談していた一行は、エリオスと休まない翼・シルヴィア(a07172)、二人のドリアッドを中心にして二手に分かれる。
「わたし達はあちらを回ろう」
「じゃあ僕達は向こうへ。……合流場所は、件の遺跡がいいかな」
 それぞれの分担を確認すると、エリオスは合流場所を提案する。いくらドリアッドがいるといっても、ただの森の中で合流するのは、些か骨が折れそうだと考えたからだ。
 ランディがいるという範囲と、遺跡の場所は少し離れていたけれど、そう遠くはない。冒険者達は、夕暮れ前にそこで落ち合う事にすると、すぐに探索を始めた

●探し人を求めて
「この辺りには来ていないようだな……」
 案内役を兼ねるシルヴィアと並んで、足元を調べていた湖畔の燕・シェルト(a11554)は、微かな落胆と共に呟いた。二人は土や草の茂み、木の幹などにランディが通った事を示す痕跡が無いか調べていたが、それらしき物はなかなか見つからなかった。
「ドリアッドの方も通りませんね」
 周囲には人気は無く、ラジスラヴァは辺りを見回し動物を探す。
 近隣の住民が通りかかったら、彼らから話を聞こうと思っていたが、どうやらそれは難しそうで……ラジスラヴァは対象を動物に切り替えると、獣達に歌でランディを見かけなかったか尋ねる事にする。
「ウサギさん、一つお聞きしてもいいですか?」
 出来れば鳥がよいのだけれど……と辺りを見たものの、鳥の姿は無く。ラジスラヴァはどこからか駆けて来たウサギに歌いながら語りかける。
「何? ボク急いでるんだよっ?」
 どこか慌てた様子で答えるウサギ。その様子に首を傾げながらも、ランディについて尋ねようとしたその時……。
「む……何か来るぞ」
 情報収集は他の者に任せ、周囲の警戒に専念していた大凶導師・メイム(a09124)が、先程ウサギが駆けて来た方を見ながら警告を発する。生い茂る草と木々の向こう、そこから伝わってくる気配と、徐々に強まる足音――複数の何かが駆けてくるのが判った。
 他の者達がメイムの声に振り返るのと同時に、ウサギが「うわぁ大変だ〜」と逃げて行き……迫ってくる気配の主からは、吼える声が届く。
「狼……!」
「来る!」
 がさっ、と草を抜けて飛び出す頭。鋭い目と牙……それは紛れもなく狼だった。次々と現れた狼は、そのまま一気に冒険者へ襲い掛かる。
「くっ!」
 メイムは威嚇にと、狼達の足元にスキュラフレイムを撃つが、炎に削られる地面を見て足を止めたのは、そのすぐ側にいた数匹だけ。残りの狼は怯む事なく冒険者に襲い掛かって来る。
 受身を取るものの、その牙を防ぐ事は出来ず、腕に走る痛みにメイムは顔を歪める。
「っ……」
 できるだけ殺さずに、と思っていたシェルトは、鞘に収めたまま握った剣で狼を振り払おうとするが、その間に脇から飛び込んで来た狼に対処できず、爪に引き裂かれる。
(「コミュニケーションが取れそうな状況ではありませんね」)
 狼と遭遇したら、まずは交渉を……と考えていたラジスラヴァだったけれど、今の状況ではそのような余裕はないと踏むと、すぐさま眠りの歌を紡ぎ――歌声に包まれた狼は、一匹、また一匹と丸くなり、穏やかな寝息を漏らす。
 だが、何匹かの狼には歌の効果が及ばず……突然眠りだした仲間の姿に、驚きと不審をあらわにしながらも、狼達は低く唸りながら冒険者達へ飛び込む。
「逃げた方がいいよ……」
 特殊手甲『蟹甲』を構えた、軽業拳法使い・ヤイチ(a12330)は、術扇『孔雀』を振るい、衝撃波を放つ。逃げるなら追わない、攻撃するのはこちらを襲ってくる者だけ……ヤイチは、狼が逃げ出そうとしていないか、様子を見ながら孔雀をかざす。
 一方ではシェルトが、デュアルソードを引き抜くと幻惑の剣舞を使い、狼から戦意を喪失させる。更に再びメイムがスキュラフレイムを地面に撃ち込み、狼達は怯む様子を見せ……弓を構えながら様子を見、狼の動き次第では、いつでも攻撃に移れるよう構えていたシルヴィアは、狼達が少しずつ後退し――そして、木々の向こうへ逃げ出すのを見ると、ゆっくりと武器を下ろした。
「行きましたか……」
 冒険者達は彼らを追うような事はせず、受けた傷をヒーリングウェーブと癒しの水滴で回復すると、眠っている狼が目覚める前に、と、この場を離れて再びランディの捜索を始めた。

●探し人の行方
 もう一方の冒険者達は、シャンナに頼まれた微笑みの風を歌う者・メルヴィルが、獣達の歌で動物に問いかけながら、ランディを探していた。
「そういえば、さっき見かけた人は、髪が緑色じゃ無かった気がするよ〜」
 何度目かに尋ねたリスは、そう答えながら見かけた方角を教えてくれて。一行は道に迷わないよう、エリオスを先頭にしながらそちらへと向かう。
「ん? この足跡は……」
 ランディの残した痕跡が無いか探しながら歩いていたエリオスは、やがて途切れ途切れにではあるが、足跡が残されているのを見つける。道と呼ぶには多少違和感のある場所を辿る左右の足跡……それは、道に迷った者の物だと思えば合点がいって。
「じゃあ、ランディさんの?」
「可能性は高いだろうね」
 カーディスの言葉にエリオスは頷くと、足跡を追いかけるように歩き出す。
 その後ろに続きながら、カーディスは狼を警戒して周囲の様子に気を配るが、今の所それらしき不穏な気配は感じ取れなかった。だが、だからといって何も起きないという保障はない。カーディスは油断せず、辺りに気を配りながら進む。
「これは……」
 そんな中、足跡に視線を落としていたエリオスは眉を寄せる。辿っていた足跡に微かに混ざった別の痕跡。それは赤く……血のように見えたからだ。
「怪我をしているのかもしれないな」
「そうですね、急ぎましょう!」
 脳裏に過ぎる悪い想像を振り払いつつ、冒険者達は更に速度を上げて痕跡を追う。足跡が途切れる事はなく、見失わずに済んだのは幸運だろうか。
「あそこだ」
 やがて一行は、生い茂る草や木々に身を隠すようにしながら、腰を下ろした一人の人物を発見する。目を閉じてはいるが髪は茶色く、その姿はキーゼルから聞いた物と一致して……冒険者達はすぐにそちらへ駆け寄る。
「ん……」
 物音に男は瞼を開けると、冒険者達を見て、その表情を和らげる。
「人だ……ああ、皆さん。水を少しだけ分けて頂けませんか?」
 喉が渇いて……と、かすれた声で紡ぐ男に、シャンナはすぐに水筒を差し出す。それを受け取ると、男は大切そうに一口水を喉の奥へと流し込み……一息つきながら、ふと冒険者達の姿に目を留める。
「その格好は……皆さんは、冒険者の方ですか?」
「はい。……ランディさん、ですね?」
「……どうして私の名前を?」
 シャンナは頷き返すと、相手がランディである事を確認する。その言葉に驚く男――ランディは、ディールに頼まれて探しに来たのだとシャンナが説明すると、納得した様子で頷いて。
「あの子が……心配させてしまいましたね……」
 そう呟くランディの足には、何かの布を裂いて作ったらしい、包帯が巻かれていた。そこには血が滲んでいて……どうやら、冒険者達が途中で見た血痕は、この傷による物のようだ。おそらくは、怪我をした後にしばらく移動したものの、次第に動くのが辛くなり……ここで休息していた、という所だろう。
 メルヴィルが活性化していたヒーリングウェーブでランディを癒す一方で、カーディスとシャンナは持参した棒と布を用いて担架を作り、彼を運ぶ手筈を整える。
「貴方は自分が必ず守る」
 カーディスは、ランディに君を守ると誓うを使うと、彼を担架に乗せ……シャンナと二人で持ち上げると、エリオスを先頭にしながら、他の者達と合流するため、遺跡へ向かった。

●探し人を連れて
 日が傾き、西の空が傾き始めた頃。冒険者達は遺跡の前で合流していた。
 ランディの怪我は新たに包帯を作り、心得のあるヤイチが改めて応急処置をし、その一方でラジスラヴァが、幸せの運び手を使い歌を紡ぐ。
「不思議ですね……さっきまでが嘘のように満たされた気がします」
 一曲聴き終えたランディは、驚いた様子で声を漏らす。空腹と乾き……それらが歌を聴くだけで満たされていく感覚は、何とも言い難いもののようだ。
「ところで、ランディさん」
 その様子を見ていたシェルトは、ディールからの言伝があるのだと彼に向き直る。
「あの子からですか?」
 何でしょう、と首を傾げるランディに、シェルトは少し前にリベルダが倒れた事、原因は過労だと思われる事、今は大丈夫だけれど、ディールがとても心配している事……そして、ディールがランディに帰って来て欲しがっている事を伝える。
「かーちゃんが一人で心細がってるみたいだから、とーちゃんに帰って来て欲しい――って、言っていました」
 ヤイチは、ディールの言葉をランディへと伝える。ランディを心配しているだけではなく、自分が寂しいからというだけでもなく、リベルダの事まで案じての言葉だと。
「そうか……」
 二人の言葉に、ランディはそれだけ呟いて黙り込む。そんな彼へ、更にカーディスが口を開く。
「自分の趣味も大切だろうが、それで心配する人がいる事を忘れてはいけないな。あなたの奥さんは倒れた事もあったという話だし。もう少し家族といる時間を増やせないか?」
「自分の趣味も大切だが、家族に負担を掛けるのは良くないのではないかと思う。……家長たる者が子供にまで気を回されるのは、少々情けないと思えるが」
 諭すように話したカーディスの言葉に同意しつつ、そう口にしたのはメイムだ。二人の言葉に、ランディは苦い顔をしながら「確かにその通りですね……」と、再び呟きを漏らす。
「自分一人では行けない場所に赴いて、この有様ですからね……私が、甘すぎたのでしょう」
 今回の事は謝らねばなりませんね……と紡いだランディは、ですが、と足元を見やる。
「この怪我ですから、すぐに戻るのは難しいでしょうか」
 手当ては受けたものの、ランディの傷は重かった。何か鋭いもので切り裂かれたような傷跡に、手当をしたヤイチは勿論、他の者も、無闇に動かせば傷が悪化するだろう事は容易に想像できた。
「ひとまず、一番近い村まで行こう」
「傷がある程度良くなるまでは、そこに滞在させて貰った方が良いかもしれませんね」
 シルヴィアは地図を広げ、一番近い村の位置を確かめると、完全に日が暮れる前にと移動を始め……ランディを連れて村に到着した一行は、今夜の宿を借りると同時に、しばらくランディが世話になれるように交渉を行う。
「大した事は出来ませんけど、それでも宜しければどうぞ」
 時折訪れる旅人相手に、宿屋のような事をしているという一家が、快く部屋を貸してくれ……冒険者達は翌朝、ランディから手紙を預かると帰路についた。
「これはディールに、こっちをリベルダに。あと、キーゼルにもこれを」
 そう渡された手紙を携えて酒場に戻ると、あれから毎日酒場に通っていたらしいディールの姿があって……ランディの様子を伝えながら手紙を渡すと、ディールはホッとした顔で「早くとーちゃんの怪我が治るといいな」と、早速手紙を広げるのだった。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2005/06/30
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