≪勇猛の聖域キシュディム≫愉しませるための戦い



<オープニング>


「ミラスラス副団長たちとー、北方拠点で試合を行うよー」
 時は滴り落ちる・フィオナは龍燐刃(スコップ)を振り回して、なんだかはりきった様子である。ザンギャバス軍との戦いを支援するリザードマン護衛士たちと共に、死の国へと向かった霊査士の代理として、キシュディム団長の任を託されているからだ。
 そんな彼女のはじめての大仕事は、避難民たちへ楽しみを提供するための、公開試合の開催であった。そして、この戦いはもうひとつの側面を持つのである。
「がんばっていい戦いを披露しましょうねー。それからー、戦い方だとか勝ち方には、色々と気をつけたほうがいいと思うー。何が何でも勝とうとしなくても、見物に来てくれた人たちが楽しんでくれたらいいでしょー? それにー、リザードマン護衛士のみんなだって、あんまり酷いことされちゃうといじけちゃうだろうしー」
 あまり適当とは思えないフィオナの言葉(特に最後の部分)ではあるが、楽しませるための戦いに工夫が必要であることは彼女の言う通りなのだろう。
「戦う場所は北方拠点の広い場所でー、平らなところー。それからー、特別なルールがひとつー。使えるアビリティはひとつだけだからねー、そのほうが面白そうだからって、アイザック王からのお達しだからー。じゃあ、派手でー、かっこよくてー、頼りにしちゃうよー、っていう戦いにしようねー」 
 そう言ってフィオナは手をぐーに固めた。その繊細で白い指先には、青いキシュディムの指輪が煌めき、美しく映えていた。

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参加者
聖闘士・シシル(a00478)
魔楽師・マルス(a05368)
色術師・ナオ(a09228)
暁の幻影・ネフェル(a09342)
ストライカー・サルバトーレ(a10671)
蒼風の旅竜・シン(a11942)
赤雷・ハロルド(a12289)
天藍閃耀・リオネル(a12301)
冥界の犬神・ミュヘン(a19495)
斬空術士・シズマ(a25239)
NPC:時は滴り落ちる・フィオナ(a90130)



<リプレイ>

●プロローグ
 できあがったばかりの建物は、どこかキシュディム護衛士団本部の塔と似通った印象を感じさせるものだった。
「記念にちょうどいいを〜〜!」
 立派な柱にぺたぺたと触れながら、聖闘士・シシル(a00478)は北方拠点本部の室内を見渡した。飾り気のなさが、キシュディムと同じだと思う。窓があるべき場所にないのも、改善の余地があるのも。
 時は滴り落ちる・フィオナは、やってきたふたりの友人に話しかけた。
「楽しそうだねー」
 鼻の下を人差し指でこすりながら、赤雷・ハロルド(a12289)は認めた。
「自分たちが楽しくなきゃ、見てる方も面白くないだろうしな」
 天藍顔色閃耀・リオネル(a12301)は紅い髪のエルフに言った。
「おはようございます、フィオナさん」
 解説要員が必要なら呼んでくれ、そうハロルドが言ってフィオナが笑っていた、その時……リオネルは見知った丸い顔に気がついた。
「見てくれている人たちに元気をあげられる様なそんな試合にしましょうね」
 握手を交わしながらリオネルが言うと、ミラスラス副団長は特徴的な頭を傾かせて同意してくれた。
 銀灰色の毛並みが、頬に柔らかく触れてうなじと肩の線を渡り、右から左肩へと移動した。
「聴衆のために見せる闘い、かぁ。最強を求めて戦う闘技場とはまた違う、興奮……というか楽しみがあるんだよね」
 白ネコ戦魔楽師・マルス(a05368)は愛猫クラースの額を撫でてやりながら、公開試合の会場となる広場を見つめた。過去の経験から、公開試合の魅力については知っているつもりだった。
「アレはアレで結構クセになるんだよね……でわ」
 言葉を切った彼は、空を見上げて拳を突きだした。クラースの優美な尾もそれに倣っていた。
 
●重
 北方拠点に集う人々は、深い悲しみを負ったものばかりである。けれど、円形の広場を取り囲み歓声をあげる彼らの横顔に、陰鬱な陰などは見られなかった。
「イイねぇこの緊張感っ」
 歓声を浴びながら、ストライカー・サルバトーレ(a10671)は戦場の中央に立っていた。人波をかきわけて現れたのは、親愛なるあの重騎士であった。
「俺はアビリティなんて使う気はないっ! 俺の持てる剣技で正々堂々お前を倒そうっ!」サルバトーレは腰から空の小袋を掲げて続けた。「お前のせいで俺は今月ピンチなんだからなっ!」
 『秘すべき戦い』において重騎士との賭けに破れたサルバトーレは、予想を遥かに越える大食漢ぶりを発揮され、おけらとされていたのである。この戦い、負けるわけにはいかなかった。
 
 盾を投げ捨てたサルバトーレは、星煌剣を地と水平に構えた姿勢で、重騎士へと迫った。刺撃は黒塗りの盾によって狙いを反らされた。斧の分厚い刃がサルバトーレの肩を砕く。後方に飛びのいた翔剣士は、腰を落とした姿勢から宙を翔た。
「俺の剣は我流っ! よって見切れまいっ!」
 サルバトーレはかざされた敵の盾を片手で掴むと、それを軸として身体を旋回させた。巨躯へまとわりつくようにひるがえった彼の身体は、背後に降り立った。
 斬撃を浴びた重騎士は腹の底から響く雄叫びをあげた。烈風のごとき斬撃をかわしきれず、サルバトーレは眩暈を覚えた。彼は目の高さに構えた日輪の刀身を指先で支えながら、じりじりと後退をはじめた。
 リザードマン重騎士は斧を振り上げてサルバトーレに迫った。勝負を決する一撃を放つつもりだったのだ。けれど、彼は息を乱し、体勢を崩してしまった。きらきらと陽光を拡散させる星煌剣に気を取られ、おろそかとなった足元に、サルバトーレの盾が転がっていたのである。
「かかったな!」
 サルバトーレは剣で敵の斧を叩き落とすと、自らも剣を地面に転がした。そして、何を思ったのか重騎士の太い腕を抱きつくように搦め捕った。彼は……関節技で決めようとしていたのである。
 予想もしない展開に、観客たちから楽しげな笑い声が洩れた。サルバトーレは敵の腕にぶらさがっていたが、白い牙をのぞかせて笑った重騎士が鼻息も荒く腕を振り抜くと、鮮やかな放物線を描いて地に堕ち、そのまま覆いかぶさられると、足を四の字に固められてしまったのだった。
 
●牙、重、武、医
 第一試合の余韻が残る戦いの舞台に、静寂ノ刃・シズマ(a25239)は三名のキシュディム護衛士たちと並び立っていた。正面に対峙するのは、リザードマン護衛士たちが結成したパーティーである。
 唇を固く閉じ、シズマは視界の先で踊る黒髪を感じた。彼の一礼が済み、模擬戦の火蓋が切って落とされた。
 
 緑青色のビローをまとったリオネルは、青い一陣の風となって戦場を渡った。重騎士と武人の傍らを抜けきると、彼はリザードマンたちの後方に回り込んでいた。
 戦場を吹き抜けたのは、青い風ばかりではなかった。赤い髪が浮べた残像を武人の剣が切り裂き、実像であるハロルドはその後方に身体を躍らせていたのである。
「普通に戦うのと違って、観客を沸かせる戦い方ですか……」
 暁の幻影・ネフェル(a09342)は挟撃の体勢を崩さぬよう、敵と対峙する面を摺り足で補正した。真向かいに広く敵の身体を捉えた彼は、指の合間を広げた両手を突きだした。煌めく糸の束が、扇状に広がってリザードマンたちに絡みついた。
 引きちぎった糸を肩からなびかせて、重騎士が突撃してきた。大上段からの苛烈な一撃を、ネフェルは手甲で護られた腕を交差させて受けとめた。
 蜘蛛糸の合間から、仄かな癒しの光が広がった。牙狩人は煌めく糸に這われた身体を震わせ、脱出を試みていた。
 冬の天蓋に耀う透き通ったおもての月――シズマはわずかな弧を描いた月夜見と呼ばれる刃を振り抜いた。水平に断たれた空から、衝撃が波濤の斬撃となる。
 敵の医術士へ、静謐なる冬の荒野を思わせる短刀を揃え、リオネルが迫った。白亜の軌跡が交錯する……リザードマン護衛士たちは癒し手を失った。
 蒼い闘気をまとった武人の一撃がハロルドを襲った。斜に構えられた剣は予想に反してその軌道を半ばで変え、地と水平な抜き打ちの斬撃となった。ハロルドは痛みに奥歯を軋ませたが、不意にその表情を武人の視界から消し去った。彼は跳ね上がっていた。次に武人が目にしたものは、目映い光を発する弧状の残像だった。
 刀身に刻まれた絵図を、おそらくリザードマンの武人は、見ることができなかっただろう。黒装束をまとったネフェルは驚異的な跳躍を見せ、武人の方に両手を置いて身体を越えると、着地するなり瞬時の反転を行って、逆手に構えた刀を振り抜いていたのである。
 光の糸をなびかせる矢に続いて、斧を手にした重騎士がシズマに迫った。彼は肩口に突き刺さった矢を引き抜く暇も与えられず、黒鋼で覆われた左の甲で真一文字に落とされた重厚な刃を受けとめねばならなかった。シズマは視界を重騎士に遮られながらも、右手で剣を振り抜いた。衝撃が向かった先には牙狩人が立っていた。
 武人が倒れた。ネフェルの繰りだした斬撃には、もう耐えられなかったのである。シズマはさらに波濤の刃となった衝撃を切先から放っていた。次の矢をつがえていた牙狩人は倒れ、弓は虚しく空の弦を震わせる。
 重騎士の放ったあまりに重たい一撃を、ハロルドは胸部で受けとめざるを得なかった。厚い刃の両側から両拳を突き立てていなければ、傷口は狭隘なものとなっていなかったはずである。彼の蹴りが光の弧月を浮べ、震えた重騎士の身体が、どういったわけかさらに震えた。重騎士の陰から白刃を瞬かせたのはリオネルだった。
 
●インターリュード
「腹が減っては戦はできぬってこともあるし、休憩の意味もこめて、剣舞を披露しますっ」
 漆黒の曲がった刃を羽のようにはためかせて、マルスは広間の中央に走りでた。それから、大きく息を吸い込むと、ダンス・マカブルで空を切り裂き、鮮やかな舞踏を始めた。全身から淡い白光を迸らせて……。
 
●紋、重、牙
「あっ、みんな〜来てくれたの〜」
 闇を照らす希望の光・ミュヘン(a19495)は、最前列に陣取ってちぎれんばかりの手を振る子供たちに、白と黒の手袋で覆われた両手をかざして応えた。拠点で護衛士としての任務を遂行する日々の中で、仲良しとなった友人たちである。彼らの声援は、例え他の声に入り交じっていたとしても、耳ではなく心に響いていた。
 
 マルスは飛び出した。濡れ羽色の刃をひるがえして、視線も切先もひとりのリザードマン護衛士に向けていた。
「……重騎士の方と踊りたかったけど、シンさんが相手をする……だったら!」
 光の軌跡が伸びて、マルスは矢を足に受けたが、敵との間合いは詰めていた。
 小さな手を空へいっぱいに広げて、ミュヘンは輝きで満たされた表面に紋章文字が渦巻くように行き交う、光の球体を宙に浮べた。子供たちの歓声を浴びて飛んだ光球は、敵の紋章術師の身体を奇妙な形に折り曲げてしまった。紋章術師はなんとか起き上がり、反撃とばかりに光の輪を宙に漂わせた。
 光の雨に吹きつけられながらも、蒼穹の風竜・シン(a11942)は腕で視界を護り、重騎士との距離を目測していた。扇状に広がった光の線が、紋章の消失と同時に途切れると、彼は水色と白色で二分された長い尾を引きつれて突進し、さらに敵の目前で身体をはねあげた。重ねられたシンの掌が突きだされ、重騎士は盾で遮ったが、厚い鉄を伝って全身を貫いた衝撃によって、背から地に叩きつけられてしまった。
 身体を周囲に渦巻くように、漆黒のサーベルは螺旋の軌跡を浮べていた。マルスは敵に「先ほどの舞いも含めて、僕の剣舞はどうかな?」と問いかけ、二翼の刃によって複雑な曲線を描きだした。
「見事なものだ!」
 叫びながら牙狩人は至近距離からマルスに矢を突き立てた。――まるで根比べだ、マルスはそう感じながら口元を綻ばせ……ようとしたが、すぐに奇妙なことに気づいて眉をしかめた。
「……あ、一対一の戦いになってる?」
 シンは敵の刃をかいくぐって懐へと飛び込み、掌を堅牢な鎧の胸に押し当てた。重騎士は後方へ飛んだが、すぐに立ち上がって巨大な刃で彼の身体を狙った。爆発的な気が込められた斬撃にシンは膝を折る。
 風を貫く高い音がして、牙狩人は震える弦を見つめていたが、無言のままぱったりと倒れた。立ち尽くすマルスの頭上には、黄金の球体が浮かんでいる。仲間の背から横手へ飛びだしたミュヘンが、両手を振り抜いてその勢いのあまりにつま先立ちとなる――飛んだ光の塊は紋章術師に止めを刺していた。
「……やっぱり勝ちたいよな? 後は任せる」
 シンはミュヘンたちに告げ、重騎士の足元に指先を触れさせた。一点から爆発的に広がった力によって、巨躯を吹き飛ばされたリザードマンは、剣を支えに立ち上がると強烈な斬撃をシンの身体に叩き込んだ。
 仲間の身体を飛び越えてマルスは幻惑する剣技で重騎士に襲いかかった。斬撃に耐えて身を震わせ、剣を振り上げた重騎士の瞳に……光がやってくる。
 肩で息をするミュヘンは、幼い友人たちからの声で、自分たちの勝利に気づいたのだった。
 
●医、狂
 速攻を仕掛けたシシルは、禍々しい刃を手にして嗤うリザードマン狂戦士の両肩に指を食い込ませた。敵は抵抗を示したが、小さな身体からは信じられぬほどの膂力をもって、彼女は狂戦士の身体を宙に浮べた。飛び上がったシシルは彼の足を掴んで天地を逆転させ、頭から地面へと落下させたのだった。
「術士は術で魅せるものだよ〜」
 色術師・ナオ(a09228)は手にしたオカリナの突起を唇に含んだ。吹き抜ける風を思わせる音色が響き渡り、シシルのまとう龍座の聖衣は、黄金の光を散逸させる聖鎧へと変貌を遂げた。
 魔炎を燻らす狂戦士へミラスラスは回復を行った。光の輪から逃れるようにしてシシルへと向かう狂戦士は、波状の刃から黒炎を撒き散らして、熾烈な斬撃を叩き込んだ。左腕を覆う龍星座の盾を回り込ませたが、シシルはまともに攻撃を浴びた。だが、その衝撃は思ったよりも浅かった。
 相手の医術士が広げる回復の光を視界に捉えながら、自らもホーリーガーブを荘厳なる佇まいへと変容させていたナオは、オカリナから烈しい旋律を吹き鳴らした。大気がたわんだかと思われた瞬間、彼の白いおもてをかすめるようにして、衝撃波が杖を持つ相手の元へ向かった。攻撃を受けた副団長は杖を握る手に力をこめていた。
 焔に包まれた刀剣を左腕で受けとめると、シシルは右の掌を相手の尖った鼻先に着きだし、瞬時に身をかがめてその足元をとった。身体を回転させる奇妙なターンから相手の身体を丸め込むようにして地面に押さえ込むと、彼女は背を一挙に伸ばして、強張らせた身体の狂戦士を持ち上げ、大地に叩きつけた。
 仲間を救うべく、医術士は淡い光を身体から立ち昇らせていたが、旋律を響かせ続けるナオの目前から発生した波動がまたしても彼を襲った。
 相手の足をとって回転するシシルの身体は、狂戦士の鱗の色から、まるで黒い輪の中心にあるようだった。観客たちからの歓声を浴び、シシルは叫んだ。
「いつもより多めにまわってます!!」
 放物線を描いた狂戦士は地に叩きつけられ、手足と一緒に長い手足を投げだして気を失っていた。
 
●エピローグ
「お子様は決して真似しないで下さいなコンボだお〜、だから真似しちゃだめなんだお〜!」
 そうは言ったものの、彼女の技は観客たちの心を鷲掴みにしてしまったようである。仕方なく彼女は標的を探した。自ら負けを認めたミラスラスよりも、もっと気安い相手を。彼女が選んだのは、ウェンブリン仲間であり、今はどういうわけが空の麻袋をまじまじと見つめて嘆息する、あの彼であった。
 
「一風変わった人が多いけど、それを知った上でこれからも手を携えて先に進んでゆきたいね」
 風に――旋回するサルバトーレの身体から吹いてきたものだ――あおられた髪を指先で梳きながら、ナオはそう言って新たな仲間たちを見遣った。戦歴に差は出てしまったが、強者と対戦した喜びを、彼らは感じているようだった。
「……そーいや、俺、リザードマン護衛士のことほとんど知らないや……」
 こめかみをかきながら、シンはミラスラスの元へと駆けた。リザードマングリモアガードのことを、彼ならば快く話してくれると思っていた。
 ネフェルはミラスラスたちと順に握手を交わしていった。日ごろの悲しみを忘れて愉しむ人々の姿を見て、リザードマン護衛士たちも晴れやかな顔をしていた。
 人々を護るためにどうすればよいのか? 彼らだって悩んでいる――ネフェルは同朋となったリザードマン護衛士たちの正義に、この戦いを通して触れられたのだと感じ、口元を鋭角な形に広げた。


マスター:水原曜 紹介ページ
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