【鉄拳調理師アンジー】『な』は茄子の『な』



<オープニング>


●何がそんなに嬉しいの?
 ミナモの国のとある畑で……。
「収穫♪ 収穫♪ タリララッタラ〜〜♪」
 吟遊詩人が聞いたら後頭部に華麗なる衝撃かブレードダンスをお見舞いしたくなる様な調子っぱずれの音階を描きながら、野菜畑で丸々と身の詰まった茄子を収穫している鉄拳調理師・アンジー(a90073)である。
「はっはー。2月にこっちに来る時に、苗も貰ってきて大正解! 茄子や茄子や茄子や茄子や〜♪」
 おひたし、漬け物、揚げ物、焼き物。
「煮た茄子だけは勘弁やけどな〜〜」
 人に食べて貰う料理は兎も角、自分で食べる料理に煮炊きした茄子だけは絶対に出さない、ちょっと変わった嗜好の持ち主だったりするのだが、身を掴んで、がくの上を嬉しそうに切り取って収穫しようとした時に、アンジーの手が止まった。
「ウ?」
 ムニッとした感触の筈の茄子が、ふさっとした毛に覆われている。
「……コーン」
「……」
 互いに、目と目で通じ合わない至近距離であった。
「貴様か! この腐れケツネグドン!!!」
「コーーーーーーーーーーーーン!」
 大脱走のキツネグドン達10匹(?)が握って走り出したのは、今晩と明日の≪楓華の風カザクラ≫の食料である茄子と新ジャガだ。
「待ちやがれコンチクショーー!! うちらの食事をどないする気や〜〜!! ウケケケケケエ!! イズミちゃん!」
「……霊査するまでもないと思うのですが……迷惑行為は、いけませんでしょう……」
 畑の対面、遙かに離れた位置で仲間達と共に涼んでいたイズミに叫んで声を掛けるアンジー。
 茄子をくわえたノラキツネグドンを追いかけて、裸足で疾走する妖気なアンジーを見送って、急いで冒険者達に声を掛ける霊査士だった。

マスターからのコメントを見る

参加者
緑のちび魔女・グリューネ(a04166)
赤誠の武道家・フェリディア(a16292)
月煌の舞姫・フェリシス(a18063)
挑風・ダスト(a20053)
砂上の旋律・サシャ(a22739)
永劫回帰・ベルウォート(a26834)
セリカ特戦隊員専医・ジョニー(a27337)
光翼の槍・ウィル(a27628)
NPC:鉄拳調理師・アンジー(a90073)



<リプレイ>

●プレイング
 夏の野菜を両手に抱え、逃走したグドンを追いかけてきた冒険者達はようやく敵を目視に捕らえることが出来た。
「あーー! まつんだよーー!」
 ぐんと、加速する……本人は加速したつもりの緑のちび魔女・グリューネ(a04166)が、ぎゅっと目をつぶって一生懸命にグドン達の前に走り込と、一気に振り返ってクリスタルインセクトを出して……。
「あれ?」
 構えて出そうと集中した時には、すったかすったかとグリューネの背後で聞こえるグドン達の足音。
「……ひどいよー! グリより速く走るの反則ーー!」
 追いかけっこ用に着替えたのにと、グドンにしてみれば謂われのない怒りをぶつけられながらも逃避行。
「俺の出番だなぁ〜ん」
 すっくと煙が大好きな高いところに立ったセリカ特戦隊員・ジョニー(a27337)が眼下に迫る狐グドンに狙い定めて必殺の蹴りを解き放つ。
「ジョニイィィィィィキィィィック!!!」
 体重と、地面がジョニーと仲良くしたがって発揮される力が、高所から飛び降りたジョニーを見事に狐グドンが今まで居たかも知れない場所に導いた。
 ドンガラガッシャ〜〜〜〜〜〜〜ン!!
 と、見事にヒトノソリンの形に地面に陥没が生まれるのだが、どっこい生きてるヒトノソリン。
「俺は……もう……動けねぇ……」
 そこまで呟いて、ふっと顔を上げたジョニーの瞳が疲れ果てた老人のようなそれから、この世の最後にでも遭遇したような恐怖に見開かれる。
「ぐぼほぉぉぉっつ?」
 ドカドカドカ。
 陥没からようやく半身を起こしたばかりで、リタイア宣言しようとしたジョニーの上や横を突っ走る冒険者達の蹴りやスタンピングや体当たりが綺麗に決まった。
「奴らマジだコーン!」
 ジョニーの最期(?)を見た狐グドンが叫ぶ。
「マジに馬鹿だコーン!」
 続けて的確な評価を下す狐グドン達の背後に、冒険者達の魔の手が迫る。
「……これからが……大変……」
 野菜を持って逃げているグドンに直接攻撃を叩き込むことは容易い。それは赤誠の武道家・フェリディア(a16292)にも十分に判っていることなのだけれど、もしも攻撃を当ててしまった時には、きっとグドンが転倒するだろう事は明らかだ。
 それはあらゆる意味で、最後を意味している。
 グドンの最後、食材の最後、そしてあらゆる意味で最後になりそうな女性がフェリディアの目の前で奇声を上げながら突っ走っている。
「フェリシスさん……あ……」
「……」
 とっても遠い彼方に、月煌の舞姫・フェリシス(a18063)が懸命に走っている姿が見える。
 ストライダーの武道家であるフェリディアとエンジェルの吟遊詩人であるフェリシアの走る速度には、今は致命的に思える差があったのだ。
「……アンジーさん、ちょっとの間大人しくしていてくださいね?」
 小首を傾げるフェリディアだが、すぐ真横を走るヒトの武道家が頷いてくれたのかどうかまでは……微妙な頷き加減で走り続けている為に判らなかった。
「御免なさい、足を引っ張ってしまって」
「……そんなこと……ないです」
 フェリシアも一生懸命に走ってくれている。だからそれ以上をフェリディアも言う気はないし、言うことは間違っていると判っている。だから、今彼女が出来ることでエンジェルの手伝いをすること、それが彼女のなりにコンビを組んだフェリシアへの誠意だった。
「えーと? 皆のお腹の平和の為にも頑張らないといけないね……うん、アンジーさんに茄子料理とかも教わりたいしねっ!」
 と、前向きにグドンを追いかけながら自分自身に気合いを入れているのは無垢なる光翼・ウィル(a27628)。
「食材を取り返したら料理のレシピ、教えて下さいね!」
「……ま、ぁね」
 歯切れは悪いのだが、走った以外に頬が赤くなっているのを見て取ったウィルはそれがアンジーが照れ隠しに言っているのはよく分かっていた。
「それにしても、あのグドン達早いですね」
「本当ですね、まるで何処に行くかあらかじめ決めて走っているような……」
 時が堕ちる砂の音・サシャ(a22739)が自分で言った言葉にはっとなって、一緒に駆けていたウィルと顔を見合わせた。
「それです。きっと相手は逃げる場所を決めているに違いない。皆さん、僕は確保役でサシャとペアで走ります!」
「ほな、こっちは先回りして待機しておくわな!」
「……でも、そっちは違います」
 きゅっと、脇道に入ろうとしたアンジーの首根っこを捕まえてフェリディアが元来た道を走る。
「こちらですわ。地図だと、この道を降りれば先回りに」
 フェリディアとあらかじめ打ち合わせたらしいフェリシスが道を指さして、グドンを追う者達と待ち伏せを行う者達で二手に分かれて再び走りだした。
「サシャ。周りは大丈夫みたいです……」
「はい」
 周辺を警戒していたウィルが合図を送り、それに頷いたサシャが加速して一気にグドン達の背後にまで接近した。
「あの……逃げないでください……」
 判ってはいても、一応言ってみる。
「……」
 返事はなく、ただ走るグドン達に悲しげに眉を寄せたサシャが術を紡ぐと林の中に彼等グドンを大地に縛り付けるほどの粘着力を持った巨大な網が出現した。
「……野菜は大丈夫でしょうか……アンジーさんの元に戻りませんと……。それまでは、大人しくしていてくださいませね……? とっても大変なことになりますから……」
 術から脱しようともがくグドン達を順番に縛り上げていく作業を終えたサシャとウィルは、一応野菜が無事だったのを見て安堵する。
「……よかった。これで無益な殺生は避けられるね」
「……これで、全部かしら……?」
「……こーん」
 二人の不穏な会話に、流石のグドン達も自分達が何か得体の知れない物に手を出してしまったのだと言うことに気がついた様子だった。
「さ、帰ってアンジーさんから茄子料理の作り方を聞いておかなくちゃっ!」
 奪取した茄子を持って意気揚々と、山を下り始めるウィルとサシャだった。

●待ち伏せてる人達
「……この距離なら、目が眩んでまともに行動出来なくなるか……」
「眠っていただけますわね」
 にっこりと微笑むフェリシスに、小さく頷くフェリディア。
 山道を駆け下りてくる足音も、はっきり聞こえる位置に着いた冒険者達が待ちかまえているとは知らずに、グドン達は手に手に荷を持って駆け下りてくる。
「食うことには困りたくないのじゃ! それに、食料は大切じゃからのぉ」
 実にさめた口調で挑風・ダスト(a20053)が溜息と共に吐き出したのは、現実という世知辛い世の中と対峙している者のみに許される、真実の生活の辛さだったのだろうか。
 背負い籠を一つ背負っている彼の姿は、どこか哀愁を漂わせている。
「茄子というと、麻婆茄子か焼き茄子じゃな。わしも煮たものは余り好きではないの」
「同志!!」
 わっしと、堅く握手の交わされるアンジーとダスト。
「それは兎も角じゃ、アンジーさんにはウィルさんと一緒に確保した食糧を守ってもらいたい」
 と、言って差し出したのは背負い籠。
「食料は無事返してもらうのじゃ!」
「……観光に来ていた筈が……もしかして…これって巻き込まれてますか?」
 転がる苔・ベルウォート(a26834)の自問自答に、ダストが目を合わさないまま無言で頷いたのが見えた。
「……仕方ないですね。怪我人が出たら回復します」
 肩を落としながらも、ドリアッドはダストに並んで狐グドン退治に乗り出していった。
 相手は兎も角、その腕によって運ばれている食材は無駄にしないようにと留意すればするほどにデリケートに扱わなければならない物だというプレッシャーがかかってくる。
「いきますよ」
 フェリシアの紡ぐ眠りの歌がグドン達を次々と眠らし、こぼれた者達にはベルウォートが召還したものと、グリューネの召還した気高き銀狼が足元からグドンを捕縛し、数少なくなっていた敵を銀狼達は的確に攻撃して、周囲を冒険者達が囲む状況になった時には既に勝敗は決したような物だった。
「さて、それでは取り戻した野菜達を運びましょう」
 荷造準備をしていたベルオートが言うと、グドンの方を荷物扱いで縄を掛けていたダストがうむと頷いて一行を促した。
 だが、10匹のグドンが運んでいたものを、冒険者達6人だけで運ぶには無理があった。
「仕方がない」
「何が?」
 ニコニコと尋ねるグリューネは置いて、ジョニーはテンガロンハットを風に舞い踊らせるように腰をくねらせる。
「俺が茄子を運ぼうではないか! ノソリンになって!! チェェェンジ! ジョイィィィィィィイ! スイッチオォォォォォォォン!!」
 色々な血管の破れそうな咆哮をあげて、ジョニーのダンスがシェイクされる。
 ノソリンダンスを心おきなく堪能しつつも、服が舞い飛び、肌も露わに踊り狂うジョニーに周囲の冒険者達は体温が夏だというのに二、三度低下した。
「な、なぁ〜ん(音声多重翻訳:フッ…照れるぜ)」
 僅かにピンク色の顔を赤く染めたノソリンに、怒りの行く先を無くした武道家の蹴りが喰らわされる。
「……キルマークもらい♪」
 盛大に吹っ飛ぶジョニー(変身解除済)を見送って、ふっと親指を立てるアンジー。
 だが、地面に落下した次の瞬間にはヒトノソリンは復活していた。恐るべきは、同盟の冒険者の常識外れの体力である。
「勝手に殺すなぁ〜ん」
 一気に抗議に走る男の「男」な部分がとっても元気だった。
「下、隠せぇぇい!」
 返す刀で繰り出される女性陣の視線と蹴りとが彼を再び地面に崩れ落ちこませる。
「ふ。良い蹴りだったぜ。チラリも最高なぁ〜ん……がく」
 あらゆる意味で修羅場が展開されていた端っこの方で、グドン達がこっそり様子を伺いながら脱走の準備を整えていた。
「逃げるコーン!」
「二度とこんな所に来てはいけないコーン!」
「馬鹿がうつるコーン!」
「……甘いのじゃ! とうっ!」
 ダストが逃げ出すグドン達をゴージャス斬りで三枚(?)におろすと、ようやく周囲に静寂が訪れたのだった。

●事件の後は食事だね
「あのねー、さっき畑で『うけけけけー』って変な声がしたんだけど、もしかしたらグドンの他にもモンスターがいるかもしれないよー?」
「そうなんかいな」
 真顔で話し合うグリューネとアンジー。
 グリューネのほっぺに焼き茄子にたっぷり塗られた香ばしい薫りのお醤油が跳ねているのが可愛いのだけれど……。
「うん☆ やっぱり、おなすは網の上で焼いて黒く焦げたのを冷たいお水であらったのが一番だね♪」
 酢醤油でもふもふと食べているグリューネの横では、フェリディアとフェリシアがニコニコと笑顔で焼き上がったばかりの茄子に舌鼓を打っている。
「……お手伝いしてみましたが、お味の方は……」
 料理は余りしたことがないというベルウォートも、折角の機会だからと手伝いを申し出て、夕食の手伝いをしていた。
「……何か……悪寒がします……」
 ひっそりと、悪寒への対策として命の抱擁を活性化しておくベルウォート。
「わしは腹ぺこなのじゃ。ジャガイモと茄子じゃと茄子カレーを作っても美味そうじゃな」
「ほほう、さりげな〜く、催促かいな」
 ニコニコ笑顔で座しているダストの背後から、香辛料の薫りと共に現れる鉄拳調理師。
「さすがじゃ! わしらの願いを予測するとは、その点においては霊査士並みじゃのぉ」
 既に褒めているのやら貶しているのやら判らなくなってくるダストの焦りようだったが、狐グドンを投げては捕まえ、蹴り飛ばしては捕縛してと、身体を動かしてお腹がすいているフェリディア達にとっては、夏野菜の具沢山カレーはお腹と心を一杯に満たす素敵な料理だった。
【おしまい】


マスター:IGO 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:8人
作成日:2005/07/04
得票数:ミステリ1  ほのぼの1  コメディ18 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。