体験! リスアットカーニバル



<オープニング>


 夏至の夜に行われる「リスアット・カーニバル」。
 リスアットと呼ばれる草冠をかぶり、松明片手に町内を練り歩くというお祭りである。
 街を練り歩いた後、最後にその草冠を積み上げ、焚き火をつくるのだ。
 豊作を願い、街の広場に立ち上る大きな焚き火。
 焚き火の煙は、夏至の夜空にたなびいていくという。

「―――というお祭りなのよ。みんなわかった?」
「zzzz」
 リゼルの説明の途中に寝ていたプルミエール。リゼルは目を座らせて、プルミエールの耳たぶを持ち上げる。
「くおぉらあぁぁ! 起きんかぁーーい!!!」
「はわわわーーん」
 プルミエールの耳の中に反響するリゼルの怒鳴り声。目を白黒させながら体を振るわせるプルミエール。
「ったく……何寝てんのよ」
「あはは……ごめんなさいです。ちょっと疲れてました」
 目を擦りながら、力なく笑うプルミエールを見て、リゼルも目を細める。
「―――ま、いいわ。それじゃ、リスアット・カーニバル、みんなで楽しんできなさいよ?」
 その言葉に、彼女は周りに集まった冒険者達―――同じくリスアット・カーニバルの参加者達―――の顔を見渡した後、今度こそ元気な笑顔を見せた。
「はい、行ってきます!」
 そう、もうそろそろ夏至の日だ。
 今年も例年通りリスアット・カーニバルが開かれる。豊作を願う、祭りが。

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参加者
NPC:はじまりは・プルミエール(a90091)



<リプレイ>


「えー、まずリスアットは特に決まった草で編む必要はないらしい、思いを込めるのが重要なのだそうだ。だが、最後に火に入れる関係上、燃え易い草を選定し―――」
 原っぱに響くティキの声。
 現在、リスアット作りのレクチャー中。リスアットの草冠は、予め祭り用に用意されていたが、自分で作っても良いという事なので希望者だけを募ってリスアット作りを行っているのだ。
「あ、切れちゃった! くー……難しいのです」
 千切れた草を手に、口をへの字に曲げるプルミー。
「そんなに力を入れるからだ」
「そこはこうするとうまくいきますよ」
 ヒースクリフとメイがプルミエールに指導する横、ユダも地にあぐらをかきながら草冠と悪戦苦闘していた。
「むう……」
 三色のポピーを草冠にあしらっている最中のようだ、体格の良い彼が背を丸めて草冠を編んでいる光景はどこかユーモラスに見える。
「(あれは贈り物、なんだろうな……俺が代わりに作るよか、下手でも各自で作る方がいいよな)」
 そんなユダを見ながら、物思いに更けるティキ。
「せんせー、ちょっとここ教えて欲しいの」
 ティキを呼ぶキズカの声。ティキは頭を掻きながら、キズカの元へと向かうのだった。


 草冠と松明を身に着けて行進するのは夕暮れになってから、昼の間は自由時間となっている。

「うわーっ、人がいっぱいだよ!」
 もの珍しげに辺りを見回すシェリア。町には見物客や祭りの参加者がごったがえしている。
「全くだ……こういう光景を見ると、故郷の祭りを思い出すぜ」
 シェリアのすぐ傍で、肯定の頷きを返すアザー。彼はさいはて山脈付近の田舎出身らしい。
「といっても、俺の故郷はそんなに人がいなかった……っておぉぉぃ!? 人が浸ってる間に早速はぐれるなお前えええ!」
 あっちの屋台にこっちの出店……シェリアは右へ左へふらふらとつられていってしまう。慌ててアザーはシェリアの手を引いた。
「は、はぐれてないよ、ただちょっと流されただけなのだよっ!」
 自らの手首を掴む強い感触に、心の底で微かに動揺しながら口を尖らせるシェリア。
「あ・ほ・うッ。迷子になって、後で姉貴に怒られたかないだろ」
「あいたっ」
 アザーは空いた手で、シェリアのおでこにペシッとデコピンを見舞う。
「ほら、手ぇ繋いでいくぞ?」
 差し出されるアザーの手。
「………うんっ。おねーちゃん達に、お土産たくさん買ってこーね!」
 二人は再び歩き出す。二人の手は、しっかりと握られていた。

「焼きりんごと、わたあめと、焼きそばっ!」
「クレープと、チュロスと、かき氷なのですっ!」
 パークとプルミエールが争うように屋台の商品を買い漁っているのを見て、テルミエールは苦笑いを浮かべた。
「もう、みんなで品評会をしましょう、って言いましたのに……あ、私はクレープのバナナ味で」
 彼らのフードファイトは、始まったばかりだ。

「わーいっ、ありがとうフィーちゃんっ」
 浴衣姿で背中に団扇を挿したルーシェンはチキンレッグ人形を両手で抱え、フィーへ感謝の礼を述べる。
「いつもみんなにはお世話になってるからね」
 笑って代金を払うフィー、彼女は常日頃から世話になっている4人へ奢る約束らしい。膨れ上がった財布を懐にしまった。
「いやぁ〜、悪いねぇ〜、奢ってもらっちゃって」
 帽子を目深に被り、片手には巨大串焼き、もう片手には酒の入った一升瓶を持ち、最後尾を歩くマオーガー。悪いねと言いつつも、それほど悪いと思っているようには見えなかったりする。
「本当に、フィーさん有難うマス♪」
 アヤナもフィーに礼を述べるが、フィーは自らの薄い胸をぺたんと叩いて見せた。
「あはは、どんとこいだよ! 食べ物系は全部制覇して回ろうね!」
「次は、あっちいってみようマース! イカ焼き、焼きとうもろこし、タコヤキ〜♪」
 アヤナが食べ物屋を探して走り出す。そんなアヤナの背をシャオルンは微笑ましく見守っていた。
「相変わらずだな……」
「シャオルン君は何か買いたいものはないの?」
 フィーに尋ねられ、腕組みして考えるシャオルン。
「ふむ……シルバーアクセの露店でもあれば」
「あはは、流石にそんなのは―――」
 ふと横を向いたフィーの目に『カレント印のアクセサリ屋』という看板が飛び込んでくる。
「………あったねぇ」
 マオーガーは、呟きながら焼き鳥を口にした。

 出店を出している冒険者もいた。
 アウラ、アクアローズ、アスティナの3人は、氷菓子やアイスティーを売っている。
「おとぅさん、バンダナのおにーちゃんが氷菓子3つだって!」
「え、ええ……わかりました」
 アスティナの『おとぅさん』という呼び名に微妙なものを感じながら作業するアウラ。
「アクアおねぇちゃん、三つ編みのおねーちゃんは氷菓子4つだよ!」
「あらあら、結構繁盛しますわね……」
 しばらくして、氷菓子が無くなり店を閉めようとする3人だが、
「おう、氷菓子くれ」
 パイナップル頭のマッチョが店先へとやってきた。
「申し訳ございませんわ、生憎ちょうど終わってしまいまして……」
「あぁん? 一個くらい残ってねぇのかよ?」
 アクアローズにつっかかるマッチョを町人達は遠巻きに見つめてひそひそと囁きあう。
「氷菓子が欲しいのでしたら、ご自身の頭を冷やしてみればどうですか?」
 痛烈な皮肉を吐くアウラ。虫の居所が悪いようだ。
「―――んだとぅ!?」
 アウラへ襲い掛かろうとしたマッチョ、次の瞬間には地面に転がっていた。
「……祭りを楽しみにしている人の邪魔をするな……!」
「はいはい、っと」
 町の警備をしていたネルと伏字棒を持ったババロア、そしてセリス。
 そして、アウラのお盆チョップにより、マッチョの頭には4つのコブができていた。
「それじゃ、引き続きカーニバルをお楽しみ下さい♪」
 ババロアはあやしい煙を立ち上らせると、マッチョと共に消えていった。
「……なんだったのかなぁ〜?」
 アスティナの問いに答えられる者は、その場には存在しなかった。

「に、にぎやかだね……」
 通りを歩くキュオンと、その斜め後ろを付いていくニノン。恋人になったばかりのカップルだ。
「そ、そうなぁ〜んね」
 左右を見回すニノン、キュオンの顔が眩しくてマトモに見られないだけだったりする。
(「まだ恋人同士になったばかりだしなぁ……いきなり手を握ったら、どう思うんだろ……」)
 キュオンはキュオンで苦悩していた。不規則な振り子のように揺れるキュオンの腕を、ニノンはちらりとみやる。
 数センチの距離が、なかなか縮まらない。キュオンが意を決して手を伸ばす。
「あっ……」
 指と指と触れ合う。お互いが指を絡ませようとして、なかなかしっかり握れない。
「ニノン……俺に任せて」
 目線を前から離さずキュオン。ニノンは彼の横顔を見て、彼が緊張しているのに気づいた。
 動きを止めたニノンの指と指の間に、キュオンの指が滑り込む。
「……いこっか」
「うん……いくなぁ〜ん」
 ぎこちなく、二人は歩き出していった。



 時は夕暮れ、練り歩きが始まる。
「あ、ネミンが被せてあげるですよ!」
「は、はい……ありがとう……ございます」
 ロウランに草冠を被せてやるネミン。向こうでもナナが背伸びをして、中腰のリエンへ草冠を被せてやっている。
「師匠……これを」
 ユダは自らが作った花付草冠をアコへ手渡す。
「あら、可愛いじゃない……でも」
 アコは花を一厘抜き取ると、ユダの草冠に突き刺す。
「あらあら、ユダが可愛らしく見えますわ☆」
「…………」
 ユダは、嬉しいような困ったような表情を見せた。
「おう、必死で作った草冠、受け取ってもらえたのか、よかったな」
 そして薄笑いを浮かべて通り過ぎるティキの言葉に、真っ赤になっていた。

 祭りの開始を告げる角笛は辺りに響き渡る。
 松明に火が灯り、一行はゆっくりと歩き出す。

「久しぶりね……冒険者になる前以来」
 手をつなぎ、二人で1つの松明を掲げるスカーレルとリコリス。
「うん、ちょっとドキドキなの〜……あれ〜?」
 リコリスは目を何回かしばたかせる。
「どう……したの?」
「ううん、同じ旅団の人がいた気がしたの〜。気のせいかな〜」

 スカーレル達と同じように、二人で1つの松明を持っていたカップルがいる。クリストとユウだ。
「ば、ばれるかと思った……」
 ユウの胸の中に隠れているクリスト。
「何かばれると、問題があるのですか?」
 クスリと笑みを浮かべるユウの顔を、恨みがましく見上げるクリスト。
「だって、恥ずかしいもの……」
「こうして私に抱きついているのも、十分恥ずかしいと思いますけどね?」
「……もうっ」
 体を離すついでに手も離そうとするクリストだが、それはユウに阻まれる。
「離しませんよ、絶対に」

 他のカップル同様、リエンとナナも手を握る。
「大丈夫? 人が多いから……はぐれないようにね」
「なぁん……ありがとうなぁ〜ん……」
 夕暮れ、松明の照り返しをうけて現れる恋人達の頬は、一様に赤く染まっていた。

 松明を持ち、行軍に参加したイクスは辺りを見回す。
(「祭り用の衣装は……なさそうですね」)
 アクアローズとアスティナが巫女服を着ているのと、ヴィナがセクシーな服を着ている他は、至って普通の服装に見える。一般人も行列に加わっており、楽しそうに街を練り歩いていた。
「こうしていると、冒険者になる前を思い出しますね」
 イクスの横、アカシックは松明を持ち、呟く。
「過去に参加された事が、あるんですか?」
 わりと有名な祭りなので、アカシックが以前に参加した事があってもおかしくはないだろう。
「私の故郷のお祭りと、あんまり変わらないですね」
 エリスも、自分の故郷の祭りとの違いを探していたが、違いは参加者の数位だと感じられた。
「私の先祖がこの祭りに関わっていたらしいですよ。私のファミリーネームがリスアトスなのも―――」
 メイも会話に入ってくる。リスアット談義は、しばらく続いた。

「プルミー、お菓子作ってきたんだけど……」
「今は食べられませんよ〜、行進が終わったらくださいなのです」
「えっと、それじゃ今夜、一緒に踊るのは………」
「ヒースクリフさんにも言われたのですけど……ごめんなさい、私はみんなと踊りたいです」
 プルミエールのそっけない言葉にライルはがっくり肩を落とした。
 粛々と、行列は進んでいく。ほどなくして、行列は広場に到着したのだった。


「ん、っと! 結構燃えるもんだな」
 ヴァイスがしゃがんで薪に火をつけると、火が立ち上った。
「さて……警護してくるか。酒は飲んでも飲まれるなっと」
 立ち上がり、警護に向かおうとしたヴァイスは、ふとその歩を止めて振り返る。
「ん、忘れるところだったな……豊作、頼むぜ神さん」
 そして頭のリスアットを、焚き火へと放り投げた。

「なんだか、勿体無かったですね……草冠」
 ファオは立ち上る炎を見上げ、呟く。
「草冠の形、覚えて刺繍にするんだろ?」
 ボサツはイツキの屋台で買ったメロンパイを口にする。
「いやぁ、こんなに皆が愉しそうな祭って良いじゃないか」
「ん、こういう楽しいのも良いよな」
 シーザーはドリアッドの森から出てきたばかりの新米冒険者。周りの風景が珍しいようだ。
「このメロンパイ美味いなぁ。メロンだけにメロメロだぜ」
「ぶわははははは」
 ボサツのオヤジギャグに爆笑するあたり、なんでも珍しいし面白いのかもしれない。
「あは、は……」
 ファオは引きつった笑いを浮かべながら、改めて炎を見上げる。
 紫色の空に、橙色の揺らめきが映えていた。

「エル、一緒に踊りませんか?」
 シェードは横で火を眺めていたエルへそう切り出す。
「ええ、良いですけど……お酒、あんまり飲まないんですね?」
「そりゃ、エルが傍にいてくれるのが一番幸せですから……」
 頭を掻きながら答えるシェード。エルは、にっこり笑う。
「酔っても、家まで送ってあげますよ、私達二人の家に、ね?」

「「あの―――」」
 一緒に踊りませんか、そう言おうとしたティノアの言葉はエルゼの言葉に阻まれる。
「あっ……其方からどうぞ」
 エルゼに促され、戸惑うティノハ。
「あの、お誘い、ありがとうございました」
 赤面して喋るティノハ。違う。そうだけど、言いたかったのはそんな事ではないのに。
「此方こそ、私などの誘いに応じて頂いて、感謝しても仕切れません」
 エルゼはそこで言葉を切り、姿勢を正す。
「さらに厚かましい願いです、無作法な男ですが……どうか踊って頂けませんか?」
「……はいっ、勿論ですっ!」

 火を眺めるキズカとエイン。
「……一緒に踊らないかい?」
「うん」
 踊り始める二人。マイムマイムのような踊りで、キズカはエインを抱き寄せると、おでこに軽くキスをする。
「遅まきながらキャンディのお礼だよ」
 照れくさそうに言うエインに、キズカはにっこり笑ってみせた。
「これからも、私の面倒見てね〜、エイポン♪」

「うーむ、なるほどのぅ……」
 パンセは焚き火や踊っている恋人達を見て、うむうむと頷く。
「楽しいか?」
 その横でサートは腕組みをする。寂しい口元に、煙草の代わりに飴玉を突っ込んだ。
「うむ……そろそろ祭りも終わりのようじゃが―――」
 サートに向き直ったパンセの体が抱き寄せられる。お互いの唇が触れた。
「ん、むっ……」
 数秒後、口を離してサートが一言。
「んじゃ、帰るかー」
「あっ、えっと……うん」
 頬を朱に染めて、パンセは頷いた。

「ろろ、ろろろ〜」
 ナルの歌声が響くなか、一人で焚き火を見つめる人達もいた。
「みんな、楽しそうですね」
「ああ……」
 ロックは暗い顔でカースに返す。悩んでいるらしい。
「どうか、実りの多い一年でありますように」
 二度拍手を打って拝むラシュア。
「いやそれ、違いますから」
 ねこの散歩がてらにきていたベルウォートは思わずツッコんでいた。
「あ……そうなんですか……」
「あ……そう、だと、思います」
 引っ込み思案の者達が醸し出す沈黙空間。会話など無い。
 ついに、生来明るい性格だったロックは耐え切れなくなった。
「あーもう! なんか元気じゃないか、この中じゃ僕!」
 いきなり叫びだすロックに、驚いたように視線を向けるベルウォートやカース。
「ほら、みんな踊ろうぜ! そこのキミと、キミと、キミと、酒飲んでるキミと、ジュース飲んでるキミも!」
「え、私もですか?」
 座ってジュースを飲んでいたセリアと、ヘシュカも視線を向ける。
「そう、キミも!」
「よろしいのですか? 私のようなものが……」
 戸惑い気味のカース。
「もちろん! 僕が保証する!」
「えと……端っこにいていいのなら」
 背の高さを気にするラシュア。
「端っこでもいい! いくぞー!」
 皆を引っ張って踊りの輪へ向かうロック。
「……強引だなあ、全く」
 そう漏らすベルウォートの顔は、心なしか微笑んでいた。


マスター:蘇我県 紹介ページ
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