【グラスランナー】サムシングフォー 〜6月の花嫁〜 



<オープニング>


「招待状、来たんや♪」
 明朗鑑定の霊査士・ララン(a90125)は、殊の外上機嫌だった。
「うちの知り合いの結婚式やねんけどな」
 ルベリア村は硝子職人の村。秘伝の製法で作られた硝子細工は『ルベリアングラス』と呼ばれ、その繊細な美しさはマニア垂涎の逸品だとかそうでないとか。
 6月の末日、その村で執り行われる慶事。村長の息子であり眼鏡職人のデル・ヴァーンと、最近とある町の資産家の養女となったエルマ・リディ=クウィンリーの結婚式だ。
「結婚式の準備で冒険者の世話になったさかいって……この招待状、皆宛でもあるんやで」
 折角の好き日。祝福は多い程、その喜びも大きい。
「ご馳走もよぅけ出るみたいやしな、余興があっても楽しいやろ……祝い事は大勢の方がええ。皆も一緒に、どないやろか?」
 ドレス、新調せななぁ――ヒラヒラと美しいカードを振りながら、楽しそうに思案するラランだった。

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参加者
NPC:明朗鑑定の霊査士・ララン(a90125)



<リプレイ>

「すみません、ラランさん」
「ええよ、うちもついでやし」
 来る結婚式の数日前。明朗鑑定の霊査士・ララン(a90125)は、ヒリヨと町中を歩いていた。
 ラランは注文していたドレスを取りに。ヒリヨは結婚祝いを求めて。
「前に作って貰ったドレスは、最初に着る時が決まってるんだー。だから♪」
「はいはい。こっちのラベンダーのドレスで良いわね?」
 テティスの店には既に先客がいた。ふんわりしたドレスを抱き締めて、ルシエラはニコニコと満面の笑み。
「エルマさんの結婚式、テティスさんも、おめでとうだねー」
「そうね。親友の結婚式はやっぱり嬉しいし、ドレスがあたしの作品だっていうのも幸せだわ」
 婚礼を彩るサムシングフォー――借りたものは、親友のウェディングドレス。
「あら、ヒリヨさん……それにラランさんも。その節は、お世話様」
「こちらこそ。戴いた礼服は、今度の結婚式で着ようと思っています」
「うちのドレスも、出来とるやろか?」
 アクアグリーンのドレスを受け取って、次は雑貨屋さんに。
「日頃から使える方が良さそうですけど……記念にもなる物となると、難しいですね」
「せやなぁ……」
 ああでもないこうでもないと探す事暫し。
「……そういえば、デルさんは仕入れで遠出する事も多いですよね」
 それで選んだのはレターセット。便りがあれば留守を守る新妻も安心だろうから。
(「それに、新婚の想い出は後から見ると……」)
 真っ白な便箋を手にとって、ヒリヨは悪戯っぽく微笑んだ。

 婚礼前夜――ルベリア村、村長宅。
「決戦はいよいよ明日! だがしかし、デルさんとエルマさんの結婚式はただの式では最早足りない!」
 ……異様に熱いオーラを背負って、熱弁を奮うのが約1名。
「そう! 精一杯の眼鏡結婚式を! デルさん、今こそご決断をぉぉっ!」
「は、はぁ……」
 ずずいっとコロクルに迫られ、当の本人は珍しく冷や汗。
「僕はそれでも良いですけど……」
「よっしゃ! 善は急げ、早速――!」
「今回は、エルマさんがルベリア村伝統の式を楽しみにしてますので」
「…………さ、さよか」
 ふにゃら〜と幸せそうなデルの至言に、さしものコロクルも二の句も告げず撃沈のようだ。
「実は……この村に行くと話したら、『これの寄贈を頼む』と泣いて頼まれまして」
「はぁ……」
 一方、唖然とした面持ちの村長にずずいっと差し出されたのは、1体の女神像。そのあどけない面は……やはり眼鏡を掛けていたり。
「捨てると罰が当たりそうですし、インテリア代わりにどうぞ」
 結婚のお祝いです、なんて。ソルティークは至って爽快な笑顔。
「……こんなの、誰が作るの?」
「贈り主ですか? ……ははは、ただの顔見知りですって」
 笑顔は変わらないが、目を逸らすソルティーク。寧ろ業の深ささえ窺えそうな、精巧な『眼鏡っ娘女神像』にデルの妹は呆れ顔だけど。
「おおっ、これは見事ですね! ありがとうございますっ!」
 ……まあ、当の本人が素直に喜んだのだから良しとしよう。

 婚礼当日――早朝の某旅団にて。
「おはよう、ターン」
「あ、ああ……」
 コツコツとガラスを叩く音に窓を開ければ、ユウの笑顔。ダークスーツに藍色のネクタイが決まっている。
「では、参りましょうか? 可愛いお姫様」
「ゆ、ユウ……」
 実は初の結婚式参列で少し緊張気味のターンだったが、言外の褒め言葉に思わず頬を染める。
 他の団員に気付かれるのも照れ臭いから、窓からこっそりと……赤薔薇の刺繍が鮮やかな白いドレスが汚れぬようお姫様抱っこ。そのままノソリン車でルベリア村へ。
「……遅い」
「まあまあ。結婚式、楽しみですね」
 ノンビリした歩みに文句を言うターンだが、ユウの方は楽しそう。
 結局、婚礼の直前で駆け込む羽目になるのだけど……これもまた、幸せな一幕。

「ふーん。冒険者と縁のあった経緯の末の結婚式なんだな」
「色々ばたばたしたけどね。こうして幸せな形で実を結んで、冒険者甲斐があるっていうのかなぁ」
 一足早く式場の広場を初夏の花で飾付け。ティキを手伝いながら、ミルッヒはシミジミと。
「素敵な結婚式を迎えられて良かった。是非とも祝わねば」
「そうだね、僕も関わった人が幸せなのは嬉しいよ」
 ユダとカルフェアも同じく頷き合っている。
「エルマさん、おめでとう♪」
「ありがとうございます」
 式の直前、シルルのお祝いにエルマははにかんだ笑みを浮かべた。
 清楚なウェディングドレス、頭上に輝くのは見事なルベリアンクリスタルのティアラ。そして、花嫁の笑顔に1番映えるのは純白のベール。
 婚礼を彩るサムシングフォー――新しいものは、花嫁手製のレースを飾ったウェディングベール。
「その、ね……」
 幸せそうな顔を眩しげに見詰めて、シルルは少し言いよどむ。
「エルマさんの依頼を受けたお陰で……私にとって、大切な出来事が沢山沢山起きたの」
「……まあ、おめでとうございます」
 彼からのプロポーズはまだ誰にも秘密。でも、エルマにはお礼を言いたかったから……こっそりの内緒話に、お祝いの返答。シルルもまた照れ臭そうに笑み零れる。
「だから、ありがとう……幸せになってね」

 ――結婚式の始まりは、賑やかな歓声に満ちて。
 バージンロードは晴天の下。村外れから誓いを上げる祠まで、掃き清められた道を新郎新婦が粛々と歩く。
 集まった村人達は、誰もが新たな門出を祝う晴れ着。これからの2人の道行きを祝福して、口々の祝いの言葉がまるでシャワーのように降り注ぐ。
「おめでとう!」
「幸せにね!!」
 一際大きな声は、ユダ達冒険者の一角から。サムシングフォーの依頼に関わった冒険者達は、声を揃えて祝福する。
(「お祝い事は大勢で賑やかに……同感です」)
 微笑ましい光景に、思わず目を細めるファオ。セリアは、少し気後れした面持ちでバージンロードを見守っている。
(「何だか、結婚の準備が色々と大変だったらしいけど……無事に結婚出来て良かった」)
 だから、出来る限りのお祝いを。おめでとうの気持ちを込めた寿ぎの拍手が、更なる彩りを添えている。
「あ……」
 笑顔で祝福に応えていた新郎新婦は、思わず足を止めて空を仰ぎ見た。
(「やはり、幸せなのが……1番ですね」)
 紙吹雪が初夏の風に乗る。屋根の上から降り注ぐ真っ白のシャワーは、リューナからの心尽くし。
(「お嫁さんって幸せそうだよね。溢れてる嬉しい気持ちを、周りから一杯貰うからかなぁ」)
「わーい、お祝いお祝い♪」
「おめでとうなぁ〜〜ん」
 次いで色とりどりの花弁が舞う。シルルが用意した清めの花を、ルシエラと並んで撒くサチ。
 結婚式については色々勉強してきた。本当は、花嫁のベールを持つ役がしたかったけれど……外を歩くのでベールもそんなに長くはなくて。代わりに、一杯の笑顔でお祝いする。
「キレイなぁ〜ん♪」
「あ、ああ……そうだな。お二人ともお幸せに」
 同じく花弁を分けて貰ったリリルもターンにお裾分け。花嫁に見惚れて花を撒く彼女に、ユウがこっそり耳打ちする。
「(ターンのウエディングドレス姿も、きっと綺麗でしょうね)」
「なっ……!?」
 思わず振り返った彼女の唇へすかさずキス……そこから先は、また別のお話。

 何もなければそれで良し。けれど、残した懸念は確かにある。
(「無事、全部揃たんはええけど……やっぱり指輪の時の『胡散臭い金髪の兄ちゃん』とやらが気になるなぁ」)
 もし、その輩が何か仕掛けでもしたら……ティートは念には念を入れて、周囲に気を配っていた。
(「……あれ?」)
 ふと気になったのは、バージンロードから少し離れた長老杉の影。こちらに来るでもない人影が1つ、どうやら祝福の光景を見ているらしい。
「おやおや。式にはそぐわぬ格好……でもないようですが、貴方はどなたです?」
 駆け寄ろうとしたティートより先に声を掛けたソルティークは、あくまでにこやか。やはり自主的に警戒していたようで、仕込み杖を油断なく構えている。
「単なる通りすがりですよ。おめでたい事があったようですね」
 対する男の方も笑みを浮かべたまま。八の字髭と金縁のモノクルが成金趣味だが、仕立てのよい上下は如何にも資産家の様相だ。
「こんなトコで見とるんやったら、いっそ参列したらどないや? 振る舞い酒も出るらしいで」
「いえ、私も商用の途中ですから。これで失礼させて戴きます……とても、残念ですが」
 如才なく一礼して、男は踵を返す。堂々と重僕を従えた足取りに、何ら後ろ暗い所は見られなかったが。
「金髪やったな、あのにーさん」
「ええ、それに通りすがりは嘘でしょう」
 ティートの呟きに、肩を竦めるソルティーク。
「何というか、恨み節の篭った目で、睨み付けていましたからねぇ」
「げ、マジかいな」
 ともあれ、折角の晴れの門出を無事に終える事が先決。
 どちらからともなく頷き合い、再び見回りを始める2人だった。

「健やかなる時も、病める時も。富める時も貧しき時も。私、デル・ヴァーンは、エルマ・リディ=クウィンリーを生涯の伴侶として信じ合い、愛しみ、共に手を取り合って歩み続ける事を、ここに誓います」
 誓言の声は淀みなく、けれど緊張でやや硬い。デルの真剣な面持ちを見上げ、エルマはふと穏やかに微笑む。
「健やかなる時も、病める時も。富める時も貧しき時も。私、エルマ・リディ=クウィンリーは――」
 古びた小さな祠の前で。交わされた指輪は、婚礼を彩るサムシングフォー――エルマ自身、もう自分には無縁と思っていた家族の温もり、古いもの。
(「あ……そう言えば、侍従さんと養父さんはどうなったのかな?」)
 ふと気になったのは指輪の依頼の顛末。首を巡らしエルマの養父を探すミルッヒ。目が合ったのは老紳士にひっそり付き添う侍従の方で、感謝の面持ちで深々と頭を下げてきた。
(「そっか。聞くのも野暮、だよねぇ」)
 ミルッヒがホッとする間にも誓いの儀式は続いている。
「――ここに、誓います」
 見交わす眼鏡越しの視線は共に温かい。誓いの口づけは額と両頬、村の伝統に則って慎ましやかに。
「素敵だなぁ。実に、素敵だ……デルさん、エルマさん。ナァイス、メガネ」
 感極まったコロクル最大の祝福は、幸い(?)誰の耳に入る事もなく。
「……汝らの未来に、運命の祝福があらん事を」
 (祭司役の長老がぎっくり腰で、急遽代役になったらしい)ヒカリの宣言を以って、ここに一組の夫婦が誕生した。

 無事、誓いの儀式が終われば披露宴。祝いの品が美しく飾られた村の広場に、次々と御馳走が運び込まれる。
「……やはり硝子の品が多いですね」
 じっくりと祝いの品を眺めるリューナ。繊細な硝子の置物や花瓶に混じって、コロクルからの眼鏡やサチお手製の腕輪、ヒリヨのレターセットも並んでいる。
「ま、何してもおめでとさん、だな」
 祝いの言葉もそこそこに、ティキは早速ただ飯に取り掛かる。
「後4、5年か。俺が、結婚できるのは……ふわぁぁぁ」
 儀式の間は出来るだけ我慢していたクーラは、とうとう大欠伸。
「一緒に来たかったなぁ」
 突然欠席になってしまった恋人を思うと、周囲が薔薇色の空気だけについつい寂しさも覚えてしまう。
(「いいなぁ。僕もいつか……」)
 ご馳走を頬張りながら、カルフェアが思い浮かべるのもいつかの自分。
(「花嫁さんが綺麗……やっぱり結婚って憧れるよね」)
 そんな賑々しい光景を、セリアはぼんやり眺めている。
(「……あ、でも相手が居ないと駄目か。多分、私は無理なんだろうな……まあ、結婚だけが人生じゃないよね」)
 何となく自己完結の方向に行ってしまいそうな……。
「如何ですか? オレンジジュースですけど」
「あ……いただきます」
 グラスを差し出したネイネージュは、同様にぼんやりした眼差しで周りを見回した。
「いいですね。幸せな笑顔を見るのは」
「うん……」
 お互い言葉少なに静かにジュースをすする、そんな縁側じみた雰囲気はさて置いて。
「デルさん、2人の前途と眼鏡に幸あれや!」
「ありがとうございますっ!」
 コロクルと熱い友情の握手しているデルの隣では、エルマに次々と祝いの言葉が寄せられる。
「おめでとうございます、エルマさん。新しい家族が増えるのって、とても素敵な事ですよね?」
 ピンクのフレアドレスを着たクウェルは、生真面目な面持ちで会釈した。
「社会の基本は家庭からと言いますが、家族皆が笑顔だと自然と周りも幸せになりますよね? 私達冒険者も、そういった方のお手伝いが出来ていたら良いのですけど……」
「私には難しい事はよく判りませんけど……今、私がここにいるのは、冒険者さんのお陰と思っています」
 ユダ達男性陣に胴上げされている夫を見詰める、エルマの横顔に曇りはない。
「御結婚おめでとうございますなぁ〜ん☆ 2人ともとっても幸せそうなぁ〜ん♪」
 景気づけにフォーチュンフィールドを広げて、元気一杯にお祝いするナナのドレス姿も愛らしい。
(「結婚式、羨ましいなぁ〜ん。ナナもいつか……」)
 やっぱり女の子が思い描く幸せは、いつかの晴れ姿。でも、ファオにとっての1番の幸せは。
(「皆さんが幸せだと私も嬉しいので……うん、1番は皆さんの幸せですね。勝手な自己満足とも思いますけど」)
 寄り添う新郎新婦の笑顔で改めて自覚した事。それは、ファオが冒険者となった1番の理由かもしれない。
「4つの何かを集められた努力や機転があれば、この先もきっと幸せを積み重ねていけると思うの。おめでとう、エルマちゃん♪」
「はい、ありがとうございます」
 ミルッヒのホーリーライトに照らされて、頭を下げたエルマは心底幸せそうな笑顔だった。

 宴の最後は、いよいよお待ち兼ねのブーケトス。
 宴の間、エルマが大事に持っていたブーケには氷結の花――婚礼を彩るサムシングフォー、愛らしく咲く青いもの。
「……次の祝福があらん事を」
「そうですね、誰が受けてるんでしょうね?」
 ヒカリやファオのように応援に回る娘さん方がいる一方で。
「ま、大人げない事はしない程度に、で」
「男が参加しちゃいけないなんて決まり無いもーん。ブーケ欲しいもーん」
 なんて、ユダやクーラ、ユウが女性陣に混じってワクワクと楽しそう。
「せーのっ!」
 皆の掛け声で、後ろ向きの肩越しにエルマは高々とブーケを投げる。
「げっ!?」
 何の悪戯か飛んできたブーケを、ティキはケーキ皿片手にトス返し。
「へっ!?」
「やったぁ!!」
 ラランを越えて綺麗な放物線を描いたブーケは、ルシエラの腕に見事に収まる。
「それじゃあ、つたない腕ですが今日という祝うべき日の、そしてその祝うべき2人の為に、歌わせて戴きます!」
 カルフェアの愛の歌に、いつしか皆の歌声も加わって――初夏の日差しがキラキラと眩い硝子細工の村に、幸せ寿ぐ合唱が賑やかに響き渡った。


マスター:柊透胡 紹介ページ
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