【四人のメダル】大切なものはあなた



<オープニング>


「やっとここまで来ましたよ」
 よく陽に焼けた男は、そう言って白い歯を見せた。
「マルセロ」とグレンは呼びかけた。「あんたはこいつの面倒も見てきたんだから、なおさら大変だったね。ごくろうさま」
 唇をとがらせて、グレンへ詰め寄ろうとしたファリノス少年だったが、男たちの合間で小さな肩を震わせるグウェンの笑顔を見て、すぐに自身も微笑んだ。
 冒険者の酒場に置かれたテーブル、その隅に置かれた椅子で背を伸ばし、薄明の霊査士・ベベウもまた、こっそりと口元を綻ばせていた。
 
――マインバーグ、焔が栄え、煙を燻らす地――
 
 ベベウは重ねられた四枚の金細工に託されていた、ファリノスたちの祖先からのメッセージを、静かな声で繰り返した。
「マインバーグ、焔が栄え、煙を燻らす地……このような地名に、何か心当たりはおありですか?」
 グレンは麻布で仕立てられた上質な上着――彼は一族の残された財を受け継ぐ人物であり、他の三名は彼の館で暮らしているのである――を背もたれに預けると、腕組みをして口を開いた。
「そんな町の名前は、聞いたことないな」
 ファリノスがこぼした菓子の欠片を、分厚い手の平でかき集めていたマルセロが、はっと顔をあげた。
「そういえば、旧い呼び名がそうだったか」
 香ばしいバターの香がする菓子がお気に入りなのか、もごもごと頬をふくらませたファリノスが、激しい咀嚼の末に言う。
「心当たりがあるんだったら、もったいぶらないで教えて!」
 少年の口元についた破片をハンカチで払うグウェンは、頭を抱えるマルセロに言った。
「もしかして……それは、地下に坑道のある町ではありませんか? 亡くなった父が、わたしたちの祖先は鉱脈をさぐりあてるのが上手いと話してくれたことがありました」
 ベベウは眉宇を歪め、グレンは目を見開き、グウェンは口元を押さえ、ファリノスは飛び上がって言った。
「マルセロ! 驚かさないでよ」
 弾けるように立ち上がった男は、「そうだ! そうだったんだ!」と叫んでいた。
 
 それから、数日のちのこと。
 ベベウは集まった冒険者たちに、ファリノス少年がはじめた冒険、その最後の時がやって来たのだと言った。赴くべき場所は、かつてマルセロが鍛冶屋を営んでいた集落であり、旧くは『マインバーグ』と呼ばれていた。黒髪の霊査士は説明した。
「まずは、すでに誰も立ち入らなくなった古の坑道へ、固い岩の扉を打ち砕いて足を踏み入れねばなりません。霊視によれば……厚い扉が、幾重にも重ねられているようですね」
 瞬きをしたベベウの双眸には、灰色の落ち着いた光が湛えられている。
「次に、鉱脈の奥へと慎重に足を運んでください。複雑に入り組んだ道です、分かれ道や行き止まりがあるでしょう。それだけではありません、所々に大きな断層があるはずです。どうやって飛び越えるか、手立てが必要でしょうね」
 組んでいた腕を解き放って、ベベウは視線に宿らせた力を高めた。
「そうして、皆さんは最後の関門へと達しているはずです。入り口と同じように幾重にも立てられた岩の扉があり、小さな穴がくり貫かれている……冷たい空気が通り抜けて……直径は……そう、これくらいでしょうか」
 ベベウは固く閉じた自身の指先を宙に掲げた。
「もし、光の穴の向こうへと行き届かせることができるのならば、奥に広がった空間、その最深部に赤い石が見えるはずです。それを打ち砕いてください。ただそ、条件があります、そこへ歩いて近づいてしまっては危険なようなのです。理由はわかりませんが……。遠距離から、何らかの方法で行うようにしてください」
 考え込んだようで瞳を伏せる、天水の清かなる伴侶・ヴィルジニーに、静かに微笑みかけると、ベベウは言った。
「それでは、ファリノス、マルセロ、グレン、グウェンの皆さん方を、坑道の奥深くへとエスコートする任務、あなた方にお願いいたしますね」
 エンジェルの少女は立ち上がって言った。
「最後だしな、がんばってくるぞ」

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参加者
風色の灰猫・シェイキクス(a00223)
明告の風・ヒース(a00692)
ニュー・ダグラス(a02103)
ねこまっしぐら・ユギ(a04644)
闇夜の夢見師・ルシア(a10548)
闇夜を護る月の刃・カルト(a11886)
熊殺し・ミーナ(a13698)
白の預言者・ティナ(a13994)
紫空の凪・ヴィアド(a14768)
聖骸探索者・ルミリア(a18506)
闘姫・ユイリ(a20340)
牙狩人の娘っこ・シラユミ(a27064)
NPC:天水の清かなる伴侶・ヴィルジニー(a90186)



<リプレイ>

 深い紺の外衣を羽織り、それをあまりはためかせもせずに、ニュー・ダグラス(a02103)は、仲間の背後に歩み寄った。
「どうだ? 準備は」
「この通り、だよ」
 明告の風・ヒース(a00692)は膝の上でとぐろを巻く、少女の拳大はあろうかという結び目をダグラスに掲げて見せた。細腕に力を込めて、いーと口を結んでいた天水の清かなる伴侶・ヴィルジニーは、できあがった縄梯子を満足そうに眺め、ダグラスに言った。
「そっちはどうなの?」
「ん?」ダグラスは背に追う荷を、半身になって披露した。「ロープにカンテラ、チョビ……は違ぇ、鉄兜も人数分用意してあるぜ」
 ファリノスたち四名の、円盤状の古き金細工によって結びつけられた一族は、朝の陽の、泡沫のような淡い木漏れ日を浴びて、その綻ぶ笑顔をさらに優しいものとしている。彼らを、少し離れたところで見やり、闇夜の夢見師・ルシア(a10548)はつぶらな唇から、かすかなささやきをこぼした。
「皆ともこれでお別れかと思うと寂しいですね……」
 ……笑ってウソつくのにも、少うし疲れてるのかな……。
 ルシアは首を振った。重たい気持ちを払い、赤みがかった茶色の髪を揺らす。そんな彼女のことを、蒼き月光の守人・カルト(a11886)は物言わず見守っていたが、やがて口を開いた。
「後はメダルが伝える場所へ行くのみ……ファリノスさんたちに挨拶に行こうよ。最後までお付き合いさせてもらいますね、って」
「しっかり護衛致しますから、ご安心為さって下さい」
 白亜に朱の混じった衣をまとい、千糸万紅・シラユミ(a27064)はそう言って礼儀正しい仕草を見せた。ファリノスは、ダグラスの鉄兜をかぶったまま頭をさげ、危うく爪先に落としかけた。
 
「祖先は鉱脈を探り当てるのがうまかった……ってか」
 強い午前の陽射しを浴び、灰の髪を限りなく白に近くした、風色の灰猫・シェイキクス(a00223)は、目前の石壁とその脇にある岩壁とを比べてみた。指先から伝う滑らかさが異なっていた。同じ場所にありながら、質が違う。
「はるかな過去の遺産がここに隠されているのですか〜なんだかロマンチックですわね〜」
 世界の神秘を求めるもの・ルミリア(a18506)は奇妙な形状をした、臙脂の炎のような仮面を両手で支えながら、まじまじと濃淡に差のある、苔の階調を見つめた。
 ……大いなる幸せを得るだろう、ですか……なんだか変わった言い回しですわね……。
「先祖さん、いつか子孫が集うような仕掛け作って粋なことをするもんやね」
 紫空の凪・ヴィアド(a14768)は振り返って、こちらへと駆けてくるファリノス少年の顔を見た。水をはねあげながらやって来た彼は、顔中を笑顔でいっぱいにして、岩壁に両手を広げた。
 この奥に、これまで探し求めてきた何かが待っている。
 
 
「ここで、間違いありませんのね? マルセロさん」
 熊殺し・ミーナ(a13698)は確認を取ると、ファリノスに岩から離れるように告げた。すう、と引かれた拳が迷いなくまっすぐに打ち込まれる。
「慎重に慎重にっ、行くよっ!」
 ペトルンカムイの薄く透き通った刀身を天高く突き上げ、闘姫・ユイリ(a20340)は口元から白い八重歯をのぞかせながら、気合いの声を発した。大地をも断つ斬撃を浴びせられた岩壁には、黒い亀裂が生じる。それは、地中にはびこる樹木の根のように浮かび上がった。
 拳が打ち込まれ、剣戟から響く音に、ルシアは小さな肩を狭めたり、踵を浮べて飛び跳ねたりしている。
「がんばって〜」
「ありがとう、るーちゃん」
 ルシアからの声援を受けて振り上げられたミーナの拳が、抉りこむように叩きつけられる。ユイリはミーナと視線を交わし、ほぼ同時の後方へと飛去った。岩壁の上部がもげるように落ちて、残された部分は左右に別れて転倒した。
 大きく口を開いた闇から、冷えきった空気が流れてきた。
「あ……なんでもないすよ」カルトを見つめていたルシアは、少年の瞳にどぎまぎして、慌てて言葉を継いだ。「えーと、カルトくん治ったばっかなんだから、また怪我したりするなよっ」
 ダグラスはグレンたち四名に注意を促していた。
「この中にはアンデッドがいる。古い坑道だ、崩落の危険だってある。だが、俺たちが必ず守るから、闇雲に逃げず、指示に従い、落ち着いて動いてくれ」
 真剣に首肯くファリノスとグウェンに、ヒースは振り返って言った。
「しっかり尻尾握って着いて来て下さい?」伸ばされた四つの手が、ふさふさとした狐の尾を握りしめる。「あだだ……それは痛いです」
 ヒースの後方を続くファリノスたちの姿を見ていると、ねこうさの霊査士・ユギ(a04644)はなんともいえない気分になるのだった。ひとりぼっちだったファリノスは、今やグウェンと微笑み合いながらヒースの尾を握ったり引っ張ったりして楽しそうにしている。すぐ側には、マルセロとグレンだっている。元気になってよかった、と心から思う。けれど、一抹の寂しさが胸の裡に息苦しさを留めている。
 ……ファリノスくんたちといろいろやるのは最後になるのだよね、ちと寂しいな。
 
 シェイキクスの口元がにんまりと裂けて、白い歯がのぞいた。ヴィルジニーはしゃがみこんだ彼の隣にそっと寄り添う。腕をすり合わせながら、彼女はシェイキクスが見つめるものに、じいっと水色の瞳を傾けた。
「なんなの?」
「痕跡さ、ヴィルジニー。これがありゃ、道標になる。誰かが通った証ってね」 
「すべったら、だめなのよ」
 白の預言者・ティナ(a13994)は先を急ごうと焦るファリノスの手を優しく掴んで言った。足元が危ういだけではない、暗闇の先に何が待ち受けているのか、定かではなく安全とはいえないからだった。
「これ、持っといてな」
 ヴィアドは指先で銀細工を回転させた。ティナが受け取ったのは、銀嶺の笛だった。
「うや……やっぱり暗いねぇ」ユイリは肩をすぼめていたが、カンテラをかざして皆に言う。「じゃね、あたしたちが先に行って、安全かどうか調べてくるね」
 頂点から底部に到るまで、彩り豊かな光がちりばめられたスタッフを手に、ルミリアもヴィアドたちに続いて、黒い隘路へと足を進めた。手をぶんぶんと振り回して、ユギは棒で床をこづきながら歩いた。
「これでええやろ」
 一蛉挽歌の薄い刃でひるがえされ、ヴィアドは岩肌に弧状の傷を浮べた。分岐点で迷わぬためである。
 彼らが歩みを進めた先に、カンテラの灯でも、アビリティによる輝きでも消えない、濃い闇が現れた。饐えた空気が重苦しさを増し、灰色の布きれの合間から白い骨の肌を晒す何者かが迫っていた。
 高く笛を二度吹き鳴らし、ユギはクサリヒメによって搦め捕られた両腕を、闇から這い出た者共へ差し伸べた。指先から煌めく放射状の糸が伸び、死者たちを包み込む。そこへ、身体を落とした姿勢からヴィアドが瞬秒の跳躍で迫る。幽けき無数の薔薇を浮べた彼の前で、剣戟を浴びた死者が次々散る。
「先にはいかせないよっ!」
 水晶の剣を、ユイリは顔の前に垂直に立て、小刻みな足の運びから懐へと飛び込み、袈裟斬りの一撃を浴びせた。肩から腰にかけて、斜に両断された死者はそのまま形を失って崩れ落ちる。
 聖なる光を湛える槍を頭上に浮べ、ルミリアは言った。
「援護します」
 笛の音に気づいたティナたちは、ファリノスらを護るべくその場に留まっていた。前方の薄暗闇に、風の吹き抜ける後方に、気を張り巡らせる。
 シャウラ・タラゼドに青く激しい光が灯った。シェイキクスは片目を閉じて、弓を頭上へと掲げている。
「堕ちやがれ!」
 苛烈な光の帯を引いて飛んだ矢は、天井に張り付いていた死者の身体を射貫いた。串刺しにされた死者は、目を丸くするファリノスの足元に落ち、指先を繋ぎ止めていた力を失うと、二百六の骨の塊へと変わったのだった。
 
 ヒースが投じた松明の炎が光る谷底へ、水晶の塊が向かった。蠢く影や、屍衣がはためく姿はない。透けた肌にぬめるような光を湛えた水晶の身体が、谷の縁で身体を起こすと、座していたダグラスも立ち上がって瞳を開いた。
 両手にアビリティの糸を絡みつかせたユギは、「じゃね」と言うなり谷底へと飛び降りた。しばらくして、彼女の踵が谷底に降り立った軽やかな音が響いた。カンテラを腰にさげたユギの岩壁に這う姿が、向こう岸に浮かび上がり、彼女は手を振った。
「大丈夫だよっ!」
「ほな、気ぃつけていこか」
 ゆだんなく辺りへ視線を配るヴィアドに小さく首肯くと、ティナとルミリアは空に浮かぶ生物を召喚した。暗くて坑道の奥深くから、ゆらゆらと風に吹かれるようなシルエットがのんびりと流れてくる。
「乗っていいの? すごいな〜」
 もちろんですわ、と答えたルミリアもファリノスにつられ笑顔を浮べてしまう。向こう岸までの距離はあまりなく、すぐに訪れたフワリンとの別れを惜しんでいたファリノスだったが、大人びた仕草で首を横に振ると、暗い前方を真摯な眼差しで見やった。
 そんな彼の肩や、振り返ってマルセロを見た瞳の光に、想いを強くするティナであった。
 ……奥には何があるのかな? きっとね大切なものなのね。お金かもしれないけど、みんな集まったのも大事なことよ。みんなで幸せになるのはむずかしいことなの。でも、みんなで幸せになれたら、本当に幸せ物語はハッピーエンドが素敵なの。
 
 
「指一つ触れさせない」
 漆黒の鞘から刻みの銀を引き抜き、カルトは黒衣を切り裂いた。
「アンデッド……この様な場所で出てこられると臭くて嫌でございますね……早めに始末致しましょう」
 シラユミの白い指先が掴む光を帯びた矢羽根が、弦の震えに弾かれ闇へと向かう。ファリノスたちを背に負いながら、ミーナは足元に広がる亀裂から這い出てきた死者へ、強く固めた拳を叩きつけた。頭蓋が砕け、上体を傾かせたが、敵はまだ身体を蠢かせる。
「絶対無事にえすこーとしてみせるです!」
 巡浄華鎌が空を切り裂いた。ルシアの青い瞳が、虚空に浮かび上がった紋章からの目映い光を受けて細められる。黄金の輝きがあふれかえり、幾多の線条となって死者の身に吹きつけられていく。
 天井からぼたぼたと死体が落ちる鈍い音が続いた。ハートのステッキが空に弧を描いた。かよわげなティナの小さな身体から仄かな光が立ち昇り、輝きは波打つその裾野を揺らめかせ、死者と戦う仲間たちの身体を包み込む。
 レッドオーブから拡散した光は、傾いたまま宙に静止する紋章となった。ダグラスが解き放った光の雨は、次々と死者の身体を打ち据え、灰色の襤褸と白色の欠片へと変えた。
「最後なんですね」
 言葉を紡いだのはヒースだった。彼の指先から放たれた弓は、光の糸を引いて坑道のうねる壁面に沿い、緩やかな弧を描いて飛んだ。 
 
 ルミリアが頭上に冠した光の輪からもたらされた白光は、目前にそびえる灰褐色の岩壁に穿たれた小さな穴を抜けて、その奥に届いた。
「おまじないだよ」
 そう言ってユギは足元に仄かな光を漂わせる。
 ファリノスたちは辿り着いていた。最後の障壁となる壁、針の穴、暗闇が続く空間を渡った先にほんのりと色づく赤い石のある場所に。
「石を砕いたら、何が起こるでしょか……はう、凄くどきどきです! きっときっと、いいこと、ですよねっ! 」
 指先に銀の輪を煌めかせて、ルシアは祈るような眼差しを岩の戸に注ぐ。
「行きますよ」
 耳元にまで引き絞られた光の矢羽根が、ヒースの頬から去っていった。小さな穴に吸い込まれるようにして消えた矢は、小さな音を響かせた。
「次は俺か? やってやろうじゃん」
 シェイキクスは青い光を湛えた弓を紡ぎ、シャウラ・タラゼドにつがえた。矢羽根から柄、矢尻と自らの指先へと視線を移し、彼は小さな穴の裡にかすかな赤を感じ取った――飛来した矢は亀裂の生じていた赤い石に突き刺さり、その亀裂は周縁へと広がっていく。
 地響きがした。まず行く手を遮っていた穴の開いた岩壁が向こう側へと倒れ、次々と崩れ落ちていく足場と一緒に奈落へと向かった。縦穴が隠されていたのである。さらに、赤い石が支えていた隘路の天井が崩落をはじめた。
 乱れ飛んだ粉塵が薄まった頃、一行が目にしたのは、崩れ落ちた天井によって作られた、波打つ道であった。
 
 
「いよいよ伝説の大冒険者が集めたと言う宝物とご対面ですわね〜」
 冗談を口にしながらも、ルミリアは波打つ道の奥で見つけられた、湧き水が湛えられた小さな泉から目を離せずにいた。澄んだ水は硝子の表面のように、冷たい光を放っている。シラユミが静かに言う。
「これで目的は果たせたわけでございますね。お疲れ様です」
「わくわくするね」
 ユイリが呟くと、真面目な顔をしたファリノスは深々と首肯いた。グウェンに手を引かれて、少年は一族たちと泉の前に立った。
 ファリノスの手が泉の底をさぐった。けれど、何も見つからない。掻き乱された水面に、少年の指先から滴った粒がぽたぽたと落ちる。壁面に指先を這わせていたグレンが、皆に言った。
「光を消して貰えますか?」
 完全なる闇にグレンが手にしたカンテラの灯だけが浮かび上がる。彼はそれを、泉の縁に残された灰の跡に重ねた。輝きが水面を渡り、静まったその表面は、磨き上げられた鏡のように、のぞくものの姿を正確に写し取った。
 ――泉に浮かんでいたのは、凛としたグレンの顔、気力を取り戻したマルセロの顔、優しさを綻ばせるグウェンの顔、そして、自信に満ちたファリノスの顔、それらが頬を寄せる姿であった。
 彼らは何物も得なかった。
 けれど、何がもっとも大切でかけがえのないものであるのか、何よりも失いたくないものがあるのだということを知っていた。
 ……四人はこれから幸せになれるの。そう想うと、ティナは嬉しくてたまらなかった。
 ファリノスと一緒に泉の水をすくい、壁に散らしながら、シェイキクスは言う。
「メダルの子孫に幸あれ、ってな」
「帰ったら宴会しよぉぜ、ファリノス」
 口元から白い歯をこぼして、ダグラスは少年の肩を抱いた。以前よりも力強く大きくなっているような気がした。
「幸せになってくださいね」
 そう言って握った少年の手の平は、ひんやりと冷たいが、心強いものだとヒースは感じたのだった。
 
 かくして、金のメダルによって導かれた人々は、硝子の水面からの光と、困難を共にした友人たちからの祝福を浴び、新たな家族となった。
 愛する者を失い、生に横溢する暗闇を彷徨っていた彼らは、もう孤独ではない。
 その後、グレンはグウェンに求婚して認められた。マルセロは小さな店を開いて職人としての腕をふるっている。ファリノスは旅に出ることにしたようだ。次の春には『僕たちの家』に帰る、笑顔でそう誓ったということである。


マスター:水原曜 紹介ページ
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