星祭り・満天星の咲く泉



     


<オープニング>


「満天星を見に行くの……」
 何処へ行くのか、と声を掛けられた蒼荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)は相変わらずのぼんやりとした風情で返す。ひとりで行かせれば迷子になって行き倒れしかねない気もするが、大丈夫なのだろうか。
 にしても彼女が告げた「ドウダンツツジ」なるものは余り聞き覚えの無いものだった。何のことかと尋ねると、彼女は「星祭りを知っているかしら」と逆に問い返してくる。

 昔、神様と恋をした女性が居たのだと言う。
 一年に一度、この日のみは戻ってくると言う約束を信じ、女性は毎年、唯只管に待っていた。神様は確かに約束通り、毎年七月の七日の夜に彼女の元を訪れたそうだ。
 けれどある年、彼女の元を訪れた神様は、既に女性が死んでいることを知らされる。愛しい人の命が潰えたことを神様は嘆き悲しんで、ひとしずくの涙を零したのだと言う。
 其の涙が地上に咲く星になり、今もとある泉の周りで咲き続けているのだ、と。そんな話があると霊査士は言った。

「伝承を信じる、信じないは自由だと思うわ……」
 けれど満天星に囲まれた其の泉はとても綺麗な場所なのだ、と彼女は瞳を細めて言った。真っ白い鈴蘭にも似た可憐な花は、ほんの僅か薄紅に彩られ、月明かりの中、大層美しく風に揺れる。
 大きな丘に咲き乱れる満天星。中央にある泉は夜空の煌きを映して輝き、周囲に流れ出した小川にもまた美しい綺羅星が光る。水に映る空の星と、頭上に咲く花々とを愛でることが出来る、非常に趣き深い、素敵な場所なのだと霊査士は言った。
 本当なら秘密にしておきたいくらいの場所なのだけれど、いつも御世話になっている冒険者の皆にだから教えるのだ、とも。
「満天星は殆ど、色は白に近い花ばかりらしいのだけれど」
 けれど恋人同士で泉を訪れれば、紅色に色付いた満天星も見つけられると言う伝承があるのだと彼女は言った。彼女自身は未だ見つけたことが無いと言うが、探してみるのも一興かもしれない。紅色の満天星は非常に稀少であるらしいが、万一見つけることが出来たのなら、其れは本当に幸運なことなのだろう。

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参加者
NPC:荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)



<リプレイ>

●星月夜
 その日は空も澄み渡り、月に掛かる雲も無く、降り注がんばかりの綺羅星が空中で優しく煌いていた。蒼荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)は贈られた蒼い浴衣を身に着けていた。気に入った様子の彼女を見て、シャラザードは笑みを零しながら後をついて歩いていく。
 途中行き倒れかけた霊査士を、有無を言わさずナナトが姫抱きにした。
「……ちゃんと食ってるのか?」
 軽さに眉を顰めながらの問い掛けに、霊査士は借りて来た猫のように黙ったまま答えない。ナナトの横に居たリャオタンが興味深げに霊査士の顔を覗き込み、
「へーぇ、近くで見るとマジで……いや別になんでもねぇよ」
 視線を返されると慌てて目を逸らす。そんな様子を穏やかに見守りながら、仏頂面のティアレスを連れ、ハルはエルフ同士で道を行く。大切な人が幸せで在れば離別も厭わぬ、と花を手折ることはやめようと決めた。

 丘について、シュゼットは思わず感嘆の声を上げる。彼女ひとりでは無く、殆どの者が地上に咲く星の美しさに息を呑んだ。
「満天星、綺麗ですね……」
 ファオも嬉しそうに瞳を細めて丘を見遣る。神様の涙から生まれた輝きが、神様の愛した誰かの元へも届くように、と薄く願った。駆け出したユヤが涼しい河の流れに足を浸し、其の侭ごろりと空を見上げて横になる。美しい夜空と花が視界に満ち、予想通りの良い眺めに笑みを浮かべた。
「冒険もいいけど、こういうまったりな時間も大事だね〜♪」
 綺麗な景色と直に触れ合えることは非常に心を穏やかにしてくれるもの、とリンは静かに目を瞑った。護る為の戦いに赴く勇気が持てるように思えたのだ。ユミもまた、故郷の村から見えた星空を思い出しながら、この星空を護る為に闘うのも一興か、と決意を新たにする。
「うーむ、夜更し続きでちと眠いのじゃ……」
 ロザリーに抱き付きながら、ルビーナが眠そうに呟いた。霊査士は為すがままにされている。
「星の伝説って、物悲しい御話が多いですよね」
 言葉を掛けられた側の霊査士は、僅かに瞳を緩めて頷いた。輝く星の為にならば、唯寄り添うことが出来るなら。傍で静かに空を見上げていたメイプルは、息を吐くようにして呟きを零した。
 神様が哀しいばかりで幸せに為れなかったのだとしたら、とリアンシュは僅かに俯いた。
「ロザリーちゃも……誰か大好きな人を待ってるのですも?」
 霊査士は小首を傾げてから、「待っている人が、待っていることに気付けていないことも在るのかもね」と柔らかな声音で返して告げた。其処にシャムシエルが遣って来て、頭の上の猫を示してにっこりと笑う。
「前に貰った子猫はこんなに大きくなったよ」
 其の素振りに霊査士も、穏やかな調子で頷いた。

●輝く泉
「真っ白の花と泉に、輝く星。眺めてると時間が止まっているかのように感じるわね」
 蝶を散らした紺の浴衣を身に纏い、ロザリーと共にティーナは花々を愛でていた。其の二人にそっとジョジョが近付いて、小声でロザリーに耳打ちをする。
「少し時間があるなら……花を一緒に見て回らないか?」
 霊査士は相変わらずの調子で少し首を傾げた後、頷くように顎を引いた。特に会話を交わすことも無く、静かな夜の時を月と花と星と泉を愛でて過ごす。其の横をにこにこ笑顔で手を繋ぎながら、フラジィルとスカーレルが楽しげに通って行った。小声で何事か話してはくすくすと笑う。
「ジルも……輝いてるのよ?」
 其の言葉に、やはりフラジィルはにっこりと笑った。恋人は今頃如何しているかと思いを馳せつつ、シュシュは愛犬のリーフの頭を撫でてやる。彼女の仔犬は大人しく咆えもせず、ころころと草原の上を転がった。
「……次は、素敵な人と来れます様に……」
 狐の尻尾を揺らしてハルが呟く。彼女の膝の上で愛猫のトーマは、何かを察して小さく鳴いた。トモコはティアレスの手を引いて、花々の間を歩いている。彼は女性が横に居る、と言うのなら唇に淡く笑みを刻むのは忘れない。
「ティアレスさんって願い事あるんですか?」
 ふと浮かんだ疑問を向けると、彼は酷薄にも見える笑みを浮かべて「無いとは言わないが」と酷く曖昧に答えを返した。輝く泉の直ぐ傍には、満天星の甘い香りが馨って来る。

「……俺は、お前が幸せならそれでいい」
 人気の無い木陰で、ヒジリは囁く。愛しい人の身体を抱き締めて、けれどだからこそ傷付いて欲しく無いのだ、と。
「愛してる。返事は要らない……其れだけだ」
 リゼンは静かに息を吐く。
「返事は要らない……ね。じゃあ、出さない」
 御互いに判っていることだ。彼女の最愛の人は他に居る。けれど彼女も彼のことを疎ましく思っているわけでは無く、寧ろ心の支えと思っている。だからこそ、求めない優しさに甘えた。帰る時は手を繋いで帰ろう、と小さく囁く。彼女の帰る場所は、彼女の愛しい人の元へでしか無いのだけれど。
 白く美しい花を見つけ、ミユは顔を輝かせる。樹に駆け寄ろうとして転びそうに為るのを、アイズが慌てて腕を取った。にっこりと笑って礼を言うと、義兄は微苦笑を浮かべる。
「躓くのは俺が近くにいる時だけにしろよ……?」
「……大丈夫だもんー!」
 思わず真っ赤になって主張する少女の頭を、兄は優しく撫でてやった。
 やはり人見知りの気がある少女の為に、彼は出来る限り人目につかない水辺を選んだ。ぎこちなく頭を下げる彼女を見て、キオウは目を細める。
「満天星も綺麗だが……俺はスゥに見惚れてしまうな」
「キ、キオウ……様……」
 微笑んで愛しい人を抱き寄せる。恥ずかしさと焦りでスゥは顔を真っ赤に染め、抱き締められたまま俯いた。
 人が多過ぎるわけでは無いが、恋人たちの姿も当然少なくは無い。別段恋人と言う関係では無いものの、サリアにも今日は連れが居る。足を水に浸し涼みながら、ふと頭上の枝を見上げて微笑んだ。
「枝でも折ってみる?」
 其の言葉にクレスは顔を背け、心配するな、と彼女に告げた。
「お前が俺を必要としている間は側にいるさ」
 恥ずかしさに背を向けた彼に、彼女は無言で体当たりを食らわせた。御互いに直ぐ照れてしまうふたりだが、星祭りの夜は少しだけ、素直に過ごせたのかもしれない。
「うーん、ちょっと疲れちゃったです……」
 最近は何かと忙しなく、静かな場で心を緩めているうちに睡魔が襲ってきたのか、アヤはすやすやと眠り出した。大好きな人の横に居るから安らげることもあるのだろう、膝枕をして遣りながら、クーヤは彼女の頬に軽くキスする。百合の花を撫でながら、見上げればやはり満天の星。

●満天星の花
 必死に手を伸ばしている妹のような少女を見、キャメロットは代わりに一枝折ってやった。小さな花をそっと彼女の髪に飾り、改めて言いたかった言葉を口にする。
「先の戦で、背中を護ってくれたこと……本当にありがとう」
 謝罪を口にしたくは在れど、其れが逆に彼女を哀しませることは知っている。姉のように慕う女性を見て、ルーツァは照れ臭そうに微笑んだ。そして、あ、と口を開ける。
「姉様! 今、流れ星が落ちませんでしたか!?」
 慌てて見上げた夜空には、綺羅星が無数に煌いていた。
 皆が枝を折り始めるのを見て、ミゥヨは勇気を出して枝が欲しいと連れに頼んだ。オウジロウは少し困ったような素振りを見せてから、届かぬ彼女に代わって一枝ぱきりと折り渡す。受け取った少女は真っ赤な顔をし、あのね、と消え入りそうな声で囁いた。
「今日、一緒に来てくれてありがとうなぁ〜ん。これからは……一緒に居て欲しいなぁ〜ん」
 返事は何時でも良い、と言い足して口を閉ざす。彼もまた、今は何も答えない。
 一方、半ば迷子に為り掛けていたシュリは、漸く知り合いの姿を見つけることが出来た。思わずタックル気味に後ろから抱き付いてしまったが、何やら彼女はこっそり隠れていたらしい。驚きに洩れかけた声を出さぬよう、必死で口を塞いでいる。
「チェリちゃん……?」
 見ればチェリートの視線の先にあるのは知り合いカップルの姿。実は彼女が半ば無理矢理に誘って来たふたりでもある。気を利かせてそっと離れはしたものの、やはり成り行きが気に為るらしい。
 先程まで夜空と花の美しさに満面の笑みを浮かべていたサガであったが、けれど神様が寂しくて泣いてしまって生まれた花なのだ、と言う伝説に思い至りすっかりしょげてしまっていた。
「……ボクは、ずーっと一緒に……居たいなぁ〜ん……」
 そっと寄り掛かってくる彼女の身体に、ルナシアの手が宙を泳ぐ。可愛い彼女を前にして、理性やら恥ずかしさやらで内心激しく葛藤した。抱き締める代わりに、手折った枝を優しく差し出す。デバガメふたりは「まだまだですねぇ」と良く判らない溜息を吐いたのだとか。

 思わず息を呑んだのは、まるで幻想の中に咲く花のように、青白い月明かりの中で艶やかに咲くひと房の枝を見つけたから。誘うような紅い色に、自らの幸運を感じた。人が入り込まぬであろう奥の辺りに、僅かながら紅い満天星が揺れていた。
 目を輝かせながら枝に手を伸ばすも、指先が花に触れるばかりで中々手折れない様子のスウに微笑んで、セフィスは優しく彼女を抱き上げてやった。驚いて振り向くと、彼と目が合った。頬を染めながらも、彼女は枝を優しく手折る。
「少し、甘えてもいいですか……?」
 愛しい人の膝を借りて、美しい空を見上げる。叶うならば時が費えぬように、と願うフィリスに向けて、彼女は恥ずかしそうに微笑みながら囁いた。
「僕ね、ずっとフィー君に傍に居たいんだよ……」
 想うことは互いに同じ。満天星も、ふたりの願いを叶えてくれるに違いない。
 グノーシスと唯々静かな時を過ごしていた。舞い散る花弁を掌に乗せ、在るがままの自分で何時までも傍に居ることを、隣に居てくれる愛しい女性に向けて誓う。命尽きるまで命運を共にする、とナツキもまた微笑んだ。巡り会えた幸運がすべてと想うほど、此れ以上は望めないくらいに幸せなのだ、と。
 腕を組んで歩いていたふたりも、運良くと言うべきか必然と言うべきか、紅に染まった花を見つけた。枝へ手を伸ばす愛しい人にハツネは少し背伸びして、頬へと軽くキスを贈った。アンリは驚いたように一度目を見開いて、直ぐに優しく微笑すると、彼女の髪に満天星をそっと添える。
「貴女と此れからも共に歩んでいけることを、嬉しく思います」
 愛していますよ。何度目になるかも判らぬ囁きは、変わらぬ想いの証でもある。
 散策を続け、其処に辿り着いたのは偶然だった。足が疲れた頃合に、休憩と水辺に腰を下ろし、河の流れに足を浸して、ふと見上げれば咲いている花は鮮やかな紅。
「綺麗ですね……楽しいし、嬉しいですの。アウラ様と、ご一緒ですし……」
 最近御忙しいようだから休んで欲しい、とアクアローズが優しく気遣う。言葉を受けたアウラは、種族の違いと言う大きな壁を感じても居た。紅色の満天星を見つけれたことも、ふたりの微妙な間柄を思えば、喜びと共に切なさも湧いた。素直に告げることは難しくも、悪い気はしていないのだ、と彼女に告げた。

 ふと人の間から彼女の姿が消えていたのだ。人の居ないほう、居ないほうへと歩いていることは予想がついた。誰も居ない泉の端で、霊査士は水面をじっと見詰めて佇んでいた。気に掛けているのは何なのか、問い掛けを口にしようとしたところで彼女はゆるりと動き出す。
 何か求めるように手を伸ばし、輝く星月の映る泉に向けて頭から、落ちるようにして沈んで行った。
「……!」
 流石に驚き駆け寄るも、直ぐに彼女は立ち上がる。深い泉では無かったのだろう。組んだ腕を中途に揺らし、唯々、求めるように空を見ていた。
「花を愛でるにしても、想いを巡らせるにしても――」
 身体に障ると溜息混じりに声を掛ければ、長い沈黙の後、彼女は肩越しに振り返る。何かが潜められているのだろうとの想像は易い。今は其れで十分と手を差し伸べる。彼女は水の滴る自身を見て「……浴衣」等と自業自得な呟きを落とすも、素直にイドゥナの手を取った。


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参加者:48人
作成日:2005/07/09
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