【佳辰令月】星鱗祭



<オープニング>


「かわいい〜」
 ミニュイが大きく目を見開いて見つめる先、ぴちぴちとガラス製の容器の中を泳ぐのは真っ赤な金魚。背びれを挟んで両側、ちょうど背に綺麗に白く星形の模様が見える。
「星鱗魚、と呼ぶそうです。その昔、天(そら)から沢山の星が泉に落ちて来たそうなのですが──」
 口を開けて金魚を見つめるミニュイに、エマイユと視線を交わしてくすりと笑うと、トワルは話し始めた。
「わかった、その星がこの金魚なのね?」
「正解です」
 トワルはにっこりと笑った。
「フルーヴ村の中央にある大きな泉が、その落ち星の泉だと言われています。丁度間もなく『星すくい』のお祭りが行われるそうですね」

 泉で金魚が増え過ぎてしまわないように、年に一度、星をすくう大会が行われるのだ。

「こう、紙を貼付けた丸いもので魚をすくうのだけど、紙を破れないようにすくうのがなかなか難しくてね」
 エマイユはどうやら参加した事があるようだ。ミニュイが首を傾げる。
「……泉から直接すくうのよね? ええと、」
「泉の縁には布が敷かれているからね、座り込んだり、寝そべったり……まあ好きにすくうと良いんじゃないかな?」
「よ〜し……レモン色の浴衣…どこにしまったかしら…」
 既に行く気満々のミニュイに、もう一度エマイユとトワルは視線を交わすのだった。

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参加者
NPC:霽月の霊査士・ミニュイ(a90031)



<リプレイ>


「お祭り日和ですわね」
 今日のルーツァは白地に桃色の花々があしらわれた浴衣姿。空を見上げると、藍色の夜に馴染むように、徐々に星の輝いてゆくのが見えた。
 各所に灯された灯りがオレンジの影を落とす。ざわざわと人の声、何やら良い匂い。シスは辺りに広がり始めた喧噪に顔を綻ばせた。
 目指す池のあちこちにも燈籠が浮かべられている。
「星鱗焼でしたっけ…お土産に買って帰りましょうね」
 隣を歩く自分と同じ髪色の少女──ユイリにシスはそっと微笑んだ。今日のユイリは涼しげな白に幾つもの赤い金魚を泳がせた浴衣、シスは紺の強さの中に薄紫の桔梗をしっとりと咲かせていた。

「皆さんこんにちは、今回の『突撃! 隣のワイルドファイア』」
 テルミエールが丸い物を片手に話し出す。
「いや、ランドアースだろ、ここ」
 アールグレイドが突っ込みを入れて通り過ぎる。
「番外編、ワイルドラリーの開催地から少し(?)離れた、ここフルーヴ村の星鱗祭をお送りしたいと思います」
 浴衣姿で突撃リポート♪ テルミエールはにっこりと笑った。
 東方から星祭りと一緒に伝わったものか、今日は浴衣の者が多く見られる。
「僕も今日はごすろり浴衣借りて、着せてもらったんだ〜」
 短い裾に大きなレースをあしらった、一風変わった浴衣はナハティガル。可愛い、と言ったミニュイに、「風通しいいんだね〜、これ。涼しいや〜」とナハティガルは笑った。
「ミライさんとミニュイさんの浴衣はお揃いね?」
 見知った顔を見つけて、ファオと祭りを巡っていたエルが手を振った。ミライは去年仕立てた水色の浴衣。お揃いでミニュイは檸檬色である。
「こう、皆を端から並べて順番に回してみたくなるわよね?」
 やはり水色の浴衣をまとったエルに同意を求められたファオは、少し首を傾げて微笑んだ。
「あ、焼けたようですね」
 リンは浴衣談義に興じる皆に、星鱗焼が新しく焼き上がったのを告げた。屋台のおやじが手渡してくれた紙袋はほかほかに温かく、辺りには甘い良い匂いが漏れていた。
「きっと本物の星鱗魚のよに、背に模様があるのですなぁ〜ん」
 わくわくと見守るチャザの言葉。やはりわくわくと、リンは袋から1つを取り出した。果たしてその焼き菓子の背中にはぷかりと浮かぶ星1つ。
「ふわ〜」
「どんな味なんでしょう…」
 リンは手に取った1つをじっと見つめる。甘い匂いは蜂蜜だろうか。
「…甘い、ですか?」
 紺地に千鳥の浴衣。やはり一袋買い求めていたシュシュは味が気になるらしく、リンの相伴を待っている。
「ほんのり甘い、です。小さな焼き菓子ですね…」
「…頭から食べるか尻尾から食べるか、はたまた星から…悩みます、なぁんっ」
 チャザの言葉にその場に笑いが漏れた。
 袋一杯の星鱗焼にご満悦のアールグレイドは一口で一個を食べると、近くに居たシス達に振る舞ってみたり。

「出店巡りで喰い過ぎんよーに気ィつけろよー?」
 飛んで来た声、歩く男衆の中にスィーニーの姿を見つけてミニュイは手を振った。

「さすがに本職の腕は素晴らしいですね」
 旅団で待つ者のためにエイミーはいくつかの飴細工を求める。白く練られた飴で作られたうさぎ、うっすら青い飴で広げられた翼。いくつかを小さな陶製の容器に詰めてもらい、朱色の桔梗を浮かべる紺の浴衣の帯中から財布を取り出そうとする。
「──っと、ここは任せてもらおうか」
「シャオラン殿」
 シャオランは浴衣の袖から巾着を取り出し、飴屋の親父に代金を手渡す。
 男たるものこのくらいはできないとな…シャオランは笑った。

「ふうむ、中々やりますね…では次は──」
 タブリスは、一体何処まで複雑なものが作れるのか飴細工屋親父の職人魂と勝負中? 次々に繰り出される妙技に満足して店を後にする。
「…さて、どうしたものやら」
 両手一杯の飴細工を手に、漸く我に返ったタブリスさん。
「──はっ! あれは先日お世話になったミフェルーさん」
 お礼を込めてこの飴を…いやいや、押し付ける訳じゃなくて、きっと。

「…相変わらず器用だな」
 メイノリアが目の前に刻まれる星空に、きゅっと口元を上げる。こちらは親父の許可を貰ったエリオノールが自ら飴細工を施している所だ。
 浴衣の袖を上げて──こちらは朝顔の柄が置かれた、麻の浴衣がいかにも涼しげである──温かい飴に1つ1つ細かな細工を入れて行く。仕上げに、と親父に鼈甲色の飴を今作った小さな星に注いでもらった。
 エリオノールの分のレモネードとを両手に持ちながら、のんびりと過ごす夕べ。メイノリアがふと空を見上げるといくつかの星が瞬き始めていた。

「初めて来ましたけど…良い所ですね」
 冷めても美味しい、と聞いて親父に50匹程包んでもらった星鱗焼の袋を手に、ポルロはゆったりと燈籠の浮かぶ池の淵に腰掛ける。
 水面に浮かぶ波紋が、燈籠の灯りを柔らかく照り返しながら広がってゆく。その中、時折ふと水の中に浮き沈みする星達を見つけては笑みを浮かべた。
 今日の装いは花柄の入った月白色の浴衣。ルフィーティア池の傍に足を折って、小さな星の泳ぐのに目を凝らす。闇に染まった水面に赤や白い星が一層鮮やかだった。
「落ちた星が金魚というのは、なんだか不思議なお話ですね」
──本当なぁ〜ん。
 ふと聞こえた呟きに、ミフェルーは心の中で頷くと、飴を持っていない片手でぷくりと水面に顔を覗かせた一匹をそっとつついてみた。
「かわいいなぁ〜ん」


 闇が辺りに落ち着くと、大会へ参加する者達へ紙を貼った小さなすくい具──村ではポイと呼ばれる──が配られた。
「ええと、とりあえず、すくい網を最初軽く水に浸して…」
 エィリスはぷるぷると手にポイを持ったまま真剣に水面を見つめる。
「後は出来るだけ輪の端で、水面に対して水平を維持しつつ魚を…」
 きゅぴーん、という効果音を背負って第一投が開始された。

「上を見れば満天の星空、足元に湖面の星空…素敵ですわね!」
 ディディエはポイを手に、その星をひとつすくおうと手を伸ばす。
「そーっと、そーっと…そう、良い子ね、動かないでちょうだ──」
 ぽしゃり、と水音が響いた。
 水面に浮かばせたガラス製の器に落とされた星鱗魚は、新しい水場でぴちぴちと元気に泳ぐ。その様にフォーティスはポイを手にしたままそっと微笑む。
「なかなか、かわいい姿の金魚だな…」
 背に運ぶ星に、自室で飼ってみようか等と考えてみたり。

「水面近くに上がって来たところを狙うんだ」
 シャオランは言うとエイミーの袂が濡れないように、そっと押さえてやる。
 隣に佇むエイミーの傍、灯りに惹かれるように、金魚が集まっていた。
「お、巧いじゃないか」
「成る程…」
 エイミーはポイから金魚を下ろしてやった。

「そんな掬い方をしてはいかんのじゃ」
 大きそうな金魚を力任せにざぶざぶ掬うエアロに、パンセが声をかける。
「え?」
 びちびちと跳ねる金魚に、辛うじて、ポイは耐えていた。
「ワシリーはん、頑張って」
「はい、見てて下さいね!」
 クレシャと掬い勝負中のワシリーの様子に頷いて、ヤチヨはにこにこと、また水面に目を向ける。袂が濡れないように、きゅっとまくって。水面に映った自分は今日は乙女らしいかもしれない、等と思ったり。
「あー…。まぁ勝負事ってのはね、オレのガラじゃないよねぇ」
 やがて、勝負あったのか、ちぇ、といった風情でぽつりと漏らしたのはクレシャ。今日は鎧を羽織袴に着替えたワシリーが不敵に笑った。
 エアロがすっくと立ち上がる。
「じゃ、今日はクレシャの奢りでフィーバーだな。美味いモンと…あと酒あったかな、酒」
「って、ちょ…」
「人生とは荒波よのぅ」
 ずんずん歩き始めたエアロに絶句の弟の頭をとパンセはにっこり背伸びしながらなでなでと撫でてやると、浴衣の裾を直して後に続いた。

「星すくいってのも、また風情があってよいですな」
 ゆったりとポイを構えるラードルフ。傍らには先に巡った飴細工の入った陶製の小さな器。買ってはみたものの、食べるのが勿体ない、というのは内緒である。
「うん、でもその風情さんはなかなかすくわせてくれないの…」
「ミニュイちゃん、そんなに硬くなってると上手くいかないと思うから楽しくリラックスしてやりましょう♪」
 じっと水中をみつめるミニュイに、ミライが声をかけると「そっかー」とミニュイが笑う。
「ん〜、金魚さん達とお友達になるような感じですくってあげればよいのかな?」
 ふわり、とミライが水中から取り出されたポイには、小さな星が一匹。
「上手くいきましたね」
 ぱちぱち、と小さく手を叩いてファオが微笑む。
 ナハティガルはのんびりのんびり。近くに来た小さい子達を狙い撃ち。
 その隣ではシュシュが素早くポイを振るう。
「金魚すくいは焦らないのがコツなのです」
 ガラスの器をゆったりと泳ぐ金魚の為に、金魚鉢ってあったかしら、とシュシュは微笑んだ。
 セリアはさっきすくえた小さな可愛い一匹ににっこり。参加賞はこの子にしようかなと思いつつ、ポイを動かしながら、やっぱり小さな金魚を狙ってみたり。
「乱暴にしたら可哀想だもんね」
 そうっとそうっと。
「…さっきから狙った魚すべて手の届かない所に逃げられているような気が…しますなぁん」
 チャザはポイを持った手で、中央へ方向転換してしまった一匹をお見送り。
「楽しいね〜♪」
 ファオの隣でポイを握るエルに目は、でも真剣そのもので。
「頑張って下さいね」
 エルの器には既にたくさんの星が泳いでいる。ファオはそんなエルの様子をのんびり見守っていた。

「金魚に対しても礼を持って…」
 ポイを片手にカヅチは真剣顔──もぐもぐ、と口の中に星鱗焼が入っているのはご愛嬌。ポイを操る腕さばきは俄ながら中々である。
「こういったことでは集中力も肝要。邪竜導師の本領発揮ですね」
 ポイを片手にエルゼは水面をじっと睨み、目標が方向転換に動きを止めた隙を逃さずに掬い上げる。
「全力を以て、狙うは一瞬」
 一匹、また一匹、と金魚達が器に犇めいた。
 リコは身軽にした腕に、ポイを握って臨戦態勢。目の前にぴちぴち泳ぐ星達に、ふと、空を見上げ誰にともなく話し出す。
「星の海にはワ──<略>──一夜にして壊滅させられたという伝説が伝わっているんですよ」
 ええ?

 一匹掬う度に「やったーっ♪」逃げられる度に「Σのぉ〜〜!」
 ウィンはこの祭りを一番楽しんでいたかもしれない。
「あ〜。破れちゃった…よし、屋台巡り巡り!」
 さっきみつけた星鱗焼へ向けていそいそと、ウィンは立ち上がった。

 猫着ぐるみで、ごろん、と掬い中なのはニノン。
「星鱗魚さん、かわいいなぁ〜ん。水槽に入れて旅団のサロンに飾ってみようかなぁ〜ん…きっと涼しげでみんな喜んでくれるなぁ〜ん」
 水槽を想像してごろん、と転がった。

「ハラタマちゃんの野生のカンに賭ける(くわわっ」
 頭上のハラタマちゃんの動きに応じてフィンフは右に、左にとポイを振るう。
「じゃんじゃん掬うよ〜♪」
 ちなみに金魚を食べられないように好物の毒蛇は用意済みらしい…。

「紙は斜めにしてー…、水があんまり乗っからないように掬えばいいんだっけ?」
「……」
「うわ〜…かわいい!! 金魚かわいーね」
 さくっと掬った一匹を器に入れてユイリはにっこり笑う。
「ん? シス、すくわないの?」
「──は! あ、ええ」
 ユイリさんの手さばきを参考に、掬い方を頭のなかでシミュレートしていたシスは、「では」とポイを取り出した。

「あ、左。っと右、右」
「〜〜〜…む? …と、ととっ──エリオ、すくえたぞ!」
 小さな一匹だけど、一匹は一匹。大事に器に入れて、メイノリアは背後にいる筈のエリオノールを振り返る。
「…何がおかしいのだ?」
──メイの真剣な百面相が、とは言えずにエリオノールはただ首を振る。
「…僕もやってみようかな」
 メイノリアの隣に座り、エリオノールはポイを軽く握った。

「ここだっ!!!」
 声を上げたのはエリーシャ。池の淵に来た小さな一匹をさくっと掬いあげる。おー、と隣に座るスィーニーから声が漏れる。水面には四つの金魚入れが並んで浮かんでいる。戦果は、各々それなりに、といった所だろうか。
「…破れたら、外枠ですくっていいか?」
 エマイユに尋ねながらも視線は水中の星に釘付けなアネット。手繰った袖の下、肘迄水につけてゆっくりと一匹をすくった。
 今日は各々浴衣姿であるが、それぞれが誰に着付けしてもらったかは秘密であるらしい(何

「中々大漁だったな」
 大会の計測係に器を預けると、参加賞の星鱗魚の入った小さなガラス製の器が手渡される。
「じゃ、ま、屋台巡りに繰り出すか」
 スィーニーの言葉に、そう言えば何があったかと首を傾げるアネット。
「一つくらい奢ってくれるんだろう?」
 エリーシャの言葉に、笑いながらエマイユは立ち上がった。


 宵闇に吹く風は、昼間の炎天とはほど遠く。
 足を水に浸けて涼を取るのはシフォン。
──星の落ちた泉と、それを囲み賑わう人々…ふむ、力を尽くし戦った甲斐もあった、な
 傍らには出店巡りの土産の数々。店先で配られた渋茶に、ちょっと吹いてみたり(何

 池のほとりをのんびりと歩きながら、ケネスは星すくいに興じる人達を笑顔で眺めていた。
──皆さん、とても幸せそうな表情で
 片手にはガラスの器に泳ぐ星。空には月明りに負けぬ幾多の星。
──この金魚は天から降りて来た『星』…ずっとみつめていたくなりますね
 ケネスは中の星に穏やかに微笑んだ。

「ルーさん?」
 ぷらっと歩いていたミニュイは仲良しの顔を見つけて、足を止める。
「星鱗魚ってさ、天から降ってきた星の生まれ変わりなんだって?」
 普段とは違う様子のヘンルーダに、ミニュイは神妙に頷いた。
「実はさ、ついこの間、大事な友達が空に帰っちゃって…」
 ヘンルーダは星空を見上げる。
「もしかしたら…な〜んて一瞬思ったけど。はは、戻ってくるにはまだ早いよな」
「…きっと、上から皆を見守ってくれてると思うわ」
 ミニュイはヘンルーダと一緒に星明かりにひしめく天を見上げた。

「大丈夫ですか…?」
 聞き覚えのある声にザルフィンが目を擦ると浴衣姿のファオとエル。
「ああ」
「お酒くさい…」
「星見酒だな」
 少し眉をしかめたエルに、ザルフィンはははは、と笑った。
「こういうちんまいのも、それはそれで見てて楽しくはあるな」
 傍らに置かれたガラスの器には少しひれの大きな赤い金魚。ファオは自分の器を並べて置くと、エル達と一緒に座る。

「昔…教わったものだけど」
 アネットの作った笹舟を先頭に、いくつもの船がゆっくりと地に降りた星空の海を進んで行く。水面に映った星と水中の星と。
「お祭りのあと、また沢山の星が降って来るかもしれませんね」
 ルフィーティアの言葉にルーツァ達が空を振り返ると、天にも星達が穏やかに輝いているのが見えるのだった。


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作成日:2005/07/19
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