森に潜む牙



<オープニング>


「誰か、モンスター退治に行ってくれないかい?」
 ストライダーの霊査士・キーゼルはそう酒場にいた冒険者達に声を掛けると、集まって来た者達に話を始めた。
「北の森にモンスターが現れたそうなんだよ。体長1m程の、豹に似た外見を持つモンスターでね。……優れた跳躍力と身軽さを持っているらしくて、木々の上を素早く移動しながら、道を歩く獲物を襲っているらしい」
 それはウサギであったり、キツネであったり、あるいは……人間であったり――モンスターは近くを通る生き物を、次々と襲って喰らっているのだという。
「隣村に向かう為に森を通り抜けようとした、何人かも犠牲になってる。……彼らのような人を増やさない為にも、一刻も早く、このモンスターを退治して欲しい」
 モンスターの特徴は、先程キーゼルが言った通り、優れた跳躍力と身軽さを持っている事。しなやかな動きで木々の間を動き回り、頭上から見事な動きで獲物を襲う……それは、狙われる側にとっては脅威でしかない。
 勿論、その鋭い牙と爪にも注意は必要だけれど……それよりも相手の機動力、森という場所からくる視界の狭さ――そして、それらによって生じる可能性の高い、奇襲への警戒がより必要だろうとキーゼルは言う。
「油断していたら、急接近した敵からの奇襲で、一瞬のうちの命を失うなんて事もあるかもしれない。……よく心して行くんだね」
 そう警告した上で、キーゼルは、モンスターがいると思われる森の中の大まかな位置を伝えると、冒険者達を送り出すのだった。

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参加者
レディ・リーガル(a01921)
狩人・ルスト(a10900)
芒舞・レイリス(a13191)
女神に授けられし夜想曲・リフィス(a18780)
天嶺緋皇・シャムシエル(a19075)
黒狼・セイリオス(a19769)
誇り高きチキンレッグの重騎士・ブロウ(a21362)
フォレストナイト・ヴァイス(a25660)
雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)
緋き魔剣・ルーベンス(a28010)


<リプレイ>

●モンスターの潜む森
「この森やね」
 依頼を受けた冒険者達は、モンスターがいるという森を訪れていた。
 その入り口で一旦足を止めた、レディ・リーガル(a01921)は、呟きながら一枚の布を取り出すと、それを足元の土で適当に汚して、頭に被る。
 これは、少しでもモンスターに発見される可能性を下げようとしての事だった。モンスターは木々の上を移動しているという話だったから……頭部を覆い、少しでも周囲の風景に馴染ませるようにすれば、気付かれにくくなるのではと考えたのである。
「これが体臭を隠してくれると良いんですけど」
 マントを羽織りながら、懐にに薬草の入った包みを入れているのは、狩人・ルスト(a10900)だ。相手はモンスターとはいえ、獣の姿をしている事から、同様の嗅覚を備えているかもしれないと、体臭を抑える工夫をすると、拾った土を防具や体に叩きつけていく。
「んしょっと……」
 一方で、鎧の隙間に布を詰めているのは、天嶺緋皇・シャムシエル(a19075)。こちらは移動の際に出る音を、少しでも減らそうとしての事である。
 ある程度の布を詰めたシャムシエルは、数歩周囲を歩いて具合を確認し、布の詰め具合を調整していく。
「尻尾も一緒に隠しておきましょう」
 黒頭巾で髪を覆った、刹那に舞う葬蝶・レイリス(a13191)は、周囲に紛れるようにと身に纏った、自然色の衣服の隙間に、はたはたと揺れる狐の尻尾をしまいこむと、匂い消しにと近くに生えていた草の汁を散らす。
「皆も備えておくと良いぞ」
 誇り高きチキンレッグの重騎士・ブロウ(a21362)は、己の鎧の隙間に布を詰めながら、その準備のない者達に、多めに用意しておいた布の余りを配っていく。一方では、他の者の分も用意したリーガルが、他の者にも布を勧めて回る。
 そうして準備を整える一方、通りかかった動物に話しかけ、モンスターの居場所についての情報を集めているのは、女教皇の奏でる前奏曲・リフィス(a18780)だ。
(「……豹のような、モンスター……モンスターという事は、元は……」)
 その事を思うと悲しくはなるけれど、でも、それは決して倒す事を躊躇う言い訳にはならない……してはいけないと、リフィスは思う。
(「元の者のためにも、被害者のためにも……この依頼、必ずや……」)
 そう胸にしながら動物達に語りかけたリフィスは、森の一角にとても怖い動物がいるという話を聞き……その居場所を掴もうとするが、動物達は曖昧な場所や範囲について語るばかりで、なかなか位置を特定できないうちに、四回のアビリティ回数が尽きてしまう。
 結果、得られた情報は、酒場でキーゼルから聞いたのと同程度の範囲に、怖い動物がいるらしいというもので……その位置を絞り、特定するには至らなかった。
「あとは実際に赴くしかないだろう」
 暗き闇を彷徨う黒狼・セイリオス(a19769)は、そう口にすると、ブロウと雄風の・ユダ(a27741)の二人と共に、森の中へと踏み出す。
 彼ら三人は今回、一行の中で囮役を担う事になっている。彼らが森を進むのを、残りの面々が身を潜ませながら追い……モンスターが三人に気付いて現れ、襲い掛かってきた所を、包囲して一気に倒そうというのである。
「この先におるのは間違い無さそうじゃのう……」
 森へ入る頃から武者震いを感じていたブロウは、背筋を走る嫌な予感に呟く。チキンレッグ特有の、臆病者の勘が知らせてくる危険は、おそらくはモンスターの事なのだろうと。
(「じゃが、わしとてモンスター退治を使命とする者! 此れしきで臆する訳にはいかないのう」)
 だが、ブロウは決して足を止める事はなく、前へと踏み込む。
 その傍らでは、ユダが頭上に気を配りながら歩いている。野生動物を襲い、命を奪うというのも可哀想な話だが、人間を襲ういうのは聞き捨てならない――そう今回の依頼を受け、こうして森へと赴いたユダは、素早い相手だから油断は大敵だと、周囲を十分に警戒しながら進む。
 その後ろを、本隊と名付けた残りの面々が慎重に追う。物音を極力潜め、地面の足跡や木の幹の爪痕など、モンスターが残した痕跡がないかを注意しながら、つかず離れずの距離を保ち進む。
(「木々の上から獲物を襲う豹のようなモンスター。……なかなかやっかいな敵ですね。足手まといにならぬよう、気を引き締めて向かいませんと……」)
 その一人、ヒトの武人・ルーベンス(a28010)は慎重に辺りに意識を巡らせる。囮と本隊という二手に分かれたものの、ここは相手の土俵の上。囮役よりも、こちらが先に見つかるという可能性もゼロではない。
 何も無いなら、それに越した事は無いけれど……奇襲を受けてしまってからでは、建て直しは困難になるかもしれない。そしてそれは、撤退、あるいは全滅の危機すら招きかねない。――そう考えるルーベンスは、一瞬たりとも気を緩めずに進む。
 そうして、一行は徐々にモンスターのテリトリーへと近付き……そして、その内部へと踏み込んでいった。

●森に潜む牙
「ん……?」
 それに気付いたのは、囮役の三人が三人とも、ほぼ同時の事だった。
 頭上からふと微かに聞こえた物音。風に揺れる葉や枝が揺れるのに似た音、けれど――風は吹いていない。三人はそれぞれ別の場所に向けていた視線を、音の聞こえた方へ、同じ一点へと向ける。
 そこにいたのは一つの影……身構えた獣の姿だった。それは豹……否、この状況で存在するそれは、モンスターに違いない。
「来るぞ!」
 三人がそう思い至るよりも先に、モンスターは動いていた。素早くと木を蹴ったモンスターは、そのまま三人の方へと飛び込み、セイリオス目がけて襲い掛かる。
「――っ!」
 ブロウが鎧聖降臨を使う間もない。咄嗟に盾を構えるセイリオスだが、モンスターは勢いそのままにセイリオスを押し倒すと、その牙を立てる。
「来たか」
 唐突な重騎士・ヴァイス(a25660)は、すぐに囮三人の方へ駆け寄りながら、一番危険に晒されているセイリオスへと鎧聖降臨を使う。その一方では、リーガルが無風の構えを取り……仲間から敵を引き離そうと駆け寄る彼女を視界に捕えると、ユダは彼女を含めた近くの仲間達に対し、チキンスピードを使い、その速度を高める。
「鎧聖降臨!」
 一方ではシャムシエルが、リフィスの纏う防具に力を注ぎ込み、リフィス自身はセイリオスの方へ駆け寄ると、ヒーリングウェーブを使う。癒しの光は、受けたダメージを全て回復させるには至らなかったが、その大部分を一瞬にして癒していく。
 その間に、ブロウはユダに触れながら、君を守ると誓うを使う。その守護を受けながら、ユダはスーパースポットライトを使い……周囲に激しい光が放たれる。
 だが、その光がモンスターの動きを止める事は無かった。取り立ててユダへと注目する様子も無く……モンスターは変わらずセイリオスに狙いを定め、その爪を振り下ろす――!
「……散りなさい?」
 けれど、その爪先はセイリオスには届かなかった。それよりも先に、振るわれた刃がモンスターを貫き、その一撃にモンスターの口からは叫びがこぼれる。
 それは、モンスターが現れてもなお、身を隠し続けながらその後背へ回り込んだ、レイリスのシャドウスラッシュによるものだった。
 セイリオスらに意識が向き、後背への注意が散漫になっていたモンスターにとって、その一撃は完全な不意打ちとなった。咄嗟に飛びのいて避けようとするものの、それは叶わず……混乱の効果こそ現れなかったものの、モンスターの体には、深い傷が刻まれる。
「あんたの相手はこっちやで」
 それでも、すぐにまた攻撃に転じようとするモンスターだが、それを阻むようにリーガルがモンスターの前に入り込む。更にはルーベンスが両手に握った剣を構えながら、その牽制に動き……その間にセイリオスは立ち上がると、素早く体勢を立て直し、その両手から蜘蛛の糸を生み出して絡みつかせる。
「………!」
 突如全身に纏わりついた蜘蛛の糸の存在に、困惑の色を浮かべるモンスター。それを払おうとするものの、なかなか上手くいかず、身動きが取れなくなる。
「スキュラフレイム!」
 その隙を突いて攻撃を放ったのは、ヴァイスやブロウと手分けしながら、皆に鎧聖降臨をかけていたシャムシエルだった。燃え盛る炎に包まれたモンスターは、苦しげに喘いで……憎々しげにシャムシエルを睨み返しながら、四本の足に更に力を込めて……蜘蛛の糸から逃れ出る。
 だが、モンスターが冒険者に飛び掛って来る事は無かった。何人もの冒険者に追い込まれつつある自分……劣勢を感じたのだろう。身を翻して逃走しようとするが……。
「――逃がしません」
 その周囲にも散らされた蜘蛛の糸の存在が、その足を一瞬鈍らせた。どこをどう通り逃げるか……考え込むように止まった動き。それを、見逃す事なく放たれたのは、敵の逃走に備えて待機していた、ルストによるホーミングアローだ。
 光の軌跡を描きながら飛んだ矢は、モンスターの足を射抜いて。痛みからか呻きを漏らしたモンスターは、木の上へと飛び上がろうとするが……その目の前で、乗ろうとしていた枝が地面へと落ちてくる。
「残念だったな」
 それは、ヴァイスが大地斬を用いて切り落としたものだった。敵が逃げるとしたら、それはきっと木の上へのはず。そう見当をつけていたヴァイスは、敵が逃げる様子を見せたと同時に、飛び移りそうな枝を切り落としに動いたのである。
「グルゥ……」
 腹立たしさを露にしながら、モンスターは体を反転させると、一転、ルーベンスに向けて飛び掛かる。おそらくそれは、木の上に飛び乗っての逃走は断念せざるを得ない状況となり、逃走するための突破口を開く為の行為なのだろう。
「あんたの相手はうちやって言ったろ?」
 それを見たリーガルは、ルーベンスを庇うかのようにその前に出ながら、モンスターとの間に割って入る。伸びた爪先はリーガルを襲い……無風の構えによる攻撃の跳ね返しは発動せず、爪の掠めた腕から、じわりと血が滲む。
 だが、リーガルは反対の腕でその足を掴んで。……逃走を阻止すべく押さえ込む。
「そこまでじゃ!」
 ブロウは斧を構えると、それを攻撃直後のモンスターへと打ち下ろし、兜割りを叩き込む。更にレイリスの手からは飛燕刃が飛び、後方からはルストによるライトニングアローが突き刺さる。
「――はっ!」
 モンスターは悲鳴を上げながらも、側にいたリーガルに更に攻撃を重ねようとするが、それをルーベンスの振るった剣が阻み、シャムシエルによるスキュラフレイムが爆発と共に多大なダメージを与える。その間にリーガルは脇へと転がり出ると、リフィスによる癒しの光を受けながら体勢を立て直す。
 その一方で、セイリオスは再び両手を構え……粘り蜘蛛糸を放つ。のびた糸はモンスターの体へと絡みつき、またもその身の自由を奪い、拘束する。
「……覚悟は出来たかしら?」
 レイリスは囁きながら銀詠葬舞を手繰り、反対側からはユダのサーベルが振るわれる。その間に前へ出たヴァイスは大地斬を放ち、リーガルの緋針からは衝撃波が飛び、ブロウは惜しみなく兜割りを打ち込む。
「はっ!」
 ルストのライトニングアローが突き刺さる中、ルーベンスの剣が傷を刻み、シャムシエルのスキュラフレイムが飛ぶ。回復の余裕があるのを見たリフィスも、ファンファーレと共に華麗なる衝撃を放つ。
 それらの攻撃を、拘束されたモンスターはただ受けるしかなく……更に次々と放たれる攻撃に、モンスターはなす術もなく、やがて力尽きるとその場に崩れ落ちていった。

●静かな森の中で
「ごめんね。被害が発覚しなきゃ討たれなかっただろうに……」
 もはや指一本すら動く事の無い、物言わぬ骸となったモンスターを前に、シャムシエルはそうぽつりと呟きを零した。
「………」
 一方、モンスターへと近付くのはセイリオスだ。その亡骸の傍らに立つと、屈みこんで口元に手を伸ばし……その牙を抜き取る。
「討伐の証を――確かに」
 静かに呟きながら、手にした牙を握り締めるセイリオス。
「気高き森の狩人よ、狩られる立場となろうとはのう?」
 その様子を見届け、語りかけるかのように一人口にしたブロウは、手頃な場所に穴を掘り始める。土へと帰し、安らかに眠れるよう……モンスターの墓穴を。
 やがて十分な深さまで掘り広げられたそこに、モンスターの遺体が降ろされ……ブロウは、その上に土を被せると、無言で黙祷を捧げた。
「これで、子供が遊べる場所が増えるかな?」
 そう呟いてから、ふとらしくないなと苦笑しながら。ヴァイスは、それじゃあ戻ろうかと身を翻して……来た道を引き返して歩き始めながら、お土産になりそうなキノコでもあれば採って帰ろうと、周囲の木の根元に視線をやるのだった。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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