【21〜30】ただの冷たい岩



<オープニング>


「敵は1体のみ。簡単でしょ?」
 霊査士がにこりと微笑むが、続く言葉の内容は過酷だった。
「敵は人里離れた谷にいるモンスター。硬いわ頑丈だわ攻撃がきついわで、死角が存在しない敵よ。外見は全高3メートル程度の丸い岩。動きは非常に遅くて亀の歩み並。攻撃手段は、岩の裂け目から吹き出す凍てついた風と、同じく岩の裂け目からくり出す氷の槍ね。冷気に耐えるには体力が必要で、槍を避けるには素早さが必要でしょうね。射程がせいぜい10メートル程度なのが救いだけど、岩の裂け目をふさごうとしたら普段より強烈な一撃をくらうかもしれないから、注意してね」

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参加者
荒ぶる戦鬼・ブレイズ(a05096)
灼熱の傷・サクミ(a08034)
虹兎・イーリス(a18922)
漆黒の暴風刃・ディストール(a20465)
戦慄の翼・ハクホウ(a23008)
幻の桃色ガイア・エンフェア(a26732)


<リプレイ>

●開戦
 モンスターに対し最初に攻撃をしかけたのは、戦慄の翼・ハクホウ(a23008)であった。
 あえて弓を使わず、鋭く踏み込んで鋭い逆棘の生えた矢を岩肌に突き立てる。
 高邁なる小豆色タコ・エンフェア(a26732)がそれに続き、全身の力を巧みに使いこなし、巨大な剣を叩き込む。
 経験を積み、強大な身体能力を持つに至った冒険者の一撃は、モンスターの分厚く硬い表皮を大きくえぐる。
「寒いのは苦手なんですっ!」
 全身の筋肉に力を貯めてから、闘気をこめた剣を一気に振り下ろす。
 優美としかいいようのない細身の体から放たれた一撃ではあったが、表皮から1メートル近くも切り裂くことに成功する。
「大きくても、これなら」
 苦戦を覚悟していたエンフェアは、ほんの少しだけ安堵する。
 油断は全く出来ないが、自分やハクホウのような強烈な打撃を叩き込んでいれば、押し切れる。
 少なくとのこのときは、そう思っていた。
「なん……だ?」
 ハクホウは、唐突に襲ってきた悪寒に戸惑いながら、ほとんど無意識に岩肌から……全高3メートルの大型モンスターから距離をとる。
 その瞬間、エンフェアが開けた亀裂と、至近距離にまで近づかなければ気付かないような割れ目から、白い煙が吹き出す。
「冷気?」
 エンフェアはとっさに巨大剣を大地に突き立てる。
 剣の平で冷気で遮り少しでも被害を軽減しようとする行動だが、点でも線でもなく面での攻撃を防ぎきることはできない。
 気候が温暖なホワイトガーデンではぐくまれた肌がみるみる青黒く変色していく。
「危ない!」
 ハクホウが抱きかかえるようにしてエンフェアを安全地帯に退避させる。
 モンスターは鈍足で、しかもエンフェアに深手を負わされているため冷気の射程が大幅に低下している。
 そのためエンフェアの避難は比較的うまくいったが、助けた側のハクホウは冷気をまともに浴びることになった。
 エンフェアとは違って冷気対策は行っていたため致命傷だけは避けられたが、それでも骨まで達する損害を負ってしまう。
 冒険者対モンスターの第1ラウンドは、冒険者達の劣勢であった。

●打撃戦
「むぅっ」
 荒ぶる戦鬼・ブレイズ(a05096)は普段とはうってかわった厚着のまま、冷気をかきわけるようにして突進していく。
「ったく、潰し甲斐がある相手だってのによ」
 マントの襟で覆われた口元が、小さく歪む。
 攻撃に転じたいが、体内の気を活性化するのを怠ればそのまま冷凍されてしまいかねない。
 そして、現時点ではかわすこともできないのだ。
「到着したぞ!」
 モンスターと触れあうほどの距離になると、ブレイズは叫ぶ。
「夜露死苦ゥゥゥゥ!」
 ブレイズの背中から飛び出した漆黒の暴風刃・ディストール(a20465)が、雄叫びと共に斧をモンスターに叩きつける。
 それはエンフェアの一撃に比べるとずいぶんと弱い一撃のように見えたが、ディストールの一撃はモンスターの表皮をすり抜け、そのまま効果を現す。
「戦いはやり次第ってね」
 亀裂がない側面に回り込みながら、ディストールはニカッと笑う。
 が、すぐに表情が凍り付く。
 極小の亀裂がはぜ割れ、厚着のディストールめがけて鋭い氷の槍が突き出されたのだ。
「うぉぁっ!?」
 体をひねって辛うじて直撃だけは避けたものの、脇腹をざっくりと切り裂かれてしまっていた。
「……」
 モンスターの注意がディストールに集中したのに気付いたブレイズは、敵の注意を自分に引き付けるために、距離をつめて両腕で岩肌を連打する。
 が、ほとんど効いていない。
 素手の武道家は多彩な戦術を駆使できる分、打撃力に劣りがちだ。
 この種の頑丈な敵は天敵といってよかった。
「俺っちはいけるっすけど、このままじゃ」
 体勢を立て直したディストールが唇をかむ。
 うしろに控える虹織兎・イーリス(a18922)が広範囲の癒しの技を行使してくれているため、自力回復手段を持たないディストールでもなんとか持ちこたえることができる。
 しかし攻撃力が足りない。
 イーリスが攻撃参加すれば攻撃力は足りるだろうが、その場合前衛が全滅しかねない。
「これからモンスターザンギャバスとの戦いがあるっすのに、こんなところで!」
 ディストールは斧に稲妻の闘気をこめて、一気に距離をつめてモンスターの亀裂に叩き込む。
 モンスターからの冷気の反撃は受けるが、ブレイズの場合とは違ってダメージを与えることはできる。
 が、狙っていた麻痺の効果はない。
 能力が高い相手には、高度なアビリティでない限り効かない可能性が高いのだ。
「退くべき……か?」
 唯一の回復役であるイーリスが、その幼い顔を緊張で強張らせながらつぶやく。
 回復アビリティはまだ2桁近く行使可能だが、既に前衛が半壊状態だ。
 ブレイズが自ら回復しつつ戦い、そのブレイズを盾にしつつディストールが戦っているため、当初考えていたよりイーリスの回復アビリティ使用頻度は高くない。
 だが……。
「落ち着いていけ。斃せぬ敵ではないっ!」
 これほど自らの声が虚ろに聞こえたのは、彼女にとって初めての経験だった。
「待たせた!」
 ハクホウとエンフェアを安全な場所まで運び終えた灼熱の傷・サクミ(a08034)が、黒いマントをひるがえしながら駆けてくる。
 狙いすましたように冷風が吹きつけるが、サクミは軽々としたステップで冷気をマントでうける。
 マントが1枚だけなら骨まで凍り付いてしまったかもしれないが、重ね着していた分、優れた防寒効果を発揮していた。
「大したもんじゃないか、坊主」
 連続した打撃音を響かせながら、ブレイズがにやりと笑う。
 ブレイズとしては最大限の褒め言葉だったが、サクミはその細い眉をきりきりと吊り上げる。
 色白の顔が赤く染まり、古傷がうっすらと浮かび上がる。
「私はっ! 女だっ!!」
 サクミはさらに速度を上げ、2つの残像さえ伴ってモンスターに迫る。
 モンスターはその高速に追随することはできず、サクミの両手の刃で深々と切り裂かれる。
 その間にブレイズは自らの気を活性化し傷を癒すが、そのいかつい顔には渋い表情が浮かんでいた。
「……」
 軽く手を振ってディストールに合図を送ると、ディストールはブレイズ以上に渋い表情になる。
「この程度の相手も倒せずに…………」
 ディストールの顔が自分自身に対する怒りで歪む。
 強くならねばならないのに、自分の力が足りない。
 彼は歯を食いしばって不愉快な現実を認めてから、ふりしぼるような声でサクミに呼びかける。
「イーリスさんをお願いっす」
「…………分かった」
 サクミはさらに岩肌を刃でえぐってから、飛び跳ねるような動きで後退する。
「な、何をっ。妾がスキュラで燃やせばこんなものっ」
 サクミに抱き上げられたイーリスが小さな体でじたばた暴れる。
 だがサクミは幼いエンジェルをしっかりと抱えたまま、背後をディストール達に任せて自分はハクホウ達がいる安全地帯へ向かって走る。
「1人なら最後までやるんだがな」
 ブレイズは無意識に舌打ちしていた。
 戦いそのものを楽しみたいのだが、依頼をうけている以上は仲間との連携を考えざるをえず、自分の命をチップにして戦いを楽しむというわけにもいかない。
「……」
 健在なメンバーの中では最も素早く、また自力回復能力があるため最も打たれ強いブレイズが、自らが殿になるべくディストールを促す。
「っ!?」
 だが促されたディストールは逃げなかった。
 モンスターは再び氷の槍を打ち出そうとしている。
 その狙いは、イーリスを抱えているため速度が鈍っている、サクミであった。
「うぉぉぉぉぉぉっ!!」
 氷の槍が放たれる直前、ディストールが自らの体を使って射線を遮る。
 肉と臓腑が貫かれる音と、熱い血が噴き出す音が響く。
「仕事の、しすぎだ」
 ブレイズは仲間を救った男を抱え上げ、猛烈な冷気に耐えながら撤退していくのであった。


マスター:のるん 紹介ページ
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重傷者:漆黒の暴風刃・ディストール(a20465)  戦慄の翼・ハクホウ(a23008)  幻の桃色ガイア・エンフェア(a26732) 
死亡者:なし
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