【月夜見奇譚】星祭り・導きの流火



<オープニング>


●星祭りの伝説
 ――それは遠い遠い、昔のお話。
 とてもとても仲の良い恋人達がいました。
 将来を誓い合い、とても幸せな日々を送っていた2人。
 そんな彼等に、突然不幸が訪れました。
 彼女が、流行り病で帰らぬ人となったのです。

 彼の悲しみは、それはそれは深く。
 あの人が恋しい、逢いたいと……その慟哭は木々を揺らし、昼も夜も願い続け。
 そんな彼のひたむきな想いに心打たれ、憐れんだ女神は、彼女の魂を1日だけ蛍へと変え。
 毎年、たった一度。その約束の場所での逢瀬を贈ったそうです……。

●導きの流火
「……いいお話だね〜。樹が揺れるんだからよっぽど大きな声だったんだね!」
 にこにこと御機嫌な金狐の霊査士・ミュリン(a90025)に、冒険者達が曖昧に頷いて。
「……コイツが言うと感動的な話も台無しな気がするのは何でだろうな」
「まあ、ミュリンだから……」
 そんなことを囁きあう冒険者達を気にするでもない彼女。
「……はい」
 突然提灯を手渡されて、冒険者は目を瞬かせる。
「……何? これ」
「やだなあー。提灯だよー」
「……そんなモノは見ればわか……ん?」
 よくよく見るとその提灯、鈴蘭の花の形に似ていて。冒険者達は首を傾げる。
 そんな彼等の様子ににっこりと笑って、ミュリンは話し始めた。
「あのね。この提灯、ホタルブクロの形なの。さっき話したお話の場所って、実在するんだよー」
 ここから1日程行ったところに、物語の舞台とされているトレネと言う村がある。
 そして、青年と蛍に姿を変えた乙女が年に一度逢瀬した日とされる、星祭りの夜。
 ホタルブクロの形をした提灯に、逢いたい故人の名を書いた紙を入れて蝋燭を燈すと、女神が願いを聞き入れてその人を1日だけ帰してくれる……そんな言い伝えがあるのだそうだ。
 逢いたい故人がいない場合でも、願いごとを書いて火を燈せば、蛍が女神の元にその願いを届けてくれるらしい。
 その伝承が嘘か誠か定かではないが……それにあやかろうと言う者達が足を運ぶ場所として、密かに有名なんだとか。
「ホタルブクロが一面に咲いてる、綺麗な村なんだってー」
 嬉しそうに言うミュリンに、ふむふむと頷く冒険者達。
「……それでね。みんなにお願いがあるんだよ」
 突然話題を転換する彼女に、冒険者達は目を瞬かせつつ何事かと耳を傾ける。
「あのね……その『星祭り』にグドンが現れるのが視えちゃって。現れるのは夜でね。1匹だけで、食べ物が沢山あるところに来るみたいだから、捕まえるのはそんなに難しくないと思うんだけど……」
 そう言って、冒険者達に期待の眼差しを向けるミュリン。
 例え1匹でも祭に現れたとなっては、村人は大パニックに陥ることだろう。
「……分かった。そのグドンを撃退してくればいいんだな?」
 冒険者達の言葉に、彼女がうんうん、と頷き。そして、彼らをじっと見つめる。
「……あとね。アヤノちゃんも連れてってあげて欲しいんだー」
 お兄さんに逢いたがってたから……と言う彼女に、冒険者達も少し遠い目をする。
 アヤノの兄、ハヤトは2年程前に事件に巻き込まれ亡くなり、その死は妹を復讐へと駆り立てた。
 そして、紆余曲折あって、アヤノは冒険者となり。
 更に1年程前――ハヤトは『2度目の死』を迎え、今は静かに眠っている。
「もう、そんなに経ったんだっけ……」
「……何が?」
 その事件に関わった者も多く――感慨深げに溜息をつく彼らを、いつの間にかやって来ていた月夜の剣士・アヤノ(a90093)が覗き込む。
 その場を取繕うように、冒険者達は彼女に微笑みを向けて。
「いや。何でもない。……遅かったな。何処に行ってたんだ?」
「ああ、すまん。ちょっと花を手配してたんだ。兄さんの墓に寄って、供えようかと思って……。でも、事件なんだろう?」
 真剣な表情で向き直るアヤノに、ミュリンはにっこりと微笑みを返して。
「お仕事は夜からだし、お墓参りに寄っても十分間に合うと思うよ」
「そっか。じゃあ、俺達も一緒に行っていいかな?」
「うん、勿論。……兄さんも喜ぶと思う」
 そう聞いて来た冒険者達に、アヤノは嬉しそうに頬を染めて。
「霊査した限りだから絶対とは言えないけど、当日は晴れそうだよ。折角だし、皆でお祭りを楽しんで来てね♪」
 お土産よろしくー! と続けたミュリンに、冒険者達も笑って頷いて。
 そして、彼女に心の中で感謝しながら、身支度を始めるのだった。

マスターからのコメントを見る

参加者
月夜に永遠誓いし剣士・カズハ(a00073)
三代目雲龍の刀匠・レイド(a00211)
舞月の戦華・アリア(a00742)
還送せし者・アーシア(a01410)
自然と昼寝愛好家・ファンバス(a01913)
紅き紋章を描きし乙女・ショコラ(a02448)
星影・ルシエラ(a03407)
死徒・ヨハン(a04720)
旅人の篝火・マイト(a12506)
蒼森珠花の歌癒師・ディナ(a22024)
NPC:月夜の剣士・アヤノ(a90093)



<リプレイ>

●穏やかなる眠り
「じゃあ、わたしは先に行ってますね」
 調理道具を抱えた紅き紋章を描きし乙女・ショコラ(a02448)を、見送る赤と白の狩人・マイト(a12506)。
 そして、冒険者達の目に竜の細工が美しい墓標が見えて。
「綺麗なお墓ですね。細工が実に良い」
「ああ。レイド兄さんが作ったんだ」
「そういやそうだったな」
 呟く死徒・ヨハン(a04720)に、月夜の剣士・アヤノ(a90093)は微かに頬を染めて。
 言われて思い出したらしい赤き傭兵・レイド(a00211)に、仲間達から笑いが漏れる。
「こっちは綺麗になったよ」
「私も……草……むしり……終わ……りまし……た」
「拭き掃除も完了です」
 箒を手に戻って来た月華の舞姫・アリア(a00742)に笑い返す蒼穹真珠の雪治癒師・ディナ(a22024)。
 癒しの術の遣い手・アーシア(a01410)も額に滲む汗を拭って。
 頑張った彼女達のおかげで、墓は美しく整えられていた。
「お……供え。沢山……だと、喜ん……で……くれる……かな?」
 小首を傾げるディナは墓前に山盛りのフルーツを供えて。
 マイトもまた、生前ハヤトが好きだったと言う矢車菊を供えて、手を合わせる。
「もう2年もたつんだね……」
「おう。……アヤノは報告する事あるんだもんな」
 遠い目をしたアリアに頷いたアヤノ。ニヤリと笑うレイドの言葉に頬を染めて。
「アヤノ。ハヤト殿……いや、義兄上に挨拶しよう。おいで」
 月夜に永遠誓いし剣士・カズハ(a00073)にそう声をかけられて、みるみるうちに耳まで赤くなる。
「……兄さん。私達、こ、こん……」
「……妹君と婚約しました」
 並んで墓標に手を合わせる2人。
 気恥ずかしいのか、しどろもどろなアヤノの言葉を継ぐカズハ。
 ――これからも貴方が愛した妹と共にあり。様々なものから守り、不幸にしないよう努めると。改めて誓いを立てて。
 そんな2人を眺めながら。今日来られなかった友人の分も、と白い菖蒲を2枝供えた星影・ルシエラ(a03407)は、彼の墓に笑いかける。
「アヤノさん、来るたびに綺麗になって幸せそうだよね?」
「うん。彼女は強くなったよ。そして素直な所や純粋な所は残ってる」
 だから、安心して……これからも見守っていて欲しい。
 酒を供えつつ、そう呟いた自然と昼寝愛好家・ファンバス(a01913)に、アリアは頷いて。
「去年もそう祈ったよね……」
 これからもずっとアヤノの側にいる。
 何があっても。一緒ならきっと乗り越えていける筈だから。
「最近は私が慰めて貰ってるっぽい……けど」
 手を合わせたまま頬を染めた彼女に、ファンバスは笑って。そして隣で見上げている……先日出会った孤児、シェラフィの頭をそっと撫でる。
「ここはアヤノちゃんのお兄さんが寝てる場所だよ。……シェラフィちゃんのパパやママと同じ所にいるんだ」
「ふぅーん。……おねえちゃんのおにいちゃんも早く帰ってくるといいね」
 亡くなった両親がいつか帰って来ると信じている彼女。ハヤトも同じと思ったのだろう……無邪気に笑う少女を、彼はぎゅむっと抱きしめて。
「いい子に育ってね。そのまま、真っ直ぐに……ね」
「おじちゃん、やっぱりパパみたいな事言うね」
「ジジむさいからな、ファンバスは……と。よし。折角だし一緒にお参りしようぜ」
 くすぐったそうな彼女に笑うレイド。少女の顔を覗き込んで。
「いいか? こうやって手合わせて……心の中で話すんだ」
 そう言って、目を閉じる彼。
 ――色々とあったがアヤノは落ち着いているみたいだ。
 ちゃんとひとり立ちしてっから、のんびりしててくれな……。
 心の中で呟いて隣を見ると。ちゃんと真似している少女と、黒髪の女性が2人、目に入って。
「……辛い体験を乗り越えていらしたんだな、と思って」
 報告が済んで、まだ頬が赤いアヤノを気遣うアーシア。彼女は少し遠い目をして続ける。
「私にも兄がおりますし、もし兄が死んだら、と考えただけでもぞっとしますから……」
「……皆がいたから。独りだったら潰れていたと思う」
「アヤノさんにはもう、沢山の『家族』がいらっしゃるんですものね」
 頷いて、微笑みあう2人。
 そしてアーシアは墓に目線を戻して、故人の冥福を……仲間達と同じ想いを祈りに乗せる。
「……貴女が冒険者となったのは復讐心からだとか?」
 そして。その様子を静かに見守っていたヨハンに問われ、アヤノは自嘲的に笑って。
「いや。冒険者になったのは、それを果たしてからだが……復讐の為に生きていたのは間違いない」
「そうですか。……私はそれを悪い事とは思いません」
 心の底から湧く欲求は、どんなものであれ生きる糧となる。復讐もまた然り――。
 そう呟くヨハンの眼鏡越しの瞳は、穏やかな春の海のようで。
「死は生という贖罪の旅路の果てに辿り着く終着点であり、所詮は結果に過ぎません」
「……贖罪、か。私は己の罪を、償えているのかな」
「それは、今後の貴女次第。その事を十分噛み締め、そこに至るまでの過程……人生を愉しまれますよう……」
 真剣な顔で頷いた彼女に、ヨハンは帽子を外し、恭しく頭を下げ――。
「……難しいお話だねー。ルシエラ、何だかお腹空いちゃった」
「おやおや。では、星祭りに向かいましょうか」
 その話を、アヤノの横で大真面目に聞いていたルシエラの呟き。
 笑いを堪えて言うマイトに、仲間達も笑って頷いて。
「また、来ます……」
 去り際。振り返り、墓標にそっと声をかけるアリア。
 供えた花が、応えるように風に揺れた。

●さあ来い! グドン!
 気合十分。団扇をあおぐショコラ。
 網の上には鰻の蒲焼。炭の上にこぼれた脂が焼ける良い匂いがする。
 墓参りを辞退して、星祭りに先行していた彼女。
 その間、料理の下ごしらえをしていたお陰で、仲間達が来た時には完成も間近と言う頃合い。
 その匂いに釣られるようにやって来たのは、見覚えのある小柄な猫グドンで……。
「……よう。やっぱお前か」
 レイドに肩を叩かれ、振り返ったところでカズハの紅蓮の咆哮でフリーズ。
 ショコラの緑の束縛で、あっと言う間に緑色の簀巻きの出来上がりである。
「花見の次は、星祭りですか……。いい加減に分を弁えて戴きませんと」
「お祭り台無しにしちゃダメなんだよー!」
 微笑みつつも目が笑っていないマイトに、ルシエラが同意して。
「楽しい事が色々あるのに、貴方に手を焼いてる暇なんて無いんですっ!」
 思わず漏れるショコラの本音に、カズハは苦笑して。グドンを袋に詰めながら仲間達を振り返る。
「……さて。どうする?」
「殺す事はないと思いますが……」
 答えるアーシア。ヨハンはふむ、と考え込んで。
「では、質問です。……生きたいですか?」
 それに涙目で頷くグドンを確認すると、彼は胸の前で十字を切って。
「宜しい。では赦しを与えましょう」
「暴れ……たら……殴……ります……よ?」
 更に。そう言って、うっすら笑ったディナの手には分厚い本。
 それを見て、ぴたっと大人しくなったグドンに、シェラフィを抱えたファンバスが安堵の溜息をついた。

●星祭りの夜
 グドン退治も終わる頃には村中が、灯篭の光で満たされて。
「不思議ですね。あちこちでこんなに違う風習があるなんて……」
「ああ。星祭りは、星凛祭が伝わって変化したものらしい」
 蛍袋の提灯を持ちつつ、あちこちを眺めるマイトに答えるカズハ。
 遠い昔に、2つの大陸は交流があったのだろう……そう、調査した結果を呟いて。
「そうですか。何時までも続けられるように守りたいですね」
「お……祭りって……甘い……もの……沢山……あるの……かな?」
 感慨深げに呟くマイトの横を、ディナが屋台を目指し歩いて行く。
「うん! なかなか良く出来ました」
 浴衣にエプロンが可愛らしいショコラから出されるうな重、蒲焼、白焼、う巻……。
 美味しそうな鰻尽くしに仲間達は目を輝かせて。
「……飲もっか!」
「うん! シェラフィちゃん、ジュースあるよー」
 うきうきと茣蓙を敷いたファンバスの声に、微笑んで少女を覗き込むルシエラ。
 そして、レイドもまた、彼女を手招きする。
「後でお願い事しような。俺の分の提灯も、お前にやるから」
「おにいちゃんのお願いごとは?」
「俺はいいよ。シェラフィは会いたい人、沢山いるだろ?」
 にっかし笑う彼。少女は嬉しそうに笑い返して。
「……ファンバス兄さんは、良縁をお願いするのよね?」
「え? えーと……俺、良縁に恵まれてると思うんだけど」
 突然アヤノに話を振られて、キョトンとするファンバス。
「こうして皆と色々楽しんで……凄く、良い仲間に恵まれたなあって。幸せだよねぇ……」
「私が言ってるのはお嫁さんの方ー!」
 心底幸せそうに微笑む彼に、アヤノはムキになって。
「あーあ。怒られちゃった」
 その様子を見ていたシェラフィに、かわいそうね、と頭を撫でられる彼。
 頭を抱えるアヤノを、苦笑しつつアリアが宥めて。
「……アヤノの会いたい人は、やっぱりハヤトさん……だよね」
 首を傾げる彼女に、少し考えるアヤノ。
「『会いたい』って思う気持ちは悪い事じゃないと思うから。……今度はちゃんと会えるといいね」
「ありがとう。アリアも勇気、出して……ね」
 後押しするような言葉。優しく返すアヤノに、アリアは頬を染めて。
 ――仲直り……できますように。
 灯篭に、そんな願いを込めて火を燈す。
「……行って来るね」
 そして親友を抱きしめた後、歩き出す。


「私も……提灯に……願い……事……いれた……いな」
「そうですね。私も……」
 提灯を手にしたディナに、アーシアが微笑んで。
 ルシエラの元気がない事に気づいて覗き込む。
「……んー。ちょっと、気になって」
 伝承の男性は、新しい幸せを見つけられたのだろうか、と。
 死んでしまった恋人に、毎年1日だけ逢える。
 確かにそれはとても素敵な事だけれど。
 同時にとても悲しい事ではないだろうか……。
「そうですね。過去に捕らわれて生きるのは……」
「寂し……い……かも……ね」
 ルシエラの呟きに、2人も頷いて。
「ルシエラもね。大事な人死んじゃったけど。幸せな記憶は忘れないもん」
「ルシエラさんも、辛い経験をなさったんですね」
 明るく笑う彼女に、アーシアは呟いて。
 自分は、兄と生きて再会出来た。
 それはなんと幸せな事なのだろうと、改めて思って。そして、灯篭に願いを込める。
 ――大好きな人達が幸せになりますように。
「ちょっと曖昧過ぎたでしょうか」
「大丈……夫。私も……同じ……ような……感じ……だよ」
 そう言うディナの願い。
 ――皆さんと沢山いられますように。
 それらを見て、考え込むルシエラ。
 会いたい人……と思った瞬間。浮かんだのは片思いの……。
「わわっ! い、生きてるもん!」
「生きていらっしゃる方でも大丈夫では」
 思わず慌ててしまった彼女に、困ったように笑うアーシア。ルシエラはその言葉にそっか、と笑って。
 ――来年あの人と、ここに来れますように。
 そんな想いを、灯りにして。
「会えるのって幸せだよねー♪」
「そうですね」
「皆さん……のお願……い……叶う……と……いいね」
 微笑み合う3人。
 願いを乗せて、川を往く灯篭。
 漂う光は、何だか地上にある星のようで……。


 その光景を、別な場所から見つめるアリアとツルギ(a01447)。
 流れる気まずい雰囲気。それを何とかしたくて……。
「わ、私……意地張って。素直じゃなくて……ごめんなさい」
 勇気を出したアリアに、彼は首を振って。
「アリアは悪くない。……ってか、ほったらかしてて……ごめんな?」
 彼女が本当は寂しがり屋なのを知っていたはずなのに。
 ツルギも、勇気を出して。目の前の愛しい人を見つめる。
「……嫌いにならないで欲しい。俺、アリアの事が大好きだから」
「嫌いになる訳ない。……私も、大好きだもの……」
「良かった……」
 同時に漏れる呟き。お互いの心が同じであると、改めて知って。
 緊張していた事もあり、気が緩んだ2人はクスクスと笑う。
「……戻ろうか?」
「折角だし、もう少しここで……」
 2人で出かけるの、久しぶりだし……そう続けた彼に、アリアは頷いて。
 手を繋いで、歩き出す2人。
 彼女の手にある灯篭は、もう流さなくても良さそうだった。


 浴衣に着替え、堤燈を片手に手を繋いで歩くカズハとアヤノ。
「……故人の名前を書いて流せば一日だけ会える、か」
 呟き、不意に立ち止まった恋人を、彼女は不思議そうに見上げて。
「……やはり会いたいか?」
 幻や夢でも会う事が出来るのであれば良いが……。
 そうでなかった時の事を考えると、心穏やかではいられない。
 カズハの真剣な眼差し。それを受け止めて、彼女は呟く。
「逢いたくないと言えば、嘘になると思う。……でも、寂しくないよ。カズハがいるもの。……それ以上望む事なんて、ない」
 そう言って胸に飛び込んで来た彼女を、確りと抱きしめて。
「……傍にいよう。お前が望む限り」
 2人で過ごせる日々。当たり前のようで、どれだけ大切な事か……。
 腕の中の温もりに感謝して。
 そっと、灯篭に想いを燈す。
 こんな日々が、いつまでも続きますように――と。


 満天の星空と柔らかな灯篭の光。
 雅心を擽られたマイトは、人気がない所に座り、目を閉じる。
 弓を手に立ち上がり、始まる舞。
 闇に響く弓弦の音。
 その音を合図に、速くなる足運び。
 弓が鳴るごとに、切り替わる静と動。
 そして座し。弓弦が鳴ったところで……拍手の音で我に返る。
 見ると、涼やかに微笑むヨハンと目が合って。
「……あの、見ていらしたんですか?」
「ええ。美しかったものですから」
 気恥ずかしそうなマイトに、変わらぬ様子の彼。
「……貴方には、逢いたい故人はいますか?」
 突然の彼の問いに、マイトは少し考えて首を振って。
「そうですか。私は……愛する者を殺めてしまった身としては、その資格すらないでしょうね……」
 独白のようなヨハンの呟き。彼はどこか遠くを見たままで。
「この罪は絆です。その絆を断ち切り赦しを与える者を、私は待ち望んでいるのかもしれません」
「赦し……ですか」
「ええ。他に赦しを与える私が、何よりも赦しを請うている……滑稽だと思いませんか」
「……私がどうこう言う権利はないと思うのですが。貴方が愛した方は、貴方を赦しているのではないでしょうか……」
「そう、なんでしょうかね」
 マイトの言葉に、自嘲の笑みを浮かべるヨハン。
 殺戮という快楽の中。狂い咲く緋色の花。
 その先に在る楽園……この灯は、そこまで続いているのだろうか。
「この蛍の灯は、私達を何処へ導いてくれるでしょうね……」
 彼の呟きに答えるものはなく――。


 星と灯篭の仄かな光と、優しい夜の帳が冒険者達を包む。
 それぞれの想いを乗せて、星祭りの夜は更けて。
 帰り際。簀巻きグドンをしっかり山奥に捨てる事は忘れない彼らであった。


マスター:猫又ものと 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:10人
作成日:2005/07/24
得票数:ほのぼの18 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。