流せ、そうめん!



<オープニング>


「最近、暑くなって来たなぁ……」
 その日、ストライダーの霊査士・キーゼルは、ふぅと小さく息をつきつつ、けだるそうに尻尾を揺らしていた。
 彼の前には、スープとサラダとチキンのソテー。どうやら昼食らしいが……もそもそとレタスを一口食べると溜息ついて、スープを見やって溜息ついて……そんな感じなので、食事はサッパリ進まない。
「キーゼルさんて暑いの苦手よね……」
 その様子を見ていた、リボンの紋章術士・エルル(a90019)は、もう既に夏バテに突入しているのではないかというキーゼルの様子に呟くと、「そうだ」と何かを閃いた様子で手を鳴らす。
「ねぇキーゼルさん。『流しそうめん』なんてどう?」
「流しそうめん?」
「そう。竹を繋いで、お水を流して、おそうめんを流して……で、流れて来たそうめんを食べるの。冷えたそうめんは美味しいだろうし、そうやって食べれば、涼しげな気分になるんじゃないかしら?」
 フォーク片手に聞き返したキーゼルに、エルルは頷きながら「きっと暑さも吹き飛ぶわよ」と笑みを見せる。
「まぁ、確かに、暑さも少しは紛れるかな……」
 面白そうだしね、とキーゼルが呟くのを聞くと「じゃあ決まりね」とエルルは微笑んで。
「あ……流しそうめんは、人が多ければ多いほど、きっと賑やかで楽しいわよね。ね、皆さんも一緒にやりましょう?」
 エルルは、そう居合わせた冒険者達に誘いかけると、早速準備に取り掛かるのだった。

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参加者
NPC:ストライダーの霊査士・キーゼル(a90046)



<リプレイ>

●そうめんを流す前に
 よく晴れた、とある夏の日。
 森の中を流れる川の側には、幾人もの冒険者達が集まっていた。
「よいしょ、っと」
 紅蓮の名の継承者・レン(a25007)は先程切ったばかりの大きな竹を運んで来ると、息つきながら地面に置く。忘却武人・ラン(a20145)は、レンと入れ替わるように、その竹に近付くと――。
「……つまらないものを斬ってしまった……な」
 目にも留まらぬ速さで、のこぎりを抜き打つと、竹を真っ二つにして、そうめんを流す台作りに取り掛かる。レンは竹を手に取ると、中の節を取り除き、やすりをかけて整える。
「よっと」
 狼牙の守護神・アールグレイド(a15955)は、竹と竹の端を結ぶと、今度は足となる部分を用意して。流し台を組み立てていく。
「流しそうめんとはなかなか風流な。俺もちょいと、今年初のそうめんを味あわせてもらうとすっかね」
 朽澄楔・ティキ(a02763)は、余った竹を手にし、器や箸を作っていく。
「……それにしても、エルルはまた食い物で行動力を発揮……」
 ふと、その視界に水を運んでいるエルルを見つけたティキは呟くと、誤魔化すように咳払いして。どうやら本人には聞こえなかったらしいと見ると、再び手を動かす。
「台の方は順調?」
 一方エルルは台作りを行っている面々へ近付いて、その様子を伺う。
「ああ、大体完成だ。あとは立たせて……」
 朱い城塞・カーディス(a26625)は、流しそうめんだなんて発想力は一体どこから来るんだろうな……なんて思いながらエルルに頷き返すと、皆とタイミングを合わせて台を起こす。多少グラグラする箇所もあったが、台は見事に立ち、倒れないよう足の補強をしながら、最後の仕上げを行う。
「水もしっかり流れたな」
 ためしに水を流して、それが漏れるような事が無いのも確認して、台は完成だ。
「これで最後、です」
 一方、髪をポニーテールにしてそうめんを茹でていた、微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)は、最後となったそうめんを茹で終えて微笑む。
「そうめんです♪ そうめんです♪ 流しそうめんでーす♪」
 茹で上がったそうめんを水で冷やしながら、楽しげに笑顔を見せるのは、空を知らぬ幼翼・コトナ(a27087)。
(「ばれないように……しなきゃ……」)
 ――その一方でコトナは、誰も見ていないのを確認すると、こっそりと茹でたてのそうめんを……。でもそれは、他の者にはとびきり内緒だ。
「フワリンさん、あの台までお願いしますね」
 癒しの聖天使・ヨナ(a25570)は、どこでもフワリンで召喚したフワリンの背にそうめんを乗せ、運ぶのを手伝ってもらう。コトナも同様にフワリンを呼び……大量のそうめんは、あっという間に運び終わる。
「つゆも出来ましたよ〜。どれにします?」
 宵空ノ緋焔・リファ(a27067)は普通のめんつゆに加え、ゴマだれの加わった物やハーブが加わった物、辛口のエスニック風な物など、何種類かのつゆを並べ、好き好きに選んで貰う。
 隣には、ショウガやネギといった薬味も並び……待ってましたと冒険者の手が次々と伸びる。
「キーゼルお兄ちゃんどうぞなのですぅ」
 ドリアッドの医術士・クレア(a06802)は、そのうちの一人であるキーゼルに器と箸を差し出す。それをありがとうと受け取るキーゼルだったが……。
「キーゼルお兄ちゃん、子供さんがいるってほんとですか?」
 にこにこ笑うクレアの言葉に面食らい、「どこで聞いたんだい、それ」と返しながらも、キーゼルはクレアを見やり。
「……そうだねぇ。君みたいな感じかなぁ」
 それだけ答えると、台の方へ移動していく。
「そうめんか……幼い頃、色つきの麺が当たると妙に嬉しく感じたな」
 台を見つつ、大凶導師・メイム(a09124)は懐かしそうに呟くと、キーゼルの位置がメルヴィルの側になるようにと、こっそり手を回す。
「あ……」
 やや下流側で二人が並ぶのを見ると、メイムは少しだけ目元を和らげ……一方メルヴィルは、二つ持っていた器の片方をキーゼルへ渡す。中には、ちょうちょ結びにされた、薄紫色と水色のそうめんが入っていて……。
「へぇ……」
 食べるのが勿体無さそうだと呟きながら、それを眺めるキーゼル。その足元では、尻尾がふわりと揺れていた。

●流せ、そうめん!
「じゃあ流すよ〜!」
 他のみんなが楽しめるようにと、そうめんを流す側に回る事にした、夜空の如く深い青・トモコ(a27368)は、台の左右に並ぶ者達へ呼びかけると、そうめんを流し始めた。
 すぐに下流へ流れて行くそうめんへ一斉に箸が伸び……歓声と同時に残念がる声が上がるのを聞きながら、トモコはすぐさま次のそうめんを流していく。
 ちなみに、こっそりと激辛そうめんなどを流そうとした者もいたが、それは目を光らせていた、雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)によって阻止された為、被害者が出る事は無かった。
「これが流しそうめん……実物は初めて見た……」
 残念ながら最初のそうめんは取れなかったものの、本でしか見た事が無いからと楽しみにしていた、探求する銀蒼の癒し手・セリア(a28813)は、実際に流れて行くそうめんを前に呟く。
 思っていたよりも流れて行くのはかなり早いようだから、取るのはなかなか難しいかもしれない……そんな事を考えつつ、次のそうめんを見やる。
(「昔、ご主人様とよく食べたものです」)
 飛燕の・キリーロ(a29956)は、懐かしみながら目を細めると、涼やかでいいですねと、流れて来るそうめんに箸を伸ばす。
「む……」
 キリーロがそうめんを箸で一掴み取る一方。隣では、碧海の羅針盤・シーザー(a28779)が、何も取れなかった箸を見ながら難しい顔だ。箸をこれまで持った事が無いシーザーにとって、流れて来るそうめんを掴むという行動は、かなり難しいもので……。
「キリー、どうやったらそう上手く取れるんだ?」
 慣れた風のキリーロに尋ねるシーザー。そんな彼に「ペンを持つ時と同じ形で持つんですよ」と、キリーロは手元を見せながら説明する。
「なるほど……こうか」
 感心した様子で頷くと、改めて早速そうめんを睨むシーザー。そんな彼の手元を見ながら、キリーロは、自分と違って大きな手だなと、ぼんやりと思う。
「キーゼルはん、そうめん取れた?」
 レディ・リーガル(a01921)はキーゼルの器を覗き込み……取ったばかりらしいそうめんを見つけると、素早く横取りして食べる。
「……あのね」
「取るのは得意そうやし、ええやん〜」
 食べようとした矢先にそうめんを取られて、じとっとした視線を向けるキーゼルに「うち、不器用ってわけやないんやけどね……」と苦笑するリーガル。そんな様子に、仕方ないと言いたげな顔をしつつ、キーゼルは改めてそうめんを取ると、今度は取られないうちに食べる。
「ここまで流れて来るでしょうか……」
 人の少ない所へ……と考えた、あなたがすき・カメリア(a13537)は、一番下に回ると上流を見る。ここまでは何も流れて来ないのでは、と思っていたカメリアだったが、そうめんを流す側に回った者が多い事もあってか、そうめんは次々と流され……皆も全ては取りきれず、カメリアは流れて来たそうめんを楽しげに取って啜る。
「あれ、笹舟?」
 天紫蝶・リゼン(a01291)は、そうめんの合間に流れて来た笹舟に、首を傾げつつも取ってみる。と……その中には、一口大に切ったパイナップルが幾つか入っていて。
「わぁ……♪」
 驚きながらも嬉しそうに頬張るリゼン。
 その笹舟を流したのは、古の銀の調べ・ヘルミオーネ(a05718)だ。パイナップルの他にも、さくらんぼや蜜柑などの果物を、その方が雅だからと笹舟に載せて。ヘルミオーネはそうめんの合間に流していく。
「ふふふ、きれーい♪ ……夏の風物は、きらきらするイメージのものが多いですね」
 笹舟が流れるのを見ながら、ヘルミオーネは目を細める。水が流れていく様子は、何だか落ち着いて……それだけでもお腹いっぱいになるような気がした。

●そうめんを食べたら
「麺といってもスパゲティとは違うんですね」
 ボンクラ剣士・ノーマ(a28693)は、流れて来るそうめんを見ながら呟いた。彼の器にそうめんは無く、かといって彼がそうめんを取る気配も無い。……何故ならノーマは、今まで一度も箸を使った事が無かったので。
「……そうめんが取れない」
 流しそうめんの開始からそこそこ経っていたけれど、そうめんは一本たりとも取れず……ノーマは、箸の練習をしなければと密かに誓う。
「ん? どうした?」
 そこにやって来たのは、他の者と流し役を交代した後、折角の機会だからノーマと交流を深めにやって来た、ユダだった。ユダはノーマの状況を知ると「じゃあ」と取ったそうめんを半分ノーマに分ける。
「ふぅ、美味い……おっと」
 上流でそうめんを流していた、幻影蒼魔・エファス(a29927)は、こっそりとそうめんをつまみ食いすると、すぐにまたそうめんを流す作業に戻る。時々、小さく砕いた氷も一緒に流して、ひんやりとした感触を皆に送りながら……同じ位の頻度でそうめんを食べるうち、食べる側に回らなくとも、そこそこお腹が膨れていく。
「あ、やだ……取れない」
 そうめんの流し役を交代して、食べる側に回ったドリアッドの医術士・サナ(a30328)は、そうめんを取ろうとして……無常に通り過ぎて行くそうめんを、悲しげに見る。
 不器用らしいサナには、なかなか上手くそうめんが取れなくて……次こそは、今度こそは! と、そうめんを取ろうと奮闘する。
「そういえば、ウーさんが何か特別な物を流すと言ってたけど、何だろう?」
 見よう見まねで初めてのそうめんを食べていた、潤心の治療師・ダフネ(a05226)は、ふと上流でそうめん流し役をしている、無軌道突貫闘士・ウィルダント(a26840)の言葉を思い出す。
(「まさかアヒル君だとか食べれない物じゃないだろうな? ……食べ物でもドリアンとか嫌だよ!?」)
 戦々恐々するダフネだが、そもそも他の人が取ったら終わりじゃないかと首を傾げる。自分宛であると解るようになっているのだろうか?
 ――何だかんだで、わくわく期待するダフネ。と、そこに。
「おーいダフネー! とっておきだ、とっておけぃ!」
 響いて来たのはウィルダントの声だ。…………紅蓮の咆哮を使いながらの。
 更には、誰にも邪魔させないと言わんばかりに、彼の頭部でスーパースポットライトが輝き、同時に彼の手元から何かが流される。――この場にいるのは全員冒険者、それらの効果が及ばなかった者も多かったけれど、あえて手を出そうとする者はおらず。
「これ……?」
 無事に届いたのはそうめん――それは、身体と美容に良い物をと、ウィルダントが薬草や香草をブレンドして作った物だ。色と香りはかなり強烈だったので、ダフネはしばし躊躇したけれど、味はさほどでもないようだ。
「……よし、流すぜ」
 気を取り直して、再び流れる普通のそうめん。クレアは一口頬張ると「冷たくて美味しいのですぅ〜」と笑みをこぼし、反対側では、なかなか上手くそうめんを取れないヨナが、レンからコツを教わり食べている。
「ふぅ……」
 一方、緋色の炎・ローズウッド(a13735)は、流れて来たそうめんを器に入れると川に向かい、裾が濡れないようしっかり折った上で足をつける。
 暑いのは苦手で、食欲がなくなっていたローズウッドだったけれど、足元が冷たくなると気持ちよくて、涼しげな気分になる。
(「それに、そうめんなら食べ易いし。久しぶりに沢山食べられそうだね」)
 ローズウッドはそう思いながら、そうめんを啜る。
「おや、涼しそうだねぇ」
 そんな様子を見たキーゼルは、真似をして川に足を入れ、涼しげに一息つく。
「ふゅ……」
 そんなキーゼルの姿を見ていたリゼンは、後ろから近付くと、抱きついて頬をすり寄せて。
「おにぃちゃん、大好きだよぉ」
「何だい、いきなり。……どうかしたのかい?」
 振り返るキーゼルに、リゼンは何でもないと笑顔で首を振ると、そのまま側を離れていく。
「あ、折角だし……川で水遊びしない?」
 一方、レンがそう皆に誘いかけると、一通り食べて満腹になった面々が頷いて、次々と川へ入る。
「わ、冷たい」
 エルルも一緒になって足を入れると、その感触に声を上げ。スカートの裾が濡れないよう持ち上げながら、浅めの場所をうろうろ歩く。
「転ばないように気をつけてな」
「もう、大丈夫よ」
 そんな姿に声を掛けたカーディスを振り返り、微かに頬を膨らませつつも、エルルは楽しそうだ。
「行こう……ヨナ」
 誘いかけた本人であるレンは、川に入ると恋人のヨナに手を伸べる。……微かに顔を赤く染め、恋人らしくと、さんを付けずに彼女の名を呼ぶ事に挑戦しながら。
「……って、俺全然食って無ぇよッ!?」
 一方、台の側では裏方に徹していたリファが、はたと気付いて声を上げる。見ればそうめんはあと僅か、慌てて台の脇に立つ。
「さて……冷えた頃だな」
 そんな中、アールグレイドは川に手を伸ばした。掴んだのは、ここへ来てすぐ川に入れたスイカ。そうめんを食べる間にしっかり冷えたスイカは、さぞ格別な味だろう。
 川で水飛沫が舞う中、アールグレイドはスイカを切り分けると皆へと振る舞い……暑い夏の一日を涼やかに過ごした一同は、夕暮れの心地よい風が吹く頃、帰路へとついたのだった。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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