【こっこさんのお話】グドンの目指すもの



<オープニング>


 平和になったお山は、今日も村の人の役に立っていました。
 村の人はお山がくれる自然の恵みに感謝しながら、冬支度をしっかり整えます。
 もうお山に争いの気配はなく、みんな安心して暮らせる……はずだったのですけれど。
「おや?」
 お山にある炭焼き小屋に行こうとしたおじさんは、何かが枯れ葉を踏む音に、辺りをきょろきょろと見回します。子供が走っているような軽い足音は、どんどんこちらに近づいてきて……。
「うわっ!」
 木の間から飛び出してきた小柄な影が、どすんとおじさんにぶつかってきました。おじさんはそのはずみにしりもちをついてしまいます。
 何とぶつかったのかと見れば、それはグドンでした。
 ぶつかった方のグドンもびっくりしたようにおじさんを見ていましたが、山から下りる道をまた走り出しました。
 おじさんはその後ろ姿を不思議そうに見送って、グドンが来た方向へと顔を戻し……。
「? どんぐり?」
 ちょうどぶつかった辺りにいっぱい落ちているどんぐりを拾い上げました。どう見ても普通のどんぐりです。
 グドンが一体何をしていたのか、おじさんはしばらく山の中を見て回ったのですが、何もわかりませんでした。

 そして数日後……。
 村の近くでグドンの群れが見つかりました。グドンたちは村を目指してどんどん進んできます。
 村の人は冒険者の酒場に走り、大急ぎで依頼を出したのです。
『村に来ようとしているグドンの群れをなんとかしてくれる冒険者募集』

 ルラルちゃんは、おじさんが拾ったというどんぐりを使って、急いで霊視をしました。
「このグドンは村を襲おうとしてるんじゃないみたい。行き先はお山だよ。お山の中にたくさん食べ物を見つけたから、みんなでそれを取りに行くつもりなの」
 村が襲われないというのは良い知らせですが、お山が荒らされるのはやっぱり困ります。
「放っておいたらまたお山が大変なことになっちゃう。そうなる前に、このグドンをなんとかしてあげないと……」
 ルラルちゃんはぎゅっと手の中のどんぐりを握りしめました。

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参加者
荷葉・リン(a00070)
萌笑の唄い手・ニケー(a00301)
陽だまりの歌い手・フレル(a00329)
喰い盛りの牙狩人・ジャム(a00470)
陽光の後胤・ナル(a01122)
無明・クロウ(a01444)
天富星・プラティコドン(a02544)
星影・ルシエラ(a03407)


<リプレイ>

●今日もお山に……
 冒険者さんたちは今日もお山に急ぎます。
「今度の事件は、前の大リスの巣に蓄えられた木の実をグドンが見つけて、それを取りに来てる、という処か……」
 無明・クロウ(a01444)くんが言うのを聞いて、喰い盛りの牙狩人・ジャム(a00470)くんは慌てました。
「リスさんのドングリ集めるの苦労したんだぜ……リスさんがゆっくり冬眠してくれないと冬中アレを……?」
 あの時の重労働を思い出し、ジャムくんのシッポがブラシのように逆立ちます。
「食料集めはともかく、このままだとまた大リスが暴れる。山が騒がしくなったら、今度は大ニワトリだの野犬の群れだのが首突っ込んでくるかもしれん。そうなったら収拾がつかんな……」
 クロウくんの頭の中に、リスさんやこっこさんの姿が浮かびます。そんなことになったらお山は荒れてしまうでしょうし、村も危なくなるかもしれません。
「……グドン、やっつけなきゃいけないんだよね? そうだよね……」
 陽光の後胤・ナル(a01122)さんのシッポはへたりと元気なく垂れ下がりました。グドンはどんどん増えてしまいます。そうすればお山の食料は食べ尽くされてしまうでしょう。
「お腹を空かせているグドンさんを追い払ってしまうと、麓の村に流れてしまうかもしれませんから」
 陽だまりの歌い手・フレル(a00329)ちゃんも、辛そうな顔をしていました。仕方がないと思いながらも、心にちくちく棘が刺さるのでした。
「グドンはいっぱい増えちゃうし、追い払ったら村へ行っちゃうかもだから悪者になっちゃうのね? 大きな動物は増えないし可愛いから悪者じゃないのかぁ……ちょっとへんなの」
 星影・ルシエラ(a03407)さんは首を傾げます。やっつけられてしまうグドンは可哀想。それでも、被害が出てしまうのは困ります。
 冒険者さんたちは同盟のみんなを守るのがお仕事。でも……やっぱり他の生き物を退治するのは辛いのでした。
 和らぐ音色・リン(a00070)さんは、灰色の目に悲しみをたたえ、それでも言いました。
「何かを守る為には犠牲を払わないといけない時があります。どんなに可哀想でも、お山と村を守るには、グドンを倒すしかないのです」
 悲しいけれど他の方法が見つけられない今は、グドンを倒すしかないのでした。

●準備は大忙し
 ジャムくんはまず麓の村へと向かいました。心配している村の人に、グドンの目的は村を荒らすことではないと教えます。
 それでももしもの時のために、グドンに対する備えをしておいてくれるように言っておきました。グドンの群れが道をそれてしまって村に来たら大変だからです。
「それから、ドンが村の近くを通過したら、ガンガン鐘でも太鼓でも鳴らして合図してくれよ」
 グドン出現を知らせてくれるように頼むと、ジャムくんはお山の炭焼き小屋目指して走り出します。
 クロウくんは村のおじさんに、どの辺りでグドンを見かけたのか聞いてからお山に向かいました。グドンを見かけた場所とリスさんの巣の位置から、グドンの進む道を予想します。
 ……いつのまにかこんなにもお山にくわしくなっている自分を発見して、ちょっとだけ悩んでしまうクロウくんなのでした。
 露西亜本舗小池屋・プラティコドン(a02544)ちゃんは、フレルちゃんと一緒にこっこさんの寝床をのぞきこみます。
「大人しくしてるみたいだね」
 こっこさんは暖かな巣穴にぽてっと座っていました。餌がたくさんあるから、そんなに出歩く必要はないのでしょう。
 フレルちゃんは獣達の歌でこっこさんに話しかけます。
「♪ こっこさん。新しい寝床の住み心地はいかがですか〜? 私ね、新しいハープを手に入れたんです〜♪ 聴いてくださいね〜♪」
 にっこり笑うと、フレルちゃんは獣達の歌から眠りの歌へと切り替えます。
 フレルちゃんのきれいな歌声を聴きながら、こっこさんは眠り始めます。
「私はあと何回かこっこさんを眠らせて、それから合流しますから」
「わかった。頑張ってね〜」
 プラティコドンちゃんはフレルちゃんを残し、今度はリスさんの巣穴に向かいます。こちらは機嫌悪く、どすどすと巣穴の周りを歩き回っていました。きっとどんぐりを取られて怒ってるのでしょう。
 グドンが来たらリスさんは怒りのままに戦おうとするでしょう。グドンがリスさんの巣穴にどんぐりを取りにきたら、お山は大変なことになってしまいます。
 プラティコドンちゃんはみんなの処に戻り、こっこさんとリスさんの様子を報告しました。
「お菓子を持ってきたから、それをばら撒いて戦い易い処に誘導するのね」
 萌笑の調べを愛し紡ぎ手・ニケー(a00301)ちゃんはポケットからお菓子を取り出しました。他のみんなも大急ぎでどんぐりや木の実を集めて、クロウくんが予想したグドンの通り道から、山の開けた場所へとおびき寄せるようにまいていきます。
「こっちはふさいでおくね」
 どかばきっ。
 プラティコドンちゃんは爆砕拳で近くの木を倒して、リスさんの巣穴に続く道をふさぎました。
 これでうまく誘導することができるでしょうか。

●お山の初雪
 静かに静かに。冒険者さんたちはグドンが来るのをじっと隠れて待ちました。
 ジャムくんは木の上から耳を澄ませます。木の上は寒いのですけれど、ふかふかのそるれおん着ぐるみを着ているため、ジャムくんは平気です。
 どこからか……風に乗って鐘の音が聞こえてきます。あれは村の人が鳴らす鐘でしょうか。
 そして。
 カサカサカサカサ。
 枯れ葉を踏むたくさんの足音。
「来たぞ!」
 ジャムくんはみんなに知らせると、木の上に立って目をこらします。ひょこひょことどんぐりを拾い、拾ったお菓子を食べながらグドンがやってきます。グドンが冒険者さんたちが隠れている真ん中に差し掛かった時。
「今だ!」
 ジャムくんの合図でみんな隠れ場所から飛び出すと、グドンと戦い始めました。
 プラティコドンちゃんは近くにいるグドンを派手にぶん投げ、ぶん殴り、離れた場所にいるグドンには小池印ドンブリ型ブーメランを投げつけます。……どうしてこの形のブーメランがまた手元に戻ってくるのかとってもとっても不思議ですけれど、これもドンブリへの愛なのでしょう。
 クロウくんはハイドインシャドウでグドンの後ろに回り込んでから、ダガーで斬りつけます。グドンも必死に抵抗し、クロウくんの腕や足に噛みついてきます。
 そのグドンに木の上からジャムくんのホーミングアローが撃ち込まれ、息の根を止めました。上から見ていると戦いの様子はよくわかります。ジャムくんはあちこちで、助けがいりそうな処を見つけては矢を射るのでした。
 ナルさんはグドンをひらりと羽のようにかわすと、スピードラッシュで攻撃します。素速いその攻撃をグドンはよけられず、ばたりと地面に倒れます。
 ニケーちゃんは眠りの歌を歌って、グドンを眠らせます。半分ちょっとのグドンが地面にころんと転がって眠ってくれました。その無防備な姿に、ニケーちゃんは歌声をちょっと詰まらせましたが、それでも気を取り直して次から次へと歌い続けます。
 歌を歌うニケーちゃんがグドンにおそわれないように、自分と土塊の下僕でかばいながら、ルシエラさんはメイスでグドンをやっつけていきます。プラティコドンちゃんには近づきすぎないように気を付け、ナルさんの様子に目をこらして助けが必要でないか気を付けで、大忙しです。
 リンさんは、グドンへ向けてエンブレムシュートを全力で撃ち込みました。痛みが一瞬で終わるようにと、力いっぱいに。戦いたくない。それでも戦わなくてはいけないのなら、せめて苦しませずに倒してあげたくて。
 フレルちゃんも駆けつけてきて、ニケーちゃんとデュエットでグドンを眠らせます。できれば……眠っているうちにすべてが終わってくれますように……。

 倒すと決めたらもう迷わない。
 冒険者さんたちの全力の攻撃で、グドンはどんどん倒れていき、そしてついには全部やっつけられて、お山に横たわりました。
 戦いが終わるとリンさんは、クロウくんとナルさんの怪我を癒しの水滴で治しました。自分についたグドンの歯形は後回しにして。
 怪我を治してもらったクロウくんは、もくもくとお山に穴を掘り、グドンを埋めました。
「……30匹ものグドンをこの寒空の下に野ざらしにするのはさすがに、な」
 誰かに言い訳でもするように呟きながら。
 ルシエラさんとナルさんもクロウくんを手伝います。
「お山の栄養になりますように……」
 ルシエラさんはグドンが埋められた場所にそう呼びかけます。お山の命のサイクルにはいれば、グドンの死もむだにはならないでしょうから。
 ニケーちゃんはグドンと戦った場所に小さな小さな塚を作ってどんぐりをお供えしました。
「……きょうぞんの方法が見つかるまではぁ、退治しないといけないのね。全部助けられるほど、ボクはまだ……強くないのね」
 塚に手を合わせるニケーちゃんの後ろ姿はとても寂しそうでした。

 気が立っているリスさんは一度眠らせて、その間にジャムくんとナルさんが集めた餌を巣穴に入れました。餌がまたいっぱいになっていれば、目が覚めたリスさんも落ち着くことでしょう。
「ったく、世話の焼ける奴だぜ。来年までゆっくり寝ていろよ」
 ジャムくんはぐっすり眠っているリスさんに、楽しそうな顔を向けました。
 ルシエラちゃんはリスさんの毛皮にちょっぴり触ります。
「増えないしお話聞けるからお友だちになれるのかな?」
 ナルさんはリスさんをそぉっとそぉっと抱きしめました。
「あったかいね……」
 ……ぽかぽかのリスさんの身体は、少しだけ心を温めてくれそうでした。
「このお山もいろいろとあるよなぁ〜ほんと」
 プラティコドンちゃんは空を見上げます。すると空からは、ふぅわりと白い雪が降ってくるのでした。お山で起きたことすべて、真っ白に埋めてくれようとするように。
「寒っ。村に下りたら暖炉囲んで炭火焼きでもやらない? 木の実拾って炒っても美味しいよね」
 プラティコドンちゃんの言葉にニケーちゃんは頷き、そして小さな声で呟きます。
「……皆がごはんに困らない世界、ボクたち冒険者で作れるのかな……」
 いつか……みんなが幸せでいられる世界が来るのでしょうか。
 胸の奥にもやもやを抱えたまま、それでもナルさんはにっこりと笑顔を作ります。
「お山は今日も平和なの」


マスター:香月深里 紹介ページ
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作成日:2003/12/03
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