魔狼すすり哭く



<オープニング>


 不快な夜、寝つけぬ夜。
 そのとき、空気はからみつく粘菌のようで、
 中天の月は皮肉な笑みのようで、
 紫がかった闇は 倒れた薬瓶からひろがる毒液のようで、
 重苦しく、熱をふくんでのしかかる。永遠につづくかのごとき夜だった。

 こんな時間に彼ら親子が道を急ぐのは、昨日まで滞在した町で商売にせいをだしすぎ、隊商本隊の出発に遅れをとってしまったためだ。
 いつしか廃墟の町に親子は足を踏みいれている。まだ少年の面影をのこす青年と、老いの影がちらつく父親、彼らを見おろすのは、崩れかけた住居の跡や、朽ちた酒場の柱など。
 数十年前に見捨てられたこの場所には、いろいろよくない噂もある。しかしここをつっきれば、かなりの距離がかぜげるのだ。父と息子は迷わずこの路をえらんだ。

 町のなかばにきたあたりだろうか、父親が足をとめた。
 少女の泣き声のような音がかすかにきこえたのである。
 息子はけげんな顔をしたが、すぐに彼の耳にもそれはとどいた。
「痛い……痛いよぉ……やめて……」
 二人は無言のまま顔を見あわせると、迷わず声のほうにおもむく。彼らは護身用の剣を抜いていた。専門の冒険者にはおよばぬとはいえ、父子は多少なりとも腕にはおぼえがあった。

「助けて……助けて……お母さぁん…………」
 声の主はすぐに見つかった。崩れた柱のそばにうずくまる姿、頭から毛布のようなものをかぶっているので様子はわからない。小刻みにふるえているようであった。
 周囲にだれもいないのを確認して、父親がちかづいていく。
「なにがあったんだい、こんなところで?」
 それが、優秀な商人だった彼の、この世で発した最期の言葉となった。
 ふりかえった姿は異形の怪物だった。狼に似た顔、されど体はおおきな猿をおもわせるもので、みじかい緋色の体毛が顔以外を覆っていた。怪物は腕をひとふりしたのだが、そのあまりの速さに、父親には残像すら見えなかった。彼は自分の右腕が剣ごと石畳に落ちたのを見て、ようやく尋常ならざる事態がおこったのだと知った。
 右腕は肘から断たれていた。
 するどい歯のならぶ怪物の口から、少女の声がまたもれた。
「痛い……痛いよぉ……やめて! やめて!」
 怪物はふたたび長い手で風をきった。その顔の長さほどある、まっすぐで鋭い爪が鈍く月光を反射した。
 父親の首が飛んだ。
「化け物め! よくも父さんを!」
 息子は絶叫し剣をふりかざして駆けた。狼の顔をした巨猿は、それをやすやすと跳んでかわすとつづけざまに言ったのである。
「なにがあったんだい、こんなところで?」
 青年ははっと動きをとめた。信じられない。
 怪物が発したのは父親の声だったのだ。
 つぎの瞬間、彼の死体も冷たい石のうえに転がることになった。
 怪物は爪をしまうと、新鮮な肉に夢中でむしゃぶりつく。まだあたたかい肉というのはたまらなく美味だ。
「化け物め! よくも父さんを!」
 食べるというよりむしろむさぼるといった食事のさなか、怪物の真上で、さきの青年の声がきこえた。
 いま、かがんで軟骨をかじっている怪物と、そっくりな姿の生き物が姿をみせた。もう一匹は廃墟の壁をのりこえてきたのだった.
「痛い……痛いよぉ……やめて! やめて」
 さらにもう一匹、これは他の二匹よりさらに大柄で、しなびた乳房をぶらさげた姿であらわれた。
「よくも父さんを!」
 口中を血で真っ赤にしながら、食事中の怪物は返事した。

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 額にも首にも、いつのまにか汗がじわりとしみだしている。
 暑い。気が狂いそうなほどに。
 晴天ならまだ気分も明るくなろうが、太陽はずっと雲のあいだからちらちらのぞくだけ、それなのに空気はかぎりなく重くよどんでいて、地面からはたえまなく湯気がのぼる。

 冒険者の酒場も蒸し風呂のようである。
 ヒトの霊査士リゼルは汗をぬぐいつつ、生ぬるい水をのみほした。
 依頼は隊商からのものだった。

「行方不明になった商人親子の捜索を依頼されたのですが……霊査したところ、残念ながら二人ともすでに、廃墟の町で亡くなっていました」
 そして依頼は、商人親子の仇討ちとなったのだという。

 しかし、と前置きしてリゼルはつづけた。
「敵は非常に強力です。狼の顔をした大猿、といった姿なのですが、動きは異常なまでにすばやく、指から自在にのばせる爪は、少々の鎧なら貫くほどの硬度と威力をもっているようです。アゴの力も強く、折れにくい牙をもったその口でかみつかれれば、腕や足を食いちぎられてしまうかもしれません」
 しかもそんな敵が、三匹もいるというのだ。

 この怪物の危険はそれにとどまらない。怪物はなんと人語を話すのだという。
 ただし、意味を理解したうえで会話しているというわけではない。オウムのように聞いた言葉を繰り返しているだけらしい。しかし、口調ばかりか声までそっくりに再現するため、迷路のような廃墟に身を潜められると、仲間と思った声の主にふいをうたれる可能性は存分にあった。

「廃墟の町は、身の軽い怪物たちにとって、隠れ場所や利用できるものの多い有利な場所と思われます。そこに乗りこんでいくのですから相当な覚悟がいるでしょう。それに、怪物たちはその優位性を理解しているから、けっして廃墟からはでてこないのではないでしょうか。建物や柱が崩れる可能性にも気をつけてください……どうか、ご無事で」

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参加者
真白なる月夜・コウショウ(a00071)
壊れた弱者・リューディム(a00279)
邪龍導師・ムーンリーズ(a02581)
ドリアッドの重騎士・ベルエル(a10064)
芒舞・レイリス(a13191)
ひまわりうさぎ・マライア(a18569)
雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)
無妖刃の・ハク(a27783)
偽りの水鏡花・メルディアス(a28350)



<リプレイ>

●遭遇
 血のように赤い夏の太陽が、ゆらぎながら大地に呑みこまれてゆく。

 聖寵祈祷・リア、もももの錬金術師・アレスは魔狼を見つけることができなかった。廃墟ばかりといっても街である。捜索範囲は広く、魔狼が隠れられそうな場所はいくらでもあった。ふたりが召喚したクリスタルインセクトは、街の概要をつかむのが精一杯だったのだ。
 ドリアッドの重騎士・ベルエル(a10064)をはじめ、冒険者たちは昼のうちに敵を発見できるという期待はしていなかった。ベルエルにとって、少々の手傷は覚悟のうえだ。
 また、
「狡猾ということは臆病でもあるということ。襲ってくるならば夜だろう」
 雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)もこう判断していた。クリスタルインセクトで街のだいたいの地形を把握できただけでも、成果としては十分だ。
 人影がなかったことに、刹那に舞う葬蝶・レイリス(a13191)は軽く安堵していた。依頼者たちには絶対に近づくなといってある。下手をすると敵とまちがえて攻撃してしまう可能性があるからだ。誰も見つからなかったということは、依頼者たちが言われたことを守ったということでもある。

 全員の足が石畳を踏んだ。明確な境界はないが、ここからが街、すなわち魔狼たちのテリトリーと思っていい。
(「…さてはて…狼退治といきますか………」)
 月夜護刃・コウショウ(a00071)は内心でつぶやく。声はけっしてださない。今回は敵の動きに用心し、全員が無言を通すことにしている。
 陽はもうないが暑さは消えない。のしかかるような湿った空気のもと、一同は灯火を手に歩を進めた。
「……!」
 最初に気づいたのは檻の中の花・リューディム(a00279)だ。彼女は静かに片手をあげ、全員の注目を集める。
 すぐに声が聞こえてきた。少女の声。
「痛い……痛いよぉ……やめて……」
 声の主を知る冒険者たちにとっては、あまりに悪趣味な演出である。それは犠牲者の断末魔をまねた声だからだ。
 見ると、いつのまにか冒険者たちの真西の方角の空き地に、こちらに背を向けかがんでいる人影がある。布のようなものを頭からかぶっており、姿をうかがい知ることはできない。
 月喰虚者・ムーンリーズ(a02581)は、片手を交互につきだし、右回りで近づくメンバーと左回りで近づくメンバーを誘導する。
 右手につくのはコウショウとムーンリーズ、アレス、それに永劫堕天・ハク(a27783)。
(「あだ討ちとか考えていない。ただ、楽しみたいだけ……」)
 ハクは思う。ハクにとっては戦いは、俗世を忘れるための手段である。しかし私情をまじえないだけに、役割はきっちり果たそうと誓っている。
 左手にまわったのは、リューディム、ベルエル、蒼紅の戦乙女・マライア(a18569)だ。元気がチャームポイントのマライアとしては、絶対沈黙は少々つらいところだ。軍医・ザインが無言でマライアにつづいた。
 他のメンバーは、その場にとどまり警戒をおこたらない。残ったのはユダ、ベルエル、リア、そして偽りの水鏡花・メルディアス(a28350)だった。
「…………」
 メルディアスは奇襲を予測している。上方には崩れかけた建物の窓が見え、後方すなわち南の方角にも障害物は多い。いずれかより魔狼がとびだしてくる危険は存分にあった。
「痛いよう……」
 すすり哭く声はやまない。八人は無言で近づいていく。
 やがて、エルフであるリューディム、それにムーンリーズが気づいた。
 ――布の下に、生物の体温はない。
「化け物め!」
「よくも父さんを!」
 左右から襲いかかる声、二匹の魔狼。意味をなさぬ叫び声は、殺された商人をまねたもの!
 両腕を広げ、コウショウを抱きしめようとする右の怪物、もちろん親愛の情のあらわれではない。
 しかしムーンリーズがさきに手で合図したので、コウショウはその攻撃を予測している。予測できる攻撃に当たるような彼ではない。逆にカウンターに放ったソニックウェーブで、浅いながら魔狼を傷つけた。
 左の怪物は先頭のベルエルを狙う。
 リューディムは即断。細身剣「黒蝿」で斬撃を見舞うが、巨体ながら怪物はかわす。つづいてマライアがファイアブレード。当たらないがモンスターは体勢をくずした。ベルエルは鎧聖降臨で防護をかためたが、怪物は手出しできなかった。

 左の怪物が、ゆらりと身を起こす。右のに比べてあきらかに体格が大きい。胸からは乳房のようなものがぶらさがっている……
 魔狼のボスにちがいない。

 冒険者たちが戦闘態勢をとるよりはやく、魔狼のボスが強く石畳を打った。
 幻惑の剣舞を行おうとしたハクは、思わず口に出していた。
「……足もと……っ!」
 冒険者たちのいる石畳に亀裂が奔(はし)り、足をさらう。壊れやすい場所を選び伏せしていたというのか。
 この一瞬でうまれた隙を、魔狼は逃走に利用した。ムーンリーズがニードルスピアを飛ばすもとどかない。リューディムのチェインシュートもだ。足場を崩されねらいがそれた。左右の敵は左右に逃れた。
(「小細工をしおって」)
 ベルエルはボスを追う。リューディム、マライアもつづく。敵がこちらの戦力の分散を狙っているのは確実だ。しかしそれは予測ずみのこと、ベルエルらの目的はずばりボスの撃破。支援要員にザインがついてくれるのがありがたい。
 コウショウはゼスチャーでもう一匹の逃げた方向を示した。ムーンリーズ、ハクとともにやつを追う。アレスもこちらのメンバーとなる。
 一方レイリスたちはその場から遊撃を開始する。メルディアス、ユダ、リアとともに最後の一匹を探し出すのだ。
 移動する前に、囮とされた布のかかった人影をユダは調べた。予想通り、布のしたは人間の死体だ。肉はあらかたはぎとられ、赤い筋と骨が残るばかりの無惨な姿である。
 この戦いに勝てたらせめて手厚く葬ってやろう、とユダは思った。

●追走
 壁をやぶり柱をなぎ倒し、爆砕拳にて派手に廃墟を粉砕しながらリューディムは進む。まさにこれぞ最短距離をゆく追撃、魔狼のボスはすばやいうえ地形を熟知しているが、この追走は予想していなかったにちがいない。追うリューディムら、追われる魔狼、両者の距離は徐々に近づく。
 唐突に、魔狼が足をとめた。
 古びた聖堂のなか。その、ほぼ中央。
 当然のようにリューディムは壁をくだいて近道。できた道をベルエルは直進し、マライアは崩れやすそうな場所をさきに壊しておこうと周囲を見回して……気づいた。
 静止したと思いきや、魔狼が突如反転した!
 ザインのホーリーライトが映し出したのは、とびかかろうとするシルエット。
 ジャリ、っと鉄がこすれる音。のばした魔狼の爪は、名刀「黒蝿」にはじかれていた。
 剣の使い手はリューディム、彼女は爪の攻撃をうけとめず、あえてはじいた。
 リューディムの手はしびれていた。想像以上の力だ。
 マライア、ベルエル、ふたりはリューディムを補うように立つ。魔狼のボスは一匹、この体勢は三対一、三人でたがいの弱点をおぎないながら戦えば……
 だがマライアは、予測しない方向から奇怪な叫び声を聞いて戦慄した。
 三匹目の魔狼だ。ここで待っていたのだろう。
 彼女たちは派手に進軍しすぎた。三匹目をわざわざ呼び寄せたようなものだったのだ。

 一方、コウショウたちも魔狼に追いついていたが、こちらも苦戦していた。
(「……やりにくいっ…」)
 コウショウはあきらかに、戦いづらさを感じていた。跳躍を繰り返す敵にはなかなか攻撃があたらない。かすったところで浅い。必殺の一撃を見舞うのは困難だった。
(「……ふたりとも、がんばってください……隙を見つけます」)
 ランタンを体の周りにまとわせ、ムーンリーズは牽制攻撃をしかけながら魔狼の動きを観察する。異様にすばやい敵だが、きっと弱点はあるはずだ。
 魔狼の右腕を防御しそこね、ハクは壁にたたきつけられた。
(「……くっ…」)
 ハクの唇から血が流れている。幻惑の剣舞で足止めをねらうも、かけるタイミングをとれず反撃をうけたのだ。
 徐々に傷ついていく前衛の二人。アレスが治療してくれるとはいえ、いつまでもこのままでは危険だ。
(「……隙さえ見つければ……」)
 光明。冷静さを失わなかったムーンリーズはついに、敵のクセを見つけだす。
 ムーンリーズは叫んだ、いまこそ好機、とっておきの声をだすときでもある!
「右です! コウショウさん、右ぃいいいっ!!!」
 ふだんのムーンリーズはテノールの美声だが、このときはちがった。
 男性と思えぬほどの裏声、それはそれは甲高いソプラノ、されど不快な音にならずむしろ歌声のように聞こえるのはさすがだ!
 見えない糸でひっぱられるかのように、コウショウは剣を、自分の右サイドに叩きつけた!
 その位置には誰もいない……かに見えたが直後、魔狼が自分から飛び込んでくる! たしかな反動と手応え、そして轟音、魔狼の胸から鮮血がほとばしった。
 ムーンリーズは魔狼が跳躍する瞬間、長い尾を飛ぶ方向に向けることに気づいたのだ。バランスをとっていたのかもしれないが、これが魔狼にとっては命取りだった。
「さぁ、これで一気に落としますよ、私が起点になりますので続いて下さい」
 ムーンリーズがスキュラフレイムを打ち込む。つづけてハク、すぐにまたコウショウが技をふるう。傷ついた魔狼に抵抗らしい抵抗はできない。
(「……さぁて、どうしますかな…」)
 コウショウの口元に笑みが戻る。
「…この…っいい加減、死になさい…っ」
 振り下ろしたハクのデストロイブレードが、魔狼を微塵にうち砕いた。

 いっぽう、リューディムらは苦戦している。三対一でボスをしとめるつもりが三対二、戦闘は長引き、戦況はますます悪化する。
「…………っ!」
 魔狼の体当たりをマライアはかわしきれず、瓦礫に背と後頭部をしたたかに打つ。頭蓋が割れなかっただけ幸い、気が遠くなるほどの痛みだ。全身から力が抜ける。ガラリと音を立て、マライアのフレイルが石畳に転がった。
 魔狼ボスの姿が見えた。「彼女」が右手の爪をふりかざすのも。
 つづいて目に飛び込んだのは、身をもってマライアをかばおうとした姿。
「ベルエルさんっ!」
 マライアはついに声を発してしまう。
「ベルエルさんっ!」
 下卑た笑みを浮かべながら魔狼のボスがまねた。
 乳房をさげた怪物の爪は、ベルエルの鎧のつぎめをぬい肉体を刺した。
 ぽた、ぽた、と、爪をつたい血がしたたる。弱い光の下では、血は黒い水のように見えた。
 ベルエルの兜の下の顔は青ざめている。口からも血がひとすじ流れる。
 傷は、深い。内臓に冷たいものを感じる。だがベルエルは耐え、うめき声ひとつもらさなかった。
「ぎっ!」
 小型の魔狼が声をあげた。痛みと驚きの混じった声。壁を背にしていたのに背後から斬を受けたからだ。
 ソニックウェーブは障害物無視、通り抜け、ダメージをあたえる衝撃波!
 しなやかに駆けるその姿はまさに黒猫、ユダが救援に来たのだ。
 つづくレイリスは扇子を両手にもち、一刻も早く仲間を回復させるようリアに示す。日ごろは優しい笑みの似合うレイリスだが、いまは氷のような目をしている。
「…そこ…」
 そしてメルディアスが手を振り上げる。彼女の頭上で灼熱のかたまりが、ごうごう炎をふきあげている。真昼の太陽を思わせるその輝き!
 直後、魔狼のボスは信じられない行動に出た。
「痛い! 痛いよう!」
 あざけるようにそう叫ぶと、仲間であるはずの魔狼を蹴り、反動で自分は大きく跳んだのだ。あまりのふるまいに驚く一同の前から、ボスは姿をくらませた。
 火の玉は蹴られた魔狼に命中する。毛だらけの体は火に弱い。火を叩き消そうとする手もすでに火がついている。すぐに魔狼は一個の火だるまとなった。
 リューディムは行き場のない怒りと剣を、見捨てられた敵にふるう。
 火だるまを永遠に沈黙させたのは、レイリスの飛燕刃だった。 

 このときちょうど、コウショウらのいる方向から、敵を撃破した合図の狼煙があがったのであった。

●結末
 冒険者たちは、この場から退くことを決定した。
 手下は倒したとはいえ、もっとも強力なボスはほぼ無傷、なのにこちらはふたりの重傷者をだしてしまった。救急部隊経験の長いザインが応急手当をほどこしたものの、重傷者には早急に本格的な治療をうけさせるべきだろう。これ以上の戦闘継続をするべきではない。
 リューディムは悔くて仕方なかったが、いま優先すべきは仲間の命という判断はついていた。コウショウにうながされ、彼女が一同には撤退の意思を示したのだった。
 一行らは廃墟の街から去る。
 退く際も言葉は発しない。狡猾な敵だ、どこで聞いているかわからない。

 マライア、ベルエルは、それぞれ慎重に運ばれている。
 マライアはもうろうとした意識のもと、頭の中でなにかがうなっているような思いにとらわれつづけた。あと数日は痛みと、この耳鳴りがつづくだろう。
 ベルエルは最初、気丈にも自分で歩くと主張した。だが二三歩すすんだところでがくりとヒザを折った。吐血している。
(「……この程度の傷、といいたいところじゃが……」)
 彼女もあきらめ、仲間に身をゆだねたのだった。
 他のメンバーも回復しているとはいえ、浮かない表情である。
 ユダは悔しそうに頭を振る。なにがいけなかったのか、戻ったら考えたい。商人を埋葬してやれなかったのも残念だ。
 ハクは唇をかみ、歩きながらほとんど顔をあげない。これは敗北ではない、あくまで一時的な後退だと自分にいいきかせる。
 メルディアスとレイリスは自分の疲れを隠しながら、懸命に仲間の看護につとめていた。死者がでなかったのが、不幸中の幸いだろう。

 すでに夜半はすぎたが、まだ狂いそうなほど暑い。
 寝苦しい夜は、当分つづくことになりそうだ。

(了)


マスター:桂木京介 紹介ページ
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