【街道の記憶】雨の村



<オープニング>


「グドン退治の依頼だ」
 いつもの如く霊査士は冒険者達に依頼の説明を始めた。
 内容は、廃村に集まった数百匹のグドンの殲滅。
 追い散らすだけでは下手をすれば被害の拡散につながるかもしれず、一匹残らずと言わないまでも徹底的な殲滅が目的だ。
 以前に10人余りの冒険者が偵察をして、廃村のグドン達について犬グドン、豚グドン、鼠グドンなどによる混成集団であることが判明している。
 そろそろ周辺の餌が減ってきており、グドンが人を襲うことが心配されていた。
 このため今回は戦闘には参加しないものの近隣の村の青年団数十名も必要な作業があれば冒険者に協力すると言って来ている。
「それから、注意すべき点が二つある。一つは雨だ」
 廃村一帯は水害に悩まされた地域で、天候に詳しい者の話では作戦時は大雨が予想される。場合によっては川の氾濫も有り得るとのことだ。手間のかかりそうな戦いだが、準備に時間をかけるか否かの判断が難しい。
「もう一つは、モンスターだ」
 どこから流れてきたのか廃村の近くで緑色の骸骨戦士数体が目撃されている。こいつらはアンデッドではなくモンスターだ。何故か子供や背の低い者を襲う傾向があるらしい。
「今回は2チームに分れて貰う。敵は廃村のグドン集団とこのモンスターだ」
 なお廃村の近くを街道が通っているが、以前の冒険者がこの道を封鎖している。そろそろ商人達の不満がたまってきているので、余程の事がない限り、作戦の成否に関わらず封鎖は解除してきてほしいとの事だ。

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参加者
六風の・ソルトムーン(a00180)
蒼き月の導師・イリス(a00824)
古き神の使徒・サビル(a00958)
氷の魔狼・ハヤテ(a01075)
蜂蜜騎士・エグザス(a01545)
白夜に舞いし幻惑の黒蝶・カイン(a01749)
朱を纏う海虎・エヴィルマ(a02092)
黒剣・グランデイル(a02527)
虚無の・ディーラック(a02723)
冒険屋・ジェシカ(a04116)


<リプレイ>

 廃村の近くを流れる川を遡り、上流へ向かうと古い堤防や堰の跡が所々に残っていた。
 先人の苦労が偲ばれる風景だが、白夜に舞いし幻惑の黒蝶・カイン(a01749)には感傷に浸る趣味は無かった。彼は土嚢を運ぶ青年団がグドン達に襲われないよう周囲に目を光らせていた。
「…雨が、また強くなってきたね」
 長身のストライダーの青年は雨風に逆らって巌の如く直立していた。この雨の中で外套一つ纏わない色白のカインの姿は遠目には幽鬼のようだ。
「おーい、監督さんや。打ち合わせやるから降りてこいよ」
 天幕に向かう途中で紅蓮の凶刃・エヴィルマ(a02092)はカインに声をかけた。身体を動かさないと気がすまない彼女は青年団に混じって即席の堤防に土嚢を積んでいる。青年団は彼女からグリモアの加護を持つ冒険者の力量をまざまざと見せられた。
「監督さんて、それ俺のこと?」
 高台から降りてきたカインは天幕に仲間が揃っているのを確認した。
「他にいないじゃない。なんなら、カインも土嚢運ぶかい?」
「いいけど、退屈な見張りも仕事の一つだから遠慮しとく」
 中へ入ると二人が最後だった。今回召集された二チームのうち、グドン本隊の壊滅を狙う10名が揃っていた。
「集まったか。では始めるとしよう」
 中央に立つ口髭をはやした威丈夫、六風の・ソルトムーン(a00180)は居並ぶ仲間達の顔を見渡した。43歳のソルトムーンはこの場で最年長だったから、まとめが必要な時は自然と彼から話した。そして彼は概ね最初と最後にしか発言しない立場を取った。
「では俺から。作戦の要諦は皆、頭に入っていると思うが、もう一度確認しておこう」
 実の進行役は蜂蜜騎士・エグザス(a01545)が務めた。エグザスは前回の依頼にも参加しており、また今回はグドンの誘き寄せと堤防破壊のタイミングを計る重要な役割を担う。
「…今、青年団の助けも借りて川にグドンを誘い込むための餌をばら撒いている。上手く行けば、グドンの戦士と戦わずに済むが…まあ、過度の期待はしないでくれ」
 これからエグゼスは近隣の村で集めた餌を載せた船で下流へ向かう。同時に氾濫が起きた時に廃村方面に被害が集中するよう、下流の堤防を幾つか破壊する予定でいた。しかし、これは人員不足から気休め程度の効果しか期待できまいと考えられた。
「そういう事なら、私達も手伝いましょうか?」
 深淵の蒼・イリス(a00824)は提案した。私達とはイリスと、緋焔の魔剣士・グランデイル(a02527)、狂乱の剣主・ディーラック(a02723)の三人の事だ。イリス達は同じ旅団の仲間で今回も一緒に行動していた。
「……いや、有難いがこの場合はグドンの監視の方が重要だ。どちらにせよ、氾濫は雨任せになるのだしな」
 即席の堤防でどれだけ威力を増幅出来るかは未知数だ。幸い、現状は彼らの思惑通りに雨が降り続いていたが氾濫が起きた時のその被害までは計算できなかった。
「つまり、洪水だけではグドンを全滅するには至らない訳ですね。どの程度の戦力が残るでしょうか?」
 イリスの質問に、苦い顔でエグゼスは頭をかいた。即席の堤で村を水没させるのは不可能だ。洪水で確実に殺せるのは誘き寄せたグドンだけだろう。とすれば、多めに予想して戦士の2割と言った所か。
「本番は、洪水で混乱したグドン達を四方から攻める時だ。川の水が村まで流れ込めば、俺達より背が低いグドンの動きは相当鈍くなる」
「そうでなくちゃ面白くねぇぜ。そうだな、鎧は脱いでった方がいいか?」
 常に戦いを主眼におくグランデイルはグドンとの決戦に燃えていた。彼も数百の群れに三人で突っ込むのは初めてだ。
「グラン…鎧を脱ぐのはいいが、深追いは禁物だぞ」
 そう言ったディーラック。彼は常と同じく腕を組み、それまで静かに話に耳を傾けていた。
「できる限りの事をしても、全滅は無理だろう。敢えて危険を冒す必要はない」
 冷静すぎる程に正論だ。彼の側にいた古き神の使徒・サビル(a00958)は目的の為には手段も己の命も軽視する方だったから、自分へのあてつけかと思ったほどだ。
「……」
「サビル、お前は意見は無いのか?」
 攻め手で発言していないのはサビルだけのようだ。
「無いな。雨任せならば、その時になって見ねば分からん」
 要するにこの作戦は無能の策だとサビルは自嘲気味に思っていた。ひとまず形になってはいるが運が上手く転がれば成功するなんて話を上策とは言わん。それでも皆が成功を疑わない根拠はグリモアの加護を受けた冒険者が強力だからだ。多少の不運は吹き飛ばしてしまう。
(「度し難いものだ、人というのは……」)
「だが、例のモンスターが先に倒されなければ面倒になりはしないか?」
 サビルは口にこそ出さないが彼自身はモンスターとグドンが遭遇すれば面白いと考えていた。理由は不明だがモンスターは背が低い者ばかり襲うらしい。
「怪物退治のチームとは連絡を取っとくべきかな。それは俺がやるよ」
 冒険者間の連絡役は蒼眼の銀狼・ハヤテ(a01075)が請け負った。今回、一番の泣き所は、冒険者達が非常に広範囲に分散することかもしれない。ハヤテは先程まで目印や合図、各人の配置を何度も確認した。
「彼らが洪水に巻き込まれでもしたら、大変だからな」
「まあモンスターの場所によっては彼らに水を飲んでもらう事も仕方ないかもな。目的を果たす為には多少の犠牲は付き物だし、何より冒険者はしぶといからな」
 エグザスは軽い調子で言った。
「そうもいかないわよ」
 エグザスと一緒に行く風の向くまま気の向くまま・ジェシカ(a04116)は眉を吊り上げた。いくら冒険者でもそれほど人間離れはしていない。洪水に飲まれたら危ない。
「あたし達も村には近づくから、会えたら彼らにも決壊の時間は伝えておくわ」
 グドンを川に引き寄せることに成功したら、合図はジェシカが出す事になっている。高台で待機する攻め手は洪水が起きたのを目で確認し、行動を起こすのだ。雨と堤防の都合もあり、そのタイミングは事前に知ることが出来なかった。

 青年団を引き連れた冒険者達が廃村を迂回して川の上流で堤の工事をしていた頃、怪物を探す冒険者達は廃村の近くまで来ていた。雨は次第に強くなり、昼間だというのに草原の視界は極端に悪くなっていた。

「おかしいな」
 餌をばら撒き始めてからしばらくして、エグゼスは疑問を口にした。
「何が?」
 彼の助手をするためについてきたジェシカは餌の肉やら果物とエグザスの顔を交互に見た。
「いや…たぶん、気のせいだ」
「その言い方少しムカつく」
 ジェシカは餌撒きは青年団に任せてエグゼスに近づいた。
「せっかくあたしがキミの欠点を補うために此処にいるんだから、気になった事は何でも話してみなさいよ」
「俺の欠点?」
「本人の前では言わないのが礼儀ってもんよ。あ、勿論陰でも言わないわよ、思うだけ」
「……」
 先程の仕返しだろうか。仕方なくエグザスは疑念を口にした。
「グドンの反応が無いようなのではな。前はもっと早く餌に釣られてきたように思うが、この雨では出てこないのも道理…気にすべきことじゃない」
「ふーん、そんなことならあたしが確かめてくるわ。ついでに、見張りやってる人達にも会ってくるわ」
 冒険者達はバラバラに別れていた。イリスとグランディルは村を見張り、カインとエヴィルマは上流で土嚢を積み、ハヤテは別チームとの連絡役。残るソルトムーン、ディーラック、サビルの三名はそれぞれ別々に高台に登り、洪水で逃げてきたグドンを迎え撃つ為の準備を始めている。
 自由に動けるのはジェシカだけだったかもしれない。

 依頼を受けた約20人の冒険者はいずれも卓抜の力量を誇り、戦力比ではモンスターもグドンの大群も彼らの前では取るに足らぬ障害だった。ところが、川の水量が着々と高まると共に追い詰められていたのは冒険者達の方だった。

「ふーむ、何故に種類の違うグドンが此処に集まるのか…要因を見つけねばまた集まってくるやもしれんな。しかし、此度はこのグドンを排除する事を優先か……むッ」
 1人で高台に登り、遠眼鏡で廃村の方角を眺めるソルトムーンは眼下に動くものを見つけた。5、6匹のグドンがこちらに登ってきていた。
(「3匹までなら一瞬で倒せるが…ここはやり過ごすが上策だな」)
 茂みに隠れようとしたソルトムーンは悲鳴のような声を聞いて身を起こした。彼は咄嗟に紛れ込んだ村人がいたかと錯覚したが、悲鳴の元はグドンだった。
「確かめねばならんか」
 咄嗟に長剣を掴み、悲鳴が聞こえた場所に検討をつけた彼は疾風の如く走った。
 同じ頃、モンスターの足跡を探して廃村の周辺を巡回していた三人の冒険者は何者かに斬り殺されたグドンの死体を発見していた。ソルトムーンにはその事実を知る由も無いが、彼はその犯人と対面することになる。
「まさか貴様と会おうとは思ってなかったぞ。うかつだったわ」
 ソルトムーンは瞬く間にグドンの分隊を死体に変えた緑の骸骨戦士と対面する。シールドの力で護りの天使を召喚した冒険者に、それまで虚ろな顔を向けていた骸骨の瞳が紅く光った。
「うおおっ」
 骸骨の顎から噴出した火炎がソルトムーンを焼く。

 伝令に走ったハヤテは、その途中で大雨の中をひっそりと移動するグドンの大集団に遭遇した。暗闇で確かなことは分からないが、それでも群れは百匹近かった。
(「まさか洪水が起きるとバレたのか? ……いや、そんなはずはない」)
 慌てて草原に身を伏せたハヤテはグドン達の進行方向に怪物退治に来た冒険者達の野営地がある事に気づいて舌打ちした。
 グドンに気づかれぬよう距離を取って野営地に急いだハヤテは、既に群れの先頭と戦闘状態に突入した冒険者達を発見する。
「何故、こんな所にグドンが来ている!?」
 冒険者の横から狙ったグドンの首を斬り飛ばし、ハヤテは冒険者達に理由を問う。
「俺達にも分からない。あんた達も気づかなかったのか?」
 答えたのは面白黒猫・ヴァーン。
「村を見張っていた仲間からは何も連絡がないな。…しかし、この雨ではすぐには連絡がつかないからな」
 兆候もなくグドンが大移動するとは冒険者も思っていなかった。いきなり百体のグドンが廃村を出たとすれば、見張りについていたイリスとグランデイルにも為す術はなかっただろう。
(「だとすれば、今頃はエグザス達に報せに行っているころか…高台で洪水を待っているソルトムーン達には恐らくこの異変は見えていないな…」)
 神ならぬハヤテにはソルトムーンを襲った不幸は予想だにできない。
「俺は仲間の元に戻る。それから、川は今夜にでも決壊しそうな勢いだ。間違っても川には近づかないよう仲間達にも伝えてくれ」
「分かった。連絡してくれてありがとう」

「貴様が手負いでなければ、良い勝負になったかもしれぬな」
 剣を杖に立ち上がり、ソルトムーンは物言わぬ骸骨戦士を見据えた。心を持たないモンスターは答える代わりに炎を吐いた。普通の炎でないのか豪雨の中でも火勢は衰えない。
「ぬぉぉっ」
 避けられぬと覚悟したソルトムーンは気合いと共にモンスターの懐に飛び込んだ。無謀とも取れるが老練な彼は炎に焼かれるダメージを計ったのだ。鞘からはしった居合いの銀光は怪物の胴を横に薙いで途中で止まった。
(「さすがに怪物を胴斬りとはいかぬよな…」)
 痛みを知らない怪物は至近距離で力任せにソルトムーンを殴りつけた。身体が後ろに倒れる勢いで剣を抜いた彼は再び白刃を鞘に納めた。戦士は二種の居合いを体得していた。
 肩膝を落とした姿勢で横に回転し、身体を入れ替えた。骸骨戦士は振り向きざまの一撃を振り下ろす。風を切るモンスターの刃はソルトムーンの頬を刻み、二回目の居合い斬りは怪物の腕を落とした。
「何処の国の冒険者だったかは知らぬが、その変わり果てた姿見るに堪えぬ。せめて希望の地で果てるを幸運と思うのだな…」
 骸骨戦士が動きを止めた時にはソルトムーンも満身創痍だった。
「…貴様がやったのか?」
 炎に気づいて隣の高台から駆けつけたサビルは傷ついたソルトムーンと骸骨戦士を値踏みするような目で見た。
「そうだ。貴殿より、我の方が少しばかり運が良かった」
「下を見たか? グドンどもの死体があったぞ。貴様がやったのではないなら、犯人は仕留めたようだな」
 サビルは面白くなさそうに呟いた。彼はグドンと怪物を噛み合わせる事を想像していたが、遅まきながらそれは余計なお世話だった事に気がついた。
「俺はこのまま村へ行くとしよう。怪物もいるかもしれぬが、まあ大して変わらぬ。貴様はどうする?」
「どうもエグザスの困っておる顔がチラつくのでな、そちらに回るとするか」

 冒険者達の作戦は根底から崩壊していた。豪雨の中、廃村の近くで目撃されていたモンスターは餌を取りに出たグドンを襲い、更に廃村にまで入り込んだ。恐慌にかられたグドン達は村から逃げ出し、一部は別チームの野営地を襲ってしまう。

「予定より数は多いですが、ここで逃げる訳にもいきませんよね」
 イリスは彼らの集合地点で仲間と合流を果たすと、村から出てくるグドンの一方を押さえるために豪雨の中を戻った。
「やるしかねえのさ。俺は最初からこうなると思ってたぜぇ」
 歓喜を抑えられないグランデイルはグドンの群れに突進する。
「ふぅ。いつ後ろから洪水が襲うか分からないのに…フッ、それに付き合う俺も」
 ディーラックはグランデイルの背中を守るように彼に続いて飛び込んだ。グドン達は突然の乱入者を押し潰そうと彼らに殺到する。二人はグドンがイリスのニードルスピアが粉砕されるのを疑わなかった。

「お手伝い、アリガトね。雨も本降りになってきたし、なんだか下の方も騒がしいようだし。危ないから後は俺達でやるよ。お疲れ様」
 上流にいたカインとエヴィルマが異変に気づいたのは一番後だ。ジェシカの知らせで慌てて戻ってきたエグザスが作戦失敗を知らせている。
「おいおい、ここで帰れは無理だろ」
 エヴィルマは呆れ顔でカインを見る。
「そうかな?」
「あんた、結構酷い奴だわ。仕方ないわね、同じ土嚢を積んだ縁よ。あたしがこの人達を連れていくから、あんたは戻ってグドン倒してといてよ」
「今から? それなら堤は壊しとこうか」
「収拾つかなくなるから、それだけは止めて」
 ジェシカが止めた。
「せっかく作ったのに……」
 結局、放置された作りかけの堤防は豪雨で増大した水量に堪えられずに決壊し、洪水はこれだけは予定通りに起きてしまう。川の近くには冒険者がいなかったから、何体のグドンが犠牲になったかは不明だ。

 全てが終わり、雨のあがった草原で冒険者達がグドンの死体を数えると193体。下流に流れた死体もあるだろうが、半数近くのグドンが逃げのびた。全滅には遠いが大戦果には違いない。重い疲労を感じつつ、冒険者達は町へと帰還した。


マスター:天海玲 紹介ページ
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作成日:2003/12/16
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